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「大画面?何ですかそれ」。ソニー“業務用ピクモニ”で始める狭小ビジュアルライフ
2026年6月29日 08:00
先日、ついうっかり業務用のピクチャーモニター「PVM-741」を買ってしまった。購入に至った理由はかなり単純で、有機ELディスプレイを使っていること、安かったこと。そして、PVMであること――この3点である。
クリエが筆者に残したもの
ソニーがかつて展開していたパーソナルエンターテインメントオーガナイザー「CLIE(クリエ)」を覚えているだろうか。スマートフォンの始祖とも言えるPDA(Personal Digital Assistant)にカテゴライズされるもので、ソニーは自社の高いマルチメディア技術を武器にして、映像再生やカメラの搭載など、AV機能を大きく強化した特徴的なモデルを展開していた。
残念ながらCLIEは短命に終わってしまったが、2004年に発売された最終モデルの「PEG-VZ90」には、当時世界最大サイズと言われた自社製の有機ELディスプレイが搭載されていた。
量販店の店頭デモ機を操作した時、当時としては異様とも言える黒色の黒さと、リバーサルフィルムのように鮮やかな色彩に目を奪われたことは、今でも強く筆者の心に刻み込まれていて、この時に「プロジェクター以外で映像をやるなら有機EL一択」という確固たる意思も芽生えた。
なおVZ90については、小寺氏の連載Electric Zooma! 第176回にて詳細なレビューがなされている。
小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第174回:PDAとしても使えるポータブルAVプレーヤー?
VZ90の生産完了後、ソニーは2007年に世界初の有機ELテレビ「XEL-1」を作ったり、業務用モニターに有機ELパネルを採用して、ことあるごとに有機EL技術を使ったエポックメイキングなビジュアル製品を世に送り出してきた。
ただ、残念ながらどれも非常に高価でそう簡単に手を出せるものではなく、当時の筆者はショーイベントの展示品やカタログなどを見る度に、ため息をつく日々を送っていた。
「XEL-1」に再会。発売当時に観た衝撃が思い起こされた
とある日、オーディオ仲間に誘われて試聴に訪れたリスニングルームにXEL-1が置かれていた。
まさか2026年になってXEL-1との邂逅に内心は大コーフン。試聴そっちのけで、まずはXEL-1の電源を入れてもらった。浮かび上がった画は発売当時に観て衝撃を受けたそれそのもので、有機ELディスプレイ特有の色彩や画の精細感は、これが20年近く前の製品とは到底思えないレベルであった。
なによりXEL-1だけが持つ、ディスプレイ部分の薄さや、タイムレスなデザインを前にして、当時買うことができなかった悔しさだろうか? ある種の後悔とも思える気分になってしまい、これを根本的に晴らすためにはオーディオ一色になっている現在の自室に、映像機器を追加してもいいのではないか、という気持ちが芽生えた。
日課のネット徘徊でPVMを見つけてしまった
その後のとある日、デイリークエストである中古の業務用機材販売サイトを徘徊していると、XEL-1と似通った大きさのピクチャーモニターが新着商品に現れた。
普段は業務用のオーディオ機器を探すためにそのサイトを閲覧しているが、先日のXEL-1との邂逅が原因なのか、やけにその小さなピクチャーモニターが気になってしまう。型番は「PVM-741」であり、検索サイトにPVM-741と入力すると、すぐに当時のカタログPDFがヒットした。
詳細を読み込んでみると、前記のVZ90に通ずるとも言える、ソニー自社製の有機ELディスプレイを採用。映像の入力は業務用では定番のSDIの他に、民生用機器でもお馴染みであるHDMI端子も搭載している。ということは、市販のBDプレーヤーなど、HDMI出力端子を備えている民生用の再生機とPVM-741は直結可能。スペック的には申し分ないと言える。
残る問題は、モデル名からも分かるように、画面サイズがXEL-1より小さい7.4インチであるということだ。
筆者は普段iPad miniを扱っていて、これの画面サイズは8.3インチ。単純に計算しても約11%小さくなるわけで、没入感という観点からは全く期待できない。でも、どうしても気になってしまう。
即日の注文を断念すること数日、街中を見渡した時にふと、スマートフォンの小さな画面でドラマやアニメを視聴している方が多いことに気がついた。ということは、小さい画面でも案外没入感は得られるのでは? という仮説が急速に脳内で組み立てられ、我に返った時には注文が完了していた。
モノとしての良さに感動
支払いを済ませると、すぐにPVM-741が自宅に届けられた。
外径寸法は222×183×161mmだが、現物を目の前にして実際に手に取ってみると、想像以上に小さい。画面サイズは164×92mm(7.4インチ)で、こちらも体感では本当に7.4インチもあるのか? と思えるほど小ぶりに感じるが、これは画面の外枠が今日のテレビやPCモニターと比較して太いのも影響しているのだろう。
ディスプレイ解像度はXEL-1と同じ960×540でQHD(Quarter HD)だが、物理的な画面サイズはXEL-1より小さいため、画素ピッチはXEL-1以上に細かい。
PVMは長期間にわたってその品質を維持するのと、ハードな使用にも耐えるため、筐体はアルミニウム製で非常に堅牢にできている。
実際に持ち上げてみると、筐体の小ささから想像してしまう「軽そう」という認識を見事に跳ね返す、ズッシリとした重さを感じられる。叩いた時の泣きも少ないので、音圧に晒されても共振しにくく、室内の音響特性に影響を与え難いと言える。
入力インターフェイスは、コンポーネント、SDI(3G/HD/SD)、HDMIの3系統。HDMIは最高で1080/60pまで入力可能となっている。この他に外部制御用のリモート端子も備わっているが、他の業務用機器を持っていなければまず使わないものだ。
なお、背面の廃熱用ファンは基本的に停止していて、内部温度が一定以上になったときに回転する。そして、温度が下がると再び停止する仕組みだ。空調の効いた室内で使っている限りではほぼ回転することは無く、ファンノイズに悩まされることはないだろう。
電源はDC12Vで、ACアダプタを背負っている。このACアダプタは取り外せるようになっていて、カタログによると別売でバッテリーパックが用意されていた。更にXLR4ピンの電源端子に直接DC12Vを供給することもできる。USB PDトリガーアダプター等を使ってケーブルを自作すれば、モバイルバッテリーや高出力なUSB充電器を電源にすることも可能だ。
スピーカーとの共生方法を考える
筆者はこのモニターをオーディオシステムとセットで使いたい。設置場所として真っ先に考えたのはスピーカーの間だが、ここに物を置くと音質への影響が大きいうえ、リスニングポイントからだと画面から1m以上離れてしまうため、米粒を眺めているような状態になってしまう。
往年のブラウン管テレビ「QUALIA 015」のコンセプトのごとく、リスニングポイントの足下に設置して見下ろすということも試してみたが、下を向き続けるのは想像以上に首に負担がかかってしまう。ということでこの場所もNG。
何か台を作ることも考えたが、ふと本体を眺めていると、三脚を取り付けられそうなネジ穴が開いていた。ものは試しにカメラ用の三脚(雲台)を取り付けてみると、バッチリとハマった。
これで、モニターをアイポイントまで持ち上げつつ、目との距離もかなり縮めることができるようになった。スマートフォンを操作する時のように、目からモニターまで50cm程度にすることも可能だ。
映像を鑑賞しない時は電源コード等を抜くだけで簡単に動かすことができるから、映像を見ない時は全てを目の前から取り除くことができる。これで、モニター設置方法も決まった。
BDプレーヤーを捕獲するも、また一難……
最後はディスクプレーヤーの用意だ。デジタル映像再生の分野は、オーディオ同様プレーヤー本体に限らずHDMIケーブル、はたまた電源ケーブル画に変化があると言われているが、筆者は映像に関してずぶの素人。
いきなり万単位のアイテムを買う勇気は無く、まずはお試しということで、近所のリサイクルショップに在庫していたソニーの「BDP-S6500」というBDプレーヤーを捕獲してきた。
筐体サイズはフルサイズコンポの約半分、重量は僅か0.9kgで信じられないほど軽い。出力端子は映像・音声用のHDMIと音声用のS/PDIF同軸のみ。これも時代の流れだとは思うが、アナログでの出力端子が一切ない。なくても実用上問題ないとか、コストの削減とか、搭載しない理由はいろいろあるのだと思われるが、この潔さには感心した。
唯一残念だと感じたのはディスク再生時の回転音で、ディスクが高速回転しているから仕方ないのだが、常にブーンという音が耳につく。
ディスク外周部を読み取っている時は回転数が下がって気にならないレベルの音になるが、内周部を読み取っている時は明らかにうるささを感じる。肌感ではあるが、PS3といったゲーム機の方がBD再生時の静音性は高いかもしれない。
お楽しみの視聴タイム。XEL-1の画を観た時の感動が蘇る
さて、ここからはお楽しみの視聴である。
観たいソフトは沢山ある中、まずはこれまで何度も見てきた映画『ダイ・ハード』を選択。40年近く前の作品であり、舞台も基本的には夜なので暗いシーンが多い。そのため、黒い部分の白浮きが多かったり、シャドウ部分がハイライトに引っ張られてしまうと途端に雰囲気台無しといった状態になるが、そのようなことは全くなく、素晴らしい暗部の再現性である。
特に驚いたのは、敵が戦車に対してロケットランチャーを発車するシーンと、その報復に主人公が敵から回収した爆薬を使ってナカトミビルを爆破するシーンだ。
舞い上がる火炎の奥行きがはっきりと分かり、こんなに立体的だったのかと今になって気がつくことができた。また、爆発する瞬間に現れるフラッシュの力強さにも目を見張るものがあり、ホワイトアウトしたかのような激しい点滅を堪能できる。
この他にも、いつか観ようと買い込んでいたブルーレイディスクを再生したが、どれも満足のいくものであった。
一方でBDP-S6500の内蔵機能やPCを使ってYouTubeなどのストリーミング映像を再生した時には、明らかにノイズが目立った。ピクチャーモニター故、ソースに含まれているものをありのままに出すという特性を有しているからであると理解しているが、こうもハッキリ現れてしまうと、まだまだディスクの発売は続けていただきたいと思ってしまった。
バッテリーを背負ってACコードレス化すると、更に便利に
本機の電源ユニットは脱着可能な構造になっている。外したところにはオプションとして用意されていたバッテリーを装着するか、DC入力ポートに電源を直接供給することで、AC100Vレスで動かすことができるという仕組みだ。
純正バッテリーは既に生産完了となっているが、少し調べるとカムコーダー等の業務用機器では定番のVマウントバッテリーが使えると分かり、早速装着してみた。
バッテリーは容量99Whの物を用意した。本機の定格消費電流は1.9Aであるため、計算上フル充電から3時間程度使える。実際に2時間の映画をまるまる再生してもバッテリー切れにはならず、実用上も全く問題なかった。
また副次的な効果として、画質と音質の両方に影響があった。映像は明らかに発色の純度が上がり、音質はキレを増したのである。
音に関して正確に記すと、モニターを置く前の音に戻ったような印象だ。純正の電源ユニットはスイッチング電源を採用しているため、ここから発せられていたスイッチングノイズがオーディオ機器に回り込み、音に影響を与えていたと考えられる。映像についても同様の考え方で、PVM-741内部の基板やディスプレイそのものに飛び込むノイズが減ったことが、画に影響を与えていると言えよう。
古来より機器のバッテリー駆動は画質や音質改善のひとつの手法として多用されてきたが、その有用性を今回とても強く感じられたのは大きな収穫であった。
オーディオとビジュアルの融合。そしてやっぱり大画面が欲しくなった
オーディオとビジュアルは古来より切っても切り離せない密接な関係にある。特に近年はストリーミングの普及によって、気軽に映像作品が視聴できる。音楽においても、MVが盛んに制作されるようになり、映像とセットで音楽を楽しむ時代になりつつある。
筆者の自室は音質を優先して映像機器を置かないようなセッティングにしていたが、PVM-741のおかげで、現在のオーディオシステムに映像を持ち込む楽しさを見つけることができた。そして様々な映像作品を鑑賞していると、大画面に対する欲求がどうしても現れてくる。
有機ELディスプレイのPVMシリーズには、PVM-741の他、17インチの「PVM-1741」と25インチの「PVM-2541」がラインアップされていた。これらは以前発売されていた上位BVMシリーズ(BVM-E250など)と同じ有機ELパネルを使っていたとか。
しかも、筆者の担当編集であり、業務用モニターのスーパーマニアでもある阿部氏は、なんと新品のPVM-2541を漢の60回ローンで買っている(2013年12月)。彼の審美眼に適ったということは、素性の良さは折り紙付きと言えるだろう。
こうして、筆者のデイリークエストには映像機器の出物チェックも追加されたのであった。













