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テレビを作り続けて50年超!20秒ごとに85型ができちゃう「ハイセンス工場」行ってきた

中国・青島にあるハイセンスのテレビ工場

世界48のナショナルチームが“サッカー世界一”の座をかけて競う「FIFAワールドカップ2026」。その数少ないオフィシャルスポンサーを務めるのが、100インチ以上のテレビ出荷台数で3年連続世界1位を記録する電機大手ハイセンスだ。

5月末、中国・山東省にある同社のテレビ工場と本社を巡るメディアツアーに参加し、工場やR&Dセンターの見学、そして本社幹部らから今後の戦略等の話を聞くことができた。その模様を全2回にわたって取り上げる。

本稿では、テレビ工場とR&Dセンターの模様を中心にレポートする。

R&Dセンター内にある電波暗室

テレビを作り続けて50年以上! 実は超老舗ブランド「ハイセンス」

ハイセンスグループ(海信集団)は、山東省青島市に本社を構える総合電機メーカーだ。

日本ではまだ黒物・白物家電のイメージが強いが、海外では、サイネージ用途のディスプレイからデジタル医療機器、自動車部品、交通システム、半導体、エネルギー、不動産、文教といった法人向け事業も手掛けている。

2025年におけるグループ全体の売り上げは、2,244億元(日本円にして約5兆円)。32の研究開発拠点、41の生産拠点、65の海外現地法人・事務所を持ち、180国と地域で製品を販売している。

プロジェクター商品も数多く手掛ける
レーザーテレビ(レーザー光源を使った超短焦点型プロジェクター)も海外では人気が高い
ハイセンスの超音波診断装置
エリア内の空調や照明、セキュリティなどを一元管理・最適化するスマートビルディングソリューション
小中一貫の私立学校「ハイセンス学校」も運営する

世界規模で事業を展開するハイセンスだが、その歴史をひもとくと、同社が“テレビ”と深く結びついて発展してきたことが見えてくる。

ハイセンスの前身は1969年9月、青島市に誕生したわずか数十人からなるラジオ工場「Qingdao No.2 Radio Factory」だ。

当初はトランジスタラジオを製造していたが、翌年には山東省初のブラウン管テレビ(14型白黒テレビ)を開発。その後、1979年に複数の企業を吸収する形で、国家認定のテレビ製造拠点「Qingdao TV General Factory」を設立する。

1984年には、松下電器産業から当時最先端だったカラーテレビ生産ラインを導入し、「Qingdao」ブランドの第一世代カラーテレビを製造。現地生産化を早期に実現し、中国トップシェアへの礎を築いた。

1970年に製造された、14型白黒テレビ
1979年に製造された「Qingdao」ブランドの白黒テレビ
1980年代初期のカラーテレビ
最新のカラーテレビ生産ラインを導入し、「Qingdao」ブランドの第一世代カラーテレビを製造した

現在まで続く「Hisense」ブランドが使われるようになったのは、1994年からだ。

Qingdaoに代わる新しいブランド名を従業員らに募ったところ、ひとりのチーフエンジニア(Qian Zhongyu)のアイデアが採用され、英語の商標「HiSense」と中国語の商標「海信」が正式に導入されることになった。中国語の海信(発音はハイシン)には、「“海”のように包容力があり、“信”頼に足る」という意味が込められている。

右上のあるのが、一番最初のロゴ「HiSense」(HとSが大文字)。当時のロゴには、赤と青の円形デザインをあしらったマークが付いていた
当時使われていたハイセンスカー

2000年代からはグローバル戦略を加速。2010年には日本法人「ハイセンスジャパン」を立ち上げ、翌年からテレビの販売を開始した。日本でハイセンスの名前が大きく取り上げられた2017年11月のニュース「東芝テレビ事業の買収」の時にはすでに、世界第3位のテレビメーカーにまで成長を遂げていた。

近年においても、野心的な挑戦を続けている。

例を挙げれば、世界初の民生用“液晶2枚重ね”テレビ「U9DG」の発売(2021年)、完全独自開発の8K AI知覚プロセッサー「Hi-View HV8107」の開発(2022年)、LEDチップメーカー・Xiamen Changelight(乾照光電)の買収(2023年)などである。いまテレビ業界で話題を集めている「RGBミニLED液晶テレビ」も、世界で初めて発表&発売(2025年)したのはハイセンスだった。

創業から今年で57年を迎えるグローバルカンパニーだが、同社の最も歴史ある事業は、ほかならぬ“テレビ”というわけだ。

2005年にハイセンスが開発・量産した、中国初のデジタル映像処理プロセッサー「信芯(Hi-View)」
最新の信芯(Hi-View)プロセッサーは、現在発売されているハイセンスのテレビにも搭載されている。写真右端のチップは、RGBミニLEDバックライトを制御するための専用エンジン
“液晶2枚重ね”の技術を使った、ハイセンスの業務用4Kレファレンスモニター。CCTVなどの放送局で実際に使われているという

平均20秒ごとに85型テレビを1台生産!最新テレビ工場に潜入

ハイセンスのテレビ工場(Hisense Visual Technology)は、中国・青島の中心部から西へ車で約1時間ほど移動した黄島区にある。周辺は、ハイセンス以外の企業も数多く集まる広大な工場地帯になっていた。

現在ハイセンスは、全世界に7つのテレビ工場を持っている。ここ青島の工場は、年間数千万台ものテレビを生産する同社のマザー工場であり、中国国内はもちろん、日本を含む海外へ青島産テレビが供給されている。

ハイセンスの青島工場入り口。山東省以外にも、広東省、貴州省にテレビ工場が設置されている
敷地内には、テレビ工場のほかに業務用のエアコンを製造する工場もある

見学通路は工場建屋の2階にあり、ガラス越しにテレビの生産ラインを見ることができた。そこでは、バックライトの組み込みから、検査を終えたテレビを梱包するまでの“アッセンブリ”と呼ばれる工程が行なわれていた。

1つのラインに配置されているスタッフは、数名ほど。スピーカーのワイヤーをマザーボードに取り付けるなど、ごく一部の作業をスタッフが行なう以外は、全て機械が自動で作業を行なっていた。

製造ラインの自動化率は7割超。高い自動化率を維持するために、AI技術を積極的に採り入れているという。

例えば、バックプレートにLEDモジュールを取りつけるための糊の塗布も、塗布する位置やノズルから射出するサイズを、カメラがリアルタイムに監視し、その情報を機械にフィードバックさせることで品質の向上と不良率の低減を実現。ラインに流れてくるバックプレートが変わっても、サイズやモデルに応じた効率的な塗布が行なえるようになっている。

テレビ工場の内部(ハイセンス提供)

通路の中央付近では、LEDモジュール、拡散シートなどを載せ終えたバックプレートに、ガラス板(液晶セル)を取りつける様子が見学できた。

1本のロボットアームが85型サイズの薄く大きなガラス板をひょいと取り出し、もう1本のロボットアームが保護フィルムを剥離、横から流れてきたバックプレートにすぐさまガラスを取り付けた。この間、わずか数秒。しかも、0.2mm以内という取り付け精度を実現しているそうだ。

液晶パネルを取り付けた後は、裏側からメインボードやスピーカーなどを組み込まれ、点灯検査に入る。

電源が入るか? 電圧は正常か? HDMIやUSB端子にケーブルを接続して信号を認識するか? ボタンは機能するか? といった検査はもちろんのこと、そもそもディスプレイの表示に問題はないか? を機械が自動で検査してゆく。ホワイトバランスのキャリブレーションも、表示された映像をカメラがモニタリングして調整する。

以前は、スタッフがHDMIケーブルを1つ1つ挿して信号を確認する“手作業”だったそうだが、今ではケーブルの抜き差しから信号確認まで、短時間で検査できるようになっている。

テレビ工場の内部(ハイセンス提供)

梱包前の外観検査も、全て機械が行なう。ベゼルの凹凸やキズの有無、バックカバーの膨らみなど、カメラでテレビをスキャンして異常がないか? を判定する。

外観検査を終えたテレビの袋詰め、段ボールへの梱包も、天井から吊り下げられたアームが行なう。工場長は「機械による自動化やAI技術による徹底的な生産効率化で、平均20秒ごとに85型テレビを1台生産できる」とアピールした。

工場の自動化と並行して、スタッフの教育にも力を入れる。例えば、工場に初めて勤務する新入社員のトレーニングにはVRも活用。座学だけでなく、安全を守りながら、実際の現場に近い形で作業内容を学ぶことができるようになっている。

また、スタッフたちが“より生産性を高めるアイデア”を引き出せるよう、ラインで使われている道具やパーツを使って実験できるワークショップも用意。これまで200を超える改善アイデアが誕生し、実際のラインに組み込まれることで生産率向上に大きく寄与したそうだ。

工場のエントランス
青島工場で製造されているRGBミニLED液晶テレビ

なお、青島工場は今年1月、テレビ業界として世界初の「ライトハウス工場(Lighthouse Factory)」に選出された。

ライトハウス(Lighthouse=灯台)工場とは、世界経済フォーラム(WEF)と米国のコンサル大手マッキンゼー・アンド・カンパニーが、“第4次産業革命”の実現を牽引する先進工場として認定している制度だ。

デジタル技術の導入や自動化による生産効率向上、業務プロセスの改善、人材育成・働き方改革、持続可能性への取り組み、などを多面的に評価し、“世界の製造業の模範となる工場”を選んでいる。

工場長は「強調したいのは経営理念です。それは、ユーザー第一という考え方です。自動化や効率、品質向上といった取り組みはすべて、『製品を使うお客様へいいものを提供したい』という考えから生まれました。ここがライトハウス工場として認定されたのも、数々の取り組みだけでなくそうした理念があったからこそだと思っています」と話した。

責任者を務める聶均氏

テレビ製造ラインの見学後、責任者を務める聶均氏に話を聞くことができた。

――見学した85型はエントリークラスのミニLED液晶テレビだと思うが、RGBミニLED液晶テレビもここ青島工場のどこかで生産しているのか? また通常の液晶テレビと比べ、製造面における難しさがあれば教えてほしい。

聶均氏:ご認識の通り、先ほど見ていただいたラインで生産していたのはミニLED液晶テレビです。

通常の液晶テレビとRGBミニLED液晶テレビですが、製造の難しさが違います。

大きな違いは、バックライトの取り付けです。RGBバックライトの場合は、通常よりもモジュールの個数が多いうえに、複雑な取り付け精度、スピードを要求されます。従来のテレビを生産する技術をそのまま使うと、不良率が上がってしまうのです。どのようにして生産の精度を高め、不良率を抑えるか? が製造における1番の課題でした。

それからもうひとつ。先ほど紹介した点灯検査の部分ですが、RGBミニLED液晶テレビ向けに検査項目を追加しました。バックライトのムラや色を確認する工程です。

RGBミニLED液晶テレビは製造難易度は高いですが、我々は取り付けの精度や工程の改善に努めました。お客様に安心して購入していただけるよう、引き続き品質管理に注力していきます。

研究&製品開発部隊が勤務する「R&Dセンター」へ

ハイセンスR&Dセンター

テレビ工場見学の後、青島中心部から北東にあるハイセンスR&Dセンター(嶗山区)を訪ねた。R&Dセンターの広さは約44万平米。最新技術の研究や製品の開発に携わる部隊が勤務し、社員向けの食堂や病院などの施設も備える。

研究棟の中には、1メートル厚の吸音材を部屋の6面に設置した「無響室」(独FAIST社設計)や、製品のノイズ測定に使用する「電波暗室」(米ETS社設計)、輝度や視野角などディスプレイ機器の性能評価を行なう「光学実験室」などがあり、性能だけでなく安全性の高い製品の開発に活用しているという。

研究棟の中にある無響室
6面の壁には、1メートル厚の吸音材を設置。外部の騒音を遮断することで、13dBという非常に低い騒音レベルの環境下で実験が行なえるとのこと
コニカミノルタ製の分光放射輝度計を使って輝度や視野角性能を測る光学実験室

中でも印象的だったのが、フランスのオーディオブランド「Devialet(デビアレ)」との協力でビルに新設されたという音響実験室だ。

20畳程度の長方形の部屋には、「Phantom Ultimate 108dB」が5台、そして前後の壁には一回り小ぶりな「Phamtom Ultimate 98dB」が4台設置されていた。聞けば、9本のデビアレスピーカーが生み出す音響体験をひとつのレファレンスとしながら、テレビのスピーカー開発や音質チューニング、性能の向上に役立てているという。

実験室の入り口には、デビアレとの協業をアピールする写真がズラリ
音響実験室

協業の成果は、早くも製品に生かされている。今年5月に日本でも発売を開始したRGBミニLED液晶テレビ「RGB UXS」シリーズ、そしてミニLED液晶テレビ「U8S」シリーズには、デビアレがチューニングの監修に参加。加えて上位のRGB UXS(85/100型のみ)にはデビアレと共同開発したウーファーが採用された。

この新開発ウーファーこそ、実験室に設置されたPhantom Ultimateの対向式ウーファーの構造を応用したものだ。

背面にウーファーユニットを3基並べ、左右をパネル側、真ん中を背面側に動かすことで、十分なスペースが確保しにくく、低音を再現するうえで制約の多い薄型テレビにおいても、筐体を振動させずに、クリアな重低音を引き出せるよう設計されている。

実験室に用意されていた、RGBミニLED液晶テレビ「RGB 85UXS」
画面右下には、デビアレの最高品質を示す「Devialet | Opéra de Paris」のロゴが
RGB 85UXSの背面に搭載されているウーファー。左右をパネル側、真ん中を背面側に動かすことで振動を打ち消し、クリアな重低音を引き出せるよう設計

実験室では9本のPhantomを鳴らした後に、85型「RGB 85UXS」でも映画などのコンテンツを再生して、新製品の低音の豊かさや音の拡がり、セリフの聴きやすさをアピールした。

9本のデビアレスピーカーが生み出す、地割れのような重低音や一音一音のクリアさ、アトモス音声の自然な移動感に比べると、テレビのスピーカーはまだ発展途上といったところは否めない。ただ、高い次元のサウンドシステムをレファレンスとして、テレビのサウンドをもっと進化させていきたいという、開発担当者の並々ならぬ意気込みを感じることができた。

実験室のレファレンススピーカー「Phantom Ultimate 108dB」
UHB BDプレーヤーはOPPO、AVアンプはJBL SYNTHESIS「SDR-38」が使われていた
新開発ウーファーの特徴を説明する開発担当者

青島でも人気の高い「ハイセンス」。イメージは自社開発&ハイブランド

日本国内では、レグザ(TVS REGZA)、アクオス(シャープ)に次ぐ第3位のテレビシェアを持つハイセンスだが、中国ではどのようにブランドとして見られているのか? 最後に、京東商城(ジンドン)が展開する家電量販店「京東電器」のテレビコーナーを訪ねた。

日本の量販店と異なり、中国の家電製品売り場はブランドごとに区分けされているのが一般的だ。京東電器2階のテレビ売り場も、ハイセンスや東芝レグザなど、それぞれのブランドに分けられ商品が販売されていた。

ハイセンスのテレビ売り場
163型マイクロLEDテレビ「163UX」

ハイセンスの売り場は、約80万元(日本円で約1,900万円)の163型マイクロLEDテレビ「163UX」を中心に、RGBミニLED液晶テレビ、ミニLED液晶テレビ、そしてレーザーテレビを陳列。なかでも多くのスペースを取っていたのが、同社が推すRGBミニLED液晶テレビだった。

店員によれば、ハイセンスはテレビの生産で50年超、そしてエンジン開発で約20年という歴史を持っていることもあり、中国の消費者からは「自社開発」、「ハイブランド」といったイメージを持たれているという。サムスンやソニーのテレビと比較して売り場に足を運ぶ方も多いのだとか。

また、ここ青島はハイセンスのお膝元でもあるため、京東電器でのテレビ販売シェアは半分がハイセンスで、青島市内のテレビシェアの6割をハイセンスが占めるほど親しまれているブランドとのことだった。

RGBミニLED液晶テレビ「116UX」
中国では、RGBミニLEDモデルが「UX」「U7S Pro」「U6S Pro」の3シリーズが発売されていた。今後は、日本国内でも複数シリーズの展開が期待できるかも?

同席したハイセンスジャパン マーケティング部 部長の家倉宏太郎氏は「ハイセンスがグローバルで培ってきたRGBミニLED技術を、今年は日本市場でも“次世代テレビ”の価値提案として本格的に展開していきます。特に、FIFAワールドカップという世界的なスポーツイベントを通じて、高画質・大画面ならではの臨場感や没入感を多くのお客様に体感いただき、日本でも親しまれるブランドとなるよう、ハイセンスの認知と理解をさらに高めていきたいです」と話した。

後編では、ハイセンス本社幹部のインタビューを掲載する。

ハイセンスジャパン マーケティング部 部長の家倉宏太郎氏
阿部邦弘