■ ハイエンドを取り巻く状況 以前Zooma!では、「RD-X3」発売の時に、東芝ハイエンドレコーダのキーマンであるAV設計4部の桑原 光孝氏にお話を伺ったことがある。もうかれこれ2年前の話になってしまうのだが、当時からすでにレコーダの低価格化により、ハイエンドモデルは作りにくい状況になりつつあるということであった。 あれから状況はハイエンドにとって有利になったかというと、まったくそんなことはない。市場では機能は上がるが値段は下がる、また会社の面子を賭けて採算度外視で製品を投入してくるような状況もあり、どうしてもシャーシや主幹プロセッサなど、ラインナップ共通のデバイスを増やしていかなければならなくなった。 その結果、高級機なんだけど見た目はローエンドと同じ、みたいな歪みの構造を産むに至っている。すなわちハイハイこの線から先は別のヒトが買うモノですからねーみたいな余裕のあるハイエンドラインナップが、存在し得ない産業構造となってきたのである。 東芝とて状況は同じだろう。だが今年は東芝創業130周年という記念の年でもあることからか、各分野とも何か新しいことをやっていこうという、非常に元気のいいところを見せている。今回取り上げるハイエンドレコーダ「RD-Z1」も、そんな東芝の会社としての元気の良さを感じさせてくれるスペックとなっている。 まず東芝初の地上デジタルチューナ搭載レコーダであるところは見逃せないが、従来弱いとされてきた録画系を強化し、コピーワンス番組のハンドリングにも力を入れたという、全体的に気合いの入ったモデルだ。 すでにHDが表示可能なテレビがあり、BSはデジタルで見ているものの、地デジはこれから、という半アナ半デジユーザーも多いことだろう。そんな過渡期の現状で東芝が考えるハイエンドレコーダとは、どのようなものだろうか。さっそくチェックしてみよう。
■目新しさはないが落ち着いたデザイン まずルックスから見ていこう。フロントパネルは、肉厚のアルミパネルを配した部分がせり出してきたようなイメージとなっている。下世話な話だが、ホコリが溜まったら非常に掃除しにくいデザインである。ボディ全体にもアルミの素材感をイメージさせる配色となっている。 ボタン類は非常にシンプルで、左側に電源、右側にはドライブのイジェクトと、HDD・TimeSlip・DVDのモード切り替え、再生、録画、停止だけという割り切った仕様となっている。中央のDVDドライブはX5と同機能で、DVD-Rが8倍速、DVD-RAMが5倍速、DVD-RWが4倍速。 HDDは600GBで、デジタルストリームをそのまま記録する「TS録画」と、従来のようにMPEG-2でSDサイズにエンコードして録画する「VRモード録画」で、HDDの領域を分けるようになっている。このTS録画とVRモード録画(DVD-VRモードとは違う意味であることに注意)という2つの考え方は、Z1のダビング機能を理解する上で重要だ。なお初期設定では、TS録画領域はHDDの30%となっている。
DVDドライブの下には、ディスプレイ部がある。チャンネルと時間表示は比較的大きいが、その他のステータスは小さく、離れた場所からの視認性は良くない。またフロントパネルの下部を開けると、左側にUSB端子とB-CASカードスロット、右側にはアナログの外部入力端子とDV入力端子がある。USB端子は、Bluetoothアダプタを付けると、対応携帯電話からリモコン操作ができるようになるという。それよりもリモコンそのものをBluetooth化したほうが使い勝手がいいと思うのだが。
フロントパネルを見てもわからないが、本体の内部的な特徴は、上下に分かれた二段積みのシャーシになっているところだ。下段のベースフレームには電源とドライブ類を、上段のサブフレームにはデジタルとアナログの主要基板配置することで、振動するものと電気系を分けている。 また振動対策としては、アルミ削りだしのベースに、5mm厚のIDSコンポジットを貼り合わせるという、ハード系ソフト系の両インシュレータを組み合わせている。IDSコンポジットは、ハイエンドオーディオでは低域特性を改善するとして、アンプなどのインシュレータとして人気の高い。このあたりの作りは、同社のハイエンドDVDプレーヤー、DS-9500譲りだ。 背面に回ってみよう。リアパネルは東芝ハイエンド機の伝統に基づいて、ステンレスパネルとなっている。また使用ビスも、非熱処理ステンレスだ。これらの素材は今すぐ絵や音がどうこうというものではないが、経年変化に強いということで、末永く安定した性能を維持するための工夫ということである。 電源ファンが大きく飛び出した作りは、以前PanasonicのDIGAでよく採用されていたスタイルだ。また今回は電源端子がほぼ中央にあり、しかも3芯となっている。電源ケーブルを交換して楽しむマニアのニーズに合わせたものだという。 ハイエンド機ということもあって、入出力端子構成は非常に複雑だ。本機には、地上波アナログ、地上波デジタル、BSデジタル、110度CSデジタルの4チューナが装備されている。RF系の入力は内部回路の都合からか、地上波アナログのみ左端、BS/CSデジタルと地上波デジタルの入力は右側に分かれている。
外部入力としてはアナログ3系統、そのうち1つはD1端子と兼用になっている。前面にはDV入力があることはすでに述べた。 外部出力は、AV揃ったアナログ出力が2系統のほか、コンポーネント出力とD3端子がある。コンポーネントは端子がBNCになっているので、放送用コンポーネントケーブルもそのまま使えるようになっている。デジタル音声は光デジタルと同軸デジタルの両方を備える。またAV揃ったデジタル端子として、HDMIを1つ備えている。 またこれらの出力のほかに、アナログのデジタルチューナ出力がある。これはデジタルチューナのスルー出力が得られるもので、HDの映像はSDにダウンコンバートされて出力される。 そのほか、D-VHSなどとの連携用にi.LINK端子、スカパー! チューナとの連動端子、LAN端子、電話線のモジュラーがある。全部接続したらスゴいことになりそうだ。 リモコンについても述べておこう。テイスト的には以前からRDシリーズに付属しているものに近いが、コマ送りボタンを廃して、代わりにジョグダイヤルを装備している。ソフトウェア的に、コマ送りボタンで数値変更などを行なっていた部分はそのままなので、設定操作でもダイヤルを使うシーンもある。ジョグダイヤルの中央部には、ジョイスティックがある。
しかし今回のリモコンで最もコストがかかっているのは、各ボタンの作りではないかと思う。従来リモコンは、いくら外見が立派に見えても、一つ一つのボタンにはグニョッとゴムが潰れたようなクリック感しかないのが普通だ。しかしZ1のリモコンはすべてのボタンに、「クキッ」という確実なクリック感がある。また各ボタンもぐらつきが少なく、形状も横に長くなったことで、非常に押しやすい。 PCのキーボードでもそうだが、こういうスイッチ類はボタンが多くなるほどコストがかさむ。地味なところだが、細かいところまできちんと気が配られている。
■ 多彩な録画とEPG では実際に使っていこう。初の4波対応機ということで、録画やコピー、ムーブなどできることの組み合わせは結構複雑だが、基本的なGUIや考え方は過去のRDシリーズと共通だ。GUIで言えば、設定メニューの作りが刷新された。 一見するとソニー製品のようにも見えるデザインで、機能がまとめられている。各項目を右に辿ると、各サブメニューに移動する。メニューによっては画面から文字が切れているところもあるが、以前の設定画面よりも全体像が把握しやすく、好感が持てる。
次にEPG回りを整理していこう。RD-X5以降はW録+WEPGが売りだったわけだが、今回のZ1では「デジタルWEPG」と称して、事実上トリプルEPGになった。アナログ波、デジタル波、ネットからそれぞれデータを受信し、4波分の番組表を構成する。具体的なデータの対応は以下の表を参照していただこう。
東芝独自のインターネットの番組表、iNETが一番カバーする範囲が広いわけだが、地上波デジタルの番組表だけはデジタル放送から受信する必要がある。 番組表は、すべての放送波が全部一つの表として表示される。これはZ1の一つの特徴ではあるが、これでスカパー!のチャンネルまで加わるとなるとあまりにもチャンネル数が多く、1つの表にまとめてあることが実用的とは言えない。むしろ日本でもアメリカ並みに、番組表というものの一覧性が無意味になってきたと言えるのかもしれない。 効率のいい番組録画には、ジャンル別の番組リストや、検索機能を積極的に利用すべきだろう。だがRDでは未だに自動番組検索や自動番組録画のような機能は実装していない。そのあたりが今後の課題となりそうだ。 また本機は4波に対応しているわけだが、番組録画の重複は、ある程度許される。デジタル放送(地上波、BS、CS)のTS録画と、アナログ系のソース(地上波アナログ、外部入力)のVRモード録画は同時に行なえる。なおデジタル放送をVRモード録画したからと言って、もう一系統デジタル波のTS録画ができるわけではない。デジタルで1系統、アナログで1系統のレコーダだと思えばいいだろう。
デジタル放送に関しては、アナログSDにダウンコンバートされるものの、専用出力端子があるので、そこに別のレコーダを接続することもできる。Z1のTS録画をDVD化するとムーブになってしまうが、同時に保存用として別のレコーダで録ってしまえば、コピーでもムーブでもないわけだから、別途DVDを作成できる。
■ HD録画のハンドリング 東芝初の全波対応機ということで、やはりデジタル放送のHDとコピーワンスをいかに処理しているのかは気になるところだ。RD-Z1は、もちろんHD映像をそのままDVDメディアに書けるわけではないが、理論的にはできるハズ、と言われていた機能をほとんど実現したという意味で、長く記憶されるモデルとなるだろう。
具体的には、HD番組をTS録画したものに対して、従来どおりの手法でチャプター分割ができ、プレイリストが作成できる。それだけではあまりうれしくもないが、このプレイリストをD-VHSにTSのままムーブできたり、CPRM対応DVDメディアにレート変換しながらムーブできるのである。 一方HD番組をVRモード録画した場合は、チャプター分割やプレイリスト作成は同様で、DVDメディアに対しては高速ムーブまたはレート変換ムーブができる。VRモード録画した段階で、SDにダウンコンバートされているからである。ただしMPEG-2エンコードして録画したからと言って、コピーワンスの制限が外れるわけではないので、ムーブになるわけだ。
一方でオリジナルの番組ファイルは、プレイリストを作ってムーブしてしまうと、プレイリストに載らなかった部分だけが残るようになっている。
HD番組に対する編集のレスポンスだが、やはりVRモード録画のファイルよりは反応が重たい。編集ポイントでポーズしても、若干滑って止まる感じだ。またジョグに関しても、速く回せばそれだけ速く動くと言うものでもない。ある程度のスピードを超えると、回した分は無視される。正確に追従させるには、カチ、カチ、カチ...という比較的ゆっくりした速度で回してやる必要がある。 またコピーワンス番組のムーブは、通常のように「編集ナビ」からの作業ではできない。編集ナビではあくまでも「ダビング作業」を行なう場所という位置づけのようだ。ではどこでやるかというと、「見るナビ」の「クイックメニュー」から「レート変換ダビング」を選ぶのである。 しかしここでは、番組の「コピー」となっているので、そのまま実行するとコピーワンスだからダメだと怒られる。もともと機能名が「ダビング」なので、初期状態ではコピーになっているからである。 ではどうするかというと、またここで「クイックメニュー」を押して、「移動に切換」を選ぶ必要がある。これで初めて番組を「移動」することができるわけだ。しかもこの切換手順は、毎回行なう必要がある。
なんだかエラく付け焼き刃のような機能である。オリジナルの番組ファイルそのものを「レート変換ダビング」すると、機能は自動的に「移動」に切り替わっているが、プレイリストの段階では参照元のファイルがコピーワンスかどうか感知してないので、こんなことになるのだろう。 ユーザーが常にコピーワンスかどうかを意識して、自分で作業ルートや機能を切り替えていかないといけないというのは、非常に難しく感じる。コピーワンス番組は自動でムーブとなり、作業も従来同様「編集ナビ」に統合してこそ、デジタルとアナログ放送の融合機というべきだろう。
■ 贅沢な録画・再生回路 ハイエンド機ということで、録画・再生回路についても言及しておこう。レコーダでありながら再生系に注力したのが、RD-X3以降の特徴だが、今回のZ1もXシリーズの最高峰X5と同等の再生回路を持っている。 216MHz/14bitのDACを搭載し、HDもオーバーサンプリングしたのちDA変換されるため、D端子からのアナログ出力も上質だ。さらにDVDの再生も綺麗という特徴がある。本機ではD3出力まで対応しており、HDの番組は当然1080i対応のD3出力で見るべきなのだが、DVDを再生してしまうと自動的に出力がD2に切り替わる。 まあこれ自体はしょうがないとしても、再び録画したHDの番組を見るときには自動的にD3に切り替わらず、D2のままなのである。あれーHDなのになんか絵が眠いなぁと思うとD2で見てた、ということがしばしば起こる。なにせ本体表示部にちっちゃく「D2」と出るだけなので、離れたところからは確認できない。うっかりするとZ1もテレビも本来の能力を発揮しないままずーっと使われ続けるという事にもなりかねないわけである。これはやはり、自動で切り替わったのなら自動で戻すようにして欲しいものだ。 今回はX5譲りの再生機能に加えて、録画系にも手を入れてきた。地上波アナログではGRを搭載し、外部入力に関しては、映像で110MHz/12bit、音声で192kHz/24bitのADコンバータを搭載した。実際に記録されるMPEG-2ストリームよりもずいぶんオーバーサンプリングだが、本機ではAD変換のときのロスを最小限に抑えるために、敢えてハイビットサンプリングを行なっている。その後デジタル信号になったところでレート変換を行なったほうが、最終的にはロスが少ないという考え方だ。 アナログ外部入力をどれぐらい使うかによって、価値観の分かれるところではあるが、例えばスカパー! を綺麗に録りたいという人などには有効だろう。
またデジタルレート変換の良さは、本体だけでも実感できる。HD番組をDVDにムーブしたものに対して、HDの解像感は望むべくもないが、Z1は再生能力も非常に高いこともあって、ガッカリ感の少ない映像となっている。逆に考えれば、現時点で高画質DVDを作りたいと思ったら、Z1を使ってHD番組を録画し、レート変換ムーブでDVDに、というのが現在我々に認められているベストな方法だろう。
■ 総論 プレス発表会の桑原光孝氏の弁によれば、Xシリーズは下からの積み上げでやってきた、しかしRD-Z1は従来のシリーズに捕らわれずに、最初から新規で最高のものを目指した、という。元々桑原氏はX3の時にハイエンド部門からスカウトされ、以降Xシリーズに付加価値を加えるべく設計に携わってきたわけだが、今回は同氏が納得いく形で最初から基本設計に参画できたという自信が伝わってくる。 またコピーワンス主体のデジタル放送で許された「ムーブ」に対して、HDからSDへのダウンコンバートも辞さず果敢に挑戦したという意味で、非常に思い切った製品だと言えるだろう。ただできることはできるのだが、配線や操作なども含めて「簡単か」と言われると、かなり難しい機体だと言わざるを得ない。しかしこれはZ1が悪いというわけではなく、それだけ今のデジタル放送が複雑怪奇な仕組みであることに原因の半分がある。 例えばプレイリストのムーブにしてもそうだが、ケースに応じて自動判定という機能が実装されておらず、ユーザー任せになっている面が多い。これはやはり、まだそういうことができる機体が市場になく、いろいろな使い方の想定と検証がなかなか進まないことの現われと見ることができる。 アナログ放送が2011年まで続くとは言っても、AV市場のステージとしては、すでにその中心をアナログソースからデジタルソースへ移行を完了しつつある。今後ここまでAD変換や、アナログ的な手法にこだわったモデルというのは、もうおそらく出てこないだろう。
□東芝のホームページ (2005年4月6日)
[Reported by 小寺信良]
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