大河原克行のデジタル家電 -最前線-

電機大手の'11年度連結決算からテレビ事業の課題を探る

~'12年度以降の黒字化をなしえるのか?~


 2011年度連結決算が電機各社から出揃った。

 電機大手8社(日立製作所、パナソニック、ソニー、東芝、富士通、三菱電機、NEC、シャープ)の最終損益は、合計で1兆1,394億円の赤字。前年の3,775億円の黒字から1兆5,000億円規模も悪化した状況だ。

 この背景には、グローバルでの景気低迷や、長引く超円高の影響、東日本大震災やタイ洪水被害の影響、そして構造改革費用の影響などがあるが、テレビ事業の悪化が赤字に直結していることが見逃せない。

 パナソニックやソニーでは1,000億円規模の赤字をテレビ事業で計上。東芝も500億円規模の赤字が出ているからだ。

 各社の決算を通じて、テレビ事業の現状を俯瞰してみたい。

【'11年通期のテレビ事業赤字幅】

会社テレビ事業赤字額
ソニー1,480億円
パナソニック1,000億円規模(推定)
シャープ非公表
東芝500億程度
日立非公表

*各社決算発表などから


■ 2013年の黒字化目指し体質改善を目指すソニー

 4,566億円という過去最大の最終赤字となったソニーにとって、テレビ事業の回復は最優先課題となる。

 全売上高の約5割を占めるCPS(コンスーマープロダクツ&サービス)部門の売上高は、前年度比18.5%減の3兆1,368億円、営業損失は、前年の108億円の利益から、一転してマイナス2,298億円の赤字。「為替の悪影響や東日本大震災及びタイの洪水の影響、先進国における市場環境の悪化などの影響を受けた」(加藤優CFO)とするが、テレビ事業の赤字の影響は重くのしかかっている。

 ソニーによると、液晶テレビの売上高は前年度比28%減の8,400億円。S-LCDなどの構造改革費用を除いた実質ベースでの営業損失はマイナス1,480億円の赤字を計上した。テレビ事業の赤字は8期連続。もはや構造的な赤字体質となっていることが浮き彫りになった。

ソニー加藤優 EVP CFO

 2011年度の全世界のテレビの出荷台数は、前年比13%減の1,960万台。年初には、年間2,700万台の出荷計画を見込んでいたことに比較すると大幅な減少だ。

 同社では、「地上デジタル放送移行後の需要低迷やエコポイント制度の反動が見られた日本での販売縮小に加えて、欧州および北米での市場環境の悪化による販売台数の減少、価格下落の影響があった」と説明。「残念ながら2012年度もこの傾向は続くことになる」(ソニーの加藤優CFO)とする。

 テレビ事業では、2012年度も800億円前後の赤字が残る見通しだ。

 ソニーの加藤CFOは、「数量を追うのではなく、収益改善を優先する」と、2012年度のテレビ事業の方針を打ち出してみせる。

 「新興国においては、数を追わないというわけではなく、成長市場では売上拡大を目指す」とするものの、先進国市場では利益優先のビジネスへと転換を図る。

 2012年度のテレビの出荷台数は10.7%減の1,750万台と前年実績に比べて1割縮小させる考えだ。

 だが、テレビ事業において、いくつかの明るい兆しが出ていることも示す。

 ソニーの神戸司郎業務執行役員は、「2011年11月に発表した収益改善プランでは、テレビ事業で1,750億円の赤字としていたが、そこから約270億円の改善。すでにS-LCD合弁解消効果が出ている。テレビ事業の収益性は、想定以上に改善してきている」とする。

平井一夫 社長 兼 CEO

 2012年度には、S-LCDの合弁解消などによる固定費削減効果がさらに貢献するとみており、これが前年度に比べて大幅な損失圧縮につながる。

 ソニーの平井一夫社長は、「エレクトロニクス事業においては、事業経営のスピード、長期戦略に基づく投資領域の選択と集中、イノベーティブな商品・サービスおよび技術開発力、テレビ事業の8期連続の赤字の黒字化という4つの課題を解決できなければ、ソニーの再生もその後の成長もない」と語る。

 2013年度には、いよいよテレビ事業の黒字化を目指すが、それに向けて2012年度に損失をどこまで減らすことができるかが注目されることとなる。



■ 1,300億円の収益回復に挑むパナソニック

パナソニック 大坪文雄社長

 パナソニックは、テレビ事業を中核とするAVCネットワークの売上高が前年比21%減の1兆7,135億円、営業損失がマイナス678億円の赤字となった。

 そのうち、液晶テレビの売上高は28%減の3,923億円、プラズマテレビが41%減の2,838億円と、いずれも大幅なマイナス。合計では前年比34%減の6,760億円。そして、テレビ事業は赤字となった。

 赤字額については明確な数字は明らかにしていないが、2012年度のテレビ事業の黒字化に向けた収益改善プランにおいては、1,300億円の改善を見込んでおり、「ここから逆算してほしい」(パナソニックの大坪文雄社長)ということを踏まえると、2011年度は1,000億円規模の赤字幅になっていることが推察できる。

 薄型テレビ事業では、早期退職制度の実施、拠点再編などで144億円、また、固定資産関連で2,671億円、その他に84億円を加えた2,899億円の構造改革費用を計上したことも大きく影響している。

 テレビの出荷台数は前年比13%減の1,752万台強。内訳は、プラズマテレビが前年比36%減の480万台、液晶テレビは前年並の1,272万台。年度初めには、2,500万台としていた計画に比較すると3割減の水準だ。

 国別の販売台数は明らかにしていないが、販売金額では、6,760億円のうち、国内が55%減の1,492億円、海外が25%減の5,268億円と、国内での販売金額が半減以下となっていることが大きく響いているのがわかる。また、海外のうち、欧州が27%減の1,627億円、北米が31%減の1,472億円、アジアが23%減の986億円、中国が21%減の664億円、中南米が2%増の518億円と、中南米を除いて軒並み前年割れとなっている。

 「想定以上の価格下落と大幅な販売減少によって、固定費などをカバーできなかったこと、さらには原価のコストアップなどで利益を圧迫した」と語る。

 一方で、2012年度はテレビ事業の黒字化を最大の課題に掲げる。

 「懸案のテレビ事業においては収益重視の方向に大きく舵を切り、2011年度に大規模な構造改革を行なった。2012年度はその成果をしっかりと刈り取り、新たな事業の姿を確立する年にしていく」と大坪社長は宣言する。

 テレビ事業における約1,300億円の利益改善では、売価ダウンの500億円のマイナス影響を加味。モノづくり改革や原価低減により約700億円の改善、大画面展開で200億円の改善、非テレビ用途へのパネル展開で約200億円、構造改革効果で600億円、その他で100億円を想定している。

 「不採算モデルを大胆に絞り込み、液晶の大画面展開、スマートテレビの強化などを進め、黒字化を目指す。また、パネル事業においても、構造改革による固定費の低減に加え、当社の強みを生かしながら利益を確保できる非テレビ分野へシフトし、収支の大幅改善を図る。液晶、PDPともにさまざまな用途への展開が成果をあげはじめており、これらの施策の実行により、1,300億円の大幅な収支改善を目指す」とした。

 2012年度のデジタルAVCネットワークの売上高が前年比1%増の1兆7,300億円、営業利益が黒字化を目指す。この鍵はやはり薄型テレビの大幅な利益改善に尽きる。

 2012年度の薄型テレビの出荷台数計画は、プラズマテレビが250万台、液晶テレビが1,300万台の合計1,550万台。テレビ全体では前年比12%減となる。液晶テレビは2%増の成長を見込むが、プラズマテレビは約半減と大幅に縮小。液晶テレビの出荷台数の5分の1に留める。これは数年前に決断したプラズマテレビ中心のビジネスからのシフトをより鮮明にするものになっているといえよう。

 大坪社長は、「テレビ全体では、前年に比べて出荷台数が約200万台減少し、さらに平均単価は15%程度下落すると予想している。2011年度の薄型テレビ合計の6,761億円の売上高に対しては、約1割程度は落ちるだろう」とする。しかし、プラズマテレビでは70%が50型以上になると見込んでいること、液晶テレビでは40型以上が30%を占め、液晶パネルの5割以上を非テレビ分野に振り分けることにより、BtoBビジネスを加速することで収益改善を図る考えだ。「セットとパネルの合計では通期で赤字が残るが、年度内には四半期ベースでの黒字化を図る」と目論む。

 大坪社長は、6月から津賀一宏専務に社長の座を譲るが、「失った信頼を取り戻すのは実行力しかない。2012年度は、新事業体制の真価を発揮し、なんとしてでもV字回復を実現したい」と語る。

 テレビ事業の再建は、喫緊の課題である。


■ 下期からの回復を見込むシャープ

シャープ 奥田隆司社長

 シャープも、最終赤字でマイナス3,760億円を計上。創業99年目の決算は、過去最大の赤字となってしまった。

 シャープの奥田隆司社長は、「中小型IGZO液晶の出荷遅れなどに加え、ヒット商品やオンリーワン商品を次々に市場投入する取り組みが不足したことが主因」としながらも、「主要分野における売上高の大幅な減少」を要因のひとつにあげ、テレビ事業、液晶事業の不振が大きく響いたことを示す。

 液晶テレビを含むAV・通信機器事業は、売上高が25.6%減の1兆610億円、営業損失が61億円の赤字。白物家電事業の健康・環境機器事業、複合機などの情報機器事業が増収増益になっているのとは対照的な結果となった。

 テレビ事業の売上高は27.7%減の5,813億円となっており、営業赤字を計上している。

 液晶テレビの販売台数は前年比17.1%減の1,229万3,000台。年初計画では1,500万台としていたが、2011年10月の上期決算発表時には1,350万台へと計画を下方修正。さらに今年2月には1,280万台へと再び下方修正したものの、結果はそれを下回るものとなった。

 国内の販売台数は前年比34.3%減の583万7,000台、海外は8.8%増の645万6,000台。国内の需要低迷を、海外の成長では埋められなかった格好だ。

 海外の出荷内訳は、北米が24.4%増の170万3,000台、欧州が5.2%減の135万2,000台、中国が9.5%減の197万8,000台、その他地域が49.2%増の142万2,000台となっている。

 シャープの大西徹夫常務執行役員は、「家電下郷制度による終息の影響を受けた中国市場の減退、単価下落の影響があったものの、米国では60型以上の大型テレビの販売が功を奏し、海外販売は台数、金額とも前年実績を上回った。だが、国内テレビ市場は下期には4割を割り込む大幅な需要減退が響いた。初期の液晶テレビ購入者の買い換え需要が出てくる狭間における反動減といえるが、ここまで落ち込むとは思っていなかった」とする。

 具体的な赤字額は公表していないが、北米、中国では黒字を確保。だが、国内は大幅な赤字になったという。

 そして、2012年度も厳しい状況を予想している。

常務執行役員 経理本部長 大西徹夫氏

「厳しい状況は2012年度上期も続くことになる。下期は通常の販売サイクルに戻るとみているが、通期ではテレビ事業の赤字は消えない。60型以上の大型液晶テレビの国内外での事業拡大、国内を中心とした営業体制の見直し、スリム化による収益改善、BtoB型事業の強化に取り組む(大西常務執行役員)と語る。

 2012年度のテレビ事業の売上高は前年比14.0%減の5,000億円。出荷計画は前年比18.7%減の1,000万台。そのうち国内は48.6%減の300万台と半減近い縮小。海外は、前年比8.4%増の700万台を見込む。

 国内市場向けの出荷台数が大幅に減少するなか、価格競争の激しい海外市場における成長戦略を推進する上で収益性も気になるところだ。

 同社では、AV・通信事業などの社員約2,000人を対象に、情報機器、健康環境機器、BtoB、太陽発電などの成長分野への配置転換を図る計画を打ち出しており、すでに2011年度下期実績1,053名を転換。2012年度にも約900名の配置転換を計画している。こうしたスリム化や在庫の適正化、設備投資の圧縮などにより、収益型のビジネスへの転換を図ることが早急の課題といえる。

 一方、液晶事業については、2011年度の売上高は29.8%減の7,209億円、営業損失はマイナス422億円の赤字。「モバイル向け液晶は堅調に推移したが、大型液晶は世界的な市場環境の悪化により、工場の稼働調整を実行したことや、在庫評価減が影響した」(大西常務執行役員)とする。とくに、操業率を50%に抑えた堺工場の減産が業績に影響したことが大きかった。

 奥田社長は、「堺工場の稼働調整は4-6月も引き続き行なうことになるが、年末商戦に向けた受注活動を通じ、外販比率を高めることで稼働率を上げていく」とする。今年4月から、亀山第2工場で開始したIGZO液晶パネルの量産に加え、亀山第1工場では夏から液晶の生産を開始することも追い風となる。

 2012年度は、液晶事業で前年比29.0%増の9,300億円の売り上げを見込む。営業損失については、「通期で100億円程度の赤字が残ることになるだろうが、下期は液晶全体では黒字になる。大型液晶の黒字化が急務」(大西常務執行役員)などとしている。

 シャープのテレビ事業および液晶事業復活の切り札になるのは、台湾の鴻海(ホンハイ)グループとの提携の成果だ。堺工場では、今年10月をめどに、鴻海グループによるパネルの調達が開始され、最終的にはこれを50%の比率で調達する水準に高める。堺工場の稼働率上昇に直結することになる。

 「液晶テレビなどのデジタル家電は、商品特長よりも生産規模が重要になっており、戦略的に鴻海グループとのアライアンスを組んだ」(奥田社長)、「鴻海グループは、コスト力を最大の武器とする企業。それに対して、シャープは商品開発力があり、そのシナジー効果が発揮される。シャープが学ぶ点も多い」(大西常務執行役員)と語る。

 一部報道では鴻海グループが46.5%を出資するシャープディスプレイプロダクト株式会社(SDP)を上場させる計画が、鴻海精密工業の代表を務める郭台銘氏のコメントとして明らかになっているが、それに関しては「詰めを行なっている段階であり、まだ何も決まっていない」(大西常務執行役員)と回答するに留まった。

 シャープの奥田社長は、「2012年度は、100周年という節目を迎える。オンリーワンであるIGZO液晶、プラズマクラスター商品群、ビジネス機器など、利益率の高い商品の貢献を見込む」とする。テレビ事業および液晶事業は、成長への貢献ではなく、まずは黒字化することが課題となる。


■ 2012年度も赤字予想の東芝のテレビ事業

 東芝は、液晶テレビを含むデジタルプロダクツ部門の売上高が13%減の1兆6,640億円、営業損失が571億円悪化のマイナス282億円の赤字となった。

 東芝の久保誠代表執行役専務は、「デジタルプロダクツは、液晶テレビが国内販売を中心に悪化したこと、売価ダウンの影響で前年比減益になった」と、テレビ事業が同部門の赤字要因であることを指摘する。

 久保代表執行役専務によると、テレビ事業の赤字額は「500億円程度」とし、「想定以上の台数減少、競争激化による価格下落が要因。新興国では計画通りの実績となったが、赤字を消すところにまでは至っていない。とくに、国内では、下期の落ち込みが想定を超えるものとなっており、2011年度第3四半期(10~12月)は前年同期比で7割を超える落ち込みになったのに続き、第4四半期(1~3月)についても、市場の状況以上に出荷を絞り込んだため、7割近い落ち込みとなった。結果として、下期を通じても7割を超える落ち込みとなった」とした。

 同社では2012年1月時点で、液晶テレビの年間出荷計画を1,500万台としていたが、「この計画には届かなかった」(久保代表執行役専務)という。

 年度初めには1,800万台を計画。さらに2010年度実績が約1,400万台であったことに比較しても大きな販売台数成長はなかったといえる。東芝の佐々木則夫社長は、「2011年7月以降の国内テレビ市場の減少を見据えて、一昨年12月から、国内テレビ生産拠点である深谷事業所でのテレビ生産を停止する方向性を決めていた。アセンブリは価値を生まない」などとして、国内生産からの撤退によるコスト見直しにも着手していたが、予想以上の落ち込みを吸収できなかった。

 2012年度については、「国内市場は販売台数の大きな成長は期待できないこともあり、2012年度は全世界で1,600万台程度の販売台数を見込む。だが、まずはコスト改善が重視される。よりスリム化した事業形態のなかで、市場ニーズにあった製品を投入することが必要」とする。

 久保代表執行役専務は、インドやASEAN市場向けに、電波の受信感度の弱い地域や電力供給が不安定な地域でも安定的な視聴が可能な「Power TV(パワーテレビ)シリーズ」を投入していることを示しながら、「地域の特性を捉えたローカルフィットの製品が受け入れられており、こうした製品によって確実に利益を出していきたい」とする。

東芝 佐々木社長

 だが、2012年度のテレビ事業については、決算会見では「上期は、2桁程度(=数10億円程度)の赤字となる。下期にはブレイクイーブンになるだろうが、通期では、上期の赤字分が残ることになる」(久保代表執行役専務)と通期赤字見通しであることを示していたが、その後の会見で佐々木社長は、「社内の実行計画では黒字を想定している」と意言及。「201年度下期まで7半期連続で黒字を継続した実績がある。投資対効果はまだまだあり、黒字化できる自信がある」などと語った。同の広報も「2012年度下期は黒字を目指しており、通期ではブレイクイーブンの見込み、但し社内的には通期で黒字を目指している」とする。

 久保代表執行役専務は、「とくに国内においては、固定費、変動費のほか、オペレーションのやり方、製品の出し方、損益管理の徹底などを検討している段階にあり、さらにハードウエアとサービスの双方から、マーケットにフィットした提案を行なっていく必要がある」などとした。

 2012年度のデジタルプロダクツ部門の売上高は3%増の1兆7,100億円、営業利益は432億円改善の150億円の黒字を目指すが、テレビ事業がどこまで回復するかが、デジタルプロダクツ部門の黒字化に影響することになる。


■ 自社生産から撤退した日立は液晶を極小化

 パネルおよびテレビの自社生産から撤退した日立製作所は、テレビ事業の影響が極小化。それも貢献し、2011年度連結業績では最終黒字で2期連続の過去最高を更新するという好調ぶりだ。

 だが、同社のテレビ事業は、2011年度は赤字。「需要の冷え込みの影響や在庫処分費用の影響によるもの。2012年度も、固定的なサービス費用などがあり、赤字が残る」(日立製作所・中村豊明副社長)というが、「テレビ事業が、びっくりするような下振れ要因になることはない」と語る。

 2010年度のテレビの販売台数は197万台。2011年度実績は約4分の3となる150万台。そして2012年度は80万台にまで絞り込む計画だ。

 同社は、宮崎県のプラズマディスプレイ工場、千葉県の液晶パネル工場を売却。テレビの生産も国内からは撤退し、海外のEMSを活用するといった事業構造改革にいち早く取り組んできた。

 日立製作所の中西宏明社長は、「テレビは家電の顔であり、内製をストップする決断にはすごい抵抗感があったのが正直なところ」と振り返りながら、「決断してみると、赤字を出さずにやれるめどがついた」とする。

 だが、国内生産をやめ、出荷台数を大幅に縮小しても、テレビ事業から完全撤退するという考えはないようだ。

 「地域店においてはテレビは重要な製品であり、品質保証を含めて継続的に製品を供給していくことになる」とする。

 日立製作所が中核事業に据える社会イノベーション事業においては、世界規模でのスマートシティの展開も含まれている。そうしたなかで新たな時代のテレビが果たす役割も見逃せない。そのなかで、日立製作所は今後のテレビ事業をどう位置づけるのかが中期的な注目点になるといえよう。


■ 2012年度は次のビジネスモデルを確立する1年に

 各社決算から、テレビ事業の不振が浮き彫りにされ、2012年度計画でも引き続き事業縮小を打ちだす企業が多いものの、テレビ事業からの撤退は各社とも考えていない。

【各社の'12年度全世界テレビ販売目標】

会社'11年度販売実績'12年度予想前年比
ソニー1,960万台1,750万台-10.7%
パナソニック1,752万台1,550万台-11.5%
シャープ1,229万台1,000万台-18.6%
東芝1,500万台弱1,600万台+6.7%
日立150万台80万台-46.7%

 その理由は、パナソニックの大坪社長のこの言葉からも明らかであろう。「テレビは、白黒からカラーへ、ブラウン管から薄型パネルへ、アナログからデジタルへ、2Dから3Dにというように社会の変革をリードしてきた家電の代表製品である。今後もスマートテレビの登場が期待され、テレビの必要性はまったく変わらないだろう。社会の変革を引っ張っていく製品であることにも変わりがない」。

 自社生産から撤退した日立製作所が、引き続きテレビ事業に関心を寄せ、「スマートテレビの動向は引き続きウォッチしていく。テレビ事業をあきらめたわけではない」(日立製作所・中西社長)とするのも同様の理由からだ。東芝の佐々木社長も、「テレビはコンシューマ市場における顔、そしてHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の顔になる。発電所から家電までを提供する東芝にとって必要なデバイス。テレビ事業をやめる意思はない」と語る。しかし、「薄型テレビは目指した台数を生産しても、収益が上げられず、過剰投資になったというのは大きな反省をしている」(パナソニックの大坪社長)というのは、各社の2011年度におけるテレビ事業およびパネル事業の構造改革の取り組みを象徴する言葉であり、この影響が2012年には解決することになる。

 だが、その先のテレビ事業の取り組み手法は、従前の手法とは大きく異なることになろう。

 最適な例が、パナソニックが取り組む次世代テレビの有機ELテレビの方向性だ。パナソニックの大坪社長は、「有機ELを事業化する上で、プラズマや液晶で経験した大きな経験を生かしていくということを考えると、すべて自前でやる可能性は低い。ベストパートナーと組む一方、我々はニーズ開拓、技術開発を進めていく」と語る。

 自前主義から脱却して、テレビ事業を推進する姿勢は、これまでのパナソニックの手法とは大きく異なる。

 そして、同様に自前主義にこだわってきたシャープも、鴻海グループと資本提携。これまでの自前主義からの脱却を意味することとなる。

 いずれにしろ、2012年度は、回復後のテレビ事業のビジネスモデルを新たに確立するめたの一歩という点でも、重要な1年になることは確かだといえよう。

(2012年 5月 22日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など