iBasso Audioの注目のポータブルアンプ、2機種を聴く

-低価格だが本格サウンド。入門に最適の「D2+ Hj Boa」


左がUSB DAC機能も備えた「D2+ Hj Boa」、右が「T3 Hj」

発売中

標準価格:オープンプライス

 マニアックなヘッドフォンアンプの世界では、海外メーカーのモデルを個人輸入で入手し、楽しんでいる人が多い。だが、生産台数が少ないので高価だったり、送料が高額だったり、英文でのメールのやりとりなどが必要になる場合もあり、ハードルが高く感じるものだ。

 そんな状況の2009年末に登場したのが、オーディオテクニカの「AT-PHA30i」(12,600円)と、中国のメーカー「FiiO E1」(3,675円) というヘッドフォンアンプ。前者は説明不要の国内メーカーであり、後者は小柳出電気商会(オヤイデ)が輸入代理店を担当し、低価格なモデルを多数ラインナップしている。さらに2機種とも、iPodを操作できるリモコンとしても使える、“気軽に買えて”、“便利にもなる”注目モデルとして紹介した。

 そして2010年に入り、ヒビノインターサウンドが輸入代理店となり、7月から発売されているのが、中国のオーディオメーカーiBasso Audio(アイバッソ・オーディオ)のポータブルヘッドフォンアンプ「T3 Hj」と「D2+ Hj Boa」。リモコン機能は無いが、バッテリ内蔵の本格的なヘッドフォンアンプながら、価格を抑えているのが特徴。アンプ機能のみでコンパクトな「T3 Hj」が実売13,000円前後、USB DAC機能も備えた「D2+ Hj Boa」が19,000円前後で販売されている。

 いずれも、ベースモデルは海外で既に発売されており、低価格ながら音の良いヘッドフォンアンプとして人気を集めている。今回、ヒビノが輸入し、国内販売するにあたり、型番に“Hj”が付く日本向けの仕様となっている。単に型番が変わっただけでなく、ヒビノ側がiBasso Audioに提案するなどして、細かいパーツは海外で発売されていたベースモデルと異なるものが使われている部分もあるという。


■ シンプル&コンパクトな「T3 Hj」と、多機能な「D2+ Hj Boa」

 まずは簡単にiBasso Audioについて説明しよう。同社は2006年に中国で設立されたヘッドホンアンプ、DACの開発メーカーで、創業スタッフの1人であるLi Jian Sheng(リー・ジェン・スン)氏は、AV製品の開発エンジニアとして大手OEMメーカーに16年間勤務。様々なホームオーディオ製品の研究・開発を行ない、培ったノウハウと独自の音響理論を基に製品を開発しているということだ。

 基本的な使い方として、両機種とも内蔵バッテリで動作するアンプであり、「T3 Hj」はアナログ入力のみ。「D2+ Hj Boa」はアナログ入力とUSB入力も備えている。iPodなどからの出力をアナログ入力に接続し、イヤフォンやヘッドフォンをドライブする。なお、両機種ともに入力ケーブルは短いステレオミニケーブルが付属し、それを使ってプレーヤーのイヤフォン出力と繋いで使用できる。ただし、iPodなどのDock端子からライン出力を取り出して使用する際は、iPod用Dock-ライン出力ケーブルは別途用意する必要がある。

 御存知の通り、iPodのDock端子からは、iPodの内蔵アンプを経由しないライン出力が取り出せる。これをポータブルアンプで増幅すると、高音質な再生ができるというのがポータブルヘッドフォンアンプの基本だ。iPodのイヤフォン出力と繋いでも音は出るが、満足できないiPodの音を他のアンプで増幅しても、音質面で良い結果は得られない。そのため、iPodと組み合わせる場合は、実質Dockケーブルでの接続は必須と言えるだろう。 

D2+ Hj Boa。筐体はヘアライン仕上げで触るとヒンヤリ冷たい側面フロントパネル。左からヘッドフォン出力、AUX IN/OUT、ボリューム

 これに加えて、「D2+ Hj Boa」はPCとUSB接続すると、USBオーディオとして機能する。PCのサウンドをD/A変換し、アンプで増幅し、ヘッドフォンなどで楽しむ事ができる。さらに、USB DACとして動作している際は、アナログ入力端子が、AUX出力端子に切り替わる。ここにアクティブスピーカーなどを接続し、スピーカーで音を楽しむといった使い方も可能だ。

 両モデルとも、充電はUSB経由で行ない、「T3 Hj」は付属の専用ケーブルで、「D2+ Hj Boa」は付属のA端子-ミニB端子ケーブルで充電する。所要時間は「T3 Hj」が2.5時間、「D2+ Hj Boa」が3時間。連続使用時時間は38時間で共通だ。

 「D2+ Hj Boa」の筐体サイズは51×82×21mm(幅×奥行き×高さ)。職人が手作業でヘアライン加工を施したという“ブラッシュド・リッチブラック”仕上げ。触るとヒンヤリと冷たく、高級感がある。重量は108g。フロントのボリュームが電源スイッチを兼ねており、回すと電源ON、反対にまわしきるとOFFになる。

 

背面。USB接続端子と、充電用スイッチを備える。USB接続状態でスイッチを「ON」にすると充電開始。ON/OFFのどちらでもUSB DAC機能は使えるフロントパネルにブルーイルミネーションを装備。電源をONにすると光る。意外にまぶしいフロントパネルの左隅にはゲイン切り替えスイッチも備えている

 「T3 Hj」は37×64.5×10mm(幅×奥行き×高さ)、重量28gとコンパクトで、ライターほどのサイズ。片面がヘアライン仕上げ、半対面がツルッとしたプラスチックになっており、こちらの面をiPodなどのプレーヤーに密着させても、プレーヤー側に傷がつかない。パッと見ると黒いプラスチックに見えるが、電源をONにするとブルーイルミネーションが内部で光り、内部パーツが透けて見える。

 ヘッドフォン出力とアナログ入力は天面に用意。底面には充電用端子を備える。側面にはボリュームダイヤル、反対側の側面にはスライド式の電源スイッチと、2つのゲイン切り替えスイッチを備えている。このスイッチを組み合わせることで、4種類のゲイン切り替えを実現している。

 

T3 Hj側面のボリュームダイヤル背面は一見すると黒いプラスチックだが……
電源をONにすると、青い光で内部のパーツが透けて見える天面。ヘッドフォン出力、アナログ入力を備えているコントロール部。スライド式の電源ボタン、ゲインスイッチが並んでいる

■ さっそく試聴

 試聴には、プレーヤーとして第5世代iPod nanoやiPhone 3GSを使用。音源はロスレス圧縮のファイルを使っている。Dockケーブルはアンプの価格帯を考え、オヤイデの低価格な「HPC-D3.5b」(直販1,512円)を用意した。ヘッドフォンは色付けが少なく、低価格なモデルとしてShureの「SRH840」をメインに使っている。

 

オヤイデの低価格なDockケーブル接続したイメージ。写真のイヤフォンはファイナルオーディオの「FI-BA-SS」

 

オーディオテクニカの「AT-PHA30i」

 比較対象として、オーディオテクニカのリモコン型アンプ「AT-PHA30i」(12,600円)を用意した。まず、iPodのイヤフォン出力と、AT-PHA30iを比較。「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生すると、AT-PHA30iを通した方が音のレンジが拡大。音場の広さも変化し、ヴォーカルの余韻が虚空に消える部分に注目すると、音が広がる範囲が1.5倍ほど広くなっており、非常に心地が良い。

 1分過ぎから入るアコースティックベースも、iPod直出しでは「ウォーン」と膨らんでいた低音が、「ゴーン」と一段低く沈み込み、硬さを持った低音に変化。同時に、中域の響きも量感がアップしている。低域の解像感も上がり、JAZZのビル・エヴァンストリオ「Waltz for Debby」(Take 2)では、6分半過ぎにかすかに聴こえる地下鉄の音がより明確にわかるようになる。ワイン(?)のコルクを開ける「ギューギュー」という音も生々しい。

 ここで、「T3 Hj」+「オヤイデ HPC-D3.5b」に変更。AT-PHA30iと同様に、広大な音場が広がりつつ、全体的なバランスが若干低域に寄り、さらに腰が座った、安定感のある再生音になる。また、個々の音の輪郭が太く、クッキリ描写されるようになり、ドラムのシンバルやパーカッションの短くて細かい音もよく聴き取れるようになる。AT-PHA30iの方がスッキリと遠くまで見通せるサウンド、T3 Hjの方がエネルギッシュなサウンドで、甲乙つけ難い。

 Kenny Barron Trio、「The Moment」から「Fragile」を再生。ルーファスリードのアコースティックベースを聴き比べると、、T3 Hjの低域は量感がとても豊かで、胸に迫ってくる。T3 Hjの方が「楽しい」、「良い音だ」と感じる人が多そうだが、低音の動きの見やすさや、音楽全体の把握のしやすさではスッキリしたAT-PHA30iの方が優れていると感じる面もある。良いライバルという印象だ。

 次に、「Fragile」を再生したままD2+ Hj Boaに変更すると、変えた瞬間に笑ってしまうほど音が違う。大きな違いは低域で、「ゴーン」と沈んでいた低音がさらに沈み込み、「ズズーン」との地響きのようだ。音場の広大さ、静粛さも高く、広い音場の地面を這うように低域が広がるため、音楽の安定度が大きく向上する。また、最低音が下がることで、高域、中域、低域という上下の表現の幅が広がり、結果的に、低音以外の帯域の描写も見通しがよく、音楽から受け取る情報量がより多くなる。

 もう一度T3 Hjに戻すと、重い低音が無くなり、音楽の勢いが減ったように感じてしまう。「さわやかな音」と、良く表現できなくもないが、正直言って「安っぽい音」に聴こえてしまう。

 D2+ Hj Boaの低音の驚きが薄れると、中域の解像感の高さにも気付く。ケニーバロンのピアノにメリハリがあり、音が重なる部分でもクッキリと聴きとれる。マクロスFのサントラから「中島愛/星間飛行」を再生すると、冒頭のセリフの広がる範囲がT3 Hjより格段に広く、続いて入ってくるバックの演奏が、個々の音が独立して、キチンとバラバラに描写されている事がわかる。

 T3 Hjでは、個々の音像の堺が曖昧で、ボリュームを上げると分離がより不明瞭になり、音楽がうるさく感じられる。D2+ Hj Boaは音像が独立し、情報量が多いまま音量がアップするため、音楽が曖昧にならず、“凄み”が増す。意識に対する支配力がアップするため、こうして音楽を聞きながら感想をメモしていても、D2+ Hj Boaの方が音楽に聴き入ってしまい、手が止まってしまう。

 アンプの駆動力が問われる大口径ヘッドフォンだけでなく、イヤフォンでも違いは顕著に出る。そもそもイヤフォンはヘッドフォンに比べて、低域を出すのが難しい。そして、アンプが弱くなるとまっさきに音が痩せるのは低音であるため、逆に、イヤフォンこそ良いアンプでドライブしないと、さらに貧相な音になってしまいがちだ。言い換えれば、「低音が弱いイヤフォン/ヘッドフォンで比べると、アンプの違いがよくわかる」とも言える。

 例えば、低音再生が難しいヘッドフォンにAKGの「K172HD」というモデルがある。強力なアンプでドライブすると、表現力豊かな低音が吹き出すのだが、iPodで直接ドライブすとスカスカな音しかしない気難しい1台だが、「D2+ Hj Boa」でドライブすると、ベースの旋律がゴリゴリと描写され、派手な高域や中域が重なってもかき消されない。「こんな音が出せたのか」と感動する一瞬だ。


■ ケーブル交換も体験してみる 

左が米ALO AudioのDockケーブル
 最後に、「アンプを買った後のお楽しみ」の一例として、より高価なDockケーブルとの比較をやってみよう。用意したのは米ALO Audioのクライオ処理された2万円ほどするケーブルで、D2+ Hj Boa本体よりも高価という組み合わせだ。

 「こんな短いケーブルで違いがあるのか?」と思うところだが、付け替えた瞬間にわかるほど音が違う。音の張り出しがアップし、情報量が増え、より生々しい音が出てくるため、ヴォーカルとの距離が近づいたように感じる。その背後に広がる音場の見通しも向上する。なおかつ、沈み込む低音はそのままで、アコースティックベースの弦の動きがより繊細に描写される。俗に言う“ベールを剥いだような音”という印象だ。

 ケーブルの値段についての捉え方は人それぞれだと思うが、アンプそのものをグレードアップしたような違いはある。また、様々なケーブルに変更することで、音をより好みの方向に近付けるという楽しさもある。オーディオの趣味として楽しい部分でもあり、ポータブルでもそれが楽しめるというのは面白いポイントだろう。


■ まとめ 

ノートPCと組み合わせたところ

 D2+ Hj Boaは、USB DACとしても使えるので、PC内に保存した楽曲を聴く時にも活用できる。ラインアウトも備えているので、普段PCに直接アクティブスピーカーを接続しているという場合は、PCの音のグレードアップにも使える。屋外でも屋内でも利用シーンが多い1台になるだろう。なお、対応するのは16bit/48kHzまでで、24bit/96kHzなどには非対応。しかし、価格を考えると仕方のないところ。

 2機種とも、ポータブルヘッドフォンアンプの中では低価格なモデルだが、イヤフォンから直接聴く音から確実にアップグレードできるという点で、ポータブルヘッドフォンアンプの入門機にピッタリと言えるだろう。

 問題は使い勝手だ。リモコンケーブル兼用のオーディオテクニカの「AT-PHA30i」のように、追加することで使い勝手がアップするモデルは稀な例で、プレーヤー + Dockケーブル + アンプのセットを持ち運ぶというのは、面倒くさいものだ。

 いくらプレーヤーが薄くても、セットでは大きな“カタマリ”になってしまうし、キズの心配などもすると、できれば写真のような、中に仕切りのある小さなポーチなどに収納したい。だが、こうなると楽曲選択のたびにプレーヤーを取り出さねばならず、おっくうだ。プレーヤーをケースに入れ、アンプをゴムでたばねると操作面はいくらか改善するが、iPod touchなどではゴムそのものが操作の邪魔になる事もある。ユーザー側である程度の工夫はどうしても必要だ。 

セットで持ち歩くと、どうしてもかさばってしまうのが悩みどころ小さなポーチにプレーヤーとアンプをいれたところ

 一番避けたいのは、“買ったけれど、面倒になって使わない”事だろう。そのためには、使い勝手や可搬性の低下を乗り越えても“このアンプを通して聴きたい”と強く思えるほど“良い音がする”必要がある。その観点からは、D2+ Hj Boaをオススメしたい。「T3 Hj」のクオリティも高いが、価格差を考えると、一気にD2+ Hj Boaへ行ってしまったほうが満足度は高いだろう。アンプを追加する煩わしさは嫌だという場合は、「AT-PHA30i」のようなモデルの方が向いていると言える。

 現状のポータブルサウンドに不満が出た場合、これまではプレーヤーやイヤフォン/ヘッドフォンを交換するのが当然だったが、ポータブルヘッドフォンアンプは、そこに登場した新しい楽しみ方だ。同時に、ポータブルでも音の良さを追求する“オーディオの楽しさ”を体験できる製品とも言える。そんなヘッドフォンアンプの世界の入口として、オススメできる2製品だ。


(2010年 7月 15日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]