小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第648回:CES 2014ではツインレンズ/電動雲台がトレンド!?
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第648回:CES 2014ではツインレンズ/電動雲台がトレンド!?
“ハイレゾの無線伝送”で注目の「All Play」
(2014/1/15 10:30)
方向性が明確だった2014 CES
ワールドイベントとしての展示会は、これまで米国に集中していた感があるが、最近はスペインのWorld Mobile CongressやドイツのIFAといった、ヨーロッパの展示会に注目が移ってきたように思う。実験的であったり先鋭的であったり、種々雑多の変わったものを見つけるには、ヨーロッパのショーのほうが面白いという話も聞く。
一方で米国のCESは、一通り実用的なものが何でも見られる、総合カタログ的な要素が強いと言われている。さらに今年は、テレビメーカーがだいたい同じようなことをやってきているという現象が見られ、トレンドを把握するという意味では大変わかりやすいイベントになっていたように思う。
今回は期間中にお伝えできなかったトレンドや、技術動向についてまとめてみたい。
カメラはツインレンズがトレンド?
動画カメラとしての大きな流れは4Kだが、どうも“カメラを2つ積む”という方向性が出てきた。これはおそらく、FaceTimeのような動画通話において、お互いの顔がPinP(子画面表示)で見られるところから来た流れではないかと思われる。
パナソニックが展示していたのは、液晶モニタの外枠に回転可能なサブカメラをもう一つ搭載した「HC-W850」。メインの映像にPinPという格好で、もう一つのサブカメラの映像を乗せる事ができる。
メインは相手に、サブカメラは自分に向けると、対話状態を同時に撮影できる。2つとも相手に向けると、メインカメラはアップで、サブカメラは引きでと2サイズが同時に撮影できる。サブカメラがいらない場合は、液晶内側にしまい込むことで通常のメインカメラ映像となる。
PinPの位置は4箇所から選択できるほか、サイズも変えられる。ただしこのPinPの状態そのままで録画されるため、あとで2ストリームの映像に分けることはできない。
メインカメラは得意の3MOSではなく、動画有効画素数600万画素の裏面照射CMOSとなった。サブカメラは380万画素あるが、VGA解像度の出力に留まる。画像処理エンジンは「クリスタルエンジンPRO+」を搭載。
もう一つ隣で展示されていたのが、パンチルトクレードルの「VW-CTR1」。この上にビデオカメラをセットすることで、Wi-Fiを使ってスマートフォンからパン、チルトがコントロールできるほか、パーティなどを自動で旋回しながら顔を撮影したり、特定の物体を追尾して撮り続けるといったオートトラッキング機能を備えている。
この電動パンチルト雲台は、2009年にソニーがコンパクトデジカメ用に「Party-shot」(IPT-DS1)として製品化し、後継モデル(IPT-DS2)も出たが、その後が続かなかった。今年はこの電動雲台も一つのトレンドになりそうだ。
もう一つ、ツインレンズのカメラが登場した。キヤノンの「PowerShot N100」だ。「PowerShot N」が上下左右の区別のない四角いユニークなカメラとして昨年登場したのも記憶に新しいところだが、同じNシリーズとして実験的な意味合いが強いものかもしれない。
メインカメラは1,200万画素のCMOSを搭載し、画像処理エンジンはDIGIC 6。NFCも備えており、Android端末と簡単にペアリングできるという。
サブカメラは、一見するとビューファインダのように見えるが、背面液晶モニタの上に付けられている黒い部分だ。液晶と一緒に上下にチルトする。元々静止画用のカメラではあるが、動画でもPinP状態で撮影できる。
このように、両社打ち合わせしたわけでもないのに同じような製品を出してくることがある。2年前には各社とも一斉にカメラにWi-Fiを搭載し、一気にトレンド化した。
だが今回のツインレンズは、それほどトレンド化はしないのではないか。なにしろそうする必然性がないし、利便性が上がるというわけでもない。しかも1人で2つのカメラのアングルを面倒見るのは大変難しい。“誰かのカメラと2カメになる”というほうが、まだ必然性や利便性があるのではないだろうか。
スマホのような使いやすさに
ビデオカメラは、もはやコモディティ化し始めているというのは否定できない。ライトユーザーはもはやスマホで十分であり、市場がシュリンクし始めているのは米国とて同じである。その中でもGoProが70%ぐらいを占めており、ビデオカメラの役割をすっかり変えてしまった。
いわゆる従来型ビデオカメラは、もはや4Kに行くか、スマホのような使い勝手になるかを迫られていると言ってもいい。そんな中、JVCの新モデル「GZ-R70/R10B」の取り組みは興味深い。
普通のビデオカメラタイプながらXAシリーズ(ADIXXION)のようなクワッドプルーフ、すなわち防滴、防塵、耐衝撃、耐低温を実装した。特にユニークなのは、電源まわりだ。4時間半撮影できる大容量バッテリを内蔵してしまった。
多くのビデオカメラはバッテリが交換できるようになっているが、多くの人は取り外さず本体充電している。そもそも大容量バッテリを買えば、外して交換する必要はない。さらに外せるように作ってしまうと、クアッドプルーフの実現は難しくなる。だったら内蔵してしまえ、というわけである。
さらに充電は、スマートフォンと同じmicroUSB端子でできる。スマホ向けモバイルバッテリからの充電にも対応した。USB充電に対応したビデオカメラは、2年ほど前からソニーのハンディカムで採用しているが、あちらはUSBのA端子をカメラ側に付けて、PCのUSBポートに挿して充電する。それに対してJVCは、スマホと同じ条件で使えることを重視した。
R70とR10Bは、光学40倍コニカミノルタレンズ搭載で、250万画素の裏面照射CMOSを搭載する。違いは、R70がLEDライトと内蔵メモリ32GBを搭載する点で、それ以外は同スペックだ(GZ-R10はSDカードスロットのみ)。
また技術展示として、4Kのハンディタイプを公開した。筐体にGC-P100を使用し、4Kでもこれぐらいの筐体に収まるぐらいに小型化できたという。NRなどの絵作りはこれからということだったが、すでにカメラスルーの映像は出力できる状態で動作していた。ボディデザインなども含めこのまま製品化されるわけではないが、記録メディアは高速規格のSDカード1枚、HDMI 2.0対応を予定している。
現時点では4K/30pだが、60pまでやるかどうかはコストと市場ニーズのバランスで考えていくという。4K/60p対応の「GY-HMQ10」は同社画像処理エンジンFALCONBRIDを4基使っていたが、動作速度が上がってきたため、60pでも2基で行けそうなところまで来たという。
一方パナソニックも、ミラーレスの「DMC-GH3」をベースにした4K撮影可能なカメラのコンセプトモデルを発表した。ただ現状はスペックも形状も決まっておらず、この方向で4Kカメラやりますよ、というモックアップである。4Kカメラに関しては、各メーカーの一番得意とするタイプで4Kに進むという構図のため、もうビデオだ一眼だという区別は不毛なものとなりそうだ。
新しい再生環境を提供する「All Play」
映像技術の高度化に対して忘れられがちなオーディオだが、こちらの方も技術的な見所は多い。パナソニックのプレスカンファレンスでも紹介されたが、同社では米国で「Qualcomm All Play」対応のオーディオ製品3モデルを展示した。1モデルはまだモックアップということだったが、2モデルは実動機である。
Qualcomm All Playは、今年発表されたばかりの技術で、まだ詳しい解説はほとんど見かけない。これはWi-Fiを使ってオーディオを伝送する規格で、基本的にはホームネットワーク内で利用するものだ。前回の記事でもご紹介したが、これはあらゆる家電を通信で繋いでいくというAllSeen Allianceの取り組みの一つでもあり、いくつかの特徴を備えている。
1つは、1つのソースから複数台のオーディオ機器を同時に鳴らすことができる。各All Play対応スピーカーはWi-Fiルータに対して繋がるので、全部を鳴らすということが可能だ。
再生アプリとしては、現在同社が無料配布している「Panasonic Music Streaming」というアプリで対応する。これはソースをスマホだけでなくDLNA機器から選択し、スピーカーをBluetoothやDLNA、AirPlay、All Play対応機に飛ばすという、何でもできる再生ハブになる機能を持っている。これで、どのスピーカーでどのソースを鳴らすか、あるいは全部のスピーカーを鳴らすかといった操作を行なう。
2つ目の特徴は、ハイレゾソースが伝送できるという点だ。Wi-Fiではかなりの帯域が伝送できるので、24bit/192kHzといったハイレゾ音源も再生できる。All Play対応製品の一つ、「SC-ALL1C」は既存のオーディオセットをAll Play化するユニットだが、内部にバーブラウンのDACを装備してハイレゾ音源に対応している。オーディオ機器にハイレゾソースをケーブルで伝送する時代は過去のものになるかもしれない。
3つ目の特徴は、音楽のサブスクリプションサービスと提携して、サービスからAll Play機器へ直接ストリーミング再生できる点だ。通常、音楽のサブスクリプションサービスは、ネットを通じてスマホなどアプリで一旦ストリームを受信し、それをイヤホンや外部スピーカーなどの機器に出力し、音が鳴る。
だがAll Playと提携したサービスでは、アプリで音楽を選んで再生すると、ストリームはスマホにではなく、All Playスピーカーに対して直接流れていく。スマホは単なるコントローラになるだけなので、音楽を聴きながら別の操作をしたり、動画を見ても音楽が中断することがなくなる。
現在All Play対応のサブスクリプションサービスは、Rhapsody、TuneIn、Napsterなどがあり、他にもQualcommが鋭意交渉にあたっているという。製品紹介のパネルにはうっかりSpotify、Pandraの名前も書かれており、おそらくこれら大手も間もなく交渉成立かと思わせる。
実はこの手のワイヤレスマルチルームスピーカーのソリューションは、すでに米国ではSONOSというメーカーがほぼ独占状態にある。こちらは独自規格だが、BOSEやSamsungも対応機器をリリースしている。すでにSpotify、Pandraとも提携済みで、その点でもAll Playは後発となる。
パナソニックのAll Play対応製品は、日本での展開は未定だという。日本ではまだBluetoothスピーカーの需要が高いので、様子を見たいという事だろうが、ハイレゾがそこそこ盛り上がってきているので、マルチルームというよりそこをキーに入り込めるのではないかという気がする。
高度化するオーディオ解析技術
Qualcommのブースでは、音声を使った手書き認証技術も展示されていた。これはタブレットに5個のマイクを実装、ペンから高周波を出す事でその位置情報を正確に掴み、いわゆるタッチペンと同じ働きをさせるというもの。さらには、横に置いた紙の上に書いたものも、画面上で書くのと同じように認識する。
従来、紙に書いたものを電子化するためには、アノトペンなどのデジタルペンが必要であったが、この技術は音声だけで位置情報を取得するので、紙はまったく普通のものでいい。また液晶画面はタッチパネルではないので、画面に指を置いてペンで書いても、指に対しては反応しないという特徴がある。
さらにこれまでは、タッチペンを実装するためには液晶画面上にタッチパネルモジュールが必要になり、重量やコストアップの原因となっていたが、音声による位置測定であれば、低コストに実現できるという。実際小型マイクカプセルなど、いくらもしないデバイスである。プロトタイプのタブレットでは5つのマイクを使っているが、最低4つあれば位置認識はできるという。
要するにこれは、QualcommのSnapdragon 800ならこれぐらい高速に音声プロセッシング処理できるというデモンストレーションなのだが、かなり実用性の高い技術ではないだろうか。
総論
昨年のハイライトは4Kテレビであったように思うが、今年のCESはもはや4Kは当然存在するもので、もはや技術ターゲットはそこではないように思える。むしろスマートフォン、タブレットがライフスタイルの中心に存在することが避けられない社会の中で、既存の機器がどのようにネットを介し、それと連動していくか、それができなければ市場から消えるしかないという、勝ち抜き戦が展開され始めた。
そこが技術の中心となると、どうしても各メーカーともやってることが似てくるわけだが、一方で同じようなことをやっているが故に、その勝ち負けも来場者の数で見えてくるというシビアな現実が見えた。
トレンドを追いかけて走りながら開発するタイプのメーカーは、どうしてもアイデア一発勝負になってしまい、「それいる?」という商品になってしまう。以前はそれで勝てていたのだが、今は専門の研究機関で長年コツコツと積み上げてきた技術が花開く時代になっている。プロセッサパワーが、イマジネーションの実現に追いついた時代とも言える。
業界地図は、昨年、今年、来年にかけて、大きく書き変わりつつある。