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VRとともに成長する「DTS Headphone:X」。DTSのこれから

DTS:Xのイマーシブ体験をBD以外にも

 米DTSは5日、ジョン・カーシュナーCEOの来日にあわせて、報道関係者向けに事業説明会を開催した。VR市場や自動車市場の対応強化や、DTS:Xの普及に取り組む姿勢を強調した。

dts Japanの黒川剣代表取締役(左)、DTS ジョン・カーシュナーCEO(右)

 1993年に創業。映画ジュラシック・パークの公開に合わせて劇場に導入され、主にオーディオ・コーデックの会社として成長したDTSだが、現在は、コーデック技術だけでなく、ワイヤレスオーディオ技術、ポストプロセッシング技術、車載向けオーディオなどの、「オーディオ ソリューション・プロバイダ」として事業展開している。

 DTS会長 兼 CEOのジョン・カーシュナー氏は、「20年以上の歴史を経て、コンシューマ・エレクトロニクス産業は大きく変わってきた。しかし、我々の信念は一貫している。よりよく、イマーシブで、魅力的なサウンド体験のためのイノベーションに取り組んでいる」とする。

ジョン・カーシュナーCEO

 DTSは、10年前に事業領域をホーム、モバイル、カーの3つの体験別に分け、それぞれに投資を行なっている。今後の成長を担う技術として、ホーム向けには、AVアンプやBD作品で採用が始まっているオブジェクトオーディオ技術「DTS:X」に注力、モバイルではワイヤレススピーカーやスマートフォンとの連携を想定してたWi-Fiベースのソリューション「Play-Fi」と、ヘッドフォンでサラウンドを楽しめる「DTS Headphone:X」に注力。車載向けには米国で採用が進む「HD Radio」を推進している。

 カーシュナーCEOは、「ホーム、モバイル、カーの3つの体験を、1つのブランド内に有している。DTSは、音楽やゲーム、映画といったエンターテインメントの体験をより良くするブランド」と言及。ホームオーディオだけでなく、ゲームコンソールや、テレビ、車などでの対応を重視していくという。日本の家電メーカーはかつての勢いがなくなってきているが、一方で、日本は自動車メーカーが多く、Tier1(ティアワン)と呼ばれる、自動車メーカーに直接供給する大手部品メーカーも多い。そのため、自動車分野には力を入れていく方針。また、「AVアンプは比較的小さいが、戦略的に重要なマーケット。ゲームコンソールも重要だ。ゲームは主要なアプリケーションのひとつ」と語った。

dts Japan 黒川剣代表取締役

 また、dts Japanの黒川剣代表取締役は、「家電の市場は小さくなっているが、日本にはコンテンツ業界もあり、アニメやゲームなどの強みがある。そこで、我々の技術を通して、よりリッチなコンテンツを作れないかと考えている。例えば、アニメや邦画などの作品で、DTS Headphone:X対応が増えている。『BDにHeadphone:Xが必要? 』とも言われるが、試すことが重要。コンテンツプロバイダの皆さんも積極的で、どういうものがウケるかまずやってみる。その中で(Headphone:X対応の)『進撃の巨人』のような作品も出てきて、『Headphone:X凄いね』といってもらえる。それを、アプリとかモバイルゲームとかに広げていけたら、と期待している」と語った。

VRとともに拡大する「DTS Headphone:X」

 「DTS Headphone:X」は、専用エンコードのコンテンツと対応アプリ/プレーヤーを利用し、通常のヘッドフォンでサラウンドを実現する技術。Headphone:Xの採用例は増えているが、「まだ立ち上げの投資段階」という。その中で、期待をかけるのがVR市場だ。VRヘッドマウントディスプレイの「Oculus Rift」が発売され、「PlayStation VR」も10月に発売予定で、ゲームやエンターテインメント分野だけでなく、様々な用途での応用が期待されている。

 カーシュナーCEOは、「VRマーケットは完全にイマーシブ(没入した)な、別の場所に連れて行かれるような体験が求められる。そのためには、オーディオ体験が重要になる。Headphone:Xは、VRとともに成長する」と予想。また、(OculusやPS VRなど)VRのヘッドセットメーカーとの協力については、「公表はできないが、複数の会社と実験的に取り組みを進めている」とした。

 また、米国で発売されているHeadphone:X対応のSamsung製薄型テレビも紹介。テレビにDTS Headphone:Xのエンコーダを内蔵し、Bluetooth経由でヘッドフォン出力できるというソリューションで、モバイルやゲームだけでない新たな活用事例とアピールした。

SamsungのテレビにDTS Headphone:Xを搭載。Bluetoothヘッドフォンでサラウンドを楽しめる

 Wi-Fiベースのワイヤレススピーカーとして推進している「Play-Fi」については、「Play-Fiはホームオーディオの最大のオープンプラットフォームで、メーカーは、相互運用性の高い独自のハードウェアを、競争力ある価格で提供できる」と紹介した。

DTS:Xは「BDだけのものではない」

 DTS:Xについては、20社のAVアンプが対応を予定しており、コンテンツ側でも、'15年にDTS:X対応の映画が公開され、BDも4タイトルが発売。日本でも6月にユニバーサルから「クリムゾンピーク」が発売される。

DTS:Xのデモ

 「ハリウッドのサポートは予想以上に早い」としながらも、「まだ立ち上げ時期。ポストプロダクションなどのエコシステムが整うまでにはまだ時間がかかるので忍耐強く進めている」と説明。またDTS:Xコーデックは、BDだけでなく、ストリーミングやダウンロードでも利用可能で、数社の事業者から関心が寄せられているという。「DTS:Xは、BDとAVアンプに限定した技術ではない。携帯電話でもサウンドバーでも、車でもあらゆるもので利用できる、より優れた技術。今後採用が進むはずだ」とした。

 DTSでは、'16年度の売上構成比を、自動車が40%、テレビやスマホ、PCなどが35%、15%がBD、10%がAVアンプなどのホームAVと予測。自動車の比率がかなり高くなっている。BD市場については、Ultra HD Blu-ray(UHD BD)が登場する一方、映像配信の伸長の影響等で市場縮小が予想される。カーシュナーCEOも「BDのピークは2014年ごろ。市場は縮小していくが、UHD BDはその下落を緩やかにするだろう。だが、BDの重要性は変わらない。1つ目の理由は、BDが現在も最高の体験を実現できることで、最大の容量を持ち、素晴らしい映像や音の体験を詰め込める。2つめは、ディスクを入れて再生ボタンを押すだけ、という快適でシンプルなシステムという点。このシンプルさはこれからも支持されていくだろう」と語った。

臼田勤哉