“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第548回:【CES】roviに見るTV番組表の未来
~銀塩を模した、富士フイルムの新開発CMOSとは~
■これにて終了、CES
なんとなくお片付けムード漂う最終日のコンベンションセンター |
激動のCES 2012もいよいよ最終日。具体的に何が激動なのかこっちもイキオイで書いてるだけなので細かく問いただされても困るのだが、とにかく色んなものが例年通りではなく、あきらかに曲がり角に来てるんだなぁ、というのをしみじみと感じさせたショーであった。
さすがに最終日ともなれば会場の人出もだいぶ少なくなり、行列しないと見られなかった展示も楽々入れるようになる。閑散としたプレスルームはすでにお昼過ぎから祭りの後的な倦怠感が漂うが、それにも負けず原稿を書いているところである。
さてCES 4日目のレポートは、EPGデータの提供を始め、様々なコピーライト関連技術を持つroviのスイート展示の模様と、富士フイルムが発表したレンズ交換式ミラーレス一眼「X-Pro1」向けに開発された、新CMOSについてお伝えしたい。
■テレビのユーザー体験を変えていくrovi
テレビ番組情報を全米ネットワーク向けに提供するのがroviだ。日本ではGガイドの提供元といったほうが通りがいいだろう。
番組情報だけでなく、音楽、映画、ゲームといったデータベースも保有しており、(旧社名の)Macrovision時代からの著作権保護技術もある。さらに、現在はSonic Solutuinsが持っていたライティング技術、DivXが持っていた動画配信技術なども買収によって保有。
1日目の東芝のレポートでも少しご紹介しているが、今番組表を巡る技術は大きな転換期を迎えている。これのベースになっている技術を、roviのスイートで色々見る事ができた。
テレビ番組表の表示、およびコントロールは、もうリモコンを使ってテレビ画面上で操作するというのは限界に来ている。多くの情報を扱うには10フィート離れたテレビでは表示しきれないし、「誰でも使える」を理由に十字キーにこだわるのも前時代的だ。
テレビエンタテイメントの入り口となる「rovi guide」 |
そこで注目されるのが、タブレットである。roviの「コンテンツコントローラ」とも言えるAndroid/iPad用アプリケーションのデモを見ることができた。
米国では実際にテレビ番組を配信しているのはテレビ局ではなくCATV局であるため、テレビの操作というのはほとんどSTBの操作になる。CATVによっては、まだまだ旧式のSTBを使い続けているところもあり、番組情報もプアなままという状況も起こりうるが、別途タブレット用アプリで番組表も含めた総合コンテンツガイドを提供することにより、最先端のテレビ体験が得られることになる。
番組情報はデジタル放送内のEPGからではなく、ネットから直接配信される。実際にタブレットとSTBは家庭内では何も連携していないわけだが、番組検索したのちにタブレットで録画予約すると、それがCATV側にネットを通じて送られ、CATVはその録画予約コマンドをケーブル線を使ってその人のSTBに投げる。
コマンド伝送経路としてはものすごく回りくどいようだが、実際には家庭内で直接繋がっているのと変わらないレスポンスで予約が完了するという。確かに赤外線送信ユニットをSTBに貼り付けたりするよりは、技術的に美しい。
実際には、このアプリそのものをroviが提供しているわけはなく、サービスを提供するCATV局が自分たちで簡単にオリジナルのアプリを作れるようなSDKを提供している。これにより、各局オリジナルのメディアプラットフォームアプリという形でユーザーに配布されることになる。
■EPG内の広告ビジネスにも新しいアイデア
テレビに表示される新しいサービスとして、スマートテレビのメインメニュー画面内に広告スペースを入れるというビジネスも新しくスタートさせた。
これまで、一定のスペースを取られるために評判が悪かった番組表内の広告だが、今回のモデルはメーカーにも評判がいいという。なぜならば、その広告収入の一部をメーカー側に還元する、レベニューシェアモデルにしたからだ。
さらにポイントとなるのは、これらの広告はこれから発売される新しいテレビでしか利益を生まないのではなく、すでに販売してしまった古いテレビもファームウェアのアップデート時に、この広告システムを入れ込むことができる点だ。メーカーとしては、すでに売り切り状態になっていたテレビから、また新しい収入が得られることになる。
広告の表示スタイルは各メーカーや機種などによって、広告の位置、面積、内容など、細かくカスタマイズできる。個人情報を収集してのターゲッティング広告は行なっていないが、テレビメーカーや地域情報を加味した、おおまかなターゲッティング広告は可能だという。
ソニーのBRAVIAに組み込まれた広告例 | サムソンのテレビに組み込まれた広告例。メーカーごとに実装が違う |
広告も単にHTMLのリンクになっているようなものではなく、動画広告を表示することもできる。テレビ番宣の場合は、番組のハッシュタグを使ってTwitterの評判を見たり、自分でも投稿することもできる。
トヨタのピックアップトラックの動画広告例 | テレビ番組の宣伝例。Twitterでの評判を確認できる |
個人のTwitterでの発言を、企業の広告に再利用するということに関して、発言の著作権処理が気になるところだが、米国にはフェアユース規定があるので、いろんなトライアルがどんどん進む。日本にはフェアユースはないので、おそらくこのモデルはアウトだろう。
■UltraVioletでもroviのサービスを活用
日本には話だけは伝わってくるがなかなか具体的な話ががない「UltraViolet」。UltraVioletは簡単に言うならば、「コンテンツ視聴権」を購入する仕組みである。例えば手持ちのセルDVDをパソコンに読み込ませて、コンテンツプロバイダに「このDVD持ってます」と登録すると、そのコンテンツの視聴権を購入することができる。
ユーザーはその購入した視聴権を使って、コンテンツプロバイダ側が持っている同じコンテンツのデータをいつでもどこでもどの端末でも、何回でも見ることができるという、そういう仕掛けである。昨年Appleが米国でサービスを始めた「iTunes Match」の映画版のような仕組みだ。ディズニーも独自にKeyChestという方式で、似たようなサービスを展開している。
今回はこのUltraVioletが実動する様子をデモで見ることができた。まず最初にユーザーに必要なのは、UltraViolet対応のDVD/BDプレーヤーかPC、そしてUltraVioletに対応するVOD配信サービス事業社との契約だ。このデモではFlixsterを使っている。
まずは自分が購入しているセルDVDをBDプレーヤーに挿入する。通常はそのまま再生が始まるわけだが、BDプレーヤーのメニューから「Disc to Digital」というメニューを選ぶ。
UltraViolet対応のBDプレーヤーにDVDを挿入 | プレイヤーのメニューから「Disc to Digital」を選択 |
すると、このディスクの情報をroviのデータセンター内にあるデータベースと照合し、ディスクのタイトルを確定する。さらにそのディスクの素性、セルDVDなのかレンタルなのか、あるいは海賊版なのかといった認証を行なう。
購入したものかレンタルなのかによって、視聴権を購入できる金額が変わるという。当然レンタルの方がちょっと高い。海賊版はどうなるかというと、それはコンテンツ事業社次第だという。
このケースではセルDVDなので、DVDと同じSD画質なら99セント、さらにグレードの高いHD画質なら4ドル99セントという値段が表示されている。
ストリーミングで見るかダウンロードして見るかは、ユーザーが自由に選択できる。もちろん視聴環境によってそこらへんは違ってくるだろう。
認証が成功すると、デジタルデータの視聴権購入ができる | DVDを元にHD版の視聴権を購入すると、HDクオリティでコンテンツの再生が可能に |
値付けを見る限り、かなり戦略的な価格だ。手持ちのコンテンツとは言え、これが5ドル程度でHDクオリティに化ける、しかも永久に何回でも見られるとなれば、それぐらいは気軽に払える値段である。バーゲンで安いDVDを買い込んできて、格安でHDクオリティで見るという技も使えそうだ。購入時には子どもが勝手に使わないように、独自のPINコードを設定する事もできる。
もっとも映像コンテンツは、基本的にはストーリーを見ているので、あらすじを覚えている以上は何度もしつこく視聴されない。したがって固定金額で何度も見られるということをウリにしても、実際にコンテンツホルダー側に大した損はない。
タブレットの購入履歴にも同じコンテンツが自動的に現われる |
日本ではどうしても「何回も見られると損」、「儲けたい金額を設定してあとはそれをユーザー数で割り算」といった値付けになるため、普及する前に死んでしまうサービスが多いが、最初はコンテンツ側がある程度泣く覚悟がなければ、いつまでもこういうサービスは定着しないだろう。
ここで購入した視聴権は、コンテンツプロバイダのアカウントに紐付けされているので、ハードウェアが変わっても権利が引き継がれる。途中までテレビで見て、タブレットで続きを見ると、ちゃんと見たところの続きから再生されるといった工夫もされている。
■SNSと連携を深める「TotalGuide G2」は、従来のTVも視野に
現在のTotalGuideの次世代バージョン、エンターテイメントコントローラとも言える「TotalGuide G2」も見ることができた。テレビ番組表の付属物としてのVODサービスという位置づけではなく、テレビ放送もVODの一つとして並列に位置付けらているような印象を受けるホーム画面になっている。
TotalGuide G2のメイン画面。中央の黄色い枠がテレビでOA中の映画。右2つはお勧め、左はネットで人気のコンテンツ、一番左は録画済みコンテンツ | Twitterでバズワード化しているコンテンツをVODで即視聴できる |
従来と同様の機能を継承しながら、それ以外にもソーシャルネットワーク上でバズワードとして上昇してきた映画や番組をランキングとして表示したり、一つのコンテンツを選ぶと似たようなものをお勧めしてくれる機能などのガイド機能が充実した。
またroviは自社でもコンテンツ配信バックエンド「Rovi Entertainment Store」を持っており、Best BuyやCinemaNowなどはこれに乗っかったコンテンツサービスを提供している。
Rovi Entertainment Storeのサービスでは、ストリーミングコーデックにDivX Plus Streamingを使っており、ネットワーク速度に応じて解像度をシームレスに可変する。これにより、ユーザーは途中で再生が引っかかるなどのストレスがない視聴が可能だ。また早送り、巻き戻しといったトリックプレイや、字幕や言語の切り換えなど、従来DVDにできたことと同じことができるように設計されている。
低速なネット環境でのシミュレーション。フルHDまで8つのレベルに分かれている |
このTotalGuide G2は、新しいテレビに搭載されるだけでなく、従来搭載されているTotalGuideからアップグレードできるように、HTML5で実動するもの、Flashで実動するものなどいくつかのバージョンがある。つまり、テレビに組み込まれているブラウザ機能上で動くように設計されている。
スマートテレビというと、つい新しいテレビをどんどん買い換えないといけないようなイメージがあるが、アップグレーダブルであるということも重要な要素だという点はあまり指摘されていない。TotalGuideのようなメディアサービスへの入り口が、ハードウェアの買い換えなしでどんどん進化していく世界こそ、次世代のテレビの姿だと期待したいところだ。
■ローパスフィルタをなくした富士フイルムの新CMOS
米国で発表されたX-Pro1 |
こだわりの機能を実現したXシリーズを展開する富士フイルムが、ついにレンズ交換式のカメラ「X-Pro1」をリリースする。カメラとしての性能はデジカメWatchで詳しく紹介されているが、新開発の撮像素子がなかなか面白かったので、少し詳しく見ていきたい。
富士フイルムは1999年から、蜂の巣状に撮像素子を配列した「スーパーCCDハニカム」を開発し、長年改良を続けてきている。ただ同社の主流はコンパクトデジカメであり、小型の撮像素子開発が主流であった。
今回の「X-Pro1」に搭載された新開発CMOS「X-Trans CMOS」はAPS-Cと同サイズであり、コンデジ用とは違ってデジタル一眼サイズである。最大の特徴は、これまで撮像素子の宿命であった「モワレ」を低減するためのローパスフィルタを不要にした画素配列である。
モワレとは、規則的なパターンの模様を撮影した時に発生するうねり模様や偽色のことだ。これは上下左右に規則的に並んでいる物理物の模様に対して、同じく上下左右規則的に配置されている撮像素子の画素の並びが、微妙にずれた時に発生する、いわゆる光の物理現象である。
一番簡単にモワレを再現するには、液晶テレビ画面をデジカメで撮影してみるといいだろう。なるべく水平に撮るようにしながらズーム倍率を変えていくと、縞模様が極端に激しくなったり、偽色が出るポイントがあるはずだ。そこが被写体の細かい縦横と撮像素子の細かい縦横が、「微妙にハマッた」状態である。
通常のカメラの撮像素子は、なるべくこのモワレが出ないように、高周波成分をカットするローパスフィルタを撮像素子の前に貼っている。モワレの正体は、細かい模様同士が干渉することで起こる、高周波のビートなのである。
一般的なCMOS(裸の状態)。これに左側のローパスフィルタを貼り付けたガラス板が被せられる |
フィルタ自体は薄いものだが、ある程度の強度を持たせないといけないので、通常は厚さ1mm程度のガラス板にフィルタを貼り付け、さらに赤外線と紫外線カットフィルタも貼り付けていくので、撮像素子の前に相当な厚みのある層ができあがることになる。
高周波成分をカットすること、厚みのあるガラスが撮像素子前面に来ることによって、これまでのカメラは撮像素子の裸の能力が発揮できなかったわけである。
ではこのローパスフィルタをやめたらいいのではないか。やめれば当然モワレは出ることになる。しかしフィルム撮影では、モワレなどは出なかった。それはなぜか。
フィルムの感光体の配列は、化学反応によるランダムな配列になっているので、撮像側に一定のパターンというものがない。だから被写体が規則正しい模様であっても、モワレが発生しないのである。
ランダム配列のフィルム感光体。これだとモワレは発生しない |
ベイヤー配列でローパスフィルタを入れないと、モワレが発生 |
ベイヤー配列にローパスフィルタを入れればモワレは出ないが、解像感は落ちる |
この原理を撮像素子に持ち込んだらどうか、ということで生まれたのが「X-Trans CMOS」で採用された特殊配列である。
新CMOSの配列は、サブピクセルが6×6の36と、かなり細かく刻まれている。さらにRGBの配列を見てみると、結構ランダムに配列されているように見える。ただ左上の3×3のパターンに注目すると、右の3×3と下の3×3は横に90度回転させ、対角線上にある3×3は同じ配列パターンとなっている。
X-Trans CMOSのサブピクセル配列。一見ランダムに見える | 一般的なベイヤー配列。規則性が感じられる |
完全にランダムだとカラー画素を生成するのにもの凄いプロセッサパワーが必要になるので、ある程度の規則性を持たせながら、一見するとランダムにRGBが配置されているように見えるという配列になっているわけだ。
フィルムの画素のランダムな配列に似せるという工夫により、ローパスフィルタを不要にしたわけだが、さすがに赤外線と紫外線フィルタは必要なようで、結果的にはセンサー剥き出しではなく、やっぱりそれなりのガラス板ははまっているわけだが、従来センサーと違って高解像度方向の特性の延びがいいことには違いないだろう。
下が新センサーの裸の状態、上が実機に実装された状態。色味が違って見えるのは、実機には赤外線と紫外線カットフィルタがあるから |
ただ残念なことに、これで動画を撮ってしまうと、センサーの画素から間引きを行なって1,920×1,080ドットの映像を作るので、このサブピクセルの配列の意味がなくなってしまい、普通よりも余計モワレが出るようになる。
一眼で動画しか撮っていない筆者にとっては大変残念だが、まあモワレが出るようなものを撮らなければモワレは出ない。実際にブースで動画を撮影してみたところ、本体のモニタ上ではモワレのような現象は確認出来なかった。
これまでXシリーズは一度も動画レビューをしたことがないが、チャンスがあればモワレ覚悟でX Pro1の動画性能をテストしてみたいと思う。