■ ビデオカメラもついに4Mへ CCDの画素がいっぱいあるほうがいいのだという、いわゆる「メガピクセル」ブームは、1CCDのメリットをどのように生かすかという方向性を模索したのち、高解像度の静止画機能へと進化していった。当時としては1M~2M程度でも十分競争力があったのだが、もはやデジカメのほうが4Mピクセル当たり前の世界にまで来るに至って、ビデオカメラの高画素化も最近は息切れ気味のように見える。そんな中にありながら、キヤノンは地道に高画素化に取り組んで、ついに「IXY DV M5」では1CCDビデオカメラ初の4Mピクセルに到達した。現行モデルを見回してみると、4Mピクセル越えを謳っているのは、他に3CCDのパナソニック「NV-GS400K」しかない。このモデルは、画素ズラシ技術により4Mピクセルの静止画を得ることができるが、CCD自体は107万画素である。 そう言う意味では、マトモに400万画素クラスのCCDを搭載したビデオカメラとしては、世界初ということになるだろう。ビデオカメラでもデジカメでも、高画素化することで大変になるのがレンズの質だ。解像度が2倍になれば、従来レベルのレンズをそのままくっつけるわけにもいかない。その点レンズメーカーでもあるキヤノンは、高画素化に関して他社よりずいぶん有利な立場にあるわけだ。 では早速4MピクセルCCD搭載機、「IXY DV M5」(以下 M5)の実力をチェックしてみよう。
■ やけに四角く感じるのは? まずはいつものようにデザインから見ていこう。ぱっと見た感じは、やけに四角いなという印象。普通縦型のビデオカメラというのはもっと縦長という印象があるのだが、M5の場合は高さが低い。縦横比で言えば、まあ縦長には違いないのだが、今までこういうフォルムの縦型カメラを見たことがなかったので、余計に四角く感じてしまうのかもしれない。
ボディカラーは「ソードシルバー」と「ノーブルブラック」の2色。今回はソードシルバーをお借りしている。 デザインコンセプトとしては、凹凸の少ない滑らかな面で構成される「ソリッドデザイン」。同時期に投入されるIXY DV S1もそうだったが、どうもキヤノンのDVカメラはボディ全体での一体感を持たせる方向で動いているようだ。おそらく今年9月に投入される、DVDカメラのボディラインとの差別化のためではないかと想像する。 光学系から見ていこう。レンズは非球面レンズ2枚搭載した、9群11枚のキヤノンビデオレンズで、光学ズームは10倍。画角は、動画撮影時の4:3が44.5mm~445mm、ワイドモードが45.4mm~454mm。静止画撮影時は41.6mm~416mmとなっている(いずれも35mm換算値)。手ぶれ補正をOFFにすることでさらに高画素化する「高解像度ワイドモード」を備えている。
注目のCCDは1/2.8型で、前モデルM3よりも面積は1.47倍になっている。最近のビデオカメラはどんどんCCDが小型化して暗くなっていく傾向があるが、それに反動する動きは歓迎したい。総画素数429万画素、有効画素数は動画時350万画素、静止画時400万画素となっている。もちろん原色フィルタだ。また画素数と面積の拡大で、M3のときよりも感度が約2倍になっており、最低照度9luxとなっている。 前面には静止画用フラッシュとLEDビデオライトが、本体を一周する溝の中に縦に並んでいる。下部にはDC INとAV IN/OUT端子がある。 本体右サイドは、ボディカラーに合わせた薄型バッテリが埋め込まれ、フラットなイメージだ。液晶モニタは2.5型で、12.3万画素。DV S1のようにワンタッチで開く機構はないのは残念。
背面で目を引くのは、斜めにカットされたようなビューファインダ。従来のMシリーズは、ビューファインダがヒップアップした形が特徴だったわけだが、M5の場合はヒップアップした角度はそのままで、本体に埋没させた恰好になっている。つまりまっすぐ正面を見るのではなく、少し下向きに覗くようになるわけである。この設計が、高さが低くなった理由だろう。
センターにはモードダイヤルと録画ボタンがあり、以下ファンクション、フォーカス、露出ボタンが並ぶ。またSDカードスロットとUSB、DV端子が背面にある。 本体左側には、メニュー、ライト、オーディオレベルといったボタン類のほかに、モードダイヤルが付けられている。以前のキヤノンのカメラは、フルオートとプログラムAEを切り替えるスイッチしかなかったのだが、このモードダイヤルの存在が、左側にしてはボタンが多いなーという印象を持たせる。
全体としてのホールド感は悪くないのだが、ハンディで構えているときはこのボタン類の操作をどうしようか悩んでしまう。一応頑張れば右手親指で操作できなくもないが、モードダイヤルなどはカメラを横倒しにして、覗き込まなければ見えない。モードダイヤルは撮影しっぱなしでも変えることができるのだが、そのメリットが生かせないレイアウトだ。 そのほか前方には、ズームレバー、シャッターボタン、動画静止画モード切替レバーが付けられている。また上部にはプリンタなどで直接プリントするためのイージーダイレクトボタンを備えている。 付属品としては、M3のときと同様リングライトアダプタがまた付属しているのはうれしい配慮だ。
■ ディテールの表現力がアップ では実際に撮影してみよう。動画撮影能力としては、ほぼ従来機と同じレスポンスだが、高画素から縮小することでDVサイズの動画を作り出すとあって、細かいディテールの表現力が高い。
遠景のボケ足も十分だが、光の漏れなどのシーンでは、惜しいことに菱形絞りの形がバレてしまうことがある。小型DVカメラの菱形絞りは、もはや伝統とも言えるほど一貫して採用され続けているが、そこを打破できるのはレンズメーカーのキヤノンしかないと思うのだが……。 撮影日は若干曇天気味であったが、CCDの感度が倍になっていることもあって、木陰でもあまり意識せず、S/Nのいい絵が撮れる。ただしあまり絞りを開けすぎると、水面の反射程度でも若干スミアが出てしまう。 NDは最高で1/32だが、晴天下でレンズの味を生かすなら、さらに別途NDフィルタを用意した方がいいかもしれない。むろん逆光に強いビーチモードなどもあるのだが、これだけ感度がいいと、どのモードでもすぐ使える逆光補正ボタンが欲しいところだ。
露出ということに関してもう少し述べるならば、キヤノンのビデオカメラは伝統的に、AEシフトに相当する「露出ボタン」を設けている。これは筆者だけの感想かもしれないが、ヒストグラムも波形モニタ表示もなしに、単に液晶モニタの見た目だけでこういう機能を使うのは危なっかしい。 写真ならば何カットか露出を変えて撮ることも有り得るが、コンシューマの動画撮影は基本的にワンチャンスをベタで撮ってしまうものだ。液晶モニタがマスモニ相当の信頼性を持っているのなら話は別だが、このあたりの静止画カメラっぽいセンスは、それがビデオカメラとして正しいのか、もう一度検討する余地があるように思う。 操作性に関しては、やはり右手側に沢山のスイッチがあるのは、あまり良くない。特にシーンダイヤルの変更は、手探りだけで操作できるようなものでもないので、やはりこの位置にあるのは使いづらい。かといっていつもオートで撮るには、勿体ないグレードのカメラなのである。
また動画、静止画切り替えスイッチは、DV S1のように電源モード切替部にあったほうが使いやすい。どれぐらいの頻度で切り替えるかの問題だとは思うが、頻繁に切り替えるには向いてない場所だ。 また切り替え直後の反応が鈍く、既に絵は切り替わっているのにシャッターボタンを押しても無視されたり、録画ボタンを押しても無視されることがあった点は気になる。 静止画は撮影後のプレビュー画面が出るので、撮れていないときは見た目ではっきりわかるのだが、動画の場合は画面上で録画表示が赤くなるかの違いしかない。回したつもりが回ってなかったということも起こり得るだろう。
■ 4Mピクセルの表現力はさすが 続いて静止画機能を見ていこう。動画とは違うアルゴリズムで処理するキヤノン独特の静止画は、相変わらず発色の良さとキレの良さで他社の追従を寄せ付けない。深度表現も綺麗で、ビデオカメラらしからぬ写真が撮れる。今回のM5では、4Mピクセルの描画力はさすがで、細かいディテールなどはもはやデジカメと遜色ない。ただ色の強い被写体の発色は若干単調になる傾向あり、立体感に欠ける場合があるのは残念。アウトフォーカスした背景のノイズは多少感じるものの、印刷して画素が詰まれば問題なくなるだろう。
今回撮影して感じたのは、オートフォーカスの追従で得手不得手がある点だ。絞り開放でテレ端側で深度を稼いだ場合に、中心の被写体でフォーカスが合って欲しいところが、もう1層奥で合いがちなのである。一言で言えば、「勘が悪い」とでも言おうか。
このあたりは条件によって違いがあるかもしれないが、同じような条件でもDV S1は結構ピシピシと気持ちよく合ってくれたように思う。同じアルゴリズムでも、レンズや焦点距離の違いでこういう差が出てくるのだろうか。 とりあえずマニュアルでフォーカスを合わせたのちオートに切り替えると、そのあたりで合わせてくれる。高画素化するほどフォーカスはシビアになってくるので、注意したいポイントだ。
■ 使い出があるスペシャルシーンモード 今回は運良く地元の花火大会とタイミングがうまく合ったので、スペシャルシーンモードの「打ち上げ花火」を初めて試すことができた。ほとんど夏専用というか、年に1度使うかどうかの機能ではあるが、実際に試してみるとその効果は絶大であることがわかった。花火をオートやプログラムAEで撮ると、暗闇の空に向かって増感してしまい、花火が上がると絞るといった動作を繰り返してしまい、いかにも素人くさい映像になる。またオートフォーカスもどこに合わせるべきか、フラフラしてしまう。 一方ナイトモードでは、増感の問題は解決するものの、今度はフレームレートが大幅に落ちてしまうため、花火の動きがコマ送り状態になってしまって、色や動きの変化を上手く捉えられない。 だが打ち上げ花火モードでは、漆黒の空にくっきりとした花火の輪郭が浮かび上がってくる。どうも少し残像系のエフェクトが少し入っているようで、花火の尾を引く変化が肉眼で見るよりも長く、ゴージャスに感じられる。コマ数も滑らかで、形や色の変化も申し分なく捉えている。
もちろんこの機能は、静止画でも使うことができる。シャッターチャンスとアングルだけでここまで綺麗に撮影できるというのは、驚異的だ。思わず「うひゃーオレって写真うめー!」と感動してしまう。実際はカメラが全部やってくれるわけだが。
いきなり打ち上げ花火モードしか使わなかったら、まあこんなもんかで終わっていたかもしれないが、通常モードと比べてみるとその差は明らかだ。特に残像系エフェクトは、普段あまり使わないため、自分でマニュアルで設定していってもここまでは思いつかないかもしれない。 積極的に自分で絵を作っていくのだという、カメラメーカーならではの文化がよく表われている部分だろう。
■ 総論 IXY DV M5は、ビデオカメラ初の4Mピクセル単板機ということで、静止画に重きを置く人には魅力的なモデルとなっている。気になっていたレンズも上手く高画素化に追従しており、絵柄的には2メガピクセル機が順当に倍になっている感じがある。また各種スペシャルシーンモードも、シチュエーションをしぼり込んでよく練り込まれており、自分で頑張って設定するよりも格段に楽ができる。そう言う意味では、撮っていて楽しいカメラだ。 名実ともにどこに出してもおかしくない写真DV機であり、機能的にもいいカメラだと思う。だがそれだけに、細かい部分のレスポンスや、使い勝手で惜しい部分が目に付きやすい。ボタンの形状やダイヤルの位置など、ボディを小さくまとめたがためのしわ寄せ部分が、どうしても気になってしまう。 デザイン面では、確かに液晶側は凹凸をなくしたソリッドデザインと言えるが、ひっくり返したらボタンが山のように付いているというギャップに面食らってしまうのだろう。前回シンプルなDV S1を触っていたため、余計そう思うのかもしれない。 小さくても高機能で、いろんな設定に変えて楽しみたい人にはピッタリだが、オートでしか撮ったことがないというタイプの人には、宝の持ち腐れになる可能性もある。まあそのような人のためにDV S1があるという事なのかもしれない。 個人的には、このCCDを使ってレンズ回りに余裕を持たせた横型機、そして操作系も納得できる、「FV M50」あたりの型番に相当するモデルを作ったら、相当いいカメラになると思うのだが、どうだろうか。
□キヤノンのホームページ (2005年8月10日)
[Reported by 小寺信良]
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