トピック

映画館の音をそのまま家に。Dolby Atmosの新サラウンド

対応BDは今秋から。モバイル向け配信も年内に

 ドルビーは21日、立体音響技術「ドルビーアトモス(Dolby Atmos)」のホームシアター展開「Dolby Atmos Home」の説明会を開催し、ヤマハやオンキヨー、デノン、パイオニアらの対応AVアンプを紹介するとともに、今後のAtmos展開を説明した。発表会や各メーカーのデモの模様は、別記事で紹介しているが、どのような形でBDビデオソフトが発売されるのか、どのような機器で利用できるか、技術的な詳細は? など、家庭でのDolby Atmos利用については、まだまだ不明点が多い。

 説明会にあわせて、来日したドルビーラボラトリーズ アドバンストテクノロジーグループ リサーチサウンドテクノロジー シニア・ディレクターのブレット・クロケット(Brett Crockett)氏に、Atmosの狙いや詳細について聞いた。

Atmos対応BDビデオの発売は今秋以降

ドルビーラボラトリーズ ブレット・クロケット氏

 ドルビーアトモスは、2012年4月に映画館向けとして発表された立体音響技術。従来のチャンネルベースのミキシング方式と、オブジェクトベースのダイナミックなオーディオミキシングを組み合わせ、精密な音の定位や移動を表現できることが特徴。すでに全世界650以上のスクリーンで導入され、タイトル数も120を超えている。また、Dolby Atmosの上映に必要なミキシング施設も55以上となっている。

 日本においてもすでに8箇所の劇場で稼働しており、2つの劇場でも導入予定。制作スタジオとしても東映 デジタルセンターが、採用映画は2015年ゴールデンウィーク公開の「THE NEXT GENERATION パトレイバー」が決定している。

 そのAtmosがいよいよ家庭向けに展開され、ヤマハ、オンキヨー、デノン、パイオニアの各社から今秋より順次発売される。Atmosの大きな特徴が、高さ方向の表現力で、リスナーの頭上から音を出すという点だ。

オンキヨーのブース。天吊りとイネーブルドスピーカーの双方を紹介していた

 そのため、天井に2ch以上のスピーカー設置を前提としており、最小スピーカー構成は5.1.2ch(末尾の2chは天井スピーカー)となる。最大スピーカー構成は34.1ch(24.1.10ch)。現在発表済みのAVアンプは、5.1.2ch、5.1.4ch、7.1.2chなどをサポートしたものが多い。

 もっとも、一般家庭においては天井設置が難しいため、「従来のスピーカー設置場所に置くだけでオーバーヘッドサウンドが実現できる」というドルビーイネーブルドスピーカーも開発。今回の説明会でも、オンキヨーが2014年内発売予定のスピーカーを紹介していた。

天井設置の7.1.4ch構成
イネーブルドスピーカーの7.1.4ch構成

 AVアンプとスピーカー環境の整備が整えば、Atmosを収録したBDビデオディスクを通常のBDプレーヤーからHDMI出力(HDMI 1.4以降)し、AVアンプに入力すれば家庭でもAtmosが楽しめるようになる。

 だが、まだ不明点は多い。そもそも、「Dolby Atmos対応BDビデオソフト」はいつ発売されるのだろうか?

 クロケット氏は、「まだ具体的な名前は言えない状況です。どのBDタイトルが出るとか、どこのOTT(注:Over The Top/ ネットワークサービスとコンテンツ流通のエコシステムを形成する企業。NetflixやAmazon、Googleなど)からスタートするなどは明かせません。ただ、この秋からタイトルは発売され、2015年になるとその数も増えていくでしょう」と述べ、年内のBD発売を認めた。

 タイトル数については、「それはまだお待ちください(笑)」とのこと。とはいえ、2014年中にAtmosを家庭で楽しめるようになるのは間違いなさそうだ。タイトルについての詳細は聞けなかったが、すでに上映作品は120以上を超えているため、この中の大型作品になるだろう。

 劇場公開のDolby Atmosは、従来のマルチチャンネル音場だけでなく、最大128個までのサウンドオブジェクトを組み合わせて音響空間を構築する。そのためAtmos化には、専用のレンダリングやオーサリングが必要になるが、最新作品以外の古い名作や人気作品などがAtmos化される可能性はあるのだろうか?

 クロケット氏に尋ねると「可能性はあります」と解答。実際にスタジオの動きについては、「それも可能性はありますね」と笑う。最新作以外での家庭向けAtmos作品も期待できそうだ。

新技術で家庭向けにAtmosを。データ増は2割弱

 気になるのは映画館のDolby Atmosと家庭向けではどのような違いが出るのかという点。もちろんスピーカー数もアンプなどのシステム構成も全く違うが、クロケット氏は「失われるものはない」と自信を見せる。

 最大128個までのオーディオオブジェクトを操作できるDolby Atmosだが、BDへの収録やネットワーク配信時には「スペーシャルコーディング」という新技術を採用し、BDの場合はDolby TrueHDの音声データにサブストリームとして内包し、ネット配信ではドルビーデジタル・プラス(DD+)に内包して配信される。基本的にはBDではTrueHDを、ネット配信の場合はDD+を使うことが想定されている。

 そのため、BDであれば192kHz/24bitまでのTrueHDで記録した上で、最大でも20%程度の容量増でオブジェクト分のデータも収録できる。DD+の場合は、通常256~320kbpsでの配信となるが、Atmos対応後でも384kbps程度に抑えられるという。

 オブジェクトをパッケージ化/配信用に“畳み込む”というスペーシャルコーディングの技術については、「映画用のCinemaMixから、家庭用のスピーカー構成などを勘案したHomeMixへの変換を行なうが、この中でもオブジェクト数の減少はない。詳細については長い期間を経て開発したものなので、公開できない」(クロケット氏)とのこと。

 最低でも2chの天井スピーカー(もしくはドルビーイネーブルドスピーカー)が必要となるAtmosだが、2chのスピーカー設置位置は「どこでも問題はないようになっている」という。ドルビーでは、34.1個(24.1.10ch)のスピーカー設置位置について名称なども定めているが、ホームシアター設置の場合、厳密に定義し過ぎると導入が困難になること、また、天井に設置できれば効果は得やすいため、設置の自由度を優先しているという。

 なお、天井スピーカーでは、100Hz以下の低域はカットしており、通常のスピーカーやサブウーファに割り当てる。天井からの反射音を使う、ドルビーイネーブルドスピーカーの場合は180Hzでカットしているとのこと。

オンキヨーが展示したイネーブルドスピーカー
スピーカーセッティング

 また、通常の5.1ch/7.1chマルチチャンネルコンテンツをDolby Atmos環境で使う場合は、「ドルビーサラウンド」アップミキサーにより、高さや広がりをもたせたサラウンドを実現できるという。

 ドルビーサラウンドは、従来Dolby Prologic II/IIx/IIzとして用いられていたバーチャルサラウンド技術を一新し、ブランド名称も変更したもの。従来のチャンネルベースの処理から大幅に変更し、周波数帯域ごとの最適化など新たな処理を導入。クロケット氏も「この20年で最大の成果で、いままで聞いた中で最高のアップミキサー」と語り、特に音楽再生の再現性の高さに自信をもっているとのこと。

 Atmos非対応コンテンツでは、オブジェクト情報などを含まないため、高さ方向の表現は残響成分を付加するなど、コンテンツ制作者の意図を損なわない範囲で調整されているという。

 なお、新しいドルビーサラウンドはDolby Atmos対応AVアンプの必須要件となっているため、Atmos対応アンプであればドルビーサラウンドを利用できる。

モバイル展開も年内。意外?な広がりのあるDolby Atmos

タブレットでAtmos体験

 映画館の体験を家庭でも楽しめるように定義された「Dolby Atmos Home」。今回の説明会では、ホームシアター展開だけでなく、タブレットヘッドフォンを組み合わせた“モバイル”展開についても紹介された。

 タブレットやスマートフォンなどでのAtmos対応は可能なのだろうか? クロケット氏に尋ねると「今年中には対応する」とのこと。

 今回の展示でも開発中のソフトウェアを組み込んだ「Kindle Fire HDX 8.9」と、ゼンハイザーのヘッドフォンの「HD598」を接続して、音の移動感を体験できるデモを行なっていた。前述のとおり、モバイル向けではDD+を用いて、1~2割程度のデータ増で配信できるため、ストリーミングサービスなどでの実用化が期待される。ヘッドフォンは通常のものが利用できる。

Kindle Fire HDX 8.9をDolby Atmos対応して、通常のヘッドフォンでデモ

 では、テレビやサウンドバーなどでの可能性については、どうだろうか?

 クロケット氏は、「全てのエンドポイント(最終製品)で、Atmosの採用可能性がある」と述べ、今後のAtmos展開の広がりを示唆した。

 どうやら、AVアンプだけでなく、様々な広がりが予想されるDolby Atmos。ただ、映画館での迫力を体験を家庭で味わうためには、まずコンテンツの発売に期待したいところだ。

(臼田勤哉)