小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第605回:ついに登場、パナソニックの全録機「DMR-BXT3000」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第605回:ついに登場、パナソニックの全録機「DMR-BXT3000」
全録でも“DIGA流”を実現。リーズナブルな意欲作
(2013/2/27 10:00)
レコーダの生き残り策?
テレビの価格下落が著しい昨今だが、レコーダも同様に価格下落が激しいジャンルだ。特に年1回のリニューアルしかしないメーカーだと、新モデルが登場する直前には半額近くまで値を下げているモデルも珍しくない。
テレビはテクノロジー的な飛躍として、ハイエンドモデルは4Kを打ち出すことで価格下落に対抗しようとしているが、同様にレコーダは「全録」で付加価値を付けていくという方向に向かっているのではないかという気がする。
ビデオテープ時代から連綿と続いてきた、番組表を見て予約録画するという手法とは違い、全録は全部録れている前提で「どう見せていくか」に主眼が置かれる製品だ。これはテレビ視聴にパラダイムシフトをもたらす手法であり、単に「予約の手間が省けます」ではない、新しいユーザー体験が提供できる。
ただ、一般的には全録レコーダがネックとなっているのは、価格である。よほどテレビ漬けの毎日を送っている人ならともかく、今テレビを見るのにどれぐらいの予算を割けるか、という点では、レコーダはなかなか厳しい立場に立たされている。
その点パナソニック全録機「DMR-BXT3000」(以下BXT3000)は、BS/CSの全録にも対応しながら、店頭予想価格は14万円前後と、かなりリーズナブルな価格設定となっている。ネットの通販サイトでは、既に10万円を切るところも出始めており、誰もが安心して手を出せる全録機と言えるかもしれない。
パナソニックがDIGAシリーズの中でも「ニュースタイル」として訴求するBXT3000の実力を、早速試してみよう。
見た目は無骨なデザイン
ではまず、ボディから見ていこう。最近のDIGAは全体的に薄型化を進めており、フロントパネルも黒いスモークのアクリル張りといったスタイルで統一されてきているが、本機はそのデザイン的な流れからは別物という印象を受ける。
フロントパネルは上下2つに別れたデザインだが、フタとしては一体化しており、全体が開く。必要なロゴなどはすべてパネルを開けた内部にプリントされており、表面はなるべくごちゃごちゃしないようにとの配慮が見られる。
フロント中央にはUSBとSDカードスロットがある。B-CASカードスロットは3つあり、それぞれ何用なのかが明記されている。これはBSやCSなどの有料放送を契約しているユーザーへの配慮だ。
通常は有料放送の契約情報が書き込まれたカードは1枚しかないはずなので、それを全録したいのか、あるいは通常録画でいいのか、差し込むスロットを間違えないようにするためである。
天面から側面は1枚の大きなシルバーの金属パネル折り曲げで作られており、これも昨今のシックなイメージとは違う。
内蔵HDDは2TBで、そのうちチャンネル録画分は1.75TBとなっている。残りは自動で消えないように番組を保存しておくための領域だ。
背面に回ってみよう。多機能ハイエンドモデルとは違い、端子類はシンプルだ。入力はアンテナ入力とアナログAVのみだが、i.LINK端子を装備しているのはさすがである。出力はHDMIとデジタル光音声出力のみで、あとはLANと外付けHDD用のUSB端子がある。
リモコンは、昨今のハイエンドモデルで付属するタッチパッド式ではなく、昔ながらの十字キー型だ。ボタンの名称などに一部違いがあるが、基本的には円形タッチパッド型を十字キーに替えたタイプと言って良さそうだ。
外観に関しては、コスト的に削れる部分はなるべく削って、なるべく低価格化した苦労が忍ばれる作りになっている。
中身はDIGA流
では中身のほうを見ていこう。本機は、地デジ、BS、CSから6チャンネルを選んで、丸ごと録画ができる。放送波の割り当てとしては、地デジだけで6チャンネル使う事も可能だが、BS、CSに関しては、最大3チャンネルまでとなる。
これはチャンネル録画設定画面を見れば理解できるが、チャンネル録画用のB-CASカードのうち、衛星放送まで受信できる赤カードは1枚しか使用できないからである。片方の青カードは、地デジ専用だ。
3波録画できるにしては、チャンネル録画が6つでは少ないような気がするが、これまでの全録機は地デジのみ対応で、衛星放送は個別に録画指定するしかなかった。そう考えれば、なかなかチャレンジングな仕様だと言えるだろう。
またチャンネルごとに、録画モードが別々に設定できるのもユニークだ。従来の全録機は、全チャンネルが同じ画質で録画されるものばかりだった。各チャンネルはいっぱいになった時点で古いものから上書きされる事になるわけだが、画質を下げればそのチャンネルは保存されている期間が延びる事になる。なお、チャンネル録画ではDRモードで記録できない。
設定メニューにある「視聴可能期間」の日数は、24時間休みなく録画した場合の日数で、録画しない休止時間を増やせば、視聴可能期間はこれより延びる。ただ、各チャンネルに割り当てられているHDDの領域は均等割りなので、どこかのチャンネルを録画しなかったり、画質を落とすなりして容量を稼いだとしても、他のチャンネルにその分を割り当てられるわけではない。今回、日テレを録画時間朝7時~夜中3時まで、5倍モードに設定してみたところ、実際の視聴可能期間はおよそ6日間となった。
録画モードの設定は、各チャンネルごとにあとからやり直しが可能だ。その時も、他のチャンネル録画が消えることはない。逆に言えば、これまでの全録機は、録画モードや録画チャンネルなどの設定を変えると、これまで録画した番組が全部消えていたのである。
もう少し詳しく説明しよう。従来型の大半の全録機は、録画チャンネル全部をマルチストリームとして、1つのファイルでループ記録していた。だから一つでも設定を変えると、全部の録画を消して記録のやり直しになるわけである。
もう一つの方式は、ファイルを個別に持ちながら、HDDのパーテーションも個別に分けるというスタイルだ。これは一見すると他のチャンネルに影響はなさそうだが、どれか1つチャンネル録画を止めた場合、その領域が無駄になってしまうので、パーテーションを切り直してしまう。したがってこの方式もチャンネル全部が消えることになる。
一方本機ではこれらの影響が大きいということで、各チャンネルごとに別々のストリームとパーテーションを設けて、個別にループ記録する方法を選んだ。チャンネルごとに容量が固定されるので、チャンネル録画を減らしても他のチャンネルの記録時間が増えないというデメリットはあるが、いろいろ設定を変えて試してみたいという人には魅力的な仕様である。
レコーダの顔となるのがスタートメニューだ。従来の録画予約型レコーダならここで録画番組や予約系の機能が並ぶところだが、本機では勝手に録れていることが前提なので、見る系の機能が中心になっている。従来型の機能はもう一つ右のグループ、設定関係は左のグループに分けられている。
チャンネル録画にアクセスするには、左下の「チャンネル録画番組を見る」を選ぶか、リモコンの「チャンネル録画一覧」ボタンを押す。すると6ch分の番組表が出てくるので、これを遡りながら見たい番組を探していく。
録画番組の再生中にリモコンの「おすすめ」ボタンを押すと、いろんな機能にアクセスできる。周囲に現われるのは、類似番組だ。番組名が同じ、ジャンルが同じ、あるいは出演者が同じといった条件で、録画されている番組の中から探してくる。
緑の「お気に入り」を押すと、番組名などから登録可能なキーワードが表示される。これをお気に入り指定しておくと、スタートメニューの真ん中にある「お気に入り」からすぐに番組にたどり着けるようになる。
つまり「お気に入り」は、毎週あるいは毎回観たい番組のショートカットが集まる場所と考えればいい。ここを充実させていけば、毎回検索したり、毎回番組表を遡る必要がない。その点では、従来型録画視聴スタイルの延長線上にある機能と言える。また「お気に入り」画面では、ジャンルを丸ごと登録することもできる。アニメは一通り目を通すという人には便利だろう。
メインメニューには、「最新ニュース」、「最新天気予報」もある。その時点での最新のニュース番組や天気予報が確認できる。
「お気に入り」を挟んで左にある「旬のキーワード」は、同社の有料会員サービスである「MeMORA」(ミモーラ)で話題になっているキーワードを表示する。一方右の「気になる番組」は、インターネットで話題になっているキーワードを抽出して、該当する番組をピックアップする機能だ。
上にある「あなたへのおすすめ番組」は、ユーザーがよく見る番組の履歴を元に、適合する番組を選び出す機能。下の「みんなのおすすめ番組」は、他のユーザーの予約情報などから人気番組を選び出す機能だ。
このように「お気に入り」を挟んで上下左右に、対照的な番組ピックアップ方法を配置するという作りになっているわけだ。
リモコンにある「検索」ボタンは、これから放送される番組を検索するのではなく、チャンネル録画してある番組から条件を詰めていって検索する機能だ。昨年末のモデルから搭載された「スマート検索」と同じ機能である。
ダビング機能をチェック
従来方式の録画予約機能も、1系統ながら持っている。チャンネル録画ではDR記録ができないが、こちらの予約方法ではDR録画も可能なので、BSの映画を綺麗に録りたいなどの用途に使える。
録画予約しない場合は、チャンネル録画した番組から保存領域にコピーすることもできる。この場合、都度ダビング動作をさせるのではなく、ダビングリストを作っておけば、あとはバックグラウンドで順次処理されるというスタイルだ。もちろん高速ダビングである。
このダビング先には、「ワンタッチ予約録画」ボタンを押すと保存領域にダビングされる。ダビング先を変更したい時は、チャンネル録画一覧の表示中に、サブメニューを押すと現れる「ダビング予約の設定」から、ダビング先がUSB HDDなどに変更できる。なお、保存された番組のダビング回数は9回となっている。
【追記】
チャンネル録画の一覧から、ダビング先を指定してのダビングも可能であったため、その方法を追記しました。(2013年2月27日)。
一方モバイル機器への持ち出し転送は、結構段取りが面倒だ。チャンネル録画したものから直接持ち出し番組を作成することはできず、いったん保存領域に書き出したあとで変換する必要がある。それかこれまでのDIGA同様に、別途録画予約をして、そのときに持ち出し番組を作成させる、という方法になる。
持ち出し番組への変換はリアルタイムで行なわれるので、本機が電源OFFのときに自動実行されるようになっている。朝出かける時に思いついても、すぐ転送することはできず事前準備が必要なところは、逆にハードルが上がったように感じられる部分だ。
最後に画質については、今回5倍、6倍モードでチャンネル録画を行なってみたが、どちらも画質的に大きな不満は感じられなかった。昨年の秋モデルから、ユニフィエも新世代になり、性能もかなり上がっている。レスポンスの向上は、以前「DMR-BZT830」をレビューしたときに確認済みだが、本機に関してはあのときに感じたサクサク感はあまり感じられなかった。横に並べて比較したわけではないので、記憶に頼るしかないところではあるが、スタートメニューが出るまでちょっとした間がある。おそらくユニフィエの性能を、限界まで引き出しているからなのかもしれない。
総論
全録機となれば、ある程度従来機とは違う作りになってもしかたがないという部分はあるのだが、本機の場合は従来型DIGAから後退した機能があまりなく、従来機を拡張して全録機になったという流れを感じさせる。
再生用の調整機能も一通り搭載しており、当然ながらチャンネル録画の番組再生時にも適用できる。本文内ではご紹介していないが、huluやUstreamなどネットサービスも従来通り搭載しており、これまでDIGAに期待されていたこともこなせる全録機として仕上がっている。
DTCP+には対応していないため、持ち出しに関してはやや面倒な手順が必要だが、通常のDTCP-IPには対応しているため、保存領域にある番組はタブレットなどを使って無線LAN経由で視聴することも可能だ。
全録機の魅力は、例えばTwitterなどで話題になっていた番組をあとから知ったとしても、それが見られる事である。事前に番組情報を調べて見る世界から、あとで知っても間に合う世界に変わるのだ。また、ジャンル検索で映画をごそっと検索すれば、昔見逃した映画に出会ったり、宝の山を掘り返している気分になる。
すでに全録経験者にとっては、容量が少ないとかチャンネルが少ないとか色々不満も出てくるかもしれないが、操作性や考え方も特殊な部分が少なく、まずは全録入門機として安心しておすすめできる。
多くの人の期待に違わず、全録機のリファレンスとなり得るモデルが登場したと言えるだろう。
パナソニック DMR-BXT3000 |
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