小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第608回:有料放送ユーザーに朗報! “プチ全録”シャープ「BD-T2300」

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第608回:有料放送ユーザーに朗報! “プチ全録”シャープ「BD-T2300」

1chを18時間/8日録画。一風変わったAQUOSブルーレイ

1chだけ全録できる?

 レコーダも次第に、「全録」が特殊な機能ではなくなりつつある昨今ではあるが、やはりコストとのバランスで、どこか「全力じゃない全録」みたいな部分がある。録画できるチャンネル数やHDD容量などで、ユーザーがどこを妥協するか、みたいなところが選択ポイントになってきているようだ。そういう意味では、全録は万能のソリューションではなく、ある意味、自分の趣味嗜好やテレビに対する考え方にポリシーがあるという人向けの、“逆に頭を使うソリューション”であるのかもしれない。

 さてそんな中、基本的にはトリプルチューナー機ながら、1chだけ全録できるというユニークなレコーダが登場した。シャープの「BD-T2300」である。好きなチャンネルを指定して、1日最大18時間、約8日分が全録できるという。

 店頭予想価格は、HDDが2TBの「BD-T2300」が15万円前後、同機能で1TBの「BD-T1300」が11万円前後となっている。今回はT2300のほうをお借りしているが、3月13日発売で、ネットの通販サイトでは、既に10万円を切り始めているショップもあるようだ。

 シャープと言えば、昨年経営の危機が公になって以来、主力の液晶パネル戦略で何かと注目を集める企業になってしまったが、レコーダに関しては過去あまりレビューする機会がなかった。正面に丸い録画マークをあしらう特徴的なデザインを継承してることぐらいしか印象がないのだが、最新モデルは一体どういうものなのだろうか。さっそく試してみよう。

ピカピカのボディ

 まずデザインから見ていこう。昨今レコーダはあまり派手なスタイルは好まれず、どちらかというとマットな黒で平たい箱になりつつあるが、T2300はわりとピカピカしたデザインになっている。

 フロントパネルは黒を基調としたアクリルだが、上部にシルバーメタリックのパーツをはめ込み、アクセントとしている。天板も黒い光沢のある塗装でまとめている。

反射系の塗装が目立つボディ
ミラー塗装がアクセント
左側のメインはSHDDスロット

 フロントパネルは3箇所が開く。一番左にはB-CASカードと、スロットインハードディスク(SHDD)のスロットがある。SHDDは、手軽にHDDを増設できるとするカートリッジ型の交換式HDDだ。一見するとiVDRのようにも見えるが、シャープの独自仕様だという。

 昨今のレコーダは、低価格で大容量のUSB HDDを後から接続し、大容量化するというのがトレンドだが、完全独自仕様の専用HDDを供給する方式は珍しい。確かにすべての人がUSB HDDを自分で買って接続できるかという点も、一つ問題とすべきだろうし、その点ではメーカーから専用機を供給するという考え方はありだろう。だが独自仕様となると、長期の供給に不安が残るため、結局使われないのではないかという懸念もある。

 ちなみに交換用のSHDDは、容量500GBの「VR-SHD50」と、1TBの「VR-SHD100」が既に発売されている。価格はオープンプライスだが、500GBは9,000円台、1TBは19,800円前後で販売しているところが多いようだ。

 中央部のパネルを開くと、USB端子がある。ここはデジカメや携帯電話、ビデオカメラなどを接続する。右側はBlu-rayドライブだ。

中央にはデータ送受信用のUSBポート
右側にBlu-rayドライブ

 背面を見てみよう。端子類は比較的充実しており、D3端子出力と光デジタル音声出力を備える。チューナは地上/BS/110度CSデジタルチューナを3系統搭載。アナログAVは入力、出力ともに1系統。HDMIは2つあり、片方は映像・音声を出力する通常端子、もう一つはAVアンプ用に音声のみを出力する。

 USB端子もあり、ここにUSB HDDを接続して増設することもできる。ただし前面にあるSHDDとUSB HDDは排他仕様になるため、同時には使用できない。左手の出っ張りは無線LAN用のアンテナだ。ボディから外側に出す事で感度を稼いでいるようだ。

アナログ入出力を始め、対応範囲が広い背面端子
USBの外付けHDDにも対応
無線LANアンテナが出っ張っている

 電源ケーブルを2種類同梱しているのも面白い。1つはいわゆる2芯でアース線が付いた、通常コンセントで使用できるタイプ、もう1つはアース込みも3芯タイプだ。普通なら3芯-2芯のアダプタでも付ければ済む話だが、わざわざ別のケーブルを付けるという発想が変わっている。

 リモコンも見ておこう。センターに十字キーを配したスタイルは多くのレコーダのリモコンと同じだが、十字キーがかなり小さい。番組表と録画リストボタンが大きくフィーチャーされているほか、ホームボタン、(ポップアップ)メニューボタン、かんたんメニューボタンなど、メニュー表示系のボタンが多い。

2タイプの電源ケーブルが付属
十字キーが小さい独創的なリモコン
カバー内にもボタンが多い

 カバーを開けると中にもボタンがギッシリで、テレビ/レコーダに関する操作にダイレクトにアクセスできるボタンがある。メニューを辿っていっても同じ機能にたどり着けるのだが、機能直結のボタンが多いのは一つの特徴と言えそうだ。

ホームメニューを刷新

 では中身のほうを見ていこう。今回のモデルから、「ビジュアルホームメニュー」が採用されたのが一つのポイントのようだ。リモコンのホームボタンを押すと、グラフィカルなホーム画面で、本機の機能が一覧できる。

 この調子ですべての機能が使えるのかと思ったら、各項目の中に入っていくと全然テイストの違うUIが出てくる。公式サイトの説明には“操作に迷った時はリモコンの「ホーム」ボタンをワンプッシュ。”とあることからすると、どうもここが操作の起点というわけではなく、わからない時にここに来るというイメージのようだ。

刷新されたビジュアルホームメニュー
一歩中に入ると全然テイストの違うメニューが

 つまり本来のGUIの操作体系があって、そこに1画面のポータルを追加したような感じだ。リモコンの機能直結ボタンを駆使するか、こっちを使うか、ということだろう。ただホームメニューと違って本来のGUIは、昨今のレコーダとしてはデザイン性が低く、フォントサイズも小さめなのは気になるところだ。

番組表はGガイドを採用

 番組表はGガイドを採用しており、番組の文字情報がかなり豊富だ。選択した番組のチャンネル枠が拡がることで、狭い範囲でも視認性が上がるよう工夫されている。ただ番組表全体を見て番組を探している最中は、他のチャンネルは狭いままなので、短い番組が多いNHK Eテレなどは探しづらい事になる。

 番組録画としては、3つの方法をサポートする。1つは従来通りの、番組表を見て予約するという方法だ。番組を選んで決定ボタンで録画の挙動を選択するほか、リモコンの録画ボタンを押すとワンタッチで録画予約を完了する。録画した番組は、番組表の左側に貯まっていくので、ボタンを押した結果がその場で見えるのはなかなかいい工夫だ。

 2つめの方法は、キーワードを指定することで自動録画させる方法だ。除外キーワードやジャンルを指定することで、おおざっぱなキーワードであってもターゲットを絞っていくことができる。自動録画は6つまで設定する事ができ、1がもっとも優先順位が高くなる。

従来方式の録画予約
キーワード指定による自動録画機能
6つのキーワードが設定可能
1チャンネル自動録画設定画面

 3つめの方法が、本機のウリである1チャンネル全録だ。これは対象チャンネルを指定し、録画先、画質、録画時間帯を設定する。1日最大でも18時間しか連続で録れないので、どこか6時間を休止時間に設定しなければならない。

 またこの録画は、「録画が可能な状態の時に録画する」という条件が付いている。したがって、録画予約や自動録画によって3ch同時録画しているときは、全録が途切れる事になる。

 試しに同時間帯に3つの録画予約を入れてみたが、特に「1チャンネル全録が止まります」というようなアラートは出ずに、3つ目の録画予約設定が完了した。したがって、1チャンネル全録でずっと録らせておくには、ユーザー側で設定する録画予約をある程度我慢しないといけないという事も起こりうるだろう。ただ、そうは言っても、CSやケーブルテレビの契約者で、専門チャンネルをずっと録画しておきたいという人にとっては魅力的な機能だ。

1チャンネル録画は専用フォルダ内に格納される

 1チャンネル録画された番組は、専用フォルダ内に格納される。ちゃんと番組ごとに分けられており、そのままBDへの高速ダビングも可能だ。ということは、一般的な全録機のように長いファイルでループ録画しているわけではなく、番組1つ1つで切り分けながら録画しているようだ。

 なお、この1チャンネル全録で録画された番組は、HDDの残時間が少なくなるか、8日以上が経過すると自動的に消去されていく。自動で消去されたくない番組は、番組個別に「タイトル保護」を設定するか、緑ボタンの「録画リストに移す」を実行する。

表示がみっしりの再生機能

サムネイル再生も可能な録画リスト

 では再生系の機能を見てみよう。リモコンの「録画リスト」ボタンを押すと、3×6のサムネイルで録画番組一覧が表示される。見たい番組を選択すると、サムネイル状態で再生が始まり、音声も再生される。

 リモコンの緑ボタンを押すとグループ表示になる。ここでは予約、ジャンル、フォルダー、キーワードの4つのタブがあり、それぞれの機能によって番組が探せるようになっている。

「グループ表示」で番組の分類法を選ぶ
シンプルなキーワード検索機能

 ここのキーワード検索は、自動録画の時よりももっと簡易的な検索方法で、除外キーワードや放送波の選択などはなく、純粋にキーワードのみで番組を探す機能だ。こちらも6つまでプリセットが可能になっている。

リスト表示では番組の内容表示も

 番組の表示方法としては、リスト表示もある。ここでは録画順などでソートできるが、番組を選んでリモコンの「ポップアップメニュー」ボタンを押すと、フィルムロール型の表示で番組の内容を俯瞰することができる。表示間隔は5分ごとか、2分30秒ごとに切り換え可能だ。

 このフィルムロール表示は録画番組の再生中にも使えるので、視聴時に見たいシーンに一気にジャンプしたい時には便利だろう。もちろんCM検出によるオートチャプター機能もあるので、スキップボタンでCM飛ばしも可能だ。

 画質モードとしては、DRモードのほか、2倍、3倍、5倍、7倍、10倍、12倍のH.264記録ができる。さらに10段階のマニュアル設定も可能だ。3倍モードぐらいまでは、ほぼ圧縮の影響は感じられないが、5倍はインターレースに起因するノイズが目立つ。7倍から10倍にかけては解像感が落ちるが、目立つノイズがないので、離れた場所からの視聴ならリーズナブルだろう。12倍はかなりブロックノイズもあるので、よほどの事情がないかぎり使うメリットはあまりない。

 次にネットワーク系の機能を見てみよう。Androidアプリの「AQUOSリモート予約」を使うと、外出時に番組検索や予約が可能になる。ただこのアプリはタブレットには対応していないようで、あいにくテストできる端末がなかった。

 別のアプリ、「レコーダーIPコントロール」は対応機器が広く、タブレットでも動作した。これはホームネットワーク内で、スマホやタブレットをリモコン代わりに使うアプリだ。

 同様の取り組みは他社でも行なわれているが、このアプリでは音声操作を大きくフィーチャーしている。音声認識自体はGoogleのエンジンを使うようだ。

タブレットなどからレコーダを制御する「レコーダーIPコントロール」アプリ
Google音声認識を使って音声コマンドを送る
認識できる音声コマンド

 音声で操作できる項目は限られているが、検索キーワードはフリーワードで認識できる。例えば録画番組からキーワード検索をして再生するといった事まで、音声コマンドだけで操作できる。これは単に無精な人向けというだけでなく、障害のある人やお年寄りにも便利な機能だ。

 一方番組表の表示や、キーワード検索まで可能だが、見つかった番組を録画予約するアクションが音声ではできない。「録画予約」などと音声入力すると、キーワードとして「録画予約」を探しに行ってしまう。あともう少しのところで、音声コマンドだけで完結できるのに、どうしてそこの一線を超えないのか謎である。現状は、リモコンでキーワード入力するのがめんどくさいという人向けというところに留まっている。

 そのほか、録画番組をフルHD解像度で持ち出せる「Wi-Fiダビング」機能も搭載しているが、これは特定の、具体的にはAQUOS PHONEしか対応していない(対応機種はシャープのページで案内されている)。ホームネットワーク機能としては、DLNAにも対応しているので、Nexus 7にてTwonky Beamを使った再生も可能だった。端末へのダウンロードもできるので、Wi-Fiダビング対応端末が無いからとガッカリすることもなさそうだ。

総論

 「目の付けどころがシャープでしょ。」のスローガンは1990年から2009年まで使用され、我々の心に強い印象を残したが、2010年からは「目指してる、未来がちがう。」のスローガンに変わった。相変わらず他社とは違うことをやるという方向性を示すスローガンとなっている。

 レコーダもそのスローガンに違わず、一応トレンドは押さえつつも、かなり方向性の違ったものになっている。SHDDやWi-Fiダビングなど、自社製品への囲い込み部分は多いが、逆に言えばIT機器に詳しくない人をターゲットにしている部分も多く見られる。

 昨今のレコーダとしては、UIに洗練されていない部分も多く、ゴチャゴチャした感じは否めない。機能は豊富なのだが見せ方が今ひとつで、目の肥えたAV機器ファンからみれば、「未だこれか……」的な感じもあるだろう。だが、これまでの全録機とは違った方法で1チャンネル全録を実現するなどユニークな機能もあり、なかなか他にはないオンリーワンなレコーダとなっている。

 レコーダの世界ではパナソニックとソニーの製品が話題になる事が多いが、ちょっとひと味違うところで個性を発揮する本機は、なかなか渋い存在だと言えるだろう。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。