トピック

名機が並ぶ試聴室で“オンキヨーの音”を支える

パイオニアと統合した新生オンキヨーの音はどうなる?

 日本を代表するAV機器メーカーのオンキヨーとパイオニア。今年の3月、AV事業を統合し、オンキヨー&パイオニア株式会社が誕生したのは記憶に新しいところ。だが、オンキヨー、パイオニアというブランドはそのまま残っているし、例えばAVアンプなどは両社から普通に新製品が登場しており、外から見ているとまだ何かが劇的に変わったという印象は薄い。

大阪の寝屋川市、日新町にあるオンキヨー&パイオニアのオンキヨー製品用試聴室

 製品ジャンルも重なる事が多い2ブランドだけに、統合によって何処で、誰が、何を作っているのか、わかりにくくなっているのも確かだ。

試聴室は京阪電鉄の香里園駅近くにある

 そこで、両ブランドのAV機器開発の現場に潜入。何処で、誰が、どのようなこだわりを持って製品を開発しているのかを取材した。そこからは、各ブランドの今後の姿が見えてくる。

 まずはオンキヨーから。お邪魔したのは、オーディオのコンポやAVアンプなど、AV機器開発の拠点だ。オンキヨー&パイオニアの本社は大阪の北浜にあるが、AV機器の開発が行なわれており、試聴室があるのは寝屋川市の日新町、最寄り駅は京阪電鉄の香里園駅だ。

体制はどのようになっているのか

 話をはじめる前に、オンキヨー&パイオニアの現在の組織を、わかりやすいようにAV機器にフォーカスしておさらいしよう。AV機器事業を手がけているのは、オンキヨー&パイオニア株式会社だ。この会社は、オンキヨーのAV事業と、パイオニアのAV事業を統合させたものだ。オンキヨーとパイオニアの2ブランドを継続しつつ、販売や設計に関する共通の機能を一元管理し、事業競争力、収益力の強化を目指している。

 これとは別に、パイオニアのヘッドフォン事業はオンキヨー&パイオニアイノベーションズという会社に移管されている。ハイレゾ音楽配信サービスの「e-onkyo music」を運営しているところで、ソフトとして高品質な音源コンテンツ事業、ハードとしてヘッドフォンを中心とするライフスタイル企画製品事業を、両方持っている形となる。

 今回お邪魔した場所では、これまでオンキヨーの製品が作られてきた。まだ統合から日も浅いため、製品開発においてどのようにシナジーを発揮していくかは検討段階だという。

 消費者からすると、共同で1つの製品を作り、ブランドだけ付け替えて新製品として発売するようになってしまうのではという心配がある。だが、「そんな事は絶対にありません」と断言するのが、オンキヨー&パイオニア テクノロジー オーディオ技術部 開発技術グループ 技術1課の主幹技師、浅原宏之氏と北川範匡氏の2人。この試聴室で、オンキヨーブランド全製品の音質をチェックしている、言わば“オンキヨーの音”を支える縁の下の力持ちだ。

オンキヨーの音を支える試聴室

 2人が出迎えてくれた試聴室、実は長年、隣にあったオンキヨー本社ビル内に設置されていたが、3年前に本社が北浜に移転。それに伴い、現在の建物に移設したものだという。部屋は新たに作ったものだが、室内の特性はかつての試聴室を再現。設置している機材も、長年試聴室で使われていたものがそのまま移設されている。

一般的な試聴室のイメージからすると明るい。図面を見たり、ハンダ付けをしたり、仕事がしやすいようにあえて明るい空間にしているという

オーディオ技術部 開発技術グループ 技術1課の主幹技師、浅原宏之氏

浅原氏(以下敬称略):機材や部屋の特性が変わってしまうと“従来との比較”ができなくなってしまいます。新製品を作る際にも、過去の経験やデータを基に問題点を解析し、それをクリアして進化させる必要があります。まったく特性が違う試聴室になってしまうと、そうしたデータが活かせなくなってしまうためです。

 長年の技術の蓄積、多くの製品を測定したデータなどは、オーディオメーカーにおいて重要な資産だ。それを活かすための試聴室や機材は、オンキヨーサウンドを支える屋台骨と言っても過言ではない。重要な試聴室だからこそ、こだわりもハンパではない。

北川氏(以下敬称略):施工業者さんに依頼して部屋を作っていただくと、綺麗に仕上げていただけるのですが、音の面では手を入れなければならない部分があります。枠木がしっかり取り付けられていても、スピーカーから音を出してみるとビビってしまう場所があります。その時は、我々が枠木をバラして、もう一度ボンドづけし、釘も打ち直します。幸い、スピーカーも開発しており、エンクロージャの設計と部屋の設計は似ているところがありますので、そのノウハウが活かせるのです。

 周囲を見回すと、壁と壁の隙間に小さな木片が挟み込まれている。これも細かな音質チューニングの結果。このあたりのノウハウは、一般的な家庭のオーディオ環境でも活かせそうだ。では、どのような特性の部屋が、試聴室として理想的なのだろうか?

壁と壁の隙間に小さな木の板が打ち込まれている
スピーカー背面の壁は強度をアップさせてある

オーディオ技術部 開発技術グループ 技術1課の主幹技師 北川範匡氏

北川:一言で言えば“製品の性格が良く分かる部屋”ですね。部屋のキャラクターが音に乗ってしまうと、それに左右されてしまいますので。具体的には、スピーカーの背後の壁の固さや素材、壁との距離が重要です。コンサートホールもそうですが、オーケストラのバックステージが柔らかい素材だと、低音の力が無くなり、音のバランスが崩れてしまいます。

 コンサートホールでは響きの良さを追求し、残響時間も長めに作られています。この試聴室はあまり響きが出ないようにしながらも、完全にデッドにはしていません。他のメーカーさんと比べると、残響時間はむしろ長めかもしれませんね。

浅原:部屋の余計な響きがつくと、「響きが良い製品が完成した!」と思っても、お客様の家で響かないという事になってしまいます。しかし、完全に試聴室がデッドでは、スピーカーの直接音しか聴こえませんので、それはそれで、実際に家庭で使われた音とは異なってしまいます。測定のためだけの部屋ではなく、響きが豊富で聴いていて楽しいだけの部屋でもダメ……その配分が難しいですね。

北川:残響時間は500Hzの音を測定するという決まりはありますが、本当の意味で良い部屋というのは、低い音から高い音まで、残響時間が一定なのです。残響を調節するだけであれば、吸音材を入れるなどしていけば良いのですが、音の上から下まで、残響時間を一定にするというのはかなり難しい事です。

浅原:部屋を作ってからしばらくの期間は、細かな調整が必要です。コンクリートの水分が抜けて固まるまでに音は変化しますし、木材のエージングによっても音は変化します。そこはオーディオ機器と同じですね。

試聴室だけでなく、無響室も完備されている。壁一面、床にまで吸音パネルが敷き詰められており、反射音を排除。スピーカーから出る直接音だけを測定するための部屋だ。室内に立っていると、ドクンドクンと自分の心臓の音しか聞こえない

キーワードは“正しい動作”と“動的ノイズ”

 試聴室では、プレーヤー、アンプ、スピーカー、AVアンプまで、様々な機器の音がチェックされる。もちろん製品によって音は違ってくるが、メーカーとして、オンキヨーとして“到達目標”として掲げている音とは、どんなものだろうか?

 すると北川氏はおもむろに口の周囲に手を当て、山で「ヤッホー!」と叫ぶポーズをとる。「あー」と声を出すと、当然ながら少しこもった声。手を外すと、クリアな音に戻る。

北川:社内ではこの音の変化を「クローズ」(手を当てた状態)、「オープン」(手を添えない状態)と表現しています。手を添えていないオープンな音、つまり“自然な音”が我々の目指すところです。音が出た瞬間、スピーカーから音が離れてサッと広がり、音像のイメージが適切なサイズで、適切な位置に定位するというのが全ての基本ですね。

 その基本ができてから、高域が伸びるとか、低域が弾むとか、分解能があるとか、製品のクラスにもよりますが、そうした部分を追求していきます。逆に基本ができていない状態でそうした部分だけを追求しても、違和感のある音になってしまいます。例えば分解能はあっても、聴いていると物足りないと感じる音……などですね。

 自然な音のオーディオを作ると言っても、どのような手法で“自然にする”のだろうか。作りながら、あれこれと手を加えてチューニングしていく過程を想像するが、北川氏は首を横に振る。

北川:実は、この部屋で音質チューニングはほとんどしていません。我々は“音質設計”と呼んでいるのですが、まず、“こうあるべきだ”という設計理論があり、それを徹底する事から始まります。設計理論無しに特性だけを揃えたり、回路だけを他から持ってきたりはしません。

 例えばノイズ。一言で言ってもいろいろなノイズがありますが、測定器で計測できる“静的なノイズ”、つまり「音が出ていない時のアンプのノイズ」ですね。そして、音楽が鳴っている時に現れる“動的なノイズ”。この2つのノイズに対して十分にケアをする事、特に“動的ノイズをいかに抑えるか”がポイントです。

 口のまわりに手を当てた実験を思い出して欲しい。手を添えると音がこもったが、「あー」という声を出して初めてそれがわかる。声を出していない状態では、“音がこもるのかどうか”はわからない。コンポでも、それと同じことが起こるというわけだ。

左から浅原氏、北川氏、営業本部 営業企画部の清崎(崎=立ち崎)泰史氏

北川:トランジスタ1つとっても、「こういう使い方をすれば正しく動作する」というノウハウがあります。一般的には、単にパーツを動作させ、測定結果が正しく出ればOKですが、その測定だけでは見えていない部分が沢山あるのです。ですから我々は、設計の段階で“より正しく動作させる”音質設計にこだわっています。

 そのため、この部屋で設計者は、“正しく作れているか”を確認するために試聴をします。もちろん製品化の前にチューニングも行ないますが、それは最後の最後、あくまでこの部屋では、行なった設計が正しいのか、間違っているのか、そのジャッジを下す場所なのです。

 この正しい動作は電気回路の話だけではありません。構造についてもです。ある意図をもって作った形の筐体であっても、ジャッジした結果、うまくいかずにやり直す事もあります。最初に形を決め、小手先のチューニングでなんとかしても、最初に狙った音には届かないからです。

 北川氏の話は、積み木をイメージするとわかりやすい。最初から右へ左へとブロックがズレた状態で積み重ねた場合、倒れないようにするためには、傾きを補正しながら積まねばならない。最初からピシッとズレずに正しく積めば、グラグラになって小手先の補正を繰り返す事にはならない。“正しく設計した回路”によって発せられる音は、目指す“自然な音”になるというわけだ。

 浅原氏と北川氏はかつて、真空管からトランジスタへ、オーディオの黄金期から活躍していた同社の技術者・関谷守氏に約10年間師事。オーディオに大切なものとはなにか、教えを受け、受け継いだという。

浅原:オーディオの技術は書面ではなかなか伝えられません。日本の文芸のように、見て、体で感じて体得していく部分があります。先輩が手直しする様子を見て、なぜそのタイミングで、その手直しをしたのか、本人も無意識にやっている部分もあると思うのですが、それを掴みとっていく。そのために10年が必要でした。

北川:「音のバランスで聴くな」とずっと言われてきました。バランスではなく、音の出方のイメージ。例えば声がサッと出る、バイオリンやピアノの音がサッと立ち上がる……そうした音像のイメージが正しいか、正しくないかで判断しろと言われてきました。

 それができるようになると、昨年のモデルのイメージを覚えていますので、比較ができます。バランスで覚えてしまうと、人間はキッチリ覚えていられないのです。もちろん最終的に音のバランスも重要なのですが、その前に“音の出方”には常に気を使っています。

浅原:音の出方で聴くようになると、何年も前の製品であっても、それを誰かが改造していたら、すぐに「これはおかしい、本来このモデルはこんな音はしない」とわかるようになります。

オンキヨーらしいこだわりが反映された「CR-N765」

 正しい動作、音の出方……こうしたこだわりが、わかりやすく反映された製品がある。昨年から発売されている、小型コンポ「CRシリーズ」のCDレシーバ最上位「CR-N765」だ。CDプレーヤー、最大30W×2ch出力のアンプ、さらにDLNAのネットワークプレーヤー機能、AM/FMチューナを内蔵。ハイレゾフアイルは192kHz/24bitまでのFLAC/WAV、DSDは5.6MHzまでのネイティブ再生もできる。価格は66,000円と低価格だが、高機能がぎゅっと詰まっている。

CR-N765

 この製品にはヘッドフォン出力があるが、そこに「DIDRC」(Dynamic Intermodulation Distortion Reduction Circuitry)という回路が搭載されている。北川氏はこの回路を「要するに、究極的に歪まないアンプを作ろうとしているのです」と語る。

北川:ソースがレコードからCD、そしてハイレゾと進化していますが、情報量が増えているのに回路設計は従来のオーディオのままで良いのか? という疑問が開発の発端です。ハイレゾ時代にどのような増幅回路が適しているのか、もっと高い周波数まで考えた回路としてDIDRCを開発しました。先ほどの“動的なノイズ”を低減するための“超高反応なアンプ”と思ってください。

 数100kHzといった超高域は、人間の耳には聞こえないため、これまでのアンプでは歪んでいても関係ないと思われていた。しかし、音楽信号が超高域における歪が多いアンプを通ると、可聴帯域に影響を及ぼし、ノイズとして聴こえてしまう事が問題点としてわかってきた。それならば超高域まで含めて、歪まないアンプを作ればいい……というのがDIDRCの基本的な考え方だ。

CR-N765に搭載されているヘッドフォンアンプ部。ここにDIDRC回路が搭載されている

北川:一般的にアンプの性能を良くするためには、いかに負帰還(NFB:Negative Feedback)を安定して沢山かけるかにかかっています。しかし我々は、負帰還が無くてもいかにキチンと動くか? にフォーカスしています。負帰還もかけますが、必要な場所にだけ使うイメージで、基本設計の部分で練り上げています。

 DACの選択も興味深い。CR-N765ではオンキヨーが従来使ってこなかった、AKM(旭化成エレクトロニクス)のフラッグシップ「VERITA」シリーズのDAC「AK4490」を採用している。このDACは、可聴帯域外の歪やノイズに注目、それらに対策を施す事で、可聴帯域の音をより良くしようというもの。その考え方はDIDRCと良く似ており、実際にDAC開発の段階ではオンキヨーと旭化成エレクトロニクスで意見交換も行ない、オンキヨーが求める音と合致するDACだと判断。採用が決まったという経緯がある。言わば、DACとヘッドフォンアンプ、両方で超高域のノイズに対策したというわけだ。

 コンパクトな筐体に、機能を盛り込むにも長年のノウハウがある。注目すべきは“配置”だ。CRシリーズの代表的なモデルとして、'98年のCR-185、2006年のCR-D1、CR-N765と並べて見ると、いずれもCDドライブが左寄り。そしてN765は特に寄っている事に気付く。

CRシリーズの代表的なモデルをピックアップ。左から'98年のCR-185、2006年のCR-D1、CR-N765

北川:フルサイズのコンポでは真ん中にドライブがあるものが多いですが、あれは鉄骨の梁を渡すなど筐体の剛性を高めるコストを投入できるからです。低価格な小型コンポでは難しい。小さな筐体の場合、“真ん中”と“角”、どちらが剛性が高いかを考えると、端が強いのです。そのため、ドライブを限界まで左の側面に、アンプは右の側面に寄せて搭載しています。

浅原:この“剛性が高い角を使う”という考え方は、我々のハイエンド単品コンポにも採用しています。筐体の前後のパネルに橋を渡すように梁を通し、そこにドライブを固定しています

 「CR-N765」のアンプ部には、ご覧いただければわかるように、分厚いアルミのヒートシンクを採用しています。この価格ではあまり見ない、コストをかけたパーツで、音がすごく良くなりますね。また、ヘッドフォンにディスクリートのDIDRC回路を採用したのは、ヘッドフォン向けとスピーカー向けで回路を分ける事で、信号の流れを最短にする狙いもあります。

CDプレーヤーの「C-7000R」。前後のパネルに橋を渡すように梁を通し、そこにドライブを固定している

北川:スペースも少ないので、もっとコストの安い、小さなアンプを搭載するという選択肢もあると思います。しかし、エントリーの価格帯ですので、お客様からすれば、これがオーディオに触れる初めての機会になるかもしれない。そこで良い音が楽しめるか、楽しめないかで、今後のオーディオ趣味が好きになるかどうかも決まってきます。ですからエントリーでコストをかけられないモデルだからこそ、技術で工夫し、良い音を目指しています。

 音作りの面でも、変にチューニングして音を極端に丸めるような事もしていません。セッティングによって音が変わる楽しさを味わっていただきたいからです。あまりにもセンシティブだと使いづらくなってしまいますので、調整は行なっていますが、アクセサリやセッティングで理想の音を追求していく……オーディオの楽しさを十分味わっていただけるようになっています。

クラスやサイズから考えると、かなり大きなヒートシンクが目立つアンプ部
このように側面に固定されている

スピーカー作りを続けられる理由

 小型コンポと共に、オンキヨーを代表するのはブックシェルフスピーカーだろう。自らスピーカーを作る日本メーカーが減り続け、売り場には低価格で良い音を出す海外ブランドの製品が多数並んでいる状況下で、これは特徴的な事だ。

北川:ユニットを一から作れる技術や工場といった“環境を持っている”というのが大きいですね。コスト面で利点がある事と、音質面でもメリットがあります。

浅原:スピーカー作りではユニットとエンクロージャが大切です。ユニットの設計では、振動板の素材から開発しており、シミュレーション技術も用いて、様々なパラメータの設計を行なっています。こうして開発したユニットは、エンクロージャ設計にも活かせますので、我々が目指すスピーカーの音に近づける事ができると考えています。

 そんな2人が、「特にオンキヨーらしいスピーカー」として挙げるのが、2005年に発売した「D-312E」(1台9万円/ペア18万円)だ。2ウェイのバスレフで、4cm径のリングツイータと、16cm径のウーファを搭載している。ウーファの振動板はPEN繊維、アラミド繊維、帆布の3層構造、オンキヨー独自の「A-OMFモノコックウーファー」だ。

D-312E

浅原:ウーファはセンターキャップと周囲の振動板が一体になったモノコック構造です。これが一体ではなく、2つのピースを貼りあわせて作ると、振動した際に、ピースが個別に、勝手に鳴いてしまうのです。

北川:16cm径のユニットですが、38cmのウーファで使っているのと同じ大きな磁気回路を使っています。つまり、剛性の高いユニットを、強力にドライブするスピーカーです。すると、音圧に振動が負けず、正しいピストン運動ができ、再生帯域をキチッと鳴らせます。高域はビビらないようにリングツイータを採用しました。“正しい動作のウーファとツイータをキチッと鳴らす”というオンキヨーの設計思想が、そのまま反映されたモデルと言えます。

A-OMFモノコックウーファー
リングツイータ

 だがその結果、アンプにとってはドライブするのに骨が折れる、言わば“鳴らしにくいスピーカー”になったようだ。

北川:組み合わせを想定した、ドライブ能力の高いデジタルアンプのA-1VL(2004年発売/16万円)でドライブしていただくと、とても良い音で鳴ります。しかし、他社のアンプでは100万円クラスのような高級モデルでないと上手く鳴らない。スピーカーはペアで18万円なので、それを100万円のアンプでドライブする人はあまりいなくて……ヨーロッパでは評価していただいたのですが、国内では少し肩透かしでした(笑)。

 先ほどの「CR-N765」には、組み合わせるスピーカーとして「D-112EXT」(ペア46,000円)が提案されている。低価格なスピーカーだが、“正しい動作のウーファとツイータをキチッと鳴らす”という思想はそのまま引き継いでおり、振動板の材質を変えたり、モノコック構造にせず鳴らしやすくする代わりに、センターキャップを動かないフェーズプラグに変更するなどしている。ユニットまで“オンキヨーの思想”が反映できるからこそ、作れるスピーカーと言えるだろう。

「CR-N765」と組み合わせやすいスピーカー、「D-112EXT」

試聴室の音を聴いてみる

 思想やノウハウの継承を聞いていると、それを体現する音、つまり2人がいつも聴いている試聴室の音がどんなものか気になってきたので、聴かせていただいた。

 システムは当然リファレンス、DIDRC回路を搭載したプリアンプ「P-3000R」(18万円)、パワーアンプ「M-5000R」(26万円)、CDプレーヤーは「C-7000R」(16万円)。繋がれているスピーカーは、意外にもオンキヨー製ではなく、JBLの往年の名機「4343」だ。

 音が出た瞬間、驚くのは“出方の気持ちよさ”だ。オーディオ的に言うならば“トランジェントの良さ”なのだが、音がズバッと出て、サッと消える。キビキビとしたハイスピードな印象で、実に気持ちが良い。2人が師匠から受け継いだ「音のバランスで聞くな、音の出方に注意しろ」という言葉を、そのまま体現したような音で、ハッとさせられる。

4343をドライブするオンキヨーのリファレンスシステム

 定位もバツグンだ。そもそも音像があやふやだったり、奥行方向を含めた立体感が不明瞭だったら、こんなに気持ち良い音にはならない。ボーカル、楽器の位置がバシッと決まり、それが“出方”の良い音をズバッと放つ。全てにフォーカスが合う気持ちよさ。もちろん音場はスピーカーを離れ、広大に広がっている。

 出方や定位への驚きが薄れていくと、バランスの良さにも唸る。深く沈み込む低域の分解能は非常に高く、とても40年近く前のスピーカーとは思えない(しかもノーマル仕様!)。

JBLの往年の名機「4343」。石のブロックの上に設置されているが、抑えこまず、自由に鳴るように、エンクロージャの両端にブロックがセットされているのが面白い

 2人が試聴で良く聞くCDは、「リンダ・ロンシュタット/フォー・センティメンタル・リーズンズ」や「ジェニファー・ウォーンズ/ザ・ハンター」、「ホリー・コール/ドント・スモーク・イン・ベッド」、「ダイアナ・クラール/The Girl in the Other Room」など、オーディオファンには定番のものが中心。いずれも再生ボタンを押して、すぐに音楽の美味しいところが始まり、短時間で機器のチェックができる楽曲ばかりだ。“聴きどころ”まで早送りしなければならないと、チェックにかかる時間が長くなってしまうからだ。

 この試聴室が面白いのはJBL 4343だけでなく、両サイドに TANNOY「Autograph(オートグラフ)」、背後にはB&W「Nautilus 801」など、他社の製品が沢山置かれている事だ。部屋の外にはB&W「CM1」、モダンショート、ハーベス、クオードなどのスピーカーもあり、アルテック名機「A5」用ウーファ「515B」が棚に置かれていたりもする。JBLの伝説的なプリアンプ「SG520」や、マッキントッシュの管球アンプと、まるで老舗オーディオショップのようだ。ここまで他社製品が沢山、しかも往年の名機が揃った試聴室は珍しい。

JBLの左にあるのが言わずと知れたTANNOY「Autograph」
反対側の壁にはB&W「Nautilus 801」が
試聴室の外には各社のスピーカーが一杯だ
アルテック名機「A5」用ウーファ「515B」
JBLの伝説的なプリアンプ「SG520」
マッキントッシュの管球アンプも見える
harman/kardonのCitation XXP、XXのセパレートアンプ

浅原:古い機器は今聴くと確かにナローです。しかし、音の出方、表現力には“良いなぁ”と思わせてくれる魅力が沢山ありますね。マッキンのアンプにJBL SG520を組み合わせ、オートグラフを鳴らすと、本当に音の出方の良い、気持ちの良い音が楽しめるのです。オーディオの魅力のおおもとに立ち返るためにも、こうした機材を修理しながら使っています。

 話を聞き、音を聴いて感じるのは「正しい動作の積み重ね」と「音の出方」だ。個人的にオンキヨーのコンポには“色付けの無い音”というイメージがあり、オーディオメーカーの中では独自のキャラクターを付加せず、ニュートラルな音を長年貫いていると感じている。

 人によっては、“そっけない”という印象を持つかもしれない。しかし、正しい動作の積み重ねによって出てくる、雑味の無い、自然で、そして勢いのあるキチッとした音は、実際に耳にするとまったくそっけなくは無い。むしろ圧倒されるような熱っぽい、情感豊かなサウンドで、それはソースが持つ熱気を正確に出せているからなのだろう。そして、ところどころに、往年の名機がまとっていた、えも言われぬ“オーディオの魅力”も顔をのぞかせる。まさに温故知新、オーディオメーカーとしての長い歴史を感じさせるサウンドだ。

 今後、オンキヨー&パイオニアがどのような体制で製品を生み出していくにせよ、浅原氏と北川氏が守る“オンキヨーのサウンド”がガラリと違うものに変わってしまう事はないだろう。また、相対的なバランスや、色付けに依存しない、正しい音を追い求める“音質設計”という考え方には、今後デジタル分野でさらに技術が進歩しても、それに対応していける普遍性を感じる。それは遠い将来、“オンキヨーの音の番人”が他の人に引き継がれる時が来たとしても、途切れることはないだろう。

 (協力:オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパン)

(山崎健太郎)