小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第606回:TV番組リモート視聴にauも参戦!「Remote TV」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第606回:TV番組リモート視聴にauも参戦!「Remote TV」
19,800円。キャリアがTVをネットに流す意味とは
(2013/3/6 11:00)
テレビがネットに流れ出す
“テレビと通信の融合”は、3.11をきっかけになし崩し的にスタートした。テレビをネットに流す事は技術的には十分可能で、あとは法的な問題をどのようにクリアするかだけだ。
最近は通信キャリアが、ホームネットワークやインターネットを使って、ユーザーの持つスマートフォンなどの端末へテレビを流すというソリューションを積極的に展開してきているのは興味深い。
ソフトバンクは以前からSoftBank SELECTIONとして、ピクセラ製のデジタルチューナを販売してきた。1月には、自宅で受信・録画した番組をネット経由で視聴できる「エリアフリー 録画対応デジタルTVチューナー」(SB-TV04-WRIP)も発売している。
AndroidやiOS上で動くTwonky Beamは、ドコモのスマホにはほぼオフィシャルアプリと同じ扱いでダウンローダがプリインストールされている。これを使えば、ホームネットワーク内でDLNAおよびDTCP-IP対応レコーダから、テレビ番組を視聴することができる。ダウンロード型ムーブにも対応したので、録画番組を外に持ち出す事もできる。将来的にこのアプリがDTCP+に対応すれば、DTCP+対応機器と連携し、ネット越しでの番組視聴も可能になるだろう。
そしてauは、家庭内のレコーダを利用してテレビ番組をネット越しに視聴するボックス、「Remote TV」の販売を開始した。auショップなどでの直販価格は19,800円だ。
面白いのは各キャリアともに、自社製品やネットワーク網に限定しない製品であるという事だ。通信事業者がそれぞれの手段で、テレビをネットに流すことを世の中に流行らそうとしているように見える。
これの意味するところは後々考察していくとして、今回はauのテレビソリューション、Remote TVを試してみるとしよう。
仕掛けが上手い作り
本機の機能をざっと紹介すると、アナログ入力されたテレビ番組の信号をエンコードして、ネットに流すボックスだ。似たようなものとしては海外メーカー製のSlingoboxという製品があるが、基本はだいたい同じと考えていいだろう。
最初にリリース記事で写真を見たときには、正直もっと安っぽい感じの四角い箱なんだろうと思っていたのだが、実物はかなり手のこんだ、綺麗なデザインだ。
基本的には黒い箱には違いないのだが、周囲が透明のアクリルでカバーされており、この価格でここまでデザインにコストがかけられるのか、と素朴な驚きがある。写真ではなかなか作りの良さが伝わらないのが残念だが、多くの人を失望させないデザインに仕上がっている。
前面にはRESETとWi-Fiの2つのボタンしかなく、電源スイッチはない。電源は専用のACアダプタが付属している。前面には3つのLEDがあり、動作中はすべてのLEDが点灯する。
機能の中心は背面にある。まずテレビの信号は、レコーダなどからアナログAVで入力する。HDMI INは、レコーダのHDMI出力を接続する。こうすることで、レコーダへのコントロールをHDMI CECで行なうわけだ。従来この手の製品は、赤外線発光モジュールをレコーダの手前に貼り付けるといった涙ぐましい努力をしたものだが、CECを使うというのはなかなかスマートだ。
HDMI OUTは、家庭で普通にレコーダを使うときに困らないよう、スルー出力が得られるので、これをテレビに入力する。HDMIに関しては、従来のレコーダとテレビの間に本機が挟まるというイメージだ。
USB端子は、Wi-Fiルータへの接続をWPSではなく手動で行なう場合に、PCを接続して設定するためのものだ。本機の設定画面やステータスは、テレビ画面にはまったく出力されない。すべて専用アプリから設定を行なうしかないので、Wi-Fiへの接続ができないと、手も足も出ない製品である。うちではバッファローの「WZR-600DHP」との組み合わせで、問題なくWPSで接続できた。
映像の接続に関しては、最低限必要なケーブルは付属しているので、多くの家庭ではすぐに使う事ができるだろう。今回はレコーダとして、パナソニックから「DMR-BZT730」をお借りしている。最近はアナログAV出力がないレコーダもちらほら出始めており、そのあたりが今後は懸念点になりそうだ。
設定は簡単だが……
ハードウェアの設置ができたところで、今度はソフトウェアである。本機専用のアプリは、Android用、iOS用がリリースされているほか、Windows用のアプリが専用サイトで公開されている。なお、iOS版のみWi-Fi接続時のみ利用可能となっている。
今回はiPhoneで接続テストしてみた。iOSアプリはiPhone専用しかなく、iPadではiPhone互換モードでしか動作しないのは残念なところだ。
まずアプリを起動すると、本体裏に書かれた機器IDを入力するよう求められる。続いてパスワードを設定すると、本機へ接続されるレコーダに対して、メーカー名や機種の指定作業などは何も必要ない。レコーダの電源がOFFの場合は、CECにより自動的にONになる。またレコーダの電源がすでにONだった場合は、誰かに利用されてるかもしれないという警告メッセージが表示される。
iPhone上ではただテレビを見るだけだが、レコーダとテレビがCECによって電源連動していると、現場は結構忙しい事になっている。レコーダの電源が入ると、CECによりテレビの電源も入ってしまうのだ。
家庭内で誰かが気を利かせてテレビの電源を切った場合、今度はレコーダの電源もCECにより一緒に切れてしまう。そうするとRemote TVでの視聴も切れてしまう。
そしてまた「アプリから接続する」→「テレビ電源入る」→「誰かがテレビを消す」→「接続切れる」の繰り返しになる可能性がある。さらには家に居る人が執拗にテレビの電源が入ってびっくりするなど、いろいろと面倒な事が起こりうる。
かといってレコーダのビエラリンク機能(CEC)をOFFにすると、今度は本機アプリで視聴しようとしたときにレコーダの電源が自動で入らない。したがってテレビ側のCEC機能設定で、テレビと連動機器が電源連動しないように設定する必要がある。家庭での利用で、若干面倒が増える事になるのが残念だ。
録画番組までフルコントロール
ではさっそく視聴してみよう。基本的にはレコーダのスルー出力を見ているだけなので、OA中の番組や録画番組などの区別はなく、どちらも見ることができる。最初に接続すると、OA番組がフル画面で出力されている。
画面をタップすると、リモコンへのボタンが表示される。ここをタップすると、録画一覧、プレーヤー操作、ホームといったボタンが表示される。この時、背後に一応映像も表示されるが、かなりコマ飛び状態だ。リモコンモードに入ると、映像はフレームレートを落として表示する仕様になっているようだ。
ボタンの機能を見ていただければおわかりのように、録画番組の操作もできる。ただ、レコーダの録画リストを表示して、そこを画面上の上下キーで移動して選択、といった操作になる。十字キーを使って殆どの機能にアクセスできるのだが、アナログコンポジット出力の映像を小さな画面で見ているだけなので、レコーダの文字などは読みづらい。
録画番組を選ぶと、5秒ほどかかって視聴モードに戻り、再生が始まる。早送りなどの操作は、また5秒かかってリモコンモードに移行し、再生コントロールボタンを使って操作、見たいところが来たらまた5秒かかって視聴モードに戻る、みたいなことになる。コントロールできなくはないが、細々した操作にはあまり向いていない。
また生放送を視聴している時も、チャンネルの切り換えはいちいちまた往復10秒かけてリモコンモードと視聴モードを移行する必要がある。とても気軽にザッピングというわけにはいかないだろう。
肝心の画質だが、コマ落ちや音飛びこそ発生しないが、元々アナログコンポジット画面を低ビットレートにエンコードしていることもあって、ソースのS/Nが悪いと、シーン変わりで盛大なブロックノイズが発生するケースもある。
一方、番組中にスーパーインポーズされる文字などはかなりパキッとしており、読みにくさが少ない。意外に実写番組のほうが綺麗に見えるようだ。
一方アニメ番組では、エンコーダのクセなのか、過剰に圧縮しようとして急に動きの派手なシーンに出会い、結果として破綻するみたいな様子がよく見られる。特にアニメ、CG系の番組は、オープニング/エンディングに派手な閃光などが描かれるケースが多く、そういう表現には弱いようだ。ただ本編は比較的安定して見られるので、番組を楽しむという面では、それほど心配はない。
総論
従来のようにコントロールに赤外線を使うと、機種設定が煩雑だったり、リモコン操作に制限があったりするところだが、CECを使う事で難しい設定もなく、レコーダのフルコントロールが可能なのには驚いた。
その一方で、リモコンモードと視聴モードの往復が常に5~6秒待たされるため、その点がストレスとなる。ずっとリモコン操作していればレスポンスは悪くないのだが、やはり早送りなどの操作やチャンネル切り換えなどは、瞬時に行ないたいものだ。
アナログコンポジット出力を使うため、画質はあまり期待していなかったが、思ったよりも悪くないといった印象だ。視聴時の通信速度にもよるだろうが、画質は様々な条件に応じて良くなったり悪くなったりする。
本機と端末は、5台まで登録可能だ。ただ視聴端末と本体の紐付けがIDとパスワードだけで、所有者に何かの形で紐付けされているわけではない。従ってIDとパスワードを友人に知らせると、友人もお宅のレコーダの中身が見られるようになる。
録画し忘れた番組があるからちょっと見せて、という用途に使えるかもしれないが、過去に公衆送信権や送信可能化権で争った「まねきTV裁判」の例もあるので、IDやパスワードをネットで公開したり、これを沢山集めて事業化するようなことはマズいだろう。
またうかつにIDやパスワードを知らせると、勝手にパスワードを変えられたり、登録端末から外されたりという操作もできてしまうので、この点には注意が必要だ。もっともそのために本体にリセットボタンが設けられているのだろう。
しかしこういった、“通信にテレビを乗っけるソリューション”を、ケータイキャリアが次々に投入してくるというのは、なかなか面白い現象だ。ついに通信がテレビを飲み込みにかかってきているという事かもしれない。