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第335回:AVC録画のBDレコーダ、ソニー「BDZ-X90」
~ ホームシアターに注力した冬商戦のフラッグシップ ~



■ ソニーのBDレコーダ戦略

 すでに発売からだいぶ時間が経ってしまったが、今回はソニーがこの冬に投入するBDレコーダのうち、フラッグシップモデルとなる「BDZ-X90」(以下X90)を取り上げる。9月に開催された「ソニーディーラーコンベンション 2007」では、同時に4モデルのBDレコーダが紹介された。

 各社、冬商戦にはいろいろな特色を盛り込んできているが、ソニーの戦略は、BD一本勝負であるということである。つまりレコーダのラインナップでは、もはやDVD止まりのモデルはなく、すべてBDを搭載してきた。さらに全モデルで共通しているのが、デジタル放送をリアルタイムでMPEG-4 AVC/H.264にエンコードすることで、いわゆるDR録画よりもさらに長時間の録画を実現した点だ。

 同じAVC記録でも、Panasonic「DIGA」ではDVDメディアへHDを記録する「AVCREC」を展開、また東芝もHD DVDの流れで「HD Rec」を展開するといった、DVDメディアを使ったメディアコスト削減をアピールしている。しかしソニーはこの流れには乗らないということのようだ。

 BCNの近々の統計によれば、台数別シェアでソニーが57.1%、金額ベースでも54.8%を取るなど、好調なところを見せている。そう考えると、DVDメディアへのHD記録は、理屈がわかってすごさが理解できるパワーユーザーには支持されるだろうが、一般ユーザーはもう細かいところはあきらめて、シンプルなほうがいい、と割り切ったのかもしれない。

 さて、フラッグシップモデルのX90は、ホームシアター向けに注力したチューニングがなされているということである。この点は西田宗千佳氏の記事に詳しいので、参考になるだろう。

 そこはもちろん興味のあるところだが、そもそも我々消費者にとっては、放送をAVCにダイレクトエンコードするレコーダというのが、突然今シーズンになって登場したわけである。今回はこのあたりを中心に見ていくことにしよう。


■ シンプルながら凄味のあるデザイン


シンプルなデザインながら、随所に光沢素材を配置

 まずいつものようにデザインから見ていこう。BD市場ではライバルといえるPanasonic DIGAが大幅に薄型化して登場したのに比べれば、今回のソニーのラインナップは、それほど薄型化は実現されていない。しかし黒を基調としたシックなデザインで全体をまとめており、「無言の存在感」を醸し出している。

 天板も光沢感のある突き板的な仕上げになっており、単に鉄板折り曲げて蓋しました的な部分はみじんも感じられない。側面にネジも露出しておらず、全体的によく目の行き届いた、綺麗なデザインだ。


天板も光沢感のある素材が張り込まれている 側面からもネジが見えない丁寧な作り

 チャンネル表示や録画ステータスは、アクリルパネルの奥に透けて見えるような格好で表示される。文字は小さめで、上質な印象だ。

 フロントパネルの大きなアクリル部は、全体が蓋になっており、手動で開閉する。以前のモデルならばこのあたりも電動で動いたかもしれないが、このあたりはフラッグシップといえども、コスト削減した部分だろう。


入力切り替え、出力解像度切り替えなど、本体ボタンは充実

 パネルを開けると、録画・再生操作用ボタンのほか、入力切り替え、出力解像度切り替えボタンがある。ソニーのレコーダは、スゴ録時代から本体にボタンが多い作りではあったが、だいぶ少なくなってきている。最低限何が本体に必要か、まあ有り体に言えばリモコンが見あたらないときに何ができないとマズいか、というところを、よく考えているということだろう。

 アクリルパネル下部は、2カ所開く。左はB-CASスロットだが、右側はアナログ外部入力端子、i.LINK端子、USB端子がある。USBは、PSPを接続して「おでかけ・おかえり」機能を使うほか、AVCHDのHDDタイプやメモリタイプのハンディカムを接続したり、デジカメを接続するなど、多くの機能がある。


左側はB-CASカードスロット 右側は汎用の入出力端子群


今回はDLにも対応したBDドライブ

 BDドライブは、BD-R DLにも対応したもの。DVD系メディアは、DVD-RAM、DVD-R DL以外には対応している。HDDは500GBと、フラッグシップ機にしては少なめだ。もっともAVC記録が売りという点で、それほどの容量はいらないとの判断かもしれない。

 背面に回ってみよう。これもある意味ソニーレコーダの裏の顔とも言える、大きなデュアルファンが目に付く。しかし排気音はほとんど聞こえない。このあたりは、ホームシアターユースを意識してのことだろう。


デュアルファンが目に付くが、動作音は静か 意外にアナログ入力が充実

普及タームらしい顔になってきたリモコン

 アンテナ端子は地上波と衛星波の2つだが、内部的にはそれぞれのデジタル波がダブルチューナ仕様となっている。アナログAVの外部入力は3系統、出力はHDMI、D4端子、コンポーネント、アナログAV1系統のほか、アナログ音声出力が1、デジタル音声出力は光と同軸が各1となっている。

 リモコンも見てみよう。十字キーの下には、「予約する」、「見る」のボタンがあり、日常的な動作はここから行なえるようになっている。逆にスゴ録時代の操作に馴染んでいると、「ホーム」や「番組表」ボタンから入っていくクセが付いていると思うので、ついボタンがあるのを忘れがちである。


■ 従来方式を踏襲した新画質モード

 では予約システムを含めた、新画質モードを見てみよう。GUIはおなじみのクロスメディアバー(XMB)である。番組表はリモコンの黄色ボタンで3、5、7チャンネル表示に切り替え可能だ。


GUIはおなじみクロスメディアバー 番組表は最大7チャンネル表示が可能

 AVCエンコードによる録画予約は、過去デジタル放送をSD解像度で再エンコード録画していた時代の方法と同じだ。つまり、番組予約時に画質モードを選択するというスタイルである。なお本機はダブルチューナ搭載モデルだが、AVCで録画可能なのは「録画1」のみである。裏番組録画時は、片方がDR録画となる。

 予約の重複があると、注意画面が出て録画2へ予約が振り分けられるようになった。前モデルでは警告が出るだけで、実際の録画ラインの振り分けは手動で行なう必要があったが、この点は改善されている。


過去の再エンコードモードと同じ使い勝手 重複予約時は別ラインへ切り分けてくれるようになった

 録画モードは結構細かく分かれており、スゴ録時代を彷彿とさせる。しかし大半の画質モードはハイビジョン解像度をキープしている。このあたりは技術の流れの速さを感じるところだ。

 なお、従来にDVD形式でも書き出しに対応するため、SD解像度用録画モードもXP、XSP、SP、LSP、LP、EPと6モード用意している。

【記録モードと録画時間】
録画モード ビットレート 録画容量
HDD(500GB) HDD
(高速転送設定時)
BD(1層25GB)
DR BS
デジタル
約44時間 約42時間 約2時間10分
地上
デジタル
約62時間 約59時間 約3時間
MPEG-4
AVC
XR 15Mbps 約65時間 約61時間 約3時間10分
XSR 12Mbps 約83時間 約77時間 約4時間
SR 8Mbps 約124時間 約112時間 約6時間5分
LSR 6Mbps 約166時間 約145時間 約8時間5分
LR 4Mbps 約249時間 約221時間 約12時間10分
ER 2Mbps 約499時間 約401時間 約24時間25分

 本機では、「高速転送録画」設定「入」で「録画モード」が[自動]に設定されている場合には、若干録画時間が少なくなる。コンテンツのムーブを考えている以上、ほとんどのユーザーは高速転送機能を使いたいと思うだろう。

 録画モードのうち、XRからLSRまでがHD解像度記録、それ以下はSD解像度となる。ビットレートで見ればXRモードは15Mbpsということもあって、かなりの高画質が期待できるが、録画時間の伸びを考えれば、地上波の録画ではあまり積極的に使う意味はないとも言える。

 番組の質にもよるだろうが、限られた時間で試した範囲では、XSRぐらいまではまったく問題を感じさせない画質となっている。SRが本機の標準モードだが、これぐらいになると、若干平坦な壁などのディテールに階調ノイズを感じることになる。しかしハイビジョンとしての魅力は、さほど失われないように思う。よく目に付くところでは、SR以下では画面全体がフェードアウトしたり、オーバーラップしたりしたときに、画質の劣化を感じる。その点を気にしなければ、かなり実用的に使って行けるだろう。

 LR、ERはSD画質だが、X90は今回のラインナップ中で唯一DRC-MFv2.5を搭載しているモデルである。アップスケーリングでも違和感がなく、SD映像をHDテレビで見る時の違和感が大幅に緩和されているのも特徴だ。


■ 動画サンプル

 MPEG-4 AVCの各録画モードの動画サンプルは下表の通り。HDVカメラで撮影した動画を、i.LINK経由で各モードで録画し、BD-Rへと書き出し、PCで読み込んだ。再生確認はファームウェアを最新のVer.2.10アップデートしたPLAYSTATION 3で行なっている。サムネイル画像は、液晶テレビに各モードを再生したものを、デジタルカメラで撮影。実解像度で切り出したものだ。

下表の静止画は、サンプル動画の黄色い枠の部分を切り抜いたもの

動画サンプル
モード ビットレート サンプル サンプル ファイル
HDV

元データ
約24Mbps dr.m2t
(137MB)
XRモード 約15Mbps xr.mpg
(73.5MB)
XSRモード 約12Mbps xsr.mpg
(57.5MB)
SRモード 約8Mbps sr.mpg
(37.8MB)
LSRモード 約6Mbps lsr.mpg
(28.1MB)
LRモード 約4Mbps lr.mpg
(19.1MB)
ERモード 約2Mbps er.mpg
(9.37MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。ファームウェアVer.2.10のPLAYSTATION 3で再生確認をしています。なお、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい



■ 画質モード混在でも高速ムーブ可能


不要部分の削除は、A-B間消去で行なう

 次に編集、ダビング機能を見ていこう。以前レコーダは、かなり編集機能が充実していたものだが、最近はあまり編集のニーズがないのか、次第に部分消去程度の機能が残るのみとなっている。本機の場合は、自動チャプタ機能が充実しているため、それがうまく活用できれば、省力化できる。しかし手動で編集するには、A-B間消去でがんばることになる。

 気になるのはAVCエンコード番組の編集だが、実際にLSRモードで録画したコンテンツを編集してみたところ、DRモード記録時と遜色ないレスポンスで動作するようだ。本機は編集時にスロー再生ができないが、コマ送りを使ってそれに似た動作を実行できる。順方向に比べて逆方向は若干レスポンスが劣るが、できないわけではない。

 BDへのムーブだが、DRほかAVCの各画質を混在で指定してみたところ、画質モードに関わりなく高速ダビングが可能だった。SRモードでも約6時間記録できるということは、30分番組ならばだいたい1クールが1枚に保存できることになる。


AVC録画でも、編集時のレスポンスはあまり変わらない BDへのムーブは、画質モード混在でも高速ムーブが可能

 BDメディア価格は、最近の調査では平均価格が1層の1~2倍速タイプで1,137円、4倍速タイプで1,633円となっている。2層メディアはまだ割高感があるが、1層であれば、コンテンツがまとめられるというメリットは感じられるようになってきた。

 最後に、再生出力についてちょっと気になったことがあるので付記しておく。先日、ロケフリHome HDのレビューをしたばかりだが、今回のX90の出力をコンポジット出力でロケフリHome HDに接続してみた。するとどうもHDMI出力が優先になっていると、アナログコンポジット出力ができないようだ。

 いろいろ試してみたところ、アナログコンポジット出力は、D端子優先で、かつD端子解像度がD1に設定されているときのみ出力されるようである。テレビはHDMI接続で、ロケフリなどのデバイスをアナログコンポジットで運用したいという方は、常時接続しておいて並行利用は無理ということになる。

 もっともロケフリHome HDの場合は、この制限があるから、D端子付きでHD解像度対応であるとも言える。しかしそれ以外のケースでは、新しいビデオ機器と旧来のビデオ機器が共存できず、どちらかを選ばなければならないということになる。ダビング10対応予定モデルということで、未来に対しての期待が高まるところだが、逆にアナログ出力がクローズアップされてくる可能性もあるわけで、このあたりは新旧混在の環境に耐えうる設計というのも、今後一つのテーマとなるかもしれない。


■ 総論

 ボーナス商戦において、一番欲しい家電はフラットテレビという回答がここ数年続いている。デジタル放送対応テレビも、まだ十分普及している状況にはなく、これからの低価格化、ラインナップの多様化に期待がかかるところだ。一方でレコーダ商戦は、次世代DVDの混乱に続いて、放送のDRMの問題が浮上してきた。欲しいけど今買うのは負け組、といったという状況が続いていることは間違いない。

 家電業界としては、ダビング10に決着して、オリンピック前には運用開始を目指したいところだろう。しかし補償金との折り合いが懸念されており、先行きは不透明である。

 そう考えれば、レコーダをメディア保存機と考えるのではなく、一時的バッファと考えるほうが、現状では健全かもしれない。ソニーのレコーダは、スゴ録時代からPSPに対しての書き出し機能を実装しており、またDLNAやロケフリなどのリモート視聴環境もある。

 これらは、もう一度見るために未来に資産を残すというよりも、初回の視聴機会の創出に役立つ機能である。その反動としてのメディア保存機能は、DVDメディアへの短期的な対応ではなく、一気に次世代へという割り切った戦略が取れるということなのだろう。

 Panasonic、東芝がDVDのハイビジョン記録を打ち出したのは、何もDVDメディアの延命が目的ではない。停滞するレコーダ市場で、なんとか次世代へ繋ごうという布石である。ソニーにとってその布石に相当するのが、PSP書き出しであり、ロケフリであると言えるのかもしれない。

 ただ惜しいのは、PSPに書き出せるぐらいならば、最近見直されてきているウォークマンへの書き出しも実現して欲しかったところだ。数としてはPSPのほうが出ているかもしれないが、ユーザー層の親和性という意味では、ワンセグも付いたウォークマンのほうが近いのではないかという気がする。

 他社がモデルバリエーションを絞る中で、一気に4モデルで展開してきたソニーのレコーダ戦略。以前は半年に一度、各社がこれぐらいの数を出していたものだが、次世代DVD以降はすっかり寂しくなってしまった感がある。その中で、景気の良さを演出して売り場を盛り上げるということも、一つの営業戦略だろう。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/BD/product/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200709/07-0912/
□関連記事
【12月14日】【RT】BDの本格展開へ、ソニーの総合力が「違い」を生む
- BDレコーダ「X90」とAVアンプ「5300ES」に込めた思い
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071214/rt049.htm
【10月25日】【RT】開発陣に聞く、ソニーBDレコーダの「ここが新しい」
-「AVC録画」、「4倍速記録」だけではない魅力とは?
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071025/rt044.htm
【9月12日】ソニー、MPEG-4 AVC録画対応の新BDレコーダ4モデル
-320GBに800GB分録画可能。レコーダは全てBDへ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070925/toshiba.htm

(2007年12月19日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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