配信事業者と権利者が共同で著作権処理機構を設立

-音楽の円滑なネット配信に向け、作業/コスト削減を


6日、都内で設立記者会見が行なわれた

3月6日発表

 

 日本音楽著作権協会(JASRAC)やネットワーク音楽著作権連絡協議会(NMRC)などは6日、ネット上のコンテンツ流通の円滑化を目指す第三者機関として、一般社団法人 著作権情報集中処理機構(CDC)の設立を発表した。インターネットにおける音楽などのコンテンツ配信に関して、利用者(コンテンツプロバイダ)と権利者団体が個別に行なっている楽曲特定などの処理作業を集約し、コストや作業負荷を軽減するための機関で、5月に実験システムの稼働と、システム開発の競争見積りを実施。2010年4月の本格運用を目指している。

著作権情報集中処理機構は「Copyright Data Cleaninghouse」でCDCと略す。写真はロゴマーク
 例えば音楽配信サービスを実施しているコンテンツプロバイダが、自身の配信サービスに各レーベルから調達した楽曲を登録する場合、「この楽曲の配信を開始した」という事をJASRAC(社団法人日本音楽著作権協会)など、楽曲の権利を管理している団体に報告しなければならない。その際、具体的には楽曲IDの特定、曲目報告の作成を行なう必要がある。

 当然、扱う楽曲が膨大になればこの作業量は膨大になる。また、曲が増えれば報告する権利者団体が複数になる事もあり、団体の数だけ同様の作業をしなければならない。それだけでなく、JASRACが管理していない楽曲に関しては報告先がわからないので、「この楽曲を管理している団体はどこか?」という段階から調べる必要も生じる。

青い部分がコンテンツプロバイダ、黄色が権利者団体の処理内容。中央の赤い部分が共通化できる処理・作業であり、CDCが担当する部分となる

 また、報告を受ける権利者団体側の作業も膨大になる。例えばJASRACでは報告の文字データに対して自動照合システム導入しており、照合率は99.9%。しかし、1月に7,000万件のデータが送られてくる場合もあるため、残りの0.1%でも7万件を手作業で照合したり、報告データの誤りを修正しなければならない。さらに、新曲の場合はその権利情報の登録も必要になる。

 こうした双方の作業は、楽曲IDの特定などで共通化できる部分がある。また、複数の権利者団体が、自身が管理する楽曲データベースを1つにまとめれば、コンテンツプロバイダが楽曲配信時に、1つの窓口で楽曲の権利情報を検索でき、管理団体を探す必要も無くなり、そのまま報告作業に繋げることも可能になる。報告と許諾が同じデータベースで行なわれるため、楽曲ID特定のミスも低減できる。こうした仕組みを目指して設立されるのが、CDCとなる。

 CDCでは処理をまとめるだけでなく、フィンガープリント技術を活用して音楽情報から利用楽曲IDを特定するシステムも導入予定。権利者への利用実績報告データの作成も実施するほか、著作権などの権利関係に関する情報のハブとなるデータベースも構築予定。システム開発には2億~2億5,000万円ほどの費用を想定。「先進的な大手の配信事業者を中心に参加事業者に費用を負担していただく」(菅原瑞夫理事/JASRAC)としている。


■ コンテンツプロバイダと権利者の双方が参加

佐々木理事

菅原理事

 設立発起人は慶應義塾大学大学院の岸博幸教授。ジャーナリストで湘南ビーチFMの代表でもある木村太郎氏、に・よん・なな・みゅーじっくの丸山茂雄会長、渡辺プロダクションの渡辺美佐会長。さらにネットワーク音楽著作権連絡協議会(NMRC)、JASRACも参加。理事はNMRCの佐々木隆一氏とJASRACの菅原瑞夫氏が努める。

 一般社団法人であり、民間の団体であるが、政府の知的財産戦略本部が推進する「知的財産推進計画2008」に基づき、内閣官房 知的財産戦略推進事務局、文化庁、総務省、経済産業省の支援・協力を得て事業を実施するという。現在は準備段階としてNMRC、JASRACが理事を構成しているが、システムの本格稼動時には多くのコンテンツプロバイダ、権利管理事業者が参加する予定で、5月までに幹事会を発足させる予定。以降はそこで事業のオペレーションを協議していくという。

 幹事候補はエクシング、ギガネットワークス、サミーネットワークス、第一興商、ドワンゴ、ヤマハミュージックメディア、USEN。管理事業者側はイーラーセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス、ダイキサウンド、JASRACが参加予定。なお、参加しない事業者も同システムは利用できる。

 佐々木理事は現在の状況について「音楽配信はコンテンツサービス産業の中で特に急速に成長しているが、それに伴う権利処理が膨大化している。これまでコンテンツプロバイダと権利者団体の実務担当者が毎月のように交流しながら、いかに円滑に処理するかで努力や勉強を重ね、ルールなども決めてきたが、とても追いつかない」と説明。

 その上で「双方のデータ処理を一元管理する仕組みとして集中処理機構を立ち上げた。こうした目的で利用者団体と権利者団体が第三者機関を作るのは世界初の試み。これまでの状況から考えると、夢のようなプロジェクトがスタートする。日本のコンテンツビジネスモデルを大きく成長させる礎となり、音楽産業発展にも繋がるだろう」と、機構設立の意義を語った。

慶應義塾大学大学院の岸博幸教授渡辺プロダクションの渡辺美佐会長に・よん・なな・みゅーじっくの丸山茂雄会長


 

■ 「JASRACの業務は変わらない」

 菅原理事は、設立の経緯について「現場の問題を解決するために生まれたもの。民間だけの力で立ち上げるものだが、このことで営利を追求しないことが重要なので、一般社団法人とした」と説明。JASRACの業務との関係については、「この法人に業務委託を行ない、そこから報告を受ける形になる。しかし、使用許諾や使用料の徴収、分配などをJASRACが行なうのは変わらない。あくまで情報の処理のみを一括管理するもの」とした。

 さらに、マスコミに向け「権利処理が大変だから、日本における音楽配信が進まないという記事があるが、配信楽曲は順調に増えている。(配信が)進んでいるからこそ起きた問題を処理するのが本法人だ」と説明。

ジャーナリストで湘南ビーチFMの代表でもある木村太郎氏
 また、将来的にアニメや映画など、映像コンテンツの処理も扱うことになるという予測に対しては「映像など、マルチコンテンツを扱うことは今のところ考えていない。発想の流れは同じかもしれないが、音楽が動いたからといって、即映像が……とはならないと思う。ただ、今回のトライアルがネットワーク配信における1つのパイロットケースとして、他の業界の動きに繋がる事はあるだろう」と語った。

 「私はジャーナリストだが、コミュニティ放送の関係者として関わっているつもり」と語る発起人の木村氏は、発起人の顔ぶれを「業界の“うるさ方”を集めた」と笑いながら紹介した上で、湘南ビーチFMでの苦労話を披露。「1日に300曲かけるが、その報告処理を手作業で行なうと1人がかかりきりになり、人件費が増える。機械的にこれを解決できないかとフィンガープリント技術も検討したのだけれど、億単位の費用がかかることがわかり、断念した経験がある。なので、こういう機構ができるのは大歓迎。小さなラジオ局を助けるためにも、積極的にこういう動きを進めていただきたい」と期待を込めた。

(2009年 3月 6日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]