小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第604回:Webカメラとは違う“Wi-Fiカメラ”「ロジクール ブロードキャスター」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第604回:Webカメラとは違う“Wi-Fiカメラ”「ロジクール ブロードキャスター」
カメラとモバイルルータだけでUstream放送が
(2013/2/20 11:00)
一芸カメラの時代?
いわゆるWebカメラというやつも完全に日本で認知され、多くの人がニコ生やUstreamに参加してくるようになった。ビデオチャットがどれぐらい利用されているのかを示すデータはないが、ビジネスなどでは結構簡易的なテレビ会議として使われているという話も聞く。
Logicoolの「ロジクール ブロードキャスター Wi-Fi ウェブカム」(以下Broadcaster)は、これまでこういうカメラが欲しかったという人も多いのではないかと思われる製品だ。バッテリを内蔵し、ワイヤレスのWebカメラとして利用できる。さらには単体でのUstream中継機能も備える。価格はロジクールストア価格で19,800円となっているが、ネットの通販サイトでは16,000円程度で売っている店もあるようだ。
昨年にわかに巻き起こったアクションカムブームといい、どうも昨今はコンパクトでとんがった用途のムービーカメラというのが、一般向け製品として登場してきている印象だ。Webカメラ最大手のLogicoolが、パーソナルコミュニケーションではなく、Broadcastにフォーカスしたカメラを出してきたあたり、ネット動画の世界もいよいよ市場が変わってきたという事なのかもしれない。
Logicoolが考えるネット中継カメラとは、どういうものだろうか。早速試してみよう。
良く考えられた作り
まずカメラ本体だが、サイズ的には折り畳んだフィーチャーフォンぐらいのサイズ(48×117×28mm/幅×奥行き×高さ)で、重量は96gと拍子抜けするほど軽量。先端にカメラ、マイク、LEDライトがある。
レンズは画角69度と、Webカメラとしては標準的だ。Webカメラは1m程度離した位置から撮影し、丁度上半身が入るぐらいの画角に調整されているが、今回のカメラはワイヤレスで自由なポジションに置けるのがポイントだ。これまでのWebカメラとは違う使い方を想定しているのであれば、もう少しワイドでも良かったのではないかと思う。
フォーカスはパンフォーカスで、AF機能はない。またマクロモードなどもなく、近接撮影ではフォーカスが合わない。センサーは210万画素で、フルHDクラスの画素数を持つが、撮影解像度としては最高1,280×720の、いわゆる720pサイズとなる。
上部の大きな丸い部分は全体が大きなスイッチになっており、録画開始や配信開始といった操作ができる。ボタンの中にアイコンが書いてあるが、中央の丸いポッチが点灯しているときは録画、その上の雲のマークが点灯しているときはUstreamによる中継モードであることを表わす。モードの切り換えは横のMODEボタンだ。天面にはバッテリ残量と無線LAN強度のインジケーターがある。
後ろには充電用USBコネクタと電源ボタン、外部マイク入力がある。側面は滑りにくいラバーコーティングが施されており、手持ちで撮影するときにも滑りにくくなっている。
底部には特徴的な球体の突起がある。これは付属の収納ケースの蓋部分と組み合わせて、スタンドにするための仕掛けだ。蓋の上部にこれを受けるくぼみが付けられており、磁石でくっつくようになっている。球面でくっついているため、角度調整が自由にできるところがポイントだ。
収納ケースそのものも、高さを付けるための台になる。また完全な円柱ではなく、D字型にカットしてあるので、倒しても安定する。真上、真下といったアングルにも設置可能だ。蓋の裏側にはネジが切ってあり、これを三脚で固定することもできる。
同梱品としては、170cmぐらいある長めのUSBケーブルと、電源アダプタが付属するが、これは収納ケースには入らない。あくまでもカメラ保護のためのケースと考えるべきなのだろう。
工夫されたセットアップ
同梱のマニュアルには詳しい話は何一つ書いてないので、無線LANの接続などどうするのかと思ったのだが、公式サイトからiPhone用かMac OS用のアプリをダウンロードしてインストールしないと何も使えないと言っていい。Android、PC用ソフトウェアはないので、今のところApple製品専用機になっている。ここではiPhone用アプリでの初期設定を見てみよう。
アプリを立ち上げると、初期設定としてカメラの設定ウィザードが立ち上がる。基本的にはこれの手順通りに進めていくだけだ。カメラの電源を入れると、無線LANを探しに行くシーケンスが自動的に始まる。この間に設定を済ませるという段取りだ。
まずカメラに固有の名前を付ける。これは複数の同モデルを使い分けるときに必要になる。続いて接続したいネットワークにまずiPhoneで接続しておいて、ウィザード上でネットワークのパスワードを入力する。そうすると次のステップで、カメラ名及びネットワークのID、パスワード情報から、QRコードが生成される。これをカメラで撮影し、読み込ませて設定値を流し込むという段取りだ。
PCにしか繋がらないカメラならば、USBで繋いで設定を流し込むスタイルになるのだろうが、iPhoneしかない状況でセットアップすることを考えると、なかなか合理的な仕掛けだ。
カメラ設定が終われば、あとは無線LAN経由でカメラとは繋がってる状態になるので、それ以降の設定はiPhoneのアプリで行なうだけで、特に流し込む作業は必要なくなる。
放送するUstreamのアカウントとの紐付けは、iPhoneの他のアプリと特に変わっている部分はない。チャンネルが複数ある場合は、どのチャンネルに放送するかも設定できる。
そのほかアンチフリッカーの周波数や、複数の無線LANをセットした場合の優先度などが決められる。またSNSとも紐付けしておくと、放送を始める時にメッセージを流す事ができる。
簡単操作で安定動作
ではさっそく撮影してみよう。本機では、Ustreamへの配信と、iPhoneやMacへの録画の2つの利用方法がある。まずは録画のほうから試してみよう。
本機はバッテリを搭載して、約2時間の撮影が可能だが、本体内にストレージを何も持っていないため、録画を行なうにはiPhoneかMacが必要だ。iPhoneへの録画は、iPhoneとカメラの両方が同じ無線LANに接続している必要がある。
iPhoneアプリとカメラが接続されると、ホームメニューのボタンがすべて緑色に点灯する。「iPhoneへ録画」をタップすると、録画画面に移行する。
モニター画面を見ながら画角を決め、アプリ内のRECボタンを押すか、本体天面の大きな丸ボタンを押すと、録画が開始される。
画面をタップすると、3つのアイコンが出てくる。左から露出のマニュアル設定、音量のマニュアル設定、デジタルズームの設定だ。
デジタルズームは3倍まで可能で、ズームしている間はある程度ズーム位置を変更する事ができる。このあたりはLogicoolのWebカメラユーザーにはお馴染みの機能だ。
録画ファイルはMOVで、解像度は720p、480p、360pの3つから選択する。
モード | 解像度 | フレームレート | ビットレート | サンプル |
720p | 1,280×720 | 23.97 | 約2Mbps | 720.mov (9MB) |
480p | 864×480 | 23.97 | 約2Mbps | 480.mov (2.13MB) |
360p | 640×360 | 23.32 | 約2Mbps | 360.mov (1.84MB) |
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
解像度が変わるとビットレートも変わるのが普通のカメラだが、上限が無線LANの転送レートであるためか、どのモードもだいたい2Mbps強のビットレートでほぼ同じだ。フレームレートも360p以外は23.97と、NTSC圏のドロップフレームを意識したのかと思ったら、その時の通信速度などのコンディションによって微妙に変わるようだ。
画質面としては、CMOS特有のローリングシャッター歪みは結構目立つ。手ぶれ補正などもないので、歩きながらの撮影はなかなかキビシイものがある。まあ固定する台まで一生懸命付けてるわけだから、それをわざわざ歩いて撮るなよということなのかもしれない。
アプリでは、録画したファイルの再生もできるほか、長いクリップからの切り出しという形での簡易編集機能を持っている。ただ切り出し後のクリップは、720pで撮影していても360pに変換されてしまう。
iPhoneにはiMovieなど良い動画編集ソフトもあるのだが、あいにく録画したファイルはこのアプリ内のデータとして保存されており、カメラロールに登録されてこないので、iMovieで編集することができない。これは残念なところだ。
Mac用のアプリを使うと、録画モードではMac標準のiSightと本機の2画面モードでの撮影が可能になる。録画すると、それぞれのカメラごとのファイルができるので、2カメ撮影が簡単にできるわけだ。あとで編集すると、1テイクでカッコイイコンテンツができる。
次にUstream放送も試してみよう。iPhoneアプリで「Ustreamへの放送」をタップすると、放送用画面に切り替わる。設定としては帯域幅に合わせた解像度、Ustreamへの録画、統計値がある。こちらの解像度は帯域によって選択するようになっているが、放送中に切り換えることができないため、余裕を持って選ぶ方がいいだろう。
Ustreamへの録画は、Ustreamのサーバ側でアーカイブするかどうかの設定だが、これがアプリを立ち上げ直すと、必ずオフに設定されている。これは仕様としては致命的だ。
というのも、アーカイブを残すために放送する人にとっては、前もって設定したはずなのに録れてないという事態になり得る。これは悲惨だ。何かの配慮としてデフォルトでオフになるようにしてあるのかもしれないが、ユーザーが事前に設定した値を勝手に変更し、アラートも出さないというのは、一発勝負の放送のためのツールとしてはマズイだろう。
統計値は、放送中のフレームレートやビットレートなどを画面内に表示してくれる機能だ。iPhoneの配信画面ではルータの電波キャッチ状況が見えないので、移動しながらの放送では、この値は参考になる。
せっかく移動しながら生放送できるということなので、撮影の帰りに車の中から放送してみた。中帯域(360p)での放送であれば、それほどクオリティも落ちずに放送できるようだ。配信ページはこちら。
ただしマイクの性能はあまり指向性がないため、しゃべりの声があまり聞こえない。こういう用途であれば、別途チャット向けなどのピンマイクを付けた方がいいだろう。
総論
自分撮りではない中継系のUstream放送をやっていると、Webカメラというのは意外に不便なものだ。カメラからのケーブルの長さが決まっていて延長するのもなかなか面倒だし、三脚穴もないので固定方法も限られる。いつかカメラもワイヤレスになるのだろうなぁと思っていたが、案外早くやってきた感じだ。
ミニマムなシステムとしては、設定が終わっていればカメラ本体とモバイルルータだけで、簡単にUstream放送ができる。iPhoneがあれば、モニターしながらの放送も可能だ。
単に放送するだけなら、iPhone本体でやるほうが簡単かもしれないが、固定のためにはそれなりの治具が必要だ。またアングルによっては、モニターできないということもありうる。この点ではモニターと独立しており、しかも自立できるカメラが1台あるというのは、放送のバリエーションが大きく拡がる。
現状は、1台で使うことが前提になっている点は、注意が必要だろう。一応Macでは専用アプリを使うことで2カメ収録ができるが、片方がiSightなので、映像クオリティに違いがでる。SkypeでもiSightと本機の映像切り換えができるが、内部で同期を取るわけではないので、切り換え時には一瞬ブラックが挿入される。
まあチャット程度であればそれでも十分なのだが、放送に出すとなるとこれでは済まされないだろう。今回は1台しかお借りしていないので、マルチカメラ環境にしたときにどのような動作ができるのか確認出来なかったが、Ustream Producerでマルチカメラ放送ができるのであれば、結構面白いことができるはずだ。
マイクの性能がイマイチなのが残念だが、外部マイク入力を付けたのはなかなかいい判断である。
呑み会を遊びでちょろっと放送するだけなら別だが、もう少しイイ感じで放送したいというなら、一台バッグに忍ばせておきたいアイテムである。
ロジクール ブロードキャスター Wi-Fi ウェブカム |
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