“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第565回:NAB 2012レポート その3

~HD版Cerevo/無線HDMI他光るピンポイント製品~


■自己解決が求められる4K

 NABレポートも3回目。現地時間の19日14時をもって、NAB SHOW 2012は閉幕した。今年のショーを振り返ってみると、4Kはやはり注目のソリューションではあるものの、現状はワークフローもまだ混沌としており、状況を知って自分なりのソリューションを見つけた人が先に行けるという現状である。関係ある人はものすごく食いついているが、関係ない人は全く興味ない、といった明確な分離がある。

 日本で盛り上がっているネットのライブメディアは、米国では全くと言っていいほど関連展示がない。もう何年も前にエンコーダなどが大量に出展された年もあったが、それはあくまでも放送局レベルがネットでサイマル放送を流していくというハイエンドユースであって、個人や小規模な事業者がネット放送事業をやるというものではなかった。

 米国の映像業界全体としては、ブロードキャスターのデジタル放送、ハイビジョン化への設備投資が終わり、次のターゲットとしてデジタルシネマ系の映像制作へ注目と投資が集まっているという印象だ。

 最後のレポートは、国内のメーカーでいくつか気になった製品をレポートする。




■小型ENGカメラをデビューさせるJVC

JVCの注目は新ENGカメラ

 先日ハンドヘルド4Kのカメラ「GY-HMQ10」をリリースしたばかりのJVC。もちろん今回のNABでも展示されているが、米国ではほとんど広報されていないようで、注目されていないというよりも、ほとんどの人は存在に気がついていないようだった。

 一方NABで初お目見えということで注目を集めていたのが、ENGカメラの新モデル「GY-HM600/650」である。どちらも基本スペックは同じで、650のほうはネットワーク機能が強化されたモデルだ。

 共通仕様の部分から拾っていくと、レンズはフジノン製で、ワイド端29mm/F1.6からの光学23倍ズーム。NDフィルターは1/4、1/16、1/64の3段階を内蔵。センサーは新開発の1/3インチCMOSで、三板方式。

 前方にあるマイクのデザインが独創的で、カメラマイクとして十分な性能を確保するという。モニターもこの部分にあり、3.5インチ/950Kピクセルとなっている。

 メモリーカードスロットが2つあり、リレーや同時記録に対応する。録画フォーマットがかなり幅広く、従来機のHM750などはXDCAM EX互換のMP4やApple Final Cut Pro対応のMOVで撮れたが、さらにAVCHD、XMFでも撮れるようになった。

 バッテリーはIDXとの協業となっているのは「GY-HMQ10」と同じだ。ただ経緯としては、HM600用として開発してきたものをHMQ10に応用したという順番だという。


マイクのデザインがアクセント、GY-HM600バッテリはIDXと協業
ネットワーク機能を強化したHM650。見た目はほとんど一緒

 ポイントとしては、30mmを切るワイド端を確保しながらもF1.6の明るいレンズ、多彩な記録フォーマット対応、ENG用カメラのサブ機として丁度いいコンパクトさと軽量化(バッテリ込みで2.4kg)を実現したところだ。

 HM650は、HM600をベースにネットワーク接続に対応したモデル。GPSを内蔵し、USBポートにWi-Fiユニットを取り付ければ、Wi-Fi経由でスマートフォンからメタデータの転送、ファイルのブラウズ、カメラコントロールなどができる。また記録ファイルをFTPで転送する機能もある。

 発売時期は、HM600が2012年秋で、価格は4,595ドル。HM650が2012年冬発売で、価格は5,695ドルとなっている。




■Cerevo Live BoxのHD版が登場

 Usteam放送をやる人にとっては欠かせないガジェットとなっているのがCerevo Live Shellだ。さらに最近ファームウェアアップデートでは、ニコニコ生放送YouTube Live、Livestreamの3つにも対応した。

 CerevoはNAB会場にブースは構えていないが、近年新しくできたTrump Towerというホテル内でスイート展示を行なっており、そこでHDMIのHD入力に対応したCerevo Live BoxのHD版のプロトタイプを見ることができた。

HD対応のCerevo Live Boxファンタム電源対応のXLRマイク端子を搭載

 Live Shellの前の製品、Live Boxをベースに新たに設計したモデルで、外部入力としてファンタム電源対応のXLR入力を1系統用意する。Live Shellはミニプラグのマイク入力端子を備えているが、本格的なコンデンサーマイクを繋ぎたいというニーズは多いそうだ。

 現在はまだB5ノートPCぐらいのサイズだが、最終製品ではこれの半分ぐらいのサイズになる見込み。製品版ではバッテリも内蔵する。

 これまでの製品では、HDMI接続できても、480pしか受け付けなかった。元々HD配信する必要がないにしても、接続する機材がHD解像度しか出力できないものもあり、そういう機材が使えなかった。具体的にはBlackMagicDesignのATEMシリーズなどだ。入力側がHD解像度対応することで、これらの低価格スイッチャーがダイレクトに利用できるようになるメリットは大きい。

 現在生放送でHD解像度が求められるケースはまだ少ないが、視聴者側の環境整備はどんどん進んでおり、ライブメディアがHD化するのは時間の問題だろう。すでに配信サーバである「Dashboard」でもHD対応サービスが試験的に稼働中で、実際にホテルの回線を使ってテスト配信するデモを見ることができた。

 社長の岩佐氏によれば、価格は過去のLive Boxよりも少し高い程度の価格帯で作れるのではないかという。



■ワイヤレスでHDMIを非圧縮伝送

 日本のベンチャーであるランサーリンクが開発したSKY WAVE「WHD-11TRX70」は、WHDIの技術を使って5GHz帯でHDMIを非圧縮で伝送するユニットだ。トランスミッタ、レシーバ側にそれぞれHDMI端子があり、カメラのHDMI出力を非圧縮でレシーバに伝送できる。

セントラルホール奥にあるランサーリンクのブースSKY WAVEのトランスミッター部

 5GHz帯を使っているため直進性が高く、見通し距離であれば30m程度は伝送できる。Wi-Fiなどで使われている2.4GHz帯ではないため、コンベンション会場などWi-Fiが飛びまくりの場所でも安定した送受信が可能。

 ディレイは2フレーム以下と、かなり高速だ。ただ現状の製品では、認可の条件として屋内のみしか利用できないという制限がある。

Broadcastenngineering誌のPICK HITを受賞。右下にあるのがレシーバー部

 バッテリは標準ではソニーのLバッテリが利用できるが、別途アダプタを使ってパナソニックのカメラバッテリも使用できる。日本ではすでに発売が開始されており、4月21日時点ではランサーリンクの直販で何故か1億円近い価格が付いているが、実際には168,000円程度で販売されているようである。

この製品はNAB期間中にBroadcastenngineering誌の投票で、今年のPICK HITを受賞した。日本から若い社長がたった一人でやってきて1コマのブースを出しているような製品でも、きちんと評価される土壌があるというところが、いかにもベンチャーに寛容なアメリカらしい。

(2012年 4月 23日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]