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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第231回:ついに600万画素到達の三洋「Xacti C6」
~ 唯一無比の動画デジカメはサンヨーを救えるか ~


■ 長いトンネルの向こうに

 長い長い経済不況のトンネルの向こう側にようやく光明が見え始めたとされる昨今ほど、企業の明暗がはっきり現われる時期はないだろう。11月18日発表の、三洋電機が総合家電メーカーから脱却のニュースは、コンシューマ事業の厳しさを改めて実感させた。

 AV事業も不採算部門に上げられていることからか、一部小売店では三洋製品の在庫処分などが行なわれたようで、我々AVファンにとっても複雑な思いだ。

 そんなサンヨー製品の中でも、比較的好調ではないかと思われるMPEG-4ムービーデジカメの新機種、Xacti C6こと「DMX-C6」が11月下旬に発売となった。今年3月に発売されたC5の後継機ということで、CCDの画素数が約508万画素から約600万画素に強化、そのほか感度強化なども行なわれているという。

 価格は75,600円となっているが、すでにネット上では4万円台半ばまで下がってきており、過去に高くて買えなかった人にも買いやすい状態になってきている。

 動画撮影中に高解像度の静止画が撮影できるデジカメの元祖、Xacti C6(以下C6)はどう進化したのだろうか。早速テストしてみよう。


■ ほとんどC5なC6

 今回発売になったC6には、カラーバリエーションがある。ビンテージシルバー、スパークリングルビー、オニキスブラックの3色だが、今回はビンテージシルバーをお借りしている。

 見た目はほとんど前モデルであるC5と同じで、強いてあげれば側面に「6megapixel」と書いてあるぐらいか。カラーはビンテージシルバーと言いながらも、実際にはシャンパンゴールドに近い。

見た目はC5とほとんど変わらない ポイントは「6megapixel」のロゴ

レンズの性能もまったく同じ

 新モデルといえば普通はデザインなども一新して欲しいところだが、ここまでデザインが変わらない新モデルも珍しい。C5のデザインがそれだけ完成度が高かったとは思えず、マイナーチェンジモデルという印象が強いのは残念だ。また、かつてのC4をマイナーチェンジした「C40」も発売されている。デジタルカメラだと筐体は変えずに画素数を増やしただけというモデルチェンジも少なくないとはいえ、Xacti Cシリーズも新ラインナップを展開しようにも新しい金型を起こす金もないのか、とまではさすがに考えすぎだろうが、なんだか気の毒になってくる。

 レンズは光学5倍ズームレンズで、手ぶれ補正OFF時の画角は35mmフィルム換算で38mm~190mm。手ブレ補正ON時にはもう少し画角が狭くなるが、具体的なデータは公開されていない。F値はワイド端3.5、テレ端4.7という点は、C5からまったく変わっていない。




撮影モードと焦点距離(35mm判換算)
モード ワイド端 テレ端
手ぶれ補正なし
【静止画】

38mm

190mm
手ぶれ補正あり
【動画】

 CCDは1/2.5型、総画素数は637万画素にアップ。電子式手ぶれ補正は動画にしか効かないという点などもC5と同じだ。ただ今回は、動画撮影時に撮影感度を大幅にアップさせる「9画素混合技術」を搭載しており、暗部に強い動画機と言えそうだ。

 液晶モニタは2.0型の半透過型低温ポリシリコンTFTカラー液晶で、内側に電源ボタンがある作り、また液晶モニタを開くだけですぐ撮影可能になる点なども、過去のモデルから継承している。

 背面のボタン構成などもC5と同じ。バッテリは初代C1、つまり2003年からずっと同じものを採用している。三洋電機といえば、二次電池分野ではリーディングカンパニーであるだけに、同サイズで容量の大きな新バッテリを期待しているのだが、なかなかそこまでは手が回らないと見える。最先端部門のウリになる技術が、自社製品に応用できないという組織構造は、さすがにマズイだろう。

液晶格納部の電源ボタンやダイヤカットのアクセサリも同じ バッテリも2年前からずっと同じ

 充電池がらみということでは、今回の製品では大きな変化がある。過去Xactiでは、ACアダプタを兼用したバッテリ充電器を付属させてきた。これとクレードルによる本体充電を組み合わせると、連続で2バッテリが充電でき、非常に便利だったのである。

 だが今回のACアダプタは、バッテリ充電機能を備えておらず、ごく普通のものに変更された。コストダウンのためか退化してしまっているのはなんとも残念だ。

 これに合わせてか、DCコネクタ部の形状も、独自形式から汎用の丸形に変更されている。だがこれは、付属の小型接続アダプタの電源入力もこれに合わせて丸形になっていることから、市販のデジカメ用外部バッテリが利用できるようになるだろう。実際に筆者手持ちの単三電池を使用するタイプの汎用アダプタで駆動することができた。ただ接続アダプタを装着すると、物理的に三脚が使用できなくなる点は痛し痒しだ。

ACアダプタは、充電機能がなくなって普通の形に もちろんクレードルは付属 接続アダプタ経由で市販外部バッテリも使えるだろう


■ そのままで縦撮り可能な静止画

 では実際に撮影してみよう。いつもビデオカメラでは動画撮影から見ていくところだが、今回は静止画のスペックアップがメインということで、先に静止画のほうを試してみたい。

 今回のC6ではCCD画素が増えたこともあり、解像感の向上が気になるところだろう。撮影モードには、6M低圧縮と6M標準圧縮モードがある。さすがに6Mもあれば細かいディテールなどは十分で、カメラサイズから考えれば、かなり満足できる静止画が撮れる。

静止画サンプル
画質モード 記録解像度 サンプル
10M 3,680×2,760ドット
6M-H 2,816×2,112ドット
6M-S
3M-縦 1,536×2,048ドット
0.3M 640×480ドット

 6Mの上には、ピクセル補間による10M撮影モードがある。前作C5でも10M撮影モードはあったが、今回のC6はよりCCD画素数が増えているため、10M撮影時でもあまりアラが目立たなくなっている。

 さらに今回は新たに、「縦撮り」機能が付いた。一般にビデオカメラライクな形状では、縦の写真が撮りづらい。特にXactiではレンズ光軸に角度が付けられているため、その撮りづらさが一層増していたのである。

 今回の縦撮り機能は、画素数は300万画素に減ってしまうものの、カメラを正体したままで縦構図の写真を撮ることができる。このモードでは、撮影時にモニタ上でも縦位置で写る範囲を確認することができる。モニタ表示上では、見える範囲が単に狭くなっているだけなので最初は撮りづらいが、ビデオ用三脚に付けたままでも縦で撮れるというのは便利な機能だ。

縦撮りモードではモニタ上でも構図がわかる 横では若干間延びした構図だが…… モードを変えるだけで縦撮りできるのは便利

オプション設定で画質調整が可能

 ただこのモードでは、若干画像処理プロセスに時間がかかるのか、画像書き込みが完了するまで多少時間がかかる。通常の写真撮影のようにテンポ良く撮れるわけではないことは注意しなければならない。

 オプション機能の中には、画質調整機能がある。ビビッドやソフトなどの組み合わせで4つのモードから選ぶことができる。こういう機能はもっと前面に出てきてもいいと思うのだが、通常使用するメニューよりもさらに奥のシステム設定のようなところにあるため、手軽に変更できないのは惜しい。



画質調整機能サンプル
ノーマル
ビビッド
ソフト
ソフトビビッド

 従来Xacti Cシリーズの弱点として、静止画が暗部に弱いという点が上げられるが、そこは今回若干改善されたように思える。かなり暗い場所でも、ノイズ感が少なく、色味はかなりしっかり出るようになっている。

かなり暗い木立の中で撮影。ノイズリダクションはOFF 同シーンをノイズリダクションONで撮影

 ただ光量が足りないとシャッタースピードがどんどん遅くなってしまい、どうしても手持ちでは手ブレが多くなってしまう点は変わらない。以前から、静止画にも手ぶれ補正機能を設けるべきと主張しているのだが、今回のC6もその機能は見送られている。

 またフラッシュ撮影が苦手なのも、過去のモデルから改良されていない。夜など真っ暗なところでの撮影はまだちゃんとしているのだが、中途半端に暗いところで補助光として発光するぐらいのときが、結構ダメなのである。

ISO 50ではシャッター1/2でしか撮影できないシーン フラッシュ撮影では絵にならない


■ 暗部に強くなった動画

 では動画撮影を見ていこう。ビットレートは最高で3Mbpsとそれほど高いわけではないが、ディテールもまずまずの絵が撮れる。

動画サンプル
画質モード 記録解像度 フレームレート ビットレート サンプル
TV-SHQ 640×480ドット 30fps 約3Mbps
ezsm10.mp4 (2.71MB)
TV-HQ 約2Mbps
ezsm11.mp4 (2.89MB)
TV-S 320×240ドット 約760kbps
ezsm12.mp4 (864MB)
WEB-HQ 15fps 約510kbps
ezsm13.mp4 (1.28MB)
WEB-S 174×144ドット 約380kbps
ezsm14.mp4 (1.28MB)

 TV-S以下のビットレートは非公開となっているが、撮影した動画で実測してみると、上記のようになる。以前のC5よりも若干ビットレートを上げているようだ。

動画サンプル

ezsm15.mp4 (22.1MB)
TV-SHQモードで撮影した動画サンプル

 しかし昨今はPanasonic「SDR-S100」や、東芝「gigashot V10」など、コンパクトながらもMPEG-2ベースでキッチリビデオカメラ並みの絵を撮る製品も出始めている。そういう意味では、Xactiの動画撮影能力は、さほど劇的には進歩してこなかった印象を受ける。

 例えばズームにしても、Xactiの場合はゆっくりズームできるほど、ズームレバーにストロークがない。またズーム途中は露出調整が止まってしまっており、ズームレバーを離すとそこで改めて露出を取り直すというビデオカメラとしては致命的とも思える欠点は、この2年間まったく改善されていない。

 動画でのC6のウリは、なんといっても撮影感度を9倍にアップさせるという「9画素混合技術」だ。これは動画の1画素を作り出すのに、その周囲にある9つの画素の絵も混合することで輝度を稼ぐという仕組みだろう。


動画サンプル

ezsm16.mp4 (6.14MB)
ISO 50、F3.5でシャッタースピード1/8程度の暗いシーンだが、動画でもS/N良く撮れている

 理屈はともかく、静止画でISO 50だったものが、動画ではISO 450相当になるということである。ただしメニューでの表示は、静止画に準じてISO 50~400となっている。

 試しに昼間でも薄暗い林の中で撮影してみたが、S/Nなどもよく、全く普通の映像として撮影できている。さすがに照明なしの暗闇が撮れるほどの感度ではないが、暗いところは暗いなりにノイズ感なしで撮れる、といった感じである。



■ 面白い技術だが……

60fpsで再生する「スムーズ再生」を装備

 再生時の新機能は、独自技術で60fps再生ができるという「スムーズ再生」がある。これは30fpsで撮影した動画から中間のコマを作成し、60fpsとして再生できる機能だ。ある意味これも、画像処理による補間技術である。

 再生モードのメニューでこの機能をONにすると、60fps再生が可能になる。ただ60fpsの動画ファイルが生成できるわけではなく、あくまでもC6で再生するときのリアルタイム処理である。したがってこの機能のサンプル画像を取り出して掲載することができない点は、ご了承願いたい。

 この機能、フィックスの画像ではあまり意味がないが、PANなどの映像に効果がある。特に液晶モニタはプログレッシブ再生しかできないため、IP変換がヘボいと動きの速い部分はコマが細かく行ったり来たりするような、チラチラした映像になることがある。60fps再生機能は、このようなちらつきを押さえる有効な手段だ。

 その効果は絶大で、まるで写真が横にスライドしていくかのような滑らかな動きが楽しめる。C6のモニタでもその効果は確認できるほか、外部出力端子を使って液晶テレビに繋いだときにも、同様の効果が体験できる。ただ、ある程度の速度までは効果があるが、動きが速くなると処理が追いつかなくなるようで、通常の30fps再生と変わらなくなるようだ。

 また、手持ちで歩きながら撮影したような映像では、手ブレした部分の動き部分をさらに補間してしまうため、余計細かく映像が手ブレしているような映像になってしまう。手ブレは、ある程度絵が流れたほうが、まだ見やすいものなんである。

 だがどうせ60fpsの画像を生成できるのであれば、ファイルに落として30fpsで再生し、滑らかな1/2スローモーションが作成できます、ぐらいの機能はあっても良かったのではないだろうか。またせっかくフィールド画像からフレーム画像を作る技術があるのならば、液晶テレビで綺麗に再生できるようD2出力を付けるとか、面白い応用はいろいろできるはずだ。

 後処理で手ブレ補正が可能な付属ソフト「Motion Director SE 1.1」もそうだが、三洋はなかなか高い画像処理技術を持っている。だが今ひとつなんというか、コンシューマの実製品に対して効果的な使い方というのができていないような気がする。


■ 総論

 これまで、初代C1を取材時に愛用してきたこともあり、Xacti Cシリーズには思い入れもある。そんなこともあって、新モデルが出るたびに取り上げてきたが、今年3月にC5が出たときあたりから、どうも雲行きが怪しくなってきた感じがあった。

 確かにXacti C1がデビューした2年前なら、動画も「そこそこ撮れる」で、十分魅力的だったのだ。だがこの2年の進化が「手ぶれ補正」の追加と「9画素混合」だけでは、さすがに他社に抜かれてしまうだろう。いや静止画の画素数は年々アップしてはいるのだが、それは同時に「ユニークなマルチカメラ」という存在から、「普通のデジカメ」の方向に振ってしまったような結果になってしまっている。

 さらに同社得意のバッテリ回りの使い勝手も継承どころか退化してしまい、初期Xactiの持っていた、ユーザーの利便性を徹底的に追求するという思想がなくなってしまったのは、いかにも残念である。欲を言えばキリがないのはわかっているが、非常に多くの可能性を秘めている製品なだけに、このままでは惜しい気がするのである。

 ただ、初代からのコンセプトであった動画撮影と同時に高画素静止画が撮れるという機能は、確かに便利なことは間違いない。そう言う意味では、Xacti Cシリーズは、マイナーアップデートを続けながら存続している、長寿モデルという見方もできる。

 日常的なスナップ用として使ったり、取材や会議のときに絵と音、そして静止画メモと1台3役で利用する分には、製品が枯れている分、安心してお勧めできる製品だ。

 三洋が総合家電メーカーから外れてしまうのは残念ではあるが、同社には他社にはないユニークな技術が沢山ある。Xacti Cシリーズで培った技術もその一つだ。今後Xacti Cシリーズが製品として続いていくのかは不明だが、「デジカメの動画とはこうあるべき」という方向性を示した、マイルストーン的な製品であることはもはや疑う余地はない。

 三洋電機がいつの日かまた、総合家電メーカーとして再出発する日が来ることを、心から期待したい。


□三洋電機のホームページ
http://www.sanyo.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0510news-j/1020-2.html
□製品情報
http://www.sanyo-dsc.com/products/lineup/dmx_c6/index.html
□関連記事
【10月20日】三洋、600万画素CCD搭載のMPEG-4カメラ「Xacti C6」
-感度向上の「9画素混合技術」採用。60fps再生対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051020/sanyo.htm
【3月9日】【EZ】新デザインを採用した「サンヨー Xacti C5」 ~ このスリム化は是か? 非か? ~ http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050309/zooma196.htm
【3月1日】三洋、手ぶれ補正搭載のMPEG-4カメラ「Xacti C5」
-508万画素CCD、2型液晶搭載。デザイン一新
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050301/sanyo1.htm
【2004年8月25日】【EZ】前モデルの問題点を駆逐した「Xacti C4」
~より使い勝手が上がったSDビデオカメラ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040825/zooma168.htm
【2004年8月23日】三洋、手ぶれ補正搭載のMPEG-4カメラ「Xacti C4」
-動画/静止画同時記録対応。液晶も大型化
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040823/sanyo.htm
【2003年12月8日】三洋、MPEG-4カメラ「Xacti C1」の最新ファームウェアを公開
-動画撮影時のAF安定性の向上、など
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031208/sanyo.htm
【2003年10月29日】【EZ】ビデオカメラの新常識!? 「SANYO Xacti C1」
~底力を見せつけた入念設計に脱帽!
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031029/zooma131.htm
【2003年10月1日】三洋、動画撮影中に静止画記録ができるMPEG-4カメラ
-VGA初の30fps記録対応。手ぶれ補正ソフトも付属
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031001/sanyo.htm

(2005年11月30日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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