ソニーの17V型液晶テレビ「KLV-17WS1」は、ベガ(WEGA)シリーズ初のワイヤレス映像伝送モデル。チューナや入出力部を搭載した「メディアレシーバー」と、解像度1,280×768ドットのディスプレイ部で構成され、メディアレシーバーとディスプレイ部は無線で接続する。「家庭内の見たい場所に持っていって使う」という、液晶テレビらしい視聴スタイルが気軽にできるため、この分野の製品に注目している人も多いだろう。 受信部をディスプレイに内蔵する点では、東芝の「液晶“FACE”ワイヤレス」などと同じコンセプト。ただしKLV-17WS1では、2.4GHz帯のIEEE 802.11bではなく、5GHz帯のIEEE 802.11aを採用するのが最大の特徴となる。 IEEE 802.11aの伝送レートは最大で54Mbps。IEEE 802.11bのビットレートが11Mbpsだったことを考えると、画質面でのアドバンテージは高い。また、1,280×768ドットの高解像度パネルや、独自の高画質化回路「ベガエンジン」の主要部分を内蔵するなど、強く高画質を謳っている点もポイントだ。
IEEE 802.11aが指向性の面でIEEE 802.11bより不利なのは周知の通り。そのためか、無線アンテナは本体に2つ(前方と後方)に内蔵し、さらに外部接続型のパラボラアンテナが付属している。本体と付属アンテナでは伝送特性が異なり、本体側はワイドエリアに対応し、外付けアンテナでは障害物の透過性を高めているという。伝送距離は見通し約50m(屋内)、一般家庭内で15~20mという。 そこまでしてIEEE 802.11aにしたのは、やはり、IEEE 802.11bを超える伝送レートこだわったためだろう。標準価格で21万円と、最近の液晶テレビとしては高価な部類に入るが、無線の手軽さと画質を両立したい人には要注目の製品といえる。
■ 意外に重いディスプレイ部。メディアレシーバーにD1入力を装備
ただし、ハンドルは片手用なので、女性やお年寄りには少しきついかもしれない。もう一方の手を添えるためのくぼみなどがあればよかったと思う。持ち手が角張っているのも気になった。とはいえ、重くて仕方がないというほどでもない。 また、背面にツルツルした表面処理の樹脂製カバーを装着できるのもユニーク。ディスプレイを手に提げて持ち運ぶと、ふくらはぎにディスプレイが触れてしまうため、このカバーの意義は大きい。ただし、カバーをはめると電源ケーブルを含めたすべてのケーブル類を抜き差しできなくなる。
スタンドは左右90度に回転する。上下15度のチルトにも対応し、パネルをやや下向きに設置することも可能で、寝転んで視聴するときに便利だった。スタンド部が比較的小さいのも設置時に有利。その割に安定感は高い。
メディアレシーバーには、アンテナ入力と、D1、S映像、コンポジットの各映像入力端子を装備している。さらに、ディスプレイ部にもS映像とコンポジット入力を搭載。コンポーネントをディスプレイ側ではなく、MPEGへの変換を行なうメディアレシーバーに搭載したことに、IEEE 802.11a方式への自信がうかがわれる。 外部入力は「コンポーネント」、「ビデオ1」、「ビデオ2」に切り替えが可能で、コンポーネントがメディアレシーバーのD1入力、ビデオ1がメディアレシーバーのS映像/コンポジット、ビデオ2がディスプレイ部の直入力となっている。また、ビデオ1に入力した信号のみ、スルー出力が可能となっている。 接続面では、リモコンコードを使った他機種の制御を可能にする「AVマウス」も使用できる。これにより、外部入力に接続した機器を離れた部屋から操作できる。この種のワイヤレス液晶テレビには不可欠な機能だが、KLV-17WS1ではAVマウスが2個付属。コンポーネント入力とビデオ1に接続した2機種をコントロールできる。 メディアレシーバーは縦置きが可能で、スタンドを外した横置き時でも高さは45mmと低い。また、デザイン面ではフロスト仕上げの前面パネルなど、プラズマベガ「KDE-P50HX1」などのチューナ部や、初代コクーン「CSV-E77」と同じイメージを採用。無線伝送中にはフロントのLEDがオレンジ色に明滅するところなどは、良く似たテイストを感じた。並べて設置するのも面白いだろう。
なお、メディアレシーバーの上部と右側面(縦置き時)には小型のファンが搭載されている。ファンノイズの周波数は高めだが、レベルはとても小さい。そのため、試用中に動作音が気になることはなかった。
■ 無線の有効範囲は良好。高レートでワイヤレス液晶らしかぬ画質を実現
ただし、リビングから遠い2室では、たまに伝送が途切れる。そこで、各部屋の中間点に外付けパラボラアンテナを設置すると、問題なく受信できるようになった。伝送範囲が1フロアのマンションなら、ワイヤレス液晶テレビとしてのポテンシャルを十分発揮できるだろう。もっとも、壁の材質や家具の設置状況によって結果が異なる可能性もあるので、あくまでも一例として参考にしてほしい。 ディスプレイの電源を入れてから、画面が映るまでは15秒ほど。入力切替は約1.5秒かかり、地上波のチャンネル切り替えには1秒弱待たされる。無線の遅延があるため仕方がないが、慣れるまでは気になった。 ワイヤレス伝送時の画質は、さすがにIEEE 802.11b採用モデルとは段違いだった。ディスプレイに直接入力したときの画像と、遠目には区別できない。コントラストが高く、階調も滑らかで、特にDVDビデオの画像は、PCの液晶ディスプレイとはっきりした差が感じられる。以前試用したIEEE 802.11b採用の東芝製20V型モデル「20LC10」でも十分高画質だと感じたが、精細感や原色の出方などで、伝送方式による画質の差をはっきりと感じることができた。 画質調節の項目は、ピクチャー(コントラスト)、明るさ、色の濃さ、色合い、シャープネス、バックライト。パネルの画質的な限界はそれほど高くないようだが、ピクチャー、明るさ、バックライトの組み合わせで、かなり黒浮きも改善できる。輪郭の崩れも、それなりにごまかせた。また、色温度を高/中/低の3段階で切り替え可能。コンポーネント入力以外では、幾分きつめの黒補正も設定できる。 気になったのは若干の残像感。松下電器の「液晶AI」搭載モデルに比べると、明らかに目に付いた。また、ある程度近づくと、微妙に画像を圧縮しているのが確認できる。プレスリリースによると、最大伝送レートは24Mbpsとなっているが、実際にはもう少し低いのかもしれない。 なお、無線伝送モードは、動きの速い映像用の「モード1」と、画質優先の「モード2」を選択できる。確かに、若干モード1のほうがブレが少なく感じる場面があったが、両者の差はあまり感じられなかった。
■ 定価165,000円の15型モデルも 予想以上にしっかり伝送でき、高レートによる高画質を楽しめた。現在、IEEE 802.11bが主流のワイヤレス液晶テレビも、IEEE 802.11a、あるいはIEEE 802.11gへの切り替えが進むと考えられる。現状では高価だが、画質にこだわるなら、IEEE 802.11b採用モデルよりも長く使えそうだ。 また、DVD視聴に適したワイドパネルや、AVマウスを使った他機種の連携など、活用範囲が広いのも利点。DVDレコーダを接続し、別室での視聴・編集を行なってみたが、操作がワンテンポ遅れる以外は快適に使用できた。家族と共に暮らしていると、DVDレコーダの編集のためにリビングのテレビを占領することは難しい。ワイヤレス液晶テレビの有難さも実感できるだろう。 あとは残像感の低減とプログレッシブへの対応、価格の低下を望みたいところ。この機種ならではのプレミアムは理解できるが、標準価格で21万円という値段は、サブテレビとして購入するにはまだ高価だ。17V型の画面サイズをあきらめるなら、165,000円の15型(4:3)「KLV-15WS1」を選択するという手もある。
□ソニーのホームページ (2003年5月8日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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