小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第756回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

もっと“何もしなくていい全録”。7TB HDD+10chのパナ最上位「BRX7020」

全録はもったいない!?

 全録のレコーダは、“全部見られないのに全部録るのがもったいない”、という意見があるそうだ。

DMR-BRX7020

 テープ時代ならいざ知らず、何度でも繰り返し使えるHDDにもったいないもなにもないわけだが、消費電力という意味では無駄に思えるかもしれない。そういう場合はソーラーパネルを使った自家発電とかも一緒に営業すればいいのにと思うのだが、それはまあ大きなお世話というやつだろう。

 戯言はさておき、AV機器に詳しい人にとっては、もはやテレビ録画するのに全録レコーダの利便性をよくご理解いただけているものと思う。最近はラインナップも増え、チャンネル数、容量、価格など、ユーザーの都合に合わせて選べるような状況になってきた。

 そんな全録レコーダのリーディングカンパニー、パナソニックの全録フラッグシップ機が今回ご紹介する「DMR-BRX7020」だ。最大10チャンネル録画に7TB HDDと、文句なしのハイスペックモデルである。5月20日発売で、店頭予想価格は22万円前後。通販サイトでも20万円強といったところである。同時発売の兄弟機としては、6ch+4TBのBRX4020、6ch+2TBのBRX2020がある。

 そろそろUltra HD Blu-rayの足音も聞こえてきそうなところではあるが、各メーカーとも夏商戦へ向けて、レコーダのリニューアル時期に入ってきている。パナソニックのフラッグシップを早速見てみよう。

昨年のモデルがベースのデザイン

 まずデザインだが、昨今のレコーダはあまり奇抜なルックスは好まれず、どれもだいたい同じような感じになってきた。テレビに合わせてミニマルデザインの方が、収まりがいいのだろう。

 基本的なイメージは昨年のモデル「DMR-BRX6000」とよく似ているが、天面の電源及びイジェクトボタンが、物理スイッチではなくタッチ式となった。完全フルフラットなので、掃除は楽だ。前面はハーフミラー、天面は光沢のあるアクリル張りで、周囲に溶け込むデザインとなっている。

今回もハーフミラーを効果的に使ったデザイン
天板は光沢のあるアクリル張り
電源とイジェクトボタンはタッチ式となった

 電源OFF時には、フロントパネル越しに時報が表示される。当たり前のように思われるかもしれないが、前モデルは表示菅そのものがなく、ステータスをLEDで表すだけだった。ところが案外レコーダの時計を当てにしている人が多かったようで、今回復活となったそうだ。確かにタイムシフトでテレビを見ていると時間がわからなくなってしまうので、ニーズとしては正しいのだろう。

中央部にはステータスディスプレイが復活

 フロントパネルを開けると、左側にBlu-rayドライブ、USB端子、SDカードスロットがある。右側にはフルサイズのB-CASカードスロットが2つある。上がチャンネル録画用、下が視聴・通常録画用だ。

左手にドライブや端子類
B-CASカードは二段

 チャンネル録画は、標準では8ch。設定で拡張するとあと2ch録れるようになる。HDDは7TBで、設定メニューから推測すると、チャンネル録画用に4TB、通常録画用に3TBを内蔵しているようだ。

 背面に回ってみよう。端子の位置などは前モデルのDMR-BRX6000と同じだ。拡張用のHDDは、通常録画用とチャンネル録画用で端子が分かれている。これは同時発売の3モデル中、本機だけだ。

背面端子は前作と同じ
ファンは大型だが、動作音はかなり静か

 また光デジタル音声出力も搭載しているのは、本機と一つ下のBRX4020のみとなる。HDDに保存した音楽ファイルの再生ができるほか、ハイレゾ音楽サーバとしての機能もある。ネットワークプレーヤーなどにFLACやDSDファイルをDLNA配信するものだ。

 リモコンも前モデルとほぼ同じだが、機能にアクセスするための入り口である「スタート」ボタンがなくなり、「機能一覧」という地味な名前に変わった。現在多くのレコーダは、スタートやホームといった画面を重視するUIとなっている。まずそこに行って、やりたいことを選ぶという操作体系だ。

リモコンは若干ボタンの名称が変わった
「再生メニュー」でポイント操作が必要になるので、トリガーボタンがある

 本機も「機能一覧」ボタンを押せばスタートメニューが出てくるので、同じ操作体系にはできる。だがそれを奥に引っ込めることで、新着番組やチャンネル録画一覧といった各機能に、ダイレクトにアクセスさせるように変わってきたようだ。

かなりリニューアルされた中身

 では中身の方の進化点をチェックしていこう。一般的なレコーダと違い、全録機は最初の設定が重要だ。どのチャンネルを何時から何時まで、どのぐらいの画質で録画するかで、何日間番組が保存できるかが決まる。逆にそれ以降は設定を触ることはなく、動かしっぱなしになる。

 DIGAの全録機では、これまで初期設定が16ステップあった。チャンネルの設定を始め、BSの受信方法や録画チャンネルの設定、スマホ視聴設定、ディモーラ・ミモーラの設定など、あらゆるものが初期設定の中にあった。

 一方今年のシリーズでは、これを大胆に3ステップまでに短縮した。郵便番号、録画チャンネル設定、ネットワーク設定だけで、チャンネル録画がスタートする。

郵便番号を入力することで、チャンネル設定が始まる
入力すると、チャンネルスキャンが始まる
チャンネル録画設定は、録画したいチャンネルの割り振りを行う
続いて録画画質を選択

 3ステップとは言いつつ、1つのステップにそこそこの手順があるが、追加の設定は後からやればいい。難しい設定なしに、すぐにチャンネル録画がバリバリ動き出すのがポイントだ。なお、2007年以降に製造されたVIERAがあり、すでに郵便番号とチャンネル設定が済んでいれば、VIERAとHDMIで接続することでその情報が伝送され、1ステップで設定が完了する。テレビ関連機器を購入するたびに同じような設定をさせられるわけだが、このような情報の共有化は歓迎すべきであろう。

 ここから数日間、チャンネル録画を行なったのちにテストを再開した。電源を入れて最初に起動するのは、「新着番組」画面だ。リモコンも十字キーの真上という一等地にあるボタンだが、以前とは作りが変わっている。

最初に表示される「新着番組」が大幅にリニューアル

 以前はジャンルが表示され、その中に入っていかないとどんな番組が録画されたかがわからなかったが、今回のUIではジャンルごとに表組みになっており、録画番組が広く一覧できる。番組を選ぶとサムネイルも番組内容に変わるなど、より中身が把握しやすくなっている。よく見る番組は優先的に表示されるようになっており、普段はほとんどこの画面だけで完結するのではないだろうか。

 しばらく使っていると、録画設定を見直したくなるはずだ。8チャンネルを24時間、5倍録画モードで録画すると、内臓HDDに保存できる期間は9日間となる。1週間以内に必ず見るのであれば問題ないが、2週間ぐらいまで伸ばそうと思うと、録画しなくていい時間帯を設定しなおしたくなるはずだ。

 スタートメニューから「再生パターン診断」を選ぶと、過去どのようなタイプの番組を見たかの情報が表示される。これをもとに見直しをかけることができる。ただしDIGAがおすすめの録画設定を自動的に知らせてくるまで、1カ月の猶予がある。今回はおすすめ設定が出てくるまでには至っていないが、ジャンルごとに画質モードを変えることもできるようだ。

視聴パターンを解析し、最適な設定をアドバイスする「再生パターン診断
再生履歴を元に再生パターンが表示される

 新着番組や、録画した番組を番組表形式で見られる「チャンネル録画一覧」で緑ボタンを押すと、「毎回保存」画面が出る。これは選んだ番組を、毎回自動的に通常録画領域に移してくれる機能だ。普通なら数日で自動的に消えてしまう番組をキープしておくために使える。1クールたまったらまとめて見るとか、BDに保存するなど便利に使える機能だ。

「毎回保存」を使えば、毎週個別に番組を保存する必要がない

 チャンネル録画一覧で一時停止ボタンを押すと、選択中の番組のシーンがテキストで表示される。番組中の見たいコーナーだけをダイレクトに見ることができる。

番組中の見たいコーナーへ一気にジャンプできる「見どころ一覧」

 早送りボタンを押すと、「見たいところ再生」となる。これは番組の構成を一覧することができるので、見たいところだけチェックをつければ、そこだけが再生できるという機能だ。ただし通常再生ではなく、1.3倍速再生の時だけこの機能が動作する。実際に映画で試してみたが、綺麗にCMがスキップできるわけではない。CM入りの部分を数秒再生したのち、次の本編へジャンプするといった挙動だ。

自動再生に近い「見たいところ再生」

 番組再生中は、十字キーの上下左右で番組を切り替えられる。左右ボタンは同時間帯にやっていた、いわゆる裏番組を順番に見ることができる。縦方向は同じ局で時間的に前後の番組にジャンプする。いちいち番組表に戻らなくても、近辺の番組にすぐ飛べるので、プライムタイムの番組をはしごしたいときなどに便利だろう。

再生中に十字キーを押すと、裏番組にもすぐアクセスできる

拡張されたネット関連機能

 ホームネットワークやSVOD関連の機能も拡張された。ネットコンテンツはこれまでもYouTube、Hulu、Netflixといったメジャーどころには対応していたが、今回のシリーズはAmazonビデオにも対応する。リモコンにはNetflixのボタンがあるが、他のサービスは「ネット」ボタンからアクセスできる。

SVODは新たにAmazonビデオにも対応

 Amazonビデオ自体は以前からサービスしているが、2015年9月にAmazonプライム会員は見放題となるAmazonプライム・ビデオがスタート。日本でも一躍メジャーサービスとなった。視聴するにはSTBであるAmazon Fire TVシリーズを使うか、PC、一部ゲーム機、スマホ、タブレットが必要となる。一部パナソニックとソニー製のテレビでも対応しているが、レコーダとしてはこれまでも2015年発売のDIGA 「DMR-BRG2010」と「DMR-BRZ1010」があったのみだ。Amazonプライムに加入している人はそこそこ多そうなので、手軽にSVODを導入する入り口としても機能するだろう。

 なおネットコンテンツは、子供向けのフィルタリングなどは設定できないが、ネット機能をパスワードで保護するという手段で子供のアクセスを制限することができる。ただこの機能はテレビ番組の視聴レーティング制限と共通なので、設定が「放送設定」の「デジタル放送視聴・再生設定」中にあるのがわかりにくい。ネット系の制限は課金の問題も絡んでくるので、もう少しわかりやすくまとめて欲しい。

子供への視聴制限は放送設定の中にある
アップデートされたPanasonic Media Accessでは、全録した番組を通常録画一覧へ保存し、上書きさないようにする事もできる

 テレビ番組視聴は、スマートフォンアプリの「Panasonic Media Access」を使用する。5月11日に機能がアップデートされたばかりで、新たにバックグラウンド再生に対応した。番組視聴中に別アプリを表に出しても、そのまま再生を続けることができる。

 特にiOS 9以上を搭載したiPad Pro、 iPad Air以降、およびiPad mini 2以降で使用した場合、バックグラウンドに回すと小さくPinP(ピクチャインピクチャ)されるようになった。タブレットでこのようにテレビ視聴とマルチタスクができるようになるとは、驚きである。ながら見しながらSNSに書き込みなど、テレビ+SNSを楽しみたい人には最強の組み合わせであろう。もちろんホームネットワーク内なので、画質的にも満足できるレベルだ。

iPad Proでバックグラウンド再生すると、自動的にPinPとなる

 面白いのは、番組に対する話題ランキングやユーザーコメントなどは、「ガラポン」と提携しているところだ。ガラポンはワンセグの全録機で、スマートフォンやPCでの視聴が前提のレコーダだ。ユーザーのコミュニケーションも活発に行なわれているが、パナソニックが自社でコミュニケーションサービスを展開するのではなく、競合とも言える他社と相乗りするあたりは戦略としてなかなか面白い。

番組ランキングは「ガラポン」のサービスを利用

 また7月には、Windows用の視聴アプリ「DiXiM Play for DIGA Windows」も提供される予定だ。Windowsも昨今はタブレット機が多くなってきたので、視聴アプリは人気を呼びそうだ。

 ただ上記のネット系の機能を使う際には、追加のチャンネル録画が停止する。頻繁にネット機能を使うのであれば、追加のチャンネル録画はしないほうがストレスがないかもしれない。

 本機にはハイレゾ音楽サーバ機能もある。まず初期設定で「音楽ファイルダウンロード設定」を行なう。対応するサービスはe-onkyo musicのみで、購入した音楽が自動でダウンロードされる仕組みだ。それとは別にファイル共有サーバ機能もあるので、PCなどに入っている音楽を転送することもできる。転送した音楽は、ホームネットワーク内にあるDLNA対応機器で再生できる。なお本体で上記のSVODサービスを起動すると、ファイル共有サーバ機能は自動的に停止するようだ。

e-onkyo musicに対応した音楽ファイルダウンロード機能

総論

 テレビのデジタル記録は、2001年にDVD-R/RWやDVD-R/RAMのドライブが一斉に各社から販売されたのをきっかけに、当初は主に自作パソコンブームと相まった格好でスタートした。もちろん当初からスタンドアロンのレコーダはあったが、それほど注目を集めなかった。パナソニック製品だと、DIGITANKこと「NV-HDR1000」や、DREAMこと「DMR-E20」を覚えている人はそうそういないだろう。

 その後、HD化とデジタル放送化を同時に迎え、メディアもDVD±バトルからBlu-ray vs HD-DVDバトルなど紆余曲折を経て、全録機へと繋がってきている。途中で各社ともUIのリニューアルやアーキテクチャの変更など、積み上げ方式でやってきた開発に区切りをつけてきたが、やはり機能としては複雑化していったことは否めない。特にホームネットワーク機能も搭載するようになってからは、映像メディアのハブ的な役割を担うようになり、単純なビデオの入出力だけをやっていた時代の機器とは中身が全然違っている。

 そんな中今回のシリーズは、できるだけテレビ関係は使い方を簡略化していこうという流れが垣間見える。初期設定のハードルを下げたあと、さらに利用状況を解析して最適化するプロセスまで組み込んであり、マニュアルを読み込まなくても機械が教えてくれる。初めて全録機を購入するユーザーでも、すぐに「成果」が得られるようになっている。

 ネット系の機能はこれからまだ発展するので積み上げ方式にならざるをえないが、テレビの方はこれでだいぶ固まってきた感じだ。

 そもそもテレビとは、点ければ映るぐらいのもので、そんなに難しいものではなかったはずだ。全録は、新しいテレビの見方を提案するものだが、使い勝手の面ではさらなる「簡単」を求められることになる。それは機能が簡単になるわけではなく、これまで人間がカスタマイズしなければならなかった部分をAI的なアプローチで解析し、自動でどんどんカスタマイズされていくといった方向に進んでいくことになるだろう。本機はそんな方向性を感じさせる1台である。

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パナソニック
DMR-BRX7020

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。