小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第649回:音質重視のハンディビデオカメラ、ZOOM「Q4」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第649回:音質重視のハンディビデオカメラ、ZOOM「Q4」
演奏だけじゃない。いろいろ使える多機能カメラ
(2014/1/29 10:30)
変わる「ビデオ」の使い方
日本ではまだ入学とか卒業、あるいは運動会などの記録ニーズがあるので、ビデオカメラの市場がかろうじて存在する。一方、子供の成長記録を残すという概念があまり一般的でない米国や日本の未婚男女からすれば、ビデオカメラなどはそもそも必要がないものである。
では“動画を記録しないか”というとそんなことはなく、スマホではVineやSnapchatといったアプリで遊んでいたり、GoProで遊んだりしているわけで、これはもう「動画を使う」という新しい市場だと考えられる。
いわゆる低価格MP4カメラは、2002年頃から台湾製のものが大量に出回ったが、2007年の「Flip Video」が低価格かつYouTubeへのアップロード機能を付けたことで、米国では大ヒットとなった。この後追いで各メーカーから山のようにMP4カメラが出たが、Flip VideoがCISCOに買収されたあたりでパタリとブームが終焉した。GoProが台頭してきたのは、その後の話である。
もちろん、GoProのフォロワーとして沢山のアクションカムが登場しているが、現時点までGoProを超える製品はない。いや、カメラの性能という意味では超えるものがないとは言わないが、市場シェアではGoProを超えられないでいる。
そんな中、低価格なMP4カメラの発展形として、“高音質”を売りにするカメラが人気を集めつつある。これはソニーの「HDR-MV1が発端だろうと思われるが、ハイエンドのPCMレコーダや録画も可能な録音製品を数多く手がけているZOOMからも、高音質な録音ができるMP4カメラ「Q4」が登場した。昨年12月中旬から発売されており、価格は34,125円だ。
なお、先のCESでは、キヤノンも自分撮り用カムコーダ「iVIS mini」をリニューアルして、オーディオを強化したモデルを出展していた。ハイレゾ/ハイスペックで製品をまとめてくるのが日本メーカーお得意のパターンだが、ソニーとしても、この方向性を一人旅で進んでも拡がらないので、こうした対抗製品が出てくるのは歓迎のはずだ。オーディオの強化は一つの方向性を作りつつあるように見える。
HDR-MV1が気になって仕方がないという人も多いだろうが、同価格帯の対抗製品として注目のQ4は、一体どういう製品なのだろうか。さっそく試してみよう。
いろいろユニーク
HDR-MV1もルックス的にはユニークなカメラだったが、Q4も相当にユニークだ。サイズ感としてはMV1と似たり寄ったりではあるが、マイクが後方から垂直に立ちあがる。持ち歩き時は邪魔なので本体に収納しておき、必要な時だけ立ち上げるというスタイルだ。
さらに面白いのは、液晶モニタが着脱式になっているところだ。液晶モニタは一般的なビデオカメラと同様、横に拡げて回転する方式だが、このような構造は激しい動きの時に、逆向きに負荷がかかるとヒンジが折れる恐れがある。だからモニタが不要な時は外してしまえ、というわけである。
では順にスペックを見ていこう。レンズは55cm~無限遠の固定焦点で、画角は35mm換算で約22mm。角度で言えば画角130度だ。もちろん普通のビデオカメラから考えたらかなり広角ではあるのだが、アクションカム系では画角が170度ぐらいあるものが主流なので、そうしたモデルと比べると狭めだ。なお、ライバルの「MV1」は120度。レンズ部の4隅がネジ留めしてあるあたり、若干洗練されてない印象も受ける。
撮像素子は1/3インチ 3MピクセルのCMOSで、動画解像度は1080p、720p、WVGAをサポートする。ただし60pで撮影できるのは720とWVGAのみで、1080は30p止まりである。また静止画撮影機能はない。動画フォーマットはMPEG-4 AVC/H.264のMOV形式。
ホワイトバランスはオートのみだが、ビデオゲインに関してはオートのほかコンサート、ナイトモードがある。
注目のオーディオは、最高96kHz/24bitのWAVで記録可能。WAV以外にAACもサポートしている。
フォーマット | サンプリング周波数 | 量子化ビット数 | ビットレート |
WAV | 44.1/48/96kHz | 16/24bit | - |
AAC | 48kHz | - | 64/128/192/256/320kbps |
マイクは単一指向性が2つで、120度のXYステレオ方式で配置されている。角度的にはかなりの広範囲を拾う事になる。入力ゲインは3段階で調整可能。フォーマット以外のオーディオ設定は、メニューではなくすべて横のスイッチ類で設定する。視覚的にすぐ確認できるあたりのこだわりは、音声レコーダっぽいところがある。
着脱式の液晶モニタは2型で、上、右から見たときには反転現象が起こるが、左、下方向ではあまり白浮きもない。解像度はそれほど高くないが、ズームもなければフォーカスもないので、基本的には画角を確認するだけである。液晶の下には4つの操作ボタンがあり、メニュー操作に対応する。
背面にはHDMIマイクロ端子と、USBミニ端子がある。USBはバッテリ充電に使用するほか、PCに繋いてUSBカメラになったり、USBマイクとしても使用できる。なおその場合は、公式サイトからドライバをダウンロードしてインストールする必要がある。Windows XP/Vista/7/8(XPは32bitのみ)、Mac OSにも対応する。
ヘッドホン、外部マイク端子も備えている。バッテリとSDカードは底部から挿入する。また背面下部には、アクセサリーマウントが付けられている。これはGoProマウントのアクセサリなどを取り付けるためのようだ。
底部には三脚ネジがある。またマイク用のウインドスクリーンも付属しており、それを三脚穴に固定するためのネジも付属している。三脚を使う時は、このネジの代わりに三脚のマウントシューを取り付けることになる。
優秀なウインドスクリーン
ではさっそく撮影してみよう。今回は屋外の自然音と朗読、ピアノ演奏などを収録してみた。映像は720/60p、音声は96kHz/24bitで収録しているが、96kHz/24bit音声が再生できるユーザーはまだ多くないと思われるので、編集サンプルはAAC 384kbpsにコンバートしている。
電源は、電源ボタンを長押しでON/OFFのため、少し押されたぐらいでは反応しない。スタンバイ状態では録画ボタンの真ん中にあるランプが緑色に点灯しており、音の入力があると反応して細かく点滅する。録画を開始すると、赤く点灯する。
同様のインジケータは、カメラ右手にもInput Levelがある。こちらはピークインジケータも兼ねており、過大入力の時は赤色に点灯する。液晶モニターを付けていればレベルメーターが表示されるが、取り外したときにもレベルがわかるようにという配慮だろう。
まず自然音の集音だが、Lo CutはON、音声ゲインはマニュアル「H」に設定した。マイク角度が120度もあるため、かなり広範囲の音を拾う。恐らく270度ぐらいが集音範囲ではないかと思われる。ステレオ感は強いが、前方に集中した集音は難しい。
撮影当日はそれなりに風のある日だったが、これだけ木々がざわざわしていても、マイクそのものはまったくと言っていいほどフカレていない。これは付属のウインドスクリーンが優秀だからだろう。MV1にはウインドスクリーンが装着できない事が難点であったため、屋外収録を考えている人はQ4のほうが向いている。またマイクのガードも、MV1みたいに前に付けず後ろのみとしたのも良かったのかもしれない。
サンプルの3番目のカットでは、カメラの背後を右手から人が歩いてくるが、かなり後ろの音まで拾うことがわかる。また真後ろだけはほとんど集音されない事もわかる。真後ろを過ぎて左側になると、右側よりも少し音がOFFになっている。これは筆者がその位置に立っていて、さらにその後ろを通っているからだ。おそらくほとんど利用シーンは自分撮りに近い使い方だろうと思うが、もし撮影者がいる場合は、真後ろに立てば呼吸音などは拾わないだろう。
映像のビットレートは実測で10Mbps。カメラが固定なのでエンコードの荒れはあまり感じないが、色味は若干大人しく、解像感は高くない。レンズの湾曲も感じるが、まあこの画角なら妥当な範疇である。
続いて室内で朗読を収録してみた。題材は著作権が消失した岡本綺堂の「半七捕物帳 石灯籠」である。ゲインはマニュアル「H」で、ローカットフィルタを入れている。
全体的に明瞭感が高いが、朗読には多少音が硬いように思う。細かい音までよく録音するので、リップノイズもそれなりに多く拾っている。ベテランのナレーターならこういうことはないのだろうが、アマチュアの朗読ではこの明瞭感が徒となるかもしれない。
本機にはマイクゲインが3段階しかないので迷うことはないのだが、S/Nを考えてレベルをギリギリまで追い込みたいという人には不満もあるかもしれない。今回は収録しながらヘッドホンでモニターしたが、モニター音は1フレームほど遅れるようだ。MV1には入力スルーに変更するモードがあったが、これがないとセルフ収録のモニタリングはちょっと気持ち悪い。
続いていつものピアノ演奏を収録してみた。これはゲインはマニュアル「M」、ローカットはOFFである。これも傾向としてははっきりした明るい音質だが、若干硬質な感じはする。タッチノイズが割と目立つが、それも集音性能の良さと硬質なトーンによるものだろう。
ステレオ感はかなりあり、音楽の収録には向いている。ただ特性として周囲の音をかなり拾うので、かなり音圧のある音楽のほうが、結果としては満足度が高いだろう。
使い出のあるUSBまわり
本機のUSB端子は通常充電に使用するが、電源が入った状態でPCに繋ぐと、USBカードリーダー、Webカメラ、USBマイクのいずれかの用途で動作可能なのは面白い。
チャットやネット放送などに使用するWebカメラとしては、普通の三脚が使えるため、固定しやすい。多くのチャット用USBカメラには、普通の三脚穴がなく、モニターに引っ掛けるだけの構造のものが多い。チャットではそれでもいいだろうが、放送となるとカメラを振ったりするので、三脚が使えるカメラのほうが便利だ。テスト環境ではUstream Producerでは普通にWebカメラとして利用できたが、なぜかSkypeではカメラが認識されなかった。
USBマイクとして機能するのもなかなかユニークだ。例えばナレーションだけ録りたいといった場合、本体だけでは映像も入ってしまうので、音声だけWAVファイルで取り出したいならそれなりの手間がかかる。最初からPC側で録音すれば、音声ファイルだけを簡単に得ることができる。
さて、そのハイレゾのWAV音声が加えられたMP4ファイルだが、現在ハイレゾのオーディオソースが扱えるノンリニア編集ソフトは徐々に増えているとは言え、まだ見る/聴く側がそれに対応できていないという現状がある。ハイレゾ対応のポータブル音楽プレーヤーは増えてきたが、映像ごと再生できるものは多分ないだろう。PCと接続できるUSB DACやAVアンプなどがあればいいが、ハイレゾの音楽再生に興味がある人でなければ所持していないのが現状だ。
人に見せる必要がないのであれば構わないのだが、ビデオの用途としてはやはりネットを通じて人に見せるというのが中心になるだろう。しかし動画共有サイトで、ハイレゾソースをそのまま流すようなサービスはない。
従ってQ4を使って24bit/96KHzで映像と一緒に録る意義とは、将来どうにでもできるようにオーディオマスターとしてハイレゾで録っておく、という事だろう。ただ無理にハイレゾで録らなくても、ウインドスクリーンも含めマイク周りの素性はいいので、その点だけでもアドバンテージがある。
総論
ソニーMV1に続く、オーディオに特化したMP4カメラとしてQ4は注目を集めている。GoProには、ちゃんとしたいい音が録れないという弱点がある。日本のメーカーはそこを突いてきたわけだが、その結果としてGoProとは違う“音楽撮り”という独自の市場を形成しつつある。
Q4は、モニタを付ければ普通のビデオカメラライクに使えるところもポイントだ。ただ、モニタを外しただけで防水・防滴になるわけでもないので、専用ハウジングが出るなどしない限り、アクションカム的な使い方をするのは難しいだろう。ZOOMによれば、別売オプションとして、ギターヘッド・マウント、マイクスタンド・マウント、ウォーター・レジスタンス・ジャケットなどが順次発売予定だそうだ。
Wi-Fiも搭載してないので、モニタを外してしまうと本当に画角がわからない。まあ、別にいいといえばいいのだが、アクションカムほどレンズが広角でもないので、一応モニタでチェックしたい気がする。防水ジャケットが出たとしても、それに入れるとモニタが装着できないというジレンマが発生するかもしれない。
実はこの手の高音質カメラは、音楽演奏だけでなく、記者などの取材用として人気が高まっている。この点Q4は高音質マイクを搭載しながら、折り畳んで収納できるので、可搬性に優れている。
またモニタユニットは、モニタを閉じても本体電源が切れたりしないし、録画が止まったりもしない。閉じればモニタはOFFになるので、最初だけ画角を確認して閉じておけばバッテリの節約にもなる。この点も他のカメラにはない強みであろう。なお、モニタを装着しない状態での連続撮影時間は約3時間、モニタを表示させた状態では約2時間15分だ。記録メディアもmicroSDではなく、通常サイズのSDカードが使える点でも、多少コスト的に有利と言えそうだ。
驚くような変わった機能が付いている、といったカメラではないが、音楽の演奏撮影にとどまらず、いろんな使い方ができるという点で、1台何役的に使えるモデルだ。映像中心のビデオカメラというより、ハンディレコーダの延長線上として“絵も撮れる“的なアプローチなので、ビデオカメラと比べると映像のクオリティにやや難があるところは飲み込んでおいた方がいいだろう。
ZOOM Q4 |
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