ソニー金井隆氏に聞く「クラス最強AVアンプ」の実力

ネットワーク再生搭載で6万円を切る「STR-DN2030」


STR-DN2030

 ソニーが10月25日に発売したAVアンプ「STR-DN2030」。エントリーモデルではあるが、同社が「価格帯で最強の7.1chモデル」と自信を持っているように、24bit/192kHz対応のネットワークオーディオ再生や、Ethenetハブ機能などを備え、HDMIは入力8系統/出力3系統と充実。標準価格は84,000円だが、現在ソニーストア価格は59,800円となっている。

 開発を担当したのは、ソニーのホームエンターテインメント事業本部 HAV事業部 音響設計部 主幹技師の金井隆氏。機器の設計だけでなく、藤田恵美「camomile Best Audio」など高音質ディスクやハイレゾ配信音源などのレコーディングにアドバイスを行なっていることなどでも知られている。金井氏の試聴ルームで、「STR-DN2030」の特徴や、音質改善のための徹底したこだわりについて話を聞いた。


ソニーの金井隆氏。「かないまる氏」としても知られる金井氏の視聴ルームで話を聞いた


■ ネットワーク再生などを大幅強化。はんだは「ES」型番

ソニーのAVアンプラインナップ

 基本構成として、上位モデルに相当する'11年発売「TA-DA3600ES」のシャーシとパワーアンプを継承。パワーアンプはディスクリート回路をアルミ基板上に備えたモジュールを採用し、低音を強化。また、「広帯域パワーアンプ回路」により、上位機に迫るフォーカスの良い音を実現したという。

 ネットワークオーディオ機能も備え、DLNAサーバーなどに保存されたFLAC/WAV/MP3/WMA/AACを再生可能。FLACとWAVは24bit/192kHzまで対応。5.1chで24bit/192kHzのFLAC/WAVも再生できる。'12年モデルで従来より強化されたネットワーク再生機能を搭載した理由はシンプルで「私が使いたかったから(笑)」(金井氏)とのこと。スイッチングハブ機能を搭載し、音源となるNAS(LAN HDD)やPCをAVアンプと直結して再生可能。使わないEthernet端子をOFFにしてノイズを低減できるという、細かなこだわりも見られる。なお、これらのネットワーク機能は上位モデル「TA-DA5800ES」(ソニーストア価格245,700円)と共通だ。

STR-DN2030の内部レイアウトパワーアンプ部の特徴LAN内のNASやPCにある音楽を再生可能

 

HDMIは8入力/3出力
 HDMIは前述の通り8入力/3出力(DA5800は9入力)で、4KアップスケーリングやセカンドゾーンHDMIなどを搭載。HDMI入力は2(SACD/CD)と3(BD)が特に音響機器に適しているとされ、端子部に「for AUDIO」と印字されている。HDMI切り替え高速化の「ファストビュー」や、入力映像サムネイル表示の「プレビュー」も搭載。なお、プレビュー機能はInstaPrevueを使ったものだが、金井氏によれば音質に影響が出るとのことで、これをオフにするモードも搭載。利便性は高い機能だが、音質を優先する人はオフにできるという。

 

 iOS/Android用アプリ「ES Remote」からの操作にも対応。電源ON/OFFやボリューム、入力切替など基本操作をカバーするほか、DLNAのDMC(デジタルメディアコントローラー)に対応し、LAN内にあるサーバーの音楽再生操作にも対応。STR-DN2030をレンダラーとして再生できる。

 金井氏のアドバイスとして、ネットワーク再生時はこの「ES Remote」を使った方が高音質が見込めるという。それは、DMC機能が外部で動作する方が本体処理の負担を抑えるというためで、わずかな差だが結果として高音質化につながるとしている。

背面HDMI端子部。2と3が音響に最適だというEthernet端子/回路部
「ES Remote」アプリの操作画面スマートフォンからリモコン操作などが可能アプリにイコライザも搭載

 さらに、この「ES Remote」のDMCは、通称“丸投げ方式”というファイルの操作方法を採用。一般的に、DMCはレンダラーと通信して確認をとりながら再生するが、丸投げ方式では、再生する命令を出した後はDMCからは通信しないため、余分な通信が無く、高音質化できるとのこと。この方式はDLNAの仕組みにあるものだが、再生中に何か問題があってもDMCから対処できない弱点がある。ES Remoteでは、DLNAとは別経路でアプリ側にヘルプを求めるという方法でそれに対応できるという。そのほか、シアタールームで音楽だけ再生したい場合にも、音の反射の原因となるスクリーンを下ろしてGUIを表示することなく、手元で操作できることを優位点としている。

ES型番を持つはんだ「M700ES-FPS」

 そのほかにも、'12年モデルの音質面のこだわりとして、高音質はんだ「M700ES-FPS」を採用。高級オーディオ機器などと同じ“ES”型番が付いたはんだで、高純度スズ(4N)をベースに、銅やその他の微量元素を添加したもの。スズは、金井氏らが世界中の約50種類の素材を聴き比べ、インドネシアのある鉱山のもの(現在は閉山)を選択。そこに含まれる不純物などの成分を分析して、同比率の素材を開発するのに6年を要したという。特徴として結晶状態が良く、スズの分子共振が少ないため、高音質化に貢献。このはんだは外販をせず、自社製品専用とのこと。



■ 難しく考えず、買ってすぐ使える。ピュア志向の人にも

センタースピーカーリフトアップ機能を搭載

 これまで紹介したマニア向けのこだわりだけでなく、スピーカー設置に関する機能も強化したことで、より幅広いユーザーに訴求。センタースピーカーを下に置いても音が前方から聴こえる「センタースピーカーリフトアップ機能」で高さは10段階で調整可能(推奨は3~5程度)。さらに、「A.P.M(オートマチック・フェーズ・マッチング)」機能と組み合わせ、各スピーカー間のつながりも向上させている。

 金井氏のデモルームでいくつかの音源の試聴も行なった。スピーカーは全チャンネル「B&W 801 MATRIX SERIES 3」を使った豪華仕様だが、STR-DN2030からでも十分なドライブ力を見せており、特にサンタナのライブBlu-ray「Live At Montreux 2011」で見せた、デニス・チェンバースのドラムソロシーンは圧巻。本体の最大音量(74)に近い「67」でDTS-HD Master Audio音声を再生すると、思わずのけぞるような迫力だが、一つ一つの打音が破綻せず、超高級スピーカーを鳴らし切る実力を見せた。一方、ラフマニノフによる教会音楽のSACD「Vespers」を5chで再生すると、ホールの奥行きを感じさせる残響が、あくまで効き過ぎないバランスで繊細に広がる。もちろんスピーカーの性能も高いが、音量をあまり上げなくても広いレンジで収録された音を楽しめるのは、STR-DN2030の力も大きいだろう。

 金井氏に、STR-DN2030を使う時のおすすめ設定や使いこなしのコツについても尋ねた。基本的な考えとしては「全部ちゃんと作っているので、その人に合った使い方がいい。幅広いの嗜好に応えるため“これがオススメ”というのを決めると商品にならず、おすすめというのは答えにくい(笑)」という。その一方で、「D.C.A.C.EX機能でスピーカーの特性を揃えるのが物足りなくなったら、イコライザで低音を調整したり、マルチチャンネル環境で2ch音声がさみしいと感じた時にコンサートホールモードを使ったりできる」といった使い分けができることも特徴として説明。あまり難しく考えず、買ってきてGUIを見れば、どこから入っても簡単に目的にたどり着けるという使いやすさも重要な点だと指摘した。また、「ピュアっぽい使い方をしたいが、高いモデルでしかできない」と思っている人にお勧めしたいとのこと。デジタルアンプを使い始めて一皮むけて、7年かかって上級モデルのリソースを落としてきてSTR-DN2030を作った。これは上級機の音」と自信を見せた。


洗練されたデザインのメニュー画面基本設定を行なえるEasy Setup画面サウンドフィールドの設定画面で、各モードの特徴などが説明される

コンサートホールモードは、世界的に有名なホールの臨場感を再現する機能。「Berlin Philharmonic Hall」、「Concertgebouw Amsterdam」、「Musikverein Vienna」のモードを用意する音楽配信の「デジタル・コンサートホール」音源を再生すると、AVアンプ本体が自動でコンサートホールモードに移行する

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STR-DN2030


(2012年 11月 27日)

[AV Watch編集部 中林暁]