“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第564回:NAB 2012レポート その2

~ソニーが4K対応予定のNXCAMや新ストレージ~


 NAB会期2日目となる本日は、やはりスタートが遅い業界人の常ということで、昨日の初日よりも人出が多い。人気のブースや製品は凄い人だかりで、荷物を持っていては近づくこともままならないような状況だ。

 本日はソニーブースでかなり長時間取材してきたので、その模様をお伝えして行こう。



■映像伝送が劇的に変わる「NXL-IP55」

IPで映像伝送を行なう「NXL-IP55」

 プレスカンファレンス会場からTwitterで色々情報をつぶやいているが、反応が一番大きかったのが意外にカメラではなく、映像をIPで伝送するインターフェースであった。

 「NXL-IP55」は、複数のHD映像信号、音声信号、各種制御信号を一本のEthernetケーブルでIP伝送するもので、ライブ映像の中継システムなどで使用するユニットだ。

 3台のカメラからのHD-SDI信号を、それぞれ200Mbps程度に圧縮して伝送するほか、スイッチャーアウトなど1つの信号を戻すことができる。トータルで映像4ストリームが双方向でやりとりできるため、カメラ2台の送り、2系統の戻しといった組み合わせや、3D 1系統の送りと戻しといった組み合わせでも使用できる。エンコード→伝送→デコードまでのディレイは1フィールド。実際にはスイッチャーなどシステム側でもディレイがあるため、映像の戻りまでになると1フレームは越えるだろうが、かなり速い。

 また、同期信号もEthernetケーブルで伝送でき、遠隔地のカメラ3台をマスター側にゲンロックさせることもできる。背面の集合端子を使えば、音声やタリー、GPIなどの信号も伝送できる。NXL-IP55同士をEthernetケーブルで接続した場合はせいぜい100m程度だが、SFP対応ハブで光伝送すれば、5kmぐらいまで延長できる。


背面パネル。同期信号も伝送できるNXL-IP55を使ったシステム概念図

 各種制御は、背面にあるサービス用のEthernet端子にPCを接続して、Webアプリで設定を行なう。

 各種スタジアムでのスポーツ中継、特にプロスポーツではなくテンポラリ的なアマチュアスポーツの中継などでは、先にシングルの光ファイバーだけあちこちに引いておき、このユニットとハブ、カメラ3台をセットで移動していけば、ケーブルの先で3カメ中継が実現するわけだ。またケーブルテレビ局などは伝送エリア地域内に敷設した光ファイバー線を使って、いろんな場所で3カメ中継ができることになる。

 映像がIP伝送できるということは、さらにいろんなソリューションが爆発的に拡がる可能性がある。例えばレコーダは何らかのバッファを間に挟んで、3カメ映像を安価なNASに録画するということも考えられるだろう。放送局内のルーティングスイッチャーもイーサベースに変わる可能性もある。さらには映像スイッチャーもイーサケーブルが直接繋がるものが出てくるかもしれない。

 ブースでは、スタジオカメラとしての利用が拡がっている「HDC-2500/2400/2000」の、カメラとCCUの間を繋ぐ3Gファイバーケーブルの余っている帯域を使って、そこにNXL-IP55を噛ませ、その1本のケーブルにさらにサブカメラ3台分の映像信号と、CCUコントロールを流すという使い方も提案されていた。

 SDIによる映像伝送は業界での利用が始まってもう30年以上経過するが、これがいよいよ劇的に変わっていく予感がするソリューションだ。価格は未定だが、今年の秋ぐらいの発売を予定している。

5月から販売を開始するマルチフォーマットスタジオカメラHDC-2000カメラ-CCU間の光ファイバーにさらに3本の映像信号を相乗り


■4Kも撮影可能(になる予定)の「NEX-FS700JK」

4K出力できるかも? の「NEX-FS700JK」

 プレスカンファレンスでも実機がお披露目されたNXCAMのカムコーダ「NEX-FS700JK」だが、会場には実機が3台ほど展示されており、多くの人がその実力を確かめていた。

 撮像素子に新開発Super35mmサイズの4K CMOSセンサー(総画素数約1,160万画素/有効約830万画素)を搭載しており、現在はまだできないが、将来的には4Kの映像出力が得られる予定。ただカメラ内記録はフルHDしか対応しないので、3G-SDI出力から4K RAWが出力できるだけである。とは言っても価格が本体のみで77万7,000円なので、4Kが出るカメラとしては一番安いということになるだろう。

 さらに新センサーでは、HD解像度で最高240fpsのスーパースローモーション撮影が可能。24pモードならば10倍のスローモーションとなる。かつてハンディカムで搭載していたように、いったんカメラ内の高速キャッシュに録画し、その後等速でメディア記録するという方式だ。

 キャッシュには8秒間記録可能。さらに画質を落とせば、最高で960fpsまで記録できる。


ハンドグリップからLANC端子が出て、カメラ背面に接続されている

 またローテーション可能なハンドグリップが付けられるが、ここには4つのボタンがあり、様々な機能が割り当てられる。またズームレバーも付いており、本体背面にあるLANC端子と接続することで、ズームのコントロールが可能。

 ただし、現在EマウントにもAマウントにもパワーズーム搭載のレンズはラインナップにない。しかしマウント部の接点からはズーム制御信号を出力することは可能ということなので、将来的にはなんらかのパワーズームレンズがリリースされる可能性はある。




■現実的となった4K RAWネイティブのワークフロー

 ソニーブースの一角でかなりの広範囲で展示されていたのが、4K対応カメラ「F65」で撮影した4K RAWのネイティブワークフローだ。

 「SR-PC4」は、SRMASTERフォーマットに対応した記録メディア「SRMemory」のインジェストユニットで、ギガビットイーサもしくはeSATA経由でファイルをPCに取り込む装置だが、背面にHD-SDI出力を備える。内部にはハードウェアの現像処理エンジンが搭載されており、HD解像度ではあるが、内容をモニターでリアルタイムに確認できる。

HDプレビューが可能なインジェストユニットSR-PC4バッチ取り込みソフトウェアも付属

 もう少し手軽なインジェストユニットとして、PCにUSB 3.0、またはeSATAで接続できるドライブ「SR-D1」も展示されていた。付属のSR RAWビューワーを使って、SRMemory内の映像をPC側で現像し、プレビューできる。簡単に中味が見られるのがメリットで、リアルタイム再生までは保証しない。

小型のドライブ「SR-D1」が登場ノートPCなどでリアルタイムRAW現像して中味の確認が可能

 F65の新ファームウェアでは、あらたに1.2Gbps程度にビットレートを抑えたRAW Liteモードを搭載する。これで撮影した24pのクリップであれば、マシンの性能次第ではリアルタイム再生までできるかもしれない。

 現場での映像確認ということでは、現場である程度のカラーグレーディングやプロキシファイル出力をすることも想定される。このアプリケーションは、現在サードパーティであるYoYotta社の「YoYo」と、カラーフロント社の「On-Set Dailies」が提供している。これはF65用にソニーから提供されたSDKを使って各社がサポートしたものだ。

 またノンリニアシステムでも、AvidのMediaComposerがF65のRAWをサポートする。RAW現像をリアルタイムで行ないながら、カット編集ならびにディゾルブ、ワイプ程度のトランジションであればリアルタイムで動作可能。

カラーフロント社のOn-Set DailiesのデモAVIDとAdobeが4K RAWのネイティブ編集に対応

 Adobeの場合は、ソニーと協業でRAW現像をサポートするソフトウェアを今年8月に製品化すると発表された。これを使って、Premiere Pro CS6でRAWネイティブのリアルタイム編集が可能になる。

 これまではなかなか4K RAWを直接扱っていくのは難しかったが、今年中にはネイティブでどうにかする環境がいろいろ整ってきそうだ。



■4K以外の4K活用

4Kの映像を横に2枚ならべて貼り合わせる

 ブースの4Kシアターの横では、4KをHDの用途に使うソリューションを展示していた。まず2台のF65を使ったスタジアムの映像を横方向にステッチングして、横8K、縦2Kの映像を作る。そこから必要な部分を切り出し、トリミングなどを行なってHDの映像を作るというものだ。以前から監視カメラでは同じ原理の技術があったが、それをエンタテイメント領域に活用したものである。

 残念ながら現在は4Kのベースバンド出力が出るカメラがないので、いったん収録したRAWから現像処理を行なった後の作業ではあるが、4Kの2ストリームは、1枚のSRMemoryから再生していた。SRMemoryのデッキを1080p/3Dモードにして、1ストリーム内に2つのHD映像を記録。それが同時に4ストリーム出せるので、合計8系統のHD映像が再生できることになる。これで4K×2を再生しているというわけである。


これだけの映像を1枚のSRMemoryから再生3Dモード4系統で4Kの映像を2つ再生する

 その再生した横8K、縦2Kの映像から、4Kサイズで切り出して1080iや720pにダウンコンバート、あるいは横8K、縦2Kの映像から直接1080iや720pを切り出すことで、任意の場所を様々な画角で取り出すことができる。

切り出し画面のプレビュー。マゼンタが4K、黄色が1080i、緑が720pの切り出し範囲を表わしているいろんな場所を異なる画角で切り出し可能

 もちろんこれだけで中継全部のカメラをまかなえるわけではないが、カメラ台数が削減できるというメリットはあるだろう。



■アーカイブの問題を解決する新ストレージ

オプティカルディスク・アーカイブのドライブユニット。奥行きが長いのは、メディアを格納してさらに中味のディスクを1枚ずつ引き出すから

 プレスカンファレンスでもご紹介したが、昨年のInterBEEで技術発表していた光ディスクを使ったアーカイブ装置「オプティカルディスク・アーカイブ」システムがいよいよ製品化される。USB 3.0対応のドライブユニット「ODS-D55U」、および専用メディア(300GB~1.5TB)を今年秋から順次発売予定。

 現在HD映像のアーカイブは、プロダクションごとに考え方が異なる。リムーバブルHDDのままで保存しているところもあれば、ビデオサーバーに貯め続けているところ、データストレージに移しているところなど、様々だ。ただ、経年変化や物理衝撃、汚れに対する耐性などで、問題がないわけではない。ある意味ずーっと問題を先送りしてきたとも言える。


1.5TBのメディア。重量は意外に軽い

 今回のオプティカルディスク・アーカイブでは、12枚のディスクが入った光メディアを1パッケージとして、アーカイブに利用するもの。中のディスクはBlu-rayの技術に近いオリジナルのものだという。

 メディアはソニーからも提供されるが、協業としてTDKからもリリースされる。これは東日本大震災で東北にあるプロ用テープ製造工場が被害を受け、SRテープの供給が一時ストップした経験から、早めにリスク分散の手段を講じるということである。


普通に1つのドライブとしてマウントされる

 UDFベースの専用ファイルシステムドライバとデバイスドライバをインストールしてPCに接続すると、普通の光メディアと同じスタイルでマウントされる。中味は12枚だが、ファイルシステムが複数のパーテーションを1つのメディアに見せるマルチパーテーションセットとなっているので、中味の12枚を意識せず1つのメディアとして利用できる。操作としては普通にファイルをドラッグ&ドロップで書き込むだけだ。

 もちろんアーカイブシステムなので、メタデータによる管理は必須だ。ただ、膨大なフッテージをいちいち自分でメタデータを付けていくという作業はあまりにも報われない。

 そこでアーカイブ用の専用ソフトウェアを提供する。これはフッテージの日付やファイル名などは、もちろんそのまま使えるが、カメラによってはGPSデータがついているものがあるので、これも地図情報として保持する。

 さらにフッテージをインジェストする際に、音声トラックを解析し、テキストデータに起こしてくれる。これにより、インタビューや演説などに対しては、テキスト検索でファイルの中の、特定の時間まで検索することができる。日本語にももちろん対応。

 さらに、顔認識技術を使って、写っている人の顔を整理・分類して、類似検索できるようにしておく。例えば顔写真のデータがあれば、それと類似の人が写っているフッテージを一気に探すことができる。


音声をテキスト化して検索が可能。ここでは「Washington」という単語で検索、フッテージ内に2箇所存在するのがわかった顔情報も類型化
取り込んだフッテージは様々な解析が行なわれてメタデータが付加され、データベース化されていく

 まだメタデータを入れるなど考えていなかった古いテープのアーカイブも、このシステムに取り込むだけで自動的にメタデータを作ってくれるというわけで、アーカイブ専任者など居ない個人経営や小規模なプロダクションでも、導入すればかなりすっきりするだろう。

 価格は正式には発表されていないが、ドライブは6,000ドル前後、メディアは1GBあたり10セント程度を目標にしているということなので、600GBのメディアなら日本円でだいたい5,000円ぐらいになるだろう。

 メディアの耐久性としては、約50年を保証する。物理的な耐性としては、メディアの外装は異様に頑丈に作られており、トラックで踏まれたぐらいでは壊れない強度を持っているという。光メディアは中央に穴が開いているので、ケース内にはこの部分に柱を入れて強度を高めているそうである。

 メディアは大丈夫だとして、50年後もこのドライブが作り続けられて動くのか、という問題はあるだろう。それに関しては、ディスクのハードウェア的なベースはBlu-rayであり、中味のディスクを取り出してBlu-rayドライブに入れれば、読み出しは可能だという。

 ただ普通はUDFのマルチパーテーションセットドライバなどはどこにでもあるものではないので、一般人がディスクを入れてほいほい読めるようなものではない。もしもの場合にソニーがマルチパーテーションセットの仕様を公開することで、腕に覚えのあるエンジニアが互換ドライバを書けば、読み出せるというレベルである。それでも、本当に最悪の場合はどうにかなるという見込みが今から存在するというのは、アーカイブシステムにとっては重要なことである。

 デジタル映像ワークフローのうち、最後のソリューションがないままここまで走ってきたが、ようやく着地点とも言える技術が出てきたと言えそうだ。

(2012年 4月 19日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]