2007年発売の最新D7世代パネルを採用した透過型液晶プロジェクタを、LP-Z2000、EMP-TW2000と取り上げてきたが、最後に紹介するのがパナソニック「TH-AE2000」だ。 同世代パネル、同解像度、スペックのよく似た三機種の「D7御三家」だが、同じ素材を利用しているだけに、各社の設計思想の違いが色濃く出ていて面白い。
■ 設置性チェック ~設置仕様はTH-AE1000と同じ
直線基調、そして奥行きを抑えた横長ボディといった、TH-AE1000の特徴的なボディデザインは、ほぼそのままTH-AE2000へと受け継がれた。外形寸法は460×300×130mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約7.2kgで、前モデルと同じだ。 奥行きはD7搭載製品では最も短いので、本棚の天板などに設置する「オンシェルフ設置」の際には好都合。ただし、吸気を背面から行なうため、あまり壁に寄せて設置はできない。ボディデザインに変更がないため、天吊り設置用金具も、AE1000と同じ低天井用「TY-PKE1000S」(47,250円)が利用できる。 投射レンズの基本仕様にも変更は無く、光学2.0倍ズームレンズ(F=1.9-3.2,f=22.4mm-44.8mm)を採用している。
レンズシフトは手動マニュアル式だが、ズームとフォーカスは電動リモコン式。電動ズーム/フォーカスレンズ採用機が増えているが、D7搭載機としては、TH-AE2000が唯一このフィーチャーを採用している。この点は評価したい。 100インチ(16:9)の投射距離は最短約3.0m、最長で約6.0m。6畳の部屋でも最大画面サイズが得られ、16畳の大きめな部屋の最後部に設置しても、狙ったサイズの画面が出せる。 使ってみてやはり便利なのは電動リモコンフォーカス機能。スクリーンに近寄って最良のフォーカスが得られるまで調整を詰めることができる。後述するが、ややフォーカスむらと色収差が出ているので、画面全体でそれなりのフォーカス感を得るためには、「画面に近寄ってのフォーカス調整」は必要不可欠。TH-AE2000にとっては便利機能というよりは必要機能といえる。 レンズシフト機能は、手動マニュアル式。本体正面天板に配された二つのダイヤルを回転させることで垂直、水平のシフト量を調整できる。ダイヤルの回転はきわめて軽いが、微調整も行ないやすい。それでいてダイヤルのロックは堅牢で、レンズ自重でずれてきてしまうこともない。天板にダイヤルを備えているため、上下逆転での天吊り設置時でもダイヤルの回転はできる。
シフト量は左右±40%、上下±100%に対応し、こちらもD7御三家としてはほぼ横並びのスペック。ただし、上下(左右)に最大に動かした場合は、左右(上下)にレンズシフトはできない。便利なのはやはり上下±100%のシフト量。TH-AE2000をオンシェルフ設置しても下シフトすれば床置きタイプのスクリーンにも投射でき、リビングテーブルに台置き設置しても上シフトすれば天吊りしたスクリーンに映像を収められる。 吸排気のエアフローは前述したように背面吸気の前面排気。投射レンズ左右には大胆に刻み込まれた排気スリットがあるが、投射方向への光漏れは無い。排気は左右斜めに吹き出すので映像が揺らぐようなことも無い。 稼働音は、ランプ「エコ(低輝度)モード」で22dBを達成。実際これはすばらしく、ノーマル(最大輝度)モードでも十分静かで、1mも離れればファンノイズはほとんど聞こえない。動作音はLP-Z2000(19dB/シアターブラック)よりは若干大きいが、EMP-TW2000よりはだいぶ静かという印象だ。 光源ランプは165W UHMランプで前モデルと同一。光源ランプは同じだが、公称最大輝度はTH-AE1000の1,100ルーメンから36%アップの1,500ルーメンへと引き上げられている。交換ランプ「ET-LAE1000」の価格は26,250円。D7搭載機の中では一番安価で、ランニングコストでは一歩抜きんでている。ちなみに消費電力は、3製品で大きな差はなく、約240~252Wとなっている。 電動ズーム/フォーカスや、優れた静粛性、安価な交換ランプ、このあたりが競合に対するアドバンテージ、といえる。
■ 接続性チェック ~D端子を省き、HDMIを3系統に強化
ボディデザインは同一だが、接続端子に関してはマイナーチェンジが施された。 まず、特筆すべきなのは、AE1000と比較してHDMI入力が1系統増え、3系統となった点。HDMIはver.1.3a規格に準拠し、x.v.Colorにも対応する。 アナログビデオ系入力では、コンポジット、S映像が各1系統なのはAE1000と同じだが、コンポーネントビデオ系に変更が加えられた。AE1000では、コンポーネントビデオ入力(RCA)と、D5入力端子を1系統ずつ備えていたが、AE2000ではD5入力が廃止され、コンポーネントビデオ入力(RCA)が2系統になった。D端子の普及率が低い世界市場を考慮した変更かもしれないが、D端子はそのままにしておいて欲しかった。 PC入力端子はアナログRGB入力(D-Sub 15ピン)端子が一系統のまま。DVI端子はないが、HDMI端子にDVI-HDMIを利用して変換して接続することもできる。実際にWindows VistaでGeForce8800GTXを利用して接続しドットバイドット表示を確認した。ただし、その場合、「画面位置の調整」メニューにて「オーバースキャン」項目を「0」設定にする必要がある。
さらに補足すると、標準ではHDMIのカラーモード(階調レンジ)「HDMI信号レベル」がビデオ向けの「通常」(16-235)設定となっているので、PC接続ではこれを「拡張」(0-255)設定しないと黒浮きと白飛びが発生してしまう。PLAYSTATION 3などのゲーム機との接続にもオーバースキャンとカラーモードについては留意する必要がある。 この他にPCからのリモート制御するためのRS232C端子も備えているが、外部機器連動用のトリガ端子はない。
■ 操作性チェック~「ここまでやるか」の調整機能 2画面調整機能、波形モニタによる自動階調調整を新搭載 リモコンもTH-AE1000と同一のものを採用している。
十字キーの上にある[機器選択]ボタンを押すと液晶画面に「PJ」(TH-AE2000)、「DVD」(ビデオレコーダ)、「VCR」(ビデオデッキ)、「TV/TNR」(テレビ/チューナ)、「AMP」(アンプ)、「USER1」「USER2」「USER3」(その他のユーザー機器1~3)の表示が現れ、操作対象機器をこの8カテゴリから選択できるようになっている。選択後はリモコンの上半分にレイアウトされている「チャンネル操作」ボタン、「音量調整」ボタン、各種再生制御ボタンを利用して、その対象機器をコントロールが可能となる。 操作対象機器はパナソニック製だけでなく、大手メーカーの主要製品に対応している。商品セットには「リモコン操作ガイド」というリモコン操作専用マニュアルも付属し、ここには各メーカーの各カテゴリ製品のプリセットコードが記載されている。実際に手持ちの機器で試してみたが、デノンのDVDプレーヤー「DVD-2910」は操作が行なえたが、東芝のHD DVDプレーヤー「HD-XA1」は操作できなかった。ただし、プリセットコードが使えなかった場合でも、その機器のリモコンの赤外線発信コードをTH-AE2000のリモコン側に学習させていけばちゃんと使えるようになる。すべてのボタン操作を学習させていくのは結構な手間ではある。 USER1~3は任意のカテゴリの機器の操作系を割り当てられるいわばリモコンのユーザーメモリ領域となっている。外見が「いかにも学習リモコン」という風情なのでそちらにばかり目がいってしまうが、プロジェクタ用リモコンとしてのポテンシャルも高い。蓄光式の[ライト]ボタンを押すと液晶画面、そしてすべてのボタンが自照式にライトアップされる。ボタンの文字表記は大きくて見やすく、暗がりでの視認性もまずまずだ。
電源をオンにしてからHDMI入力の映像が表示されるまでの所要時間は約11.5秒。これはAE1000の半分以下で、D7搭載3製品の中では最速だった。「スタートアップロゴ」の表示設定をオフにした方が表示までの待ち時間が少ないようだ(ただしつき始めはちょっと暗い)。 リモコン上には丸い電源ボタンと四角い電源ボタンがあるが、後者の四角電源ボタンは学習リモコン機能を使ってTH-AE2000以外の機器の電源制御を行なうためのもの。
入力切換操作は[入力切換]ボタンによる順送り切り換え式。親切なのは[入力切換]ボタンを押した瞬間に背面の接続端子パネルを描いたイラストと黄色いマーカーが出現し、どの接続端子からの映像を選択するのかを視覚的にわかりやすく選択できるところ。入力切換所要時間はHDMI→Sビデオで約1.1秒、Sビデオ→PCで約1.1秒と、かなり高速であった。 学習型リモコンの液晶画面直下の3つのファンクションボタンはプロジェクタの任意の操作を直接行なうショートカットキーとして利用でき、ここを使用頻度の高い入力系統に割り当てることで、希望の入力に直接切り換えることも可能となる。これは使ってみると意外に便利。接続機器数が多く入力切換の使用頻度のユーザーは積極活用したい。 アスペクト比切り換えも[アスペクト]ボタンを使っての順送り切り換え式。用意されているアスペクトモードは以下の通りだ。
HフィットとVフィットはTH-AE2000ならではの表示モードでとてもユニークだ。アスペクト比の切り換え所要時間はほぼゼロ秒。押した瞬間に切り替わる。 プリセット画調モードの切換も[映像モード]ボタンによる順送り切り換え式。画調モードの種類は「ノーマル」、「ダイナミック」、「シネマ1」、「シネマ2」、「シネマ3」、「カラー1」、「カラー2」の全7種で多め。画調モードの切換所要時間はほぼゼロ秒。
この他、操作系で特徴的なのは[レンズ]ボタンによる電動フォーカス、電動ズーム機能だ。[レンズ]ボタンを押すとレンズ操作モードに移行し、十字キーの上下でフォーカス調整、左右でズーム調整が行なえるようになる。テストパターンは、パターン1と2の2種類が用意されているが、投射映像を見ながらの調整も可能だ。 ユーザーが調整できる画調パラメータは「ピクチャー(コントラスト)」「黒レベル(ブライトネス)」「色の濃さ」、「色あい」、「シャープネス」、「色温度設定」など。色温度はAE1000同様に、基準値の0から上下させる設定方法で、何K(ケルビン)となっているのかが相変わらずわかりにくい。ケルビン設定の調整方式も欲しいところだ。 基本画調パラメータの調整以上の調整を行ないたいという調整マニアのために「アドバンスメニュー」という高度な調整モードも用意されている。ここではガンマカーブ、コントラスト、ブライトネスを各RGBに個別に調整できるようになっており、かなり細かな調整が行なえる。さらにはノイズリダクション、ディテール強調といった映像プロセッサ関連の調整パラメータまでをいじることが可能。一般ユーザーがここにまで踏み込む機会は少ないとは思うが、調整自由度がかなり高いことは確かだ。
「シネマ・カラー・マネージメント」も搭載。リモコン最下部右の[COLOR.M]ボタンを押してこのモードを呼び出すと表示画面が静止し、画面上にカーソルが出現。これをリモコンの十字キーで操作して、調整したい色のピクセルを選択。そこから彩度(派手さの調整)、色相(色の傾向の調整)、明度(輝度の調整)を調整していく。分かりやすいのは調整前と後の色を横並びにして比較しながら調整できるところだ。 調整結果はシネマ・カラー・マネージメント専用のユーザー1~3の3つのプロファイルに記憶させることができる。1プロファイルに付き調整ポイントは8個まで記録させることが可能。なお、この3つのプロファイルは全入力系統で共有されている点には留意したい。シネマ・カラー・マネージメントによる調整は、調整した色系統以外の色に影響を及ぼさない。だから、人肌の肌色、植物の緑、海や空の青という具合に、それぞれのマテリアルを好みの色に追い込んでいくことが出来るのだ。 この「シネマ・カラー・マネージメント」に加え、さらに高度な調整機能が搭載された。それが「2画面調整機能」だ。 「映像の調整」メニューの「2画面調整」を選択して「エリア選択」を実行すると960×960ドットの正方形ボックスが出現。これで表示映像の任意の領域を切り出すことができ、この切り出した映像は左右に並べて表示される。あとは通常通り調整を行なえばOK。ユーザーが調整した結果は、右側の映像に反映され、左側は調整前の映像が表示され続ける。映像の調整結果をカラーボックスだけでなく、映像全体の調整前後を見ながら調整できるというわけだ。ここまで凝った調整機能は他の機種で見たことがない。また、調整対象領域が調整前と後の映像で左右離れてしまっている場合には、調整前映像に対して鏡像(左右反転)表示までが選べる。この至れり尽くせりの調整機能はすごい。
TH-AE1000から搭載された「波形モニタ」機能もさらにパワーアップしている。 「波形モニタ」機能とは、任意の水平走査線を選択し(あるいは全走査線の合計値も測定可能)、その走査線に含まれる輝度値(階調レベル)をグラフ表示することができる機能。そして、ただ表示できるだけでなく、この表示結果を見つつ、階調表現範囲を調整できる。
TH-AE2000では、この「波形モニタ」機能に、グレースケールバーのようなテストパターンを表示したときなどに便利に機能する「自動調整」機能が追加された。これは対象走査線の最低階調レベルと最高階調レベルを、TH-AE2000の表現可能な最低階調レベルと最高階調レベルに自動的に割り当てることができる機能だ。 ゲームソフトや映像ソフトによっては独特のトーンカーブを用いているものもあるため、投射映像に過度な暗部の沈み込みや明部の飛びを感じた場合は、階調表現を“感覚”ではなく、理論的に、再マップできる。 調整結果は、全入力系統で共有される16個のユーザーメモリに記憶が可能。ユーザーメモリには基本画調パラメータ以外に、動的絞り機構の「ダイナミックアイリス」設定、アドバンスドメニュー階層下の各RGBのガンマカーブやオフセットの調整結果が記録される。記録させた調整結果はリモコン上の[メモリ呼出]ボタンを押して開けるユーザーメモリ選択メニューから随時呼び出しが可能となっている。 ちなみにAE1000では各入力系統ごとに5個のユーザーメモリを持つ管理方式だったが、TH-AE2000では再び仕様変更が行なわれたことになる。シネマ・カラー・マネージメントのプロファイルも共有メモリ管理されたので、TH-AE2000の仕様として、共有で統一したということなのかもしれない。
■画質チェック 映像パネルには、エプソン製の最新D7世代の「C2FINE」液晶パネルを採用している。 C2FINEは「無機配向膜」と「垂直配向(VA)液晶」を採用した透過型液晶パネルで、D7世代パネルは2007年の最新版という位置づけになる。C2FINEについてより詳しく知りたい人は本連載第52回を参照して欲しい。 実際に映像を見て、最初に感じるのは、透過型液晶機とは思えないハイコントラスト感。それも、明部のまぶしさで稼いでいるのではなく、暗部の沈み込みの深さが作り出しているハイコントラスト感だ。測定器で計測したわけではないのでLP-Z2000、EMP-TW2000より劣っている、優れているということは言いにくいが、少なくともAE1000よりも確実に暗部の沈み込みはよくなっている。ちょっと前のDLPやLCOSの暗部階調程度には追いついてきていると思う。 コントラストは16,000:1(AE1000は11,000:1)。これは動的絞り機構(ダイナミックアイリス)を有効にして絞り解放時の最明部と絞りきった状態での最暗部との対比なので、ほとんどカタログスペックのための数値だ。それでも、ネイティブコントラストの進化は確実に感じる。 公称最大輝度は1,500ルーメンとなった。AE1000が1,100ルーメンなので、光源ランプが同じなのに、36%も輝度が向上したことになる。これは、D7パネルの開口率がD6パネルと比較して向上したことが大きく効いている。開口率はD6世代C2FINEパネルで43%、D7世代C2FINEでは52%となっているのだ。なお、TH-AE2000は、D7搭載機の中ではEMP-TW2000に次ぐ輝度性能で、画調モードが「ノーマル」でもかなり明るい。蛍光灯照明下でもPC映像やニュース/バラエティ番組ならば普通に見られてしまうほどだ。 透過型液晶パネルの開口率の低さは最大輝度やコントラストよりも、むしろ、画素の格子感に効いてくる。100インチ前後ではそれほど気にならないが150インチ以上の投影になると視聴距離が近めな場合は画素を区切る格子模様が気になってくる。TH-AE2000ではどうか。 この問題に対してTH-AE2000は、TH-AEシリーズ伝家の宝刀「スムーススクリーン」機能で対応している。 スムーススクリーンとは、液晶パネルに貼り合わせた微細光学フィルタにより、透過光に対し画素単位で複屈折を起こして出力光を拡大させる微細光学技術だ。同じD7世代パネルを採用した他社製品にはない、TH-AE2000だけの機能になる。
画素形状は画素内部がさらに田の字のサブピクセルに分かれるような、スムーススクリーン画素特有のものになっている。画素と画素とを仕切る筋は非常に細くなっており、150インチに拡大しても粒状感はほとんど感じない。面表現の濃密な描画はLCOSやDLPの画素と比較しても見劣りしない。 投射レンズはTH-AE1000の時から大きく変化はないと思われる。色収差は画面全域でそれなりに抑えられているのだが、フォーカスムラがやや強い。画面中央でフォーカスを合わせると画面外周でぼやけてしまう。逆に画面左下でフォーカスを合わせてしまうとその対角上の右上のフォーカスぼけがかなり強くなってしまう。これはちょっと改善を要したいポイントだ。 ただし、フォーカスがきっかり合っているところでも画素がくっきり見えないのは、このスムーススクリーンの副作用によるものだ。 しかし、この柔らかいピクセル描画を逆手にとることで、このフォーカス感の弱点をごまかす手だてはある。どこか一点できっかりフォーカスを合わせすぎるとどこか別の場所がぼけてしまうので、画面中央でフォーカスをくっきり合わせるのではなく、画面中央、画面四隅の5点でそれなりにあうフォーカスの落としどころを見つけるのだ。 今回の視聴評価は、主にBDビデオの「バベル」、「ハリーポッターと不死鳥の騎士団」、「レミーのおいしいレストラン」を、HDMI接続したPLAYSTATION 3にて再生して行なった。PS3側はRGBフルレンジオン、TH-AE2000側は「HDMI信号レベル」を「拡張」設定にして、画調モードは「カラー1」(HDTV規格準拠)や「ノーマル」などを選択。 発色はやや彩度の強い味付けだが不自然さは全くなし。画調モードが「ノーマル」では純色の緑がやや黄色に振れて、赤は若干だが朱色が乗っているように感じる。「カラー1」では緑のリアリティが向上するが赤の朱色っぽさが残る。画調は全体として超高圧水銀ランプ特有のスペクトルのクセがちょっと顔を出している印象がある。 人肌は「ノーマル」では黄色が乗ってしまうが、「カラー1」は血の気と透き通った白さが絶妙な、リアルで自然な肌が出てくれる。 色深度(色ダイナミックレンジ)はすばらしいの一言。微妙な色の変化が的確に描き出されており、色ディテールの描写力がすごいのだ。これはもしかするとTH-AE2000で新搭載されたという「ディテール・クラリティ・プロセッサ」の恩恵かもしれない。これは映像のディテールレベル(周波数)に応じて適応型のエンハンスフィルタを適用する処理系。とにかく肌の質感、石の質感、金属の質感……などが手で触れられるのではないかと思うほどリアルに見える。フルHDという解像度以上の情報量が映像から感じ取れるのは大したものだ。それだけにフォーカス性能を改善してほしいところだが……。 階調表現は、黒の沈み込みが劇的に向上した関係で暗部から明部にかけてのダイナミックレンジがグッと広がった。中明部から最明部のリニアリティは先代のAE1000から不満がなかったが、TH-AE2000では暗部階調の表現も明部の表現幅と同レベルに改善されている。前述の色深度の深さと相まって暗色表現も豊かになっている。AE1000では灰色っぽく見えてしまっていた暗部階調の色から、ちゃんと色味が視覚出来るのだ。暗色でも色ディテールが的確に見えるのはこの階調性能との相乗効果だろう。TH-AE2000ではガンマ演算などの階調演算をフル16bit処理(AE1000では14bit)しており、地味な改善要素ではあるが、成果はちゃんと画に現れていると思う。 動的絞り機構(ダイナミックアイリス)の挙動にも不満はない。絞り幅もAE1000から20%広げたとのことだが、やり過ぎない理性的な制御で、ちゃんとTH-AE2000の高輝度性能と暗部階調能力が際だつチューニングになっている。視覚上は常に一定のコントラスト感が得られているような感覚で疲れにくい。特別な理由がない限りは「ダイナミックアイリス」は「オン」設定で常用して問題ない。
各画調モードの活用方針とインプレッションは下記のとおりだ。
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