小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第690回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

新しい“写真”を作るか!? 撮影後にピントが変えられるカメラ「LYTRO ILLUM」

あのLYTROのハイエンド版

 2011年10月、ライトフィールドという撮影技術を使い、撮影した後からフォーカス位置が決められるカメラが発売されると話題になった事がある。それが初代LYTROであった。

LYTROのハイエンド版「LYTRO ILLUM」
初代LYTRO

 小型の四角い筒状のカメラで、解像度はそれほど高くないが、写真を見ているユーザー側からもフォーカス位置が変えられるインターフェースが話題を呼び、日本でも注目を集めた。

 米国で実際に発売が開始されたのは2013年2月頃のことだったが、内蔵メモリ8GBモデルが399ドル、16GBモデルが499ドルと、それほど高くはなかった。日本で公式に発売はされなかったが、並行輸入で購入する人もいたようだ。現在はAmazonあたりを探せば、初代モデルの並行輸入品が購入できる。

 筆者もこれで取材写真が撮れれば楽勝だなどとずるいことを考えて、さらに解像度が上がるのを待っていたのだが、正直いつの間にか忘れてしまっていた。それが今年4月、ハイエンド版とも言える大型機「LYTRO ILLUM」が米国で発表された。そして日本でも公式に12月12日から発売される。

 すでに正規代理店の加賀ハイテックのサイトでは購入できるようになっており、直販価格は198,000円となっている。

 初代LYTROはコンデジ的なスペックであったが、ILLUMは見た目からしても値段からしても、かなり高スペックになっているようだ。一体どういう写真が撮れるのだろうか。さっそくテストしてみよう。

想像以上にデカい

 まず外観だが、おそらく皆さんが製品写真を見て想像しているよりも、一回りぐらいデカい。デザイン的にはビューファインダもないし、ミラーレス機やネオ一眼にありそうなスタイルだが、実物は想像を裏切る大きさだ。フルサイズセンサー搭載の一眼レフ並みと思っていただければ間違いないだろう。レンズも込みとはいえ、重量も940gと、なかなかの重さだ。

実際に手にしてみるとかなり大きなカメラ

 ボディはマグネシウムとアルミの合金だが、金属的な冷たさはない。グリップ部分にはシリコンラバーが貼ってあり、全体的にしっとりツルツルした手触りだ。

グリップ部はシリコンラバーが貼ってあり、しっとり感がある

 ボディ部は前に向かって傾斜したデザインとなっており、液晶での撮影では丁度角度が付いて見やすい。電池もこの形状に合わせてナナメになっており、こういうところで結構コストがかかっているように思う。

特徴的な前傾デザイン
専用バッテリもナナメ

 特徴的な巨大レンズは、フィルタ径72mmで、30〜250mm(35mm換算)の光学8.3倍ズームレンズ。鏡筒部のリングは、前方がフォーカス、奥がズームだ。マクロ撮影としては、レンズ前0mmまで寄れるという、変わった仕様になっている。

レンズはF2通しの光学8.3倍ズームレンズ
銅鏡部のリングはフォーカスとズームのみ
レンズ前0mmでもフォーカスが合う
実際に撮影した写真

 Fは全域で2.0だが、レンズ構造として絞りがない。開放しかないので、露出はISOとシャッタースピードで調整する。ISOの可変範囲は80〜3200、シャッタースピードは最長32秒から最速1/4,000秒。上部にはフラッシュ用のシューもあり、フラッシュ同期スピードは1/250秒だ。

 撮像素子はCMOSをベースにした、ライトフィールドセンサー。ライトフィールド方式は、撮像素子の前にマイクロレンズが多数配置されており、これらが撮影レンズと光の方向を記録するグループを形成している。撮影レンズと各マイクロレンズのグループを通った映像をセンサーが受け止め、それを再構成処理することで、あとからフォーカスが可変できる1枚の画像を作り出すという仕組みだ。

マイクロレンズアレイ
マイクロレンズを通った光をまとめて記録する
上部にはフラッシュ用のシュー

 センサーの有効面積は10.82×7.52mm、1/1.2インチのCMOS。静止画としては、2,450×1,634ドットの画像を得ることができる。

 背面の4インチモニタは、-10度〜+90度までチルト可能なタッチスクリーンタイプだが、解像度は800×400ドットと低めだ。モニタの下が少しめくれ上がっていて、チルトさせるときに指がかかりやすくなっている。背面にはボタンが4つしかなく、細かい設定はすべてタッチスクリーン上で行なう。

背面モニタは-10度〜+90度にチルト可能

 軍艦部は大きい方がシャッターボタンで、○が書いてある方はフォーカスの可変範囲を確認するモードに入るための「LYTROボタン」だ。どちらも2段スイッチとなっているが、LYTROボタンの方は特に2段で機能が分かれるわけではない。将来的に何か拡張されるのかもしれない。ダイヤルは前後にあり、マニュアルモードではISOとシャッタースピードを同時に制御できる。

シャッターと、特徴的なLYTROボタン
タッチスクリーン操作がメインのため、操作ボタンは少なめ

 左側のフタの内部には、USB 3.0端子、SDカードスロット、シャッターレリーズ端子がある。左下と上部の電源ボタンの横にある穴は、ストラップを取り付けるための金具をはめ込むところだ。

 レンズフードは花形のものが付属している。被せ式だが、サイドのボタンでロックできるようになっている。

端子類は左側に集中
レンズフードを装着すると、全長24cmぐらいになる

従来とは違う撮影手法

 実際の撮影は、いくらあとからフォーカスが決められるとは言っても、撮影時にはちゃんとフォーカス合わせが必要だ。通常のカメラでは、距離に対して1点のフォーカスポイントを決めると、あとは絞り値に応じてフォーカスの合う範囲、すなわち被写界深度が決まる。

 ILLUMも、フォーカスポイントは1点だが、その前後にフォーカスが可変できる範囲がある。ライブビューではフォーカスの山を見ながら、横の深度スケールで可変範囲を見るという格好だ。

撮影時はライブビューと横の深度スケールでフォーカス範囲を見る。右のインジケーターがそれだ

 したがって、ピント位置を変えて楽しめる“LYTROらしい写真”を撮ろうと思ったら、撮影時のフォーカスをどこに持ってくるか、かなり時間をかけて練らなければならない。ただAFも備えており、画面でタッチしたところにフォーカスを合わせてくれる機能もある。

 LYTROボタンを押すと、ライブビューがピーク表示となる。同時に横のバーがライブ深度ヒストグラム表示となり、ILLUMのフォーカス可変範囲以内にターゲットのピークが入っているかどうか、確認できるようになっている。

LYTROボタンを押したところ。ピーク表示とともに深度がヒストグラムで表示される

 例えば風景などを広角で撮影する場合は、作品的にも可変範囲の遠方端を無限遠に設定することになるだろう。無限遠側に一発で合わせるボタンもある。この場合、一番手前のフォーカスポイントは60cm程度になる。

 一方、ズームしたりマクロ撮影した場合には、ライブビュー時の横のメートル表示だけでは、きちんとフォーカス範囲が把握できない。そのときに威力を発揮するのが、LYTROモードというわけである。

 撮影モードも整理しておこう。プログラムAEでは、背面ダイヤルでAEシフトによる露出補正のみ可能だ。具体的にはISO感度を動かしている。

 「I」モードはISO感度優先モードで、前面ダイヤルでISO感度を選択、背面ダイヤルがAEシフトだ。「S」はシャッター優先で、前面ダイヤルがシャッタースピード、背面ダイヤルがAEシフト。「M」はマニュアルモードで、前面ダイヤルがシャッタースピード、背面ダイヤルがISO感度調整となる。

撮影モードは4つ。絞り優先モードがない

 そこまで把握したところで、ようやく実際の撮影である。カメラとしてはかなり大きめ、しかもフォーカス範囲を試行錯誤しながら設定するということから考えても、手持ちでサッと撮れるようなカメラではない。今回は三脚で固定しながら撮影した。

 フォーカス幅はズームと連動しており、ワイド端では広く、テレ端に行くほど狭くなる。これは普通の被写界深度の考え方と同じだ。ただ被写体の前後間隔を測りながら、ズームを使って適切なフォーカス範囲の中に収めていくという作業は、普通のカメラの撮影とは勝手が違う。

 結局ズームを変えると画角も変わる事にもなるので、範囲は適切だが構図として面白いか? という話にもなり、その両立を図らないと、LYTROらしい写真にならない。つまり2Dの写真としてはいい構図でも、フォーカスが変えられる面白みが出ないとか、あるいは逆にフォーカスを変える面白さはあるんだけど写真としてはイマイチ、みたいな縛りが出てくる。もちろんすべてが自由よりも、縛りがあったほうが面白いわけで、なかなか頭を使うカメラだ。

 以下がサンプルだが、マウスで任意の場所をクリックすると、そこにピントが合うようになっている。クリック&ドラッグで視点変更、ダブルクリックでズーム。下部の再生ボタンで動きのある表示が可能だ。

 ※上手く表示できない場合は、LYTROページでの表示もお試しください。

 ※上手く表示できない場合は、LYTROページでの表示もお試しください。

 ※上手く表示できない場合は、LYTROページでの表示もお試しください。

 撮影のコツとしては、手前と奥で2段階の被写体の山場を作り、そこに青とオレンジのフォーカスの合う範囲をあてがっていくといった撮り方になる。あとはその条件下で、無限遠までフォーカスレンジが必要か、とか、3mと5mの両方がカバーできるズーム値はどこか、みたいに、割とロジカルにいろんな事が決まってくる。

 例えばワイド側にすると、2つのフォーカスの山場それぞれの被写界深度が深くなるため、フォーカス可変範囲は全体では拡がるものの、手前と奥の2段階が変わる程度の画像となる。

 ※上手く表示できない場合は、LYTROページでの表示もお試しください。

 一方テレ側では、2つの山場それぞれの被写界深度が浅くなり、その間のポイントにもフォーカスポイントが多段的に発生するため、数段階フォーカスポイントが変えられる画像となる。

 ※上手く表示できない場合は、LYTROページでの表示もお試しください。

 ただフォーカスの変化を狙うと、どうしても何かを「舐めた」構図か、向こう側が「抜け」た構図にならざるを得ないので、写真としてはちょっと演出過多の狙いすぎた感じになるという難点はある。

 撮影中もカメラのディスプレイを使って、フォーカス可変の確認も可能だ。ただディスプレイ解像度が低いので、きちっとフォーカスが合ったポイントでも甘く見える。

多彩な現像処理

 撮影後の画像は、「LYTRO Desktop」というアプリを使って、RAW現像処理も含めた後処理を行なう。今回はMac版を使って作業しているが、読み込んだ画像はiPhoto Libraryと同じように、Lytroライブラリというパッケージにまとめられる。

 撮影された画像はLFRという拡張子のファイルになっており、RAWデータはカメラの設定により変わるが、通常1枚あたり50MB超、そのほか関連のデータファイル付きで記録した場合、1画像あたり100MB強のデータ量となるようだ。

 LYTRO Desktopでは、RAWの現像処理が行なえる。ホワイトバランスやトーンといったパラメータで絵づくりができるほか、絞りが変えられるのが面白い。これはつまり、被写界深度表現におけるボケの大きさをコントロールできるということだ。デフォルトではF2だが、F1からF16まで可変できる。

専用の現像アプリLYTRO Desktop
絞りをF1に設定
同じ画像を絞りF16に設定

 ここで現像処理された画像は、普通の2Dの写真としてJPEGなどに書き出せるほか、深度情報も付いたオリジナル形式のRAW(LFR)や、TIFと深度マップとしてのPNGの組み合わせなど、色々なスタイルで出力できる。また奥行き情報を利用した3D写真にも書き出せるのが面白い。

 見る人が自由に動かせる方式としては、オリジナルフォーマットしかないのだが、LYTROのサイトにアップロードすれば、そのリンクから誰でもアクセスして写真を楽しむことができる。

 プレーヤーモードが2つあり、「標準プレーヤー」では従来通りフォーカスポイントが決められるだけだが、「高度なプレーヤー」を選ぶと、マウスポインタに応じて奥行きの方向を動かす事もできる。また画面下の再生ボタンを押すと、ズームやフォーカス位置などを組み合わせたアニメーション表示もできる。奥行き方向が動かせるので、2D的な動きではなく、立体的な動きになるところが面白い。

iPhone用アプリ、LYTRO Mobile Appでの表示

 iPhone用の専用プレーヤーもある。これを使うと、画面上で2本指でねじる動作をすることで、絞りも可変できる。また、アプリ上ではiPhoneの傾きに応じて写真の奥行きが変わるので、一種のホログラムを見ているような印象を受ける。

 アニメーション動画のパターンは、LYTRO Desktopで設定する事もできる。「動画」モードに移行すると、すでに2つのキーフレーム間で標準的な動きがセットされている。動作パターンはプリセットから選択するだけだが、キーフレームを自分で打てるので、3点や4点の変化を持たせることもできる。こうして設定したアニメーションは、動画ファイルとして書き出すことも可能だ。ただ、この処理には思ったより時間がかかった。

3点のキーフレームを設定した動画
IMG_0193.mp4(13MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
奥行きを揺らして立体感のあるアニメーションもできる
IMG_0165.mp4(12MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

総論

 初代LYTROは、これまで実験や測量といった専門分野の特機としてしか使われてこなかったライトフィールド方式のカメラを、初めて誰でも買える市販品にまとめ上げた。そしてLYTRO ILLUMは、その技術で作品を作るために開発された、一種のプロ機と言える。初代から2代目でものすごくジャンプアップしたわけだが、それは市民権を得るための作戦でもあるのだろう。

 ILLUMでの撮影そのものは難しくない。ただ撮るだけなら、絞りがないぶん設定が減るので、簡単である。ただ、深度表現を使ったインタラクティブ作品に仕上げようと思ったら、普通の写真の撮り方ではなかなか思ったような効果は出ない。それなりに理屈を知らなければならないし、撮影条件と設定を合わせ込んでいく必要がある。

 20万円という価格、そしてその価値に見合う費用対効果が得られる立場にあるのかで、自ずとターゲットユーザーが見えてくる。普通の人が気軽にカメラとして使うには若干大きく、PCでの後処理に結構時間がかかる事もあり、まだハードルは高いだろう。

 一方で、ライトフィールド方式を一番自由にコントロールできるのがILLUMで、これを使って作り出される作品が、いわゆるアプリケーションになっていくのだろう。今後どのような作品が生まれていくかに注目だ。

 そしてキラーアプリケーションが出来てきたら、それに向かってもう少しシンプルな、初代とILLUMの中間のようなカメラも誕生するのかもしれない。

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LYTRO ILLUM

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。