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第312回:オリンパスのリニアPCMレコーダ「LS-10」を試す
~ 録音品質は良好。レベル調整などに不満も ~




オリンパス「LS-10」

 ここ最近になってリニアPCMレコーダの発表、発売が相次いでいる。ティアックが2月11日にTASCAMブランドの「DR-1」を30,000円前後で、ケンウッドが“Media Keg”の「MGR-A7」を2月上旬に35,000円前後、そしてオリンパスイメージングが「LS-10」を2月7日より50,000円前後で発売を開始する。

 オリンパスはその発売に先立ち、1月30日、赤坂のスタジオでプレス向けの録音体験会を開催。実機を借りることもできたので、今回はLS-10にフォーカスを当て、実際の音を交えながら紹介しよう。



■ VoiceTrekではなく「PCMレコーダ」。レベル調整が難しい

 リニアPCMレコーダの市場って、そんなに大きかったのだろうか……、とこちらが心配になってしまうほど、最近続々と各メーカーが参入してきている。オリンパスの場合、ご存知のとおりICレコーダにおいてのトップシェアを持つ「VoiceTrek」のメーカーであるが、このVoiceTrekのシリーズ名を冠しない形で、今回「LINEAR PCM RECORDER LS-10」を発表した。


右側面には録音レベルなどの調整スイッチを搭載 左側面にはボリュームやヘッドフォン端子、USB端子やSDカードスロットも備える 底面には別売のACアダプタ用端子を備える

 筆者も取材用の必須ツールとしてVoiceTrekは、これまで歴代バージョンを購入し、常に持ち歩いている、リアルユーザーだ。ただし、このVoiceTrekシリーズはあくまでも会話の録音用であって、音楽録音用のものではないとして、今回同社では、VoiceTrekは取材用、音楽録音用にはPCMレコーダと、ブランドを使い分けてきた。

 製品の発表を知って、試してみたいなと思っていたところに、録音体験会開催の案内がきたので参加してみた。赤坂のサントリーホールの裏にある比較的小さなスタジオで、生のバイオリンの演奏を行ない、それをLS-10で録音してみるという内容だ。

 登場したのは若手バイオリニストの岡部磨知さん。岡部さんは、高嶋ちさ子さんが立ち上げた「12人のヴァイオリニスト」のメンバーの一人で、現在、桐朋学園大学研究科の4年生。ピアノ伴奏の元、シモネッティ作曲の「マドリガル」とモンティ作曲の「チャルダッシュ」の2曲を演奏し、それを録音しよう、というわけだ。

 録音体験会が1時間おきに、3回開催されたこともあり、スタジオに集まっていたのは6、7人程度。あらかじめ三脚に取り付けられたLS-10が1人、1人に用意されており、それで録音するわけだが、今回録音したのは正面約2mの距離に岡部さんが立ち、その1m向こうにグランドピアノがあるという配置だ。


岡部磨知さんは、高嶋ちさ子さんが立ち上げた「12人のヴァイオリニスト」のメンバーの1人 正面約2mにヴァイオリン、さらに1m向こうに伴奏用グランドピアノという配置で、シモネッティ作曲の「マドリガル」などの演奏を録音

 製品説明の後に、さっそく録音。初めての操作だったが、後ろにいるスタッフのアドバイスを受けながら操作を行なった。まずは、音量調整から。LS-10の録音レベルはマニュアルとオートの2種類が用意されているが、当然マニュアルに設定するのが基本。ヘッドフォンをしながら音量調整をするのだが、マイクセンスをLOWにしているからか、あまりレベルメーターが振れない。再生音量をフルの10の目盛りにしてモニタしながら、録音音量もフルの10にしてレベルメーターの真ん中にいくか、いかないかの状況。スタッフに「そのくらいがいいです」といわれたので、本番の録音に入った。


録音レベルをマニュアルに設定 あまりレベルメーターが触れない

 まずは24bit/96kHzの設定で行ない、1曲目の「マドリガル」は無事録音終了。しかし2曲目の「チャルダッシュ」に入ると、バイオリンの音量が大きくなり、真ん中のPEAKメーターが、赤く点灯。あとで聞いたところ、赤は警告ではなく、クリップしたことを意味するとのことだったので、失敗に終わった。音量調整を予め、チャルダッシュで行なってくれればよかったのだが、静かなマドリガルで行なったための失敗だ。その後試しても、音量調整は少し難しかった。というのも、多くの機器のレベルメーターは、立ち上がりは速く、下がるのはゆっくりとなるため、見た目でピークに近くなっているのがハッキリ分かるが、LS-10は下がるのもリアルタイムなので、それが分かりにくいのだ。

 2回目も、同じ音量設定において16bit/44.1kHzで行なった。ピークの結果は1回目と同じなので、成功したのはマドリガルのみだ。参考までに、ここで録音した24bit/96kHzのデータを、トリミング以外、何も編集せずに掲載するので、聴いてみてほしい。配置上、ステレオ感はあまりないが、かなりいい音で録れていると思う。バイオリンの弓のこすれる感じの音までキレイに拾っている。もちろん、使ったのは、内蔵のマイク。アルミの削り出し加工をした筐体で、マイクユニットは90度外側に向けた配置となっている。


1曲目のマドリガルは無事録音できたが、2曲目のチャルダッシュは失敗してしまった 内蔵マイクは、アルミの削り出し加工が施され、ユニットは90度外側に向けた配置


【会場での録音サンプル】
サンプル 1
(バイオリン演奏「マドリガル」PCM、24bit/96kHz)
sample1.wav
(69.6MB)
編集部注:録音ファイルは、24bit/96kHzで録音した音声をトリミングして保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ リニアPCMレコーダではベストの音質?

 体験会の後に機材を借りて、いろいろと試してみた。まず、その大きさだがローランドの「R-09」やコルグの「MR-1」と比較すると、その雰囲気が分かるだろう。VoiceTrekよりはかなり大きいものの、結構コンパクトだ。

 R-09と比較した際の大きなウリは、バッテリ寿命とのこと。ともに単3電池2本を使うが、スペック上、16bit/44.1kHzのリニアPCMレコーディングにおいて、R-09は4時間持つのに対して、LS-10は12時間と3倍となっている。


R-09(左)、LS-10(中)、MR-1(右)を並べて比較 電源は単3電池2本で動作し、最長12時間駆動が可能

 またR-09のサンプリングレートが48kHzまでとなっているのに対して、LS-10は96kHzまでいける。また、オリンパスが競合として気にしているもうひとつの機材がソニーの「PCM-D50」。これに対してはコンパクトさをアピールしており、容積で39%、電池を含む重さで45%を実現しているという。

 また、既存のレコーダにない特徴としてあげられるのは、ステレオスピーカーを内蔵していること。背面に2つ小さなスピーカーがあり、音質的にはオマケといった感じだが、とりあえず、音が入っているかどうかの確認はできるので、それなりに便利ではある。

 データの記録は内蔵メモリおよびSDカードを使用。内蔵メモリは2GBを搭載している。また、LISTボタンを押すと、フォルダA~EおよびMusicフォルダが表示され(Musicフォルダは再生用)、指定したA~Eの5つのフォルダに録音していくことができるようになっている。


背面に小型のスピーカーを内蔵しているのが特徴 保存先は、フォルダA~Eのいずれかを選択し、指定したフォルダに録音する。LISTボタンを押すと、フォルダ内の録音済みデータなどが確認できる

 MENUボタンを押すと、各種設定のためのメニュー表示が行なわれる。最初にある録音モードで、録音するファイル形式の選択ができ、リニアPCMのWAVファイル、MP3、WMAの3種類が選べる。リニアPCMは24bit/96kHz~16bit/44.1kHzの6種類、MP3は320kbps、256kbps、128kbpsの3種類、WMAは160kbps、128kbps、64kbpsの3種類から選べるようになっている。


MENUボタンを押すと各種設定を行なうメニューが表示される 録音モードは、リニアPCM、MP3、WMAから選択 リニアPCMでは、24bit/96kHz~16bit/44.1kHzの6種類から選択する

 また、指向性マイクという設定があるが、これはDiMAGICのDVM(DiMAGIC Virtual Microphone)という技術を使ったエフェクトの設定。ZOOM、NARROW、STANDARD、OFF、WIDEという順に集音範囲が広がっていくというものだが、使えるのはMP3とWMAおよび16bit/44.1kHzでのリニアPCMに限定される。ただ、ちょっと使ってみたところ、いかにも加工したという音作りで、16bit/44.1kHzであったとしても、リニアPCMで用いるのはあまりお勧めできない感じだった。

 また内蔵マイクのほかに、ステレオミニジャックの接続により外付けのマイクを使用することも可能。この際、プラグインパワーにも対応しているので、プラグインパワー対応の高感度なコンデンサマイクが利用できる。

 再生設定には、エフェクトが用意されており、リバーブおよびEUPHONYというものがある。EUPHONYもDiMAGICのエフェクトだが、前述のDVMの再生版という感じのバーチャルサラウンドとなっている。


MP3/WMA、16bit/44.1kHzのリニアPCM録音時のみ、指向性マイク機能が利用可能 再生設定には、バーチャルサラウンドの「EUPHONY」などが選択できる

 実際に屋外に持ち出してみた。さすがに、マイクセンスがLOWだと鳥の声などが拾えないので、HIGHに設定してみたところ、手持ちでは、グリップノイズを拾いすぎて、ちょっと厳しい感じだった。また本来は製品にウィンドスクリーンが添付されているが、今回お借りしたものには付属していなかったため、かなり風の音を拾ってしまい、使い物にならない。ためしに、毛糸の帽子をかぶせてみたが、やはりそれでもダメで今回は断念することにした。

録音サンプル : 楽曲(Jupiter)
【音声サンプル】(7.54MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、24bit/48kHzで録音した音声をノーマライズ処理し、16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 その後、部屋に持ち帰り、以前、PCM-D50R-09、ZOOMの「H2」および「H4」で行なったのと同じ方法で、音楽を録る実験をしてみた。方法としては、CDをCDプレーヤーで再生させ、S/PDIF出力したものをRolandのMA-10Dを用いてかなり大きめの音量(ボリュームの7割程度)で再生させたものを約50cmの距離でレコーディングするというもの。素材も以前と同様、TINGARAの「JUPITER」を使わせてもらった。

 LS-10の録音レベルはフルの10に設定しても、レベルメーターはそれほど振れていないように感じる。しかし、すぐにPEAKインジケーターが点灯するため、こちらを8程度に絞って24bit/96kHzと、24bit/48kHzで録音してみた。そもそもがCDであることもあって、ほとんど違いは感じなかったが、ここでは、ほかとの比較の意味合いもかねて、24bit/48kHzで録音した結果をピーク値を0dBにするようにノーマライズ処理した後、16bitに変換したものを掲載しておくので、ぜひ聴き比べてみてほしい。また16bitに落とす前の周波数分析をWaveSpectraで行なってみたので、これも見比べてほしい。

 周波数分析結果からは、ハッキリしたことはいえないが、ほかのものとはやや傾向に違いがあることは分かる。音の評価は人によって分かれるとは思うが、個人的にはこれまで同じ実験をした機種の中ではベストではないかと感じた。



■ ノイズの低減に全力を尽くした高品質なレコーダ

 オーディオ機器の開発経験が少ないオリンパスだけに、実は、音質的にはそれほど期待はしていなかった。しかし、録音体験会に来ていた開発担当者に話を聞いてみたところ、オーディオ/音楽の経験はあまりないが、とにかくノイズをなくすことに全力を尽くした、とのこと。

 そのためにオーディオ基板とシステムコントロール基板を分けたり、Lチャンネル、Rチャンネルを独立した回路を搭載したとのこと。またアナログ回路と独立した電源回路を搭載し、電流による干渉を低減させることなども行なったという。そして、もうひとつは周波数特性に着目し、低域から高域までフラットにすることに注力したという。その結果がこの音というわけだ。

 レベルメーターの部分やグリップノイズをかなり拾ってしまう面など、まだ改良の余地はありそうだが、なかなかよくできた製品だと思う。なお、今回は借りることができなかったが、製品には「DigiOnSound5 Express for OLYMPUS」という波形編集ソフトもバンドルされているので、これでデータを編集したり、CDに焼いたりといったことが可能となる。

 そのほか、別売のアクセサリとして専用のリモコン、2chの外付けマイクロフォン、またACアダプタなどが発売される予定となっている。


パッケージと付属品 別売アクセサリとなる専用リモコン 外付けマイクロフォンも用意



■ 読者プレゼント:藤本健ほか著「できる初音ミク&鏡音リン・レン」を3名様に


「できる初音ミク & 鏡音リン・レン」

 2月1日に発売された、本連載の藤本健氏共著の「できる初音ミク&鏡音リン・レン VOCALOID2 & Windows Vista/XP対応」(インプレスジャパン刊)を3名様にプレゼントします。

 「できる初音ミク&鏡音リン・レン」は、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社から発売されたバーチャル・シンガー音源「初音ミク」、「鏡音リン・レン」向けの解説書。

 楽譜の読み方や、音符入力の方法などの基本から、人間らしく歌わせるための歌声のチューニング方法、複数のキャラクターに合唱させる方法、作成した歌に伴奏を付ける方法まで紹介。さらに、ニコニコ動画へのアップロード方法も解説しています。

 著者は藤本健氏のほか、PC/DTM関連の雑誌や書籍を中心に執筆するフリーライターの大坪知樹氏、できるシリーズ編集部。


誌面の一部




【応募方法】
応募締切:2月12日(火)正午まで
当選発表:発送をもって代えさせていただきます
応募方法:上の【プレゼント応募フォームを開く】ボタンをクリックして下さい。応募フォームウィンドウが開きますので、そのフォームに入力して送信してください。【プレゼント応募フォームを開く】ボタンが表示されない場合は、ここをクリックしてください。

※ 応募フォームの送信はSSL対応ブラウザをご利用ください。SSL非対応のブラウザではご応募できません。
※ ご回答いただいた内容(データ)は、当選者の選考および、プレゼントの発送にのみ使用し、その他の目的で使用することはありません。

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  • ご応募はおひとり様1通とさせていただきます。本人以外の仮名や家族名義など、複数の応募を確認した場合は無効といたします。


  • □オリンパスイメージングのホームページ
    http://olympus-imaging.jp/
    □製品情報
    http://olympus-imaging.jp/product/audio/ls10/index.html
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    http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080110/olympus.htm

    (2008年2月4日)


    = 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
    著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

    [Text by 藤本健]


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