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ピエール瀧出演「麻雀放浪記2020」はノーカットで4月5日公開。「作品に罪はない」

東映は20日、麻薬取締法違反の容疑で逮捕されたピエール瀧氏が出演する同社配給映画「麻雀放浪記2020」の公開について、多田憲之社長が「予定通り4月5日にノーカットで公開する」と発表。会見に白石和彌監督も登壇し、今回の決定やピエール瀧氏への思いを語った。現時点の公開予定劇場は51スクリーンで、逮捕後からの変更はない。

東映の多田憲之社長

協議を重ねてきた結果として、東映本社で記者会見を開催。多田社長は「容疑が事実であれば、決して許されることではなく、大変な憤りを感じている。劇場公開については、中止または延期、編集した上でのノーカットでの公開など議論が重ねられたが結論に至らず、配給担当者である弊社の判断で『麻雀放浪記2020』は4月5日にノーカットのままで公開する」と説明した。

理由については「あってはならない罪を犯した一人の出演者のために、作品を待ちわびているお客様に、既に完成した作品を公開しないという選択肢は取らないという結論に至った。劇場での上映は有料であり、かつ鑑賞の意思を持ったお客様が来場し鑑賞するクローズドなメディア。テレビ放映やコマーシャルなどとは性格が違う」とした。

映画「麻雀放浪記2020」

なお、上映劇場ではチケット購入前や、上映前などに、ピエール瀧氏が出演していることがテロップなどで案内されるという。また、ムビチケなど前売り券の購入者に対し、「不愉快であれば払い戻しに対応する」としている。ノーカット上映に合意が得られているのは現時点で劇場公開に関するもののみで、それ以外のメディア(BD発売や配信など)については「完全にコンセンサスが取れているわけではない」とした。

白石和彌監督(右)と、東映の多田憲之社長(左)

「麻雀放浪記2020」は、斎藤工主演、白石和彌監督(孤狼の血)の映画。1945年の戦後から、2020年の“第三次世界大戦後”の世界にやって来たギャンブラー“坊や哲”の物語。「平成最後の危険な“センセーショナル・コメディ”」としている。原作は阿佐田哲也の250万部を超えるベストセラー小説「麻雀放浪記」。

「麻雀放浪記2020」の現在のポスター

なお、同じくピエール瀧氏が出演していた映画「居眠り磐音」(配給:松竹)は、出演箇所を撮り直し、差し替えることが14日に発表。当初の予定通り、5月17日に全国公開される。また、公開済み作品では「アナと雪の女王」(ウォルト・ディズニー・ジャパン)に登場するキャラクター、オラフの日本語版吹き替え声優をピエール瀧氏から交代することが発表されている。

白石監督「バカヤローとしか言いようがない」、多田社長「多少の株価下落は覚悟」

今回の逮捕の件を受けて、これまで同社は「公開に向けて協議中。対応が決まり次第報告する」と案内していた。

同作品は当初からの宣伝手法として「マスコミにも一般観客にも公開日まで一切試写会を行わない映画」としていたこともあり、ピエール瀧氏が登場する具体的なシーンなどは明らかにされていないが、白石和彌監督によれば「(戦後まもなくの日本が舞台という)時代性もあって、ピエール瀧容疑者ではないが“ヒロポン”を打っているシーンは1カットある」とのこと。

白石監督は今回の決定について「編集や再撮影も検討したが、(東映から)『監督の気持ちは?』と聞かれて、何とか編集しないベストな形で公開したいのが正直な気持ちだと話した」とコメント。ピエール瀧氏には「抑えられない憤りを感じる」としながらも「作品そのものに罪は無い」とした。

映画「凶悪」などで関わってきた同氏への率直な気持ちとして「彼のキャラクターと男っぷりのよさなどに男惚れして、ここまで5本を仕事をさせていただいた。少なくとも仕事をしている時はそういう兆候は分からなかった。映画の中でも薬物を描いてきた中で、こういうことが起きたのは残念。今はバカヤローとしか言いようがない。罪を反省し、まずは治療をして、人として歩いてほしい」と語った。

「麻雀放浪記2020」白石和彌監督

同作品の紀伊宗之エグゼクティブプロデューサーは、上映決定の経緯について「製作委員会で協議してきた中で、コンプライアンスやリスクマネジメントについても、弊社のスタンスと、委員会の他の会社の中でも相違があった。その中で配給会社として、劇場での公開に関してノーカット上映するという判断を理解していただいた」と説明。

ピエール瀧氏側への損害賠償も検討中とのことで、「これから製作委員会を離脱する会社があれば、その部分は賠償の対象になるのでは」とした。BDや配信の予定については「製作委員会の各担当者の見解をうかがいながら、対応の協議を続けていく」と述べた。

紀伊宗之エグゼクティブプロデューサー

今回の件に限らず、他作品では出演者の事件によって映画が公開中止/延期となったり、出演シーンが編集されるというケースが起きている。今回の決定について多田社長は「マニュアル的にやることが果たしていいのかという疑問がある。コンプライアンスという意味で、社内や社外取締役から『おかしいのでは?』という意見はあるかもしれないが、真摯に説得したい。少々株価が落ちるかなということは覚悟している」との心境を明かした。

白石監督は「作品によっては、撮り直しなどは各社の判断でいいが、過去作まで選択の余地が無いようにする(観られなくする)のはどうなんだろうと思う。世に作品を放って、劇場公開も終わった状態であれば、観る観ないの判断は、ユーザー、お客さまに判断を委ねるべき。配信などは、最初に注意喚起(テロップでの出演者の明示など)はあってもいいとは思う。過去作まで一律で無くすのは、作った映画会社だからとかではなく文化にとっての損失。業界全体でガイドラインを作るべきだと個人的には思っている」との考えを語った。

映画「麻雀放浪記2020」WEB限定予告編