小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第680回:ソニー“レンズスタイル”第2弾、光学30倍の「DSC-QX30」。「これでいい」から「これがいい」に

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第680回:ソニー“レンズスタイル”第2弾、光学30倍の「DSC-QX30」。「これでいい」から「これがいい」に

使い勝手は徐々に向上するも……

 丁度1年ほど前に発売されたソニーのレンズスタイルカメラ「DSC-QX10/100」。ボディ部がほぼレンズだけ、モニターはスマホでという大胆なスタイルで注目を集めた。

 ターゲットは“いつも写真はスマホ、だけどスマホのカメラではイマイチ”と思っている若者層である。難しい設定もなく、ただスマホのカメラの延長線上で簡単にズーム撮影ができるように、機能を絞り込んだ。

新モデルの「DSC-QX30」

 だが実際に購入したのは、難しい設定でもわかる30代~50代の男性に集中した。ミニマム構成のデジカメ、という見え方だったわけである。起動時間を短く、スマホとの接続時間を短くといったレスポンスに関する要望は、ファームウェアで対応してきた。一方で一眼レフのようなボケ味、より高倍率ズームといった光学的な要望は、ハードウェアの変更が必要になる。

 そこで1年経過したタイミングで、Eマウントのレンズが装着できる「ILCE-QX1」、30倍光学ズームレンズを備えた「DSC-QX30」(以下QX30)が新モデルとして市場に投入される。発売日はどちらも10月10日、価格はオープンプライスで、店頭予想価格は「ILCE-QX1」が36,000円前後、「DSC-QX30」は44,000円前後だ。今回はQX30のほうをお借りしてみた。

 光学30倍ズーム、さらに全画素超解像ズーム領域まで含めると60倍ズームとなるカメラとしては、すでにDSC-HX60Vが製品化されている。光学スペック的にはほぼ同じながら、レンズスタイルを実現したQX30は、どんな使い勝手になるのだろうか。さっそくテストして見よう。

サイズ感は共通

 ワイド端がそこそこ広くて、そこから光学30倍ズームレンズなど、ビデオカメラでも難しかったのだが、最近ではいわゆるネオ一眼の得意分野となっている。その流れがコンパクトデジカメに移ってきたのが、最近のトレンドである。HX60Vはまさにその流れを汲む製品だが、この高倍率をQXシリーズに積んだのがQX30、というわけである。

光学30倍ズームレンズ搭載、QX30

 QXシリーズは、スマートフォンに取り付けるためのアクセサリの関係で、鏡筒部のサイズは共通にしなければならないという縛りがある。ここに三段沈胴式の高倍率ズームレンズを入れるわけだから、一体中どうなってんですか的な難しい設計になったことは間違いないだろう。

これだけのレンズ群を内蔵

 基本的な構造は従来モデルと共通で、上部に電源ボタン、その両脇にステレオマイクがある。NFCのタッチポイントもこのあたりだ。正面から見て左にシャッターとズームレバー、右側にMULTIコネクタとmicroSDカードスロットがある。

上部に電源ボタンとステレオマイク
シャッターとズームレバー
反対側にマルチコネクタ
バッテリは薄型のNタイプを採用

 レンズはソニーGレンズで、静止画4:3画角では24~720mm(35mm換算)の光学30倍ズーム、動画では読み出し領域が変わるせいか、26.5~1,080mmの約40倍ズームとなっている。F値は3.5~6.3で、やはり倍率のせいかやや暗い。全画素超解像は、静止画では撮影ピクセル数によって倍率が変わるが、20Mピクセルでは倍の約60倍まで、動画でも同じく60倍までとなっている。

ワイド端テレ端(光学)テレ端
(全画素超解像)
動画(16:9)
(26.5mm)

(1,080mm)

(2,160mm)
静止画(4:3)
(24mm)

(720mm)

(1,440mm)

 撮像素子は1/2.3型の裏面照射Exmor Rで、有効画素数は約2,040万画素。画像処理エンジンはBIONZ Xとなっている。

 手ぶれ補正は、静止画では光学式のみだが、動画では電子補正も併用するアクティブモードとなっている。手持ち撮影が前提となっているためか、設定ではOFFにすることができない。ただ三脚に乗せるなどして映像が安定すれば、自動でOFFになる。

 撮影モードは、静止画ではおまかせオート、プレミアムおまかせオート、プログラムオート、絞り優先、シャッタースピード優先の5タイプあるが、動画撮影ではモードは選べない。

底部には三脚穴もある
撮影は5モードをサポート

 AFもオートフォーカスほか、タッチAF、ロックオンAFがあるが、動画撮影時はいずれも選択できず、オートフォーカスのみとなる。

 また今回は別売のアクセサリ「フリーアングルシューティングキット」もお借りしている。チルトアダプタとグリップの2つがセットになったものだ。

 グリップは自分撮り時の持ちやすさを補完するもので、出っ張り部分の付け根を指で挟むことで、丁度いいアングルになるよう設計されている。

自分撮りに最適なグリップ
カメラの背後をホールドする

 チルトアダプタはヒンジで180度垂直方向に動くようになっており、ハイ・ローアングル撮影時に角度を変えて、画面を見やすくするためのものだ。

 またヒンジの向きは90度回転でき、さらにカメラもZ軸方向に180度回転できる。つまり、上にヒンジがあって、下向きにヒンジをもってきたいという時にもわざわざスマホを逆向きに挟み直す必要がなく、グルグル回転できるわけだ。

ヒンジがついたチルトアダプタ
自由な角度にカメラを設定
自分撮りにも使用可能だ

 2つセットでも価格は3,000円で、旧QXシリーズにも付けられるので、既存ユーザーにも注目のアクセサリである。

さすがの60倍

 ではさっそく撮影してみよう。そう言えば初代QXシリーズを撮影した時も、彼岸花の咲く頃だったのを思い出す。

 コントロール用のアプリは以前と同様「PlayMemories Mobile」だが、執筆時点での最新バージョンは5.0.1となっている。すでにVer4.2の段階で、NFCでワンタッチ接続した際の接続速度は50%まで短縮していたが、Ver5ではさらに20%程度高速になっている。

 またUIも変更されている。シャッターボタンの横にある部分をタップすると、変更可能なパラメータが出てくる。変更したいパラメータをタップすると、半円のスライダーが出てきて、設定を変更できる。手順は多いが、片手で操作できるように配置されているのがわかる。

UIが一新され、片手でパラメータ変更が可能になっている

 また撮影中のモニター映像には、グリッドラインが表示できるようになった。特にQXシリーズの場合、スマホから離して単独で使うと、ボディが円筒のために水平がわかりにくくなる。だがモニター画面にグリッド表示が出せれば、水平がとりやすくなる。

グリッド表示が可能に

 QX30の注目は、光学30倍、全画素超解像も含めて60倍のズームだろう。光学手ブレ補正もあるため、60倍のテレ端でも写真としては被写体を追うのも難しくはない。

テレ端でも静止画なら撮影は難しくない

 ただ動画では、テレ端で被写体を安定して追いかけるのは難しい。手ぶれ補正の動きと、さらには映像自体が5フレームほど遅れて送られてくるため、手で行き過ぎたのを補正する動きとも若干ずれる。したがって、狙ったところに安定して構えておくという動作が難しくなってしまう。せっかくの60倍だが、手持ちでの動画撮影は、かなり練習が必要だろう。

動画のテレ端では手ブレ補正と追いかけっこに
tele.mp4(15MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方ワイド端は、動画でも26.5mmと結構広い。手ぶれ補正もワイド端ならなめらかに動作するため、歩きながらの撮影も問題ないレベルに収まる。

ワイド端の手ぶれ補正力は十分
wide.mp4(20MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 画質としては、静止画は発色もナチュラルで解像感も高く、これはさすがの出来。60倍のズームも、多少低コントラストになるきらいはあるものの、ここまで寄れてこの画質であれば、納得できる。

力強い発色はさすが
ワイド端も高コントラストで、印象がいい
60倍ズームで肉眼では見つけられない鳥を発見

 動画のほうは、静止画に比べると若干黒浮き感があり、低コントラストに感じるが、発色の方向性は同じだ。基本的にオートフォーカスのみ、絞りもいじれないので、ある意味なるようにしかならないのが残念である。

動画サンプル。最高画質でも16Mbps CBR程度
sample.mp4(80MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

機能が上がったPlayMemories Mobile

 自分撮り用の機能として、PlayMemories Mobileに左右反転機能が付けられた。ただし画面のタッチですぐ反転というわけにはいかず、いったん設定メニューに入っての変更となる。風景を撮ってすぐに自分撮り、というわけにはいかないのは残念だ。

自分撮りは腕をめいっぱい伸ばしてもこのサイズ

 自分撮り用のグリップは、確かにこれを使うとカメラが安定する。自分撮り以外にも、スマホとドッキングしていない時は、これを付けていた方が取り回しが楽だ。ただ自分撮り用としては、スマホ画面は別に見ないといけないので、片手では撮影できなくなる。どう構えてどう撮ればいいのか、悩む組み合わせである。

 それならチルトアダプタを使って、スマホと合体した状態でカメラを自分に向けた方が確実だ。だがこれも結構自分に向けるとなると持ちづらいので、片手をピンと伸ばした状態でシャッターを切るのはつらい。片手で持つなら、セルフタイマーを使うしかないだろう。

 風景込みの自分撮りとしては、ワイド端はもう少しあったほうがいいように思うが、自分だけが撮れればいいというのであれば、これぐらいの画角が妥当なのだろう。

 なお、撮影時にスマホに同時転送する設定を使えば、スマホ側でGPS情報を付加する機能も付いた。カメラ側にGPSは内蔵されていないが、スマホ側の情報を利用する形だ。同時転送画像は実際に撮影された画像よりも解像度が落ちて1,440×1,080ドットとなるが、SNSなどに情報として上げるには十分だろう。

カメラに転送しなくても、カメラ内の画像が確認できる

 撮影後の確認機能として、「カメラ内画像参照」という機能が付いたのは、地味に便利だ。以前のPlayMemories Mobileでは、撮影同時転送の設定をしていない限り、撮影した写真や映像の確認は、サムネイルを選んでスマホ側に転送するまで、全画面で見られなかった。

 だが、この機能はカメラ内のメモリにアクセスして、その映像を全画面で確認できる。もちろんフル解像度ではないだろうが、静止画では十分なクオリティだ。画像の削除機能も付いているので、カメラ内の画像の整理もスマートフォンで可能だ。

 動画はだいぶレゾリューションが落ちるものの、いわゆるストリーミング再生によって、何が撮れたのかの確認には困らない程度には見える。これまで長時間の動画を撮ってしまうと、転送にものすごく時間がかかってしまい、中身の確認はオオゴトだったが、この機能があればスマートである。

 ただし、音声は再生されない。めいっぱい動画データにビットレートを割り当てているのだろうが、人の話など音声が大事な撮影もあるだけに、音声が確認できないのは残念だ。

 なおこれらの機能は、QX30以外のカメラでも一部の機能は使う事ができる。画面のグリッド、ミラー反転機能はRX100M3でも利用できた。

総論

 スマホのカメラじゃ物足りないでしょ、というところから始まったQXシリーズ。ソニーではスマホのカメラユニットは稼ぎ頭でもあり、その一方で売り上げが落ちるコンパクトデジカメの部隊も抱える、大いなる矛楯を解決するための一石であったわけだが、市場に出て1年、なんだか別の方向性が見えてきたように思える。

レンズ交換式のILCE-QX1

 “簡単に使えてスマホより高画質”という路線から、“そこそこマニュアルでも撮れる超小型カメラ”としてのポジションも産まれてきている。今回のQX30もそうだが、レンズ交換式のILCE-QX1などは、まさにソニーしか作れないし、作ろうとも思わなかった商品であろう。

 残念ながら動画撮影の自由度は数年前のコンデジレベルという結果に終わったが、静止画のカメラとして、これだけの性能がこのサイズ、さらにはモニターが分離し、操作性はほぼアプリで決まるというコンセプトは、新しいコンパクトデジカメの方向性も示していると言える。カメラとしてのスタンダードさよりも、ガジェットらしさが光る。

 シンプルな円筒というデザインの制約があるため、これ以上斬新な方向にはなかなか振れないところではあるが、制約の中でどうにかするのがソニーの真骨頂である。

 レンズ交換可能なQX1もそのうちレビューできると思うが、その発売を受けて昨年のハイエンドQX100がだいぶ値を下げているところも見逃せない。光学性能はRX100 MIIとほぼ同じだ。

 わかる人にはお買い得なQXシリーズ。当初のカメラのことなどよくわからない若者層というターゲットからはものすごいスピードで遠ざかってるが、まあそれはそれでいいんじゃないかと思う。

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DSC-QX30

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。