パナソニック、有機ELは2014~15年に事業化へ

-株主総会で最大の赤字に経営体質問う株主相次ぐ


大阪市の大阪城ホールで開催された第105回定時株主総会

 パナソニックは、27日午前10時から、大阪市の大阪城ホールで、第105回定時株主総会を開催した。

 会場には5,630人の株主が参加。また、東京、名古屋の株主のために、ハイビジョンによる中継も行なった。東京では534人が参加、名古屋では654人が出席したという。

 議長を務めた大坪文雄社長による開会宣言のあと、報告事項として、2011年度業績などについてビデオを交えて説明した。


会場となった大阪城ホール

 3カ年の中期経営計画「GT12(Green Transformation 2012)」の2年目を迎えた2011年度に、7,722億円の最終赤字となったことなどに触れたほか、2012年1月には、グループの事業再編を行ない、AVCネットワークス、アプライアンス、システムコミュニケーションズ、エコソリューションズ、オートモーティブシステムズ、デバイス、エナジー、ヘルスケア、マニュファクチャリングソリューションズの9つのドメインと、グローバルコンシューマーマーケティング部門の1部門で構成する新事業体制をスタートしたことも紹介。

 グローバルに顧客と直結する体制の確立や、まるごとソリューションなどの横串の総合力を発揮する仕組みの導入、個別事業でのシナジー創出と重複事業の解消などに加え、「環境革新企業」実現に向けた基盤を構築したとした。

 大坪社長は、「将来につながるための大規模な構造改革や、コスト圧縮への取り組み、痛みを伴った改革に強い意思を持って取り組んだ。その結果、環境革新企業への基盤はできたと考えている。しかし、将来につながる取り組みとはいえ、それに伴い、多額の赤字を出したことについては深くお詫び申し上げる」と、株主に陳謝した。

 一方、大坪社長は、「2012年度は、GT12の最終年度であり、大規模な構造改革とグループ再編を行った効果を出す最初の年となり、かつてないほどの成果が問われる年といえる。GT12の数値目標の達成はあきらめざるを得ないが、目指す姿に向かうための体制を構築できた。2012年度は売上高8兆1,000億円、営業利益2,600億円、当期純利益500億円の目標を、社会へ約束として、強い意思と執念をもって取り組む」と語った。

議長を務めた大坪文雄社長(モニター画像を撮影)株主に対して、業績悪化を謝罪した大坪社長(モニター画像を撮影)グループの経営目標

 



■テレビ事業の黒字確保へ

 2012年度は、「収益にこだわる」、「商品を鍛える」、「自ら変わる、変える」の3項目をグループ共通の基本指針に掲げる。

テレビ事業の収益改善策

 課題事業となっているテレビ事業においては、構造改革における固定費の大幅圧縮に加え、不採算モデルの絞り込みと、さらなるコストダウンを推進して、黒字を確保。パネル事業では非テレビ分野への用途展開などによる付加価値戦略を進めるという。

 さらにはソーラーやリチウムイオン電池などのエナジー関連や、アプライアンスなどの成長事業における増販のほか、まるごとソリューションによる新たな収益モデルの構築などに取り組むとした。また、コンシューマ分野では、現地密着の商品開発と先進技術の融合を促進。インドやブラジルにおける全社プロジェクトを重点テーマのひとつとして取り組む姿勢を強調した。


 「損益分岐比率を7%引き下げ、経営体質を2010年度水準に改善する。テレビ事業、半導体事業で赤字の撲滅を図り、成長事業での増益のほか、規模は小さくても強い企業向け事業を創出する。また、『まるごと』による新たな収益モデルを構築する」としたほか、「GT12は、エレクトロニクスNo.1の環境革新企業に向けた基盤づくりが大きな取り組み。2012年度は、2013年度以降の中期経営計画を策定する年でもあり、GT12での実現した基盤の上に、収益構造を再構築し、環境革新企業への道筋をつけていくことになる。2012年度は、収益力を高め、企業価値を最大化する経営に取り組む。グループ一丸となって、なんとしてもV字回復を果たすことで、社会の期待に応えていく」と語った。

次期中期計画収益構造の現状と変革の方向性2012年度の位置付け

 



■最終赤字や経営体制へ株主から質問が相次ぐ

 午前10時55分頃からは、株主の質問を受け付けた。

 9人の株主から20個の質問が寄せられたが、過去最大の最終赤字や経営体制に関して追及する質問が相次いだ。

 「パナソニックは、松下とは大きく違う会社のようだ。尼崎の工場については、無駄使いも多い。なぜ『松下』という金看板を下ろしたのか。経営者は俺流の経営ではなく、かつての松下流の経営に戻してほしい。このままでは、隣の国の会社(サムスン電子)の子会社になってしまうのでないか」との質問には、大坪社長と吉田守常務役員が回答。

 吉田常務役員は、「尼崎工場への投資は、2006年に投資決済を行なったが、冷静に判断しながら、全体の議論を行い決定したもの。だが、リーマンショック以降の環境変化、為替の変化、液晶の技術変化もあった。プラズマの競争力の弱体化も起こった。昨年、適正な体制のために、構造改革を断行した。2012年度は、1,300億円規模の収支回復に取り組み、なにがあろうとも黒字を達成するという決意で取り組む。テレビは、宅内の双方向の情報端末になっていく。テレビ事業を再編していく」とした。

 また、大坪社長は、「金遣いが荒いというよりも、当時は投資競争であった。衆知を集めた結果、ベストの判断であったと考えている。結果としては大きな損失を出したが、この反省を次の成長につなげたい」と語った。

 さらに大坪社長は、松下電器の金看板を下ろしたことについては次のように回答した。

 「松下電器時代には、パナソニック、ナショナルのブランドもあったが、当社がソリューション、システムといったビジネスを目指す上で、社名、ブランドがまちまちでは統一感が出ない。ブランドを統一以降、世界のブランド価値ランキングは、毎年上昇している。社名変更は間違いではない。重要なのは経営理念が忘れられていないかということである。これは当社で強く意識していること。三洋電機や電工からの仲間が増え、松下歴史館や枚方の研修所で、全従業員が理念を学んでいる。創業者の想いから外れた経営はしていない。創業者の理念に基づいた新たなパナソニックを目指している」と語った。


 さらに株主からは、「未曾有の赤字に加え、時価総額が大きく減少しており、すでに事業モデルが賞味期限切れ。パナソニックの火を消してもらっては困る。経営陣を一新してほしい」との質問が飛んだが、これに対して大坪社長は、「リーマンショック以降、様々な要素もあり、経営環境は大きく変化した。うまく適応できず、巨額の赤字を出したことは反省している。しかし、社名変更、ブランド統一を行い、太陽光発電などを持つ三洋電機を統合し、ソリューションを持つパナソニック電工の完全子会社化を行なった。エコやエネルギーに軸足を持った事業体制とし、海外への白物家電事業への展開を進めながら、テレビや半導体の構造改革を行なった」。

 「2012年度に確実にV字回復を遂げ、2018年にエレクトロニクスNo.1の環境革新企業を目指すことで、失われた損失も挽回でき、その活動が株価につながる。そして、この1月に体制を再構築したことで、新たな経営陣へとバトンタッチする。三洋電機、パナソニック電工の合併は、中長期的に価値を判断するものであり、パナソニックの中長期での成長に期待してほしい」とした。

 さらに、株価低迷については、「巨額な赤字が現在の株価につながっていることは申し訳ない。株価回復は、業績を回復させることで、証券市場および株主に安心してもらうことである」とした。

 経営が悪化するなかでの役員の報酬に関する質問では、中川能亨常務役員が、「2009年度には役員年俸の削減を実施し、会長、社長は30%カット、それ以外の役員は20%カットとし、これを2010年度も実行してきた。2011年度は前年よりも回復したので、削減率を見直したが、今年度は大幅な削減を検討している」と回答した。

 また、今後の人員削減については、大坪社長が回答。「収益力を回復しないとパナソニックの将来の発展は難しいと考えている。大きな構造改革を終えて、新しい成長へ向けての事業再編に手を打った今年こそが収益改善が求められる。少なくとも、パソナニックグループとして手を打つべき、大きな構造改革は2011年度で終わったが、経営環境は時々刻々変化するものであり、事業単位、ドメイン単位では、必要に応じて最適な経営体質強化を図っていくのは当然である」と語った。


 



■有機ELは2014~15年に事業化へ

 「優等生だったテレビ事業が、劣等生になっている。その復活に関して、有機ELについては触れられてないが大丈夫か」との質問に対しては、吉田常務役員が「事業規模に見合ったスリム化、商品改革、原価改革などにより、テレビ事業の黒字化を行なう」と再びコメント。

 さらに、有機ELについては、「今週、ソニーとの協業発表をした。有機ELは、プラズマの良さ、液晶の良さを持った将来の大事なデバイスと認識している。ただ、開発ステージにあり、各社最終的に有効な方法、手段を開発しているところであり、経済的、性能面でも有効な工法を確立している段階。2014年、15年に向けて、有機ELに関する検討を徹底的に行なうことで、事業化を推進していく」と回答した。

 「高齢者が欲しいという製品がない」という点には、坂本俊弘副社長が回答。「世界規模で、ユーザーからの声を反映する取り組みを行なっており、世界に14カ所の生活研究拠点と、4カ所のデザイン拠点がある。日本でも高齢者の意見を聞きながら、製品、サービスに反映していくことが重要だと認識している。ここでは、地域の電気専門店が大きな役割を果たす。地域専門店は、微減傾向にあったが、昨年度に三洋電機系列の専門店が加わり、18,500店舗の体制が整った。これは、2002年度当時の販売店の数に匹敵する。高齢者をフォローする体制が整ったといえ、今後も高齢者のサポートを重視していく」とした。

 なお、第1号議案の取締役16名選任の件、第2号議案の監査役2名選任の件については、いずれも可決され、12時1分に閉会した。

社長に就任する津賀一宏氏(モニター画像を撮影)

 議案の決議を行なったあと、大坪社長は、社長退任の挨拶を行ない、「ご支援に対して心から厚くお礼する。今後は、新社長のリーダーシップを補佐することで、社業の発展に全力を傾ける。よろしくお願いしたい」とした。

 また、社長に就任する津賀一宏氏が引き続き挨拶を行ない、「皆様を前にし、また、今日、貴重な意見をいただき、株主、お客様、取引先をはじめ、社会に対する広く、大きな責任を痛感している。2018年に創業100周年を迎え、目指すべき姿は環境革新企業の実現である。現在の厳しい状況を総力をあげて乗り越え、収益性に富んだ企業にならなくはならない。微力だが、粉骨砕身の努力を図るので、理解と支援をお願いしたい」と語った。



(2012年 6月 27日)

[AV Watch編集部 大河原 克行]