レビュー

イヤフォンなんて1本あれば十分。そんな私が「好きな音」を探し始めるまで

オーディオ業界10年目。現在はYouTubeで主にオーディオ製品をレビュー

外を歩いても、電車に乗っても、今や「イヤフォンを付けていない人のほうが少ないのでは?」と思うぐらい、「イヤフォン」は私たちの生活の一部になっている。しかし、辺りを見回すと定番モデルを使っている人が多い。イヤフォンに対してこだわりを持っている人は、それほど多くないのかもしれない。

私は今年でちょうど10年、オーディオ業界に身を置いている。そんな私の周りにいるのは、イヤフォンに何かしらのこだわりを持って使っている人ばかりである。これを読んでいるオーディオ好きのあなたも、そうではないだろうか。

確かに「音を聴く」ツールとして考えてみれば、1本あれば十分だ。

かくいう私も、もともとは何気なくイヤフォンを生活の一部にしていた側で、こだわりなどは一切なかった。

そんな私が今では、10年もオーディオ業界に身を置き、イヤフォンについてこうして発信までしている。

「たにみく🎧オーディオチャンネル」

何がきっかけで、ただ音を聴くためのものだったイヤフォンが、自分にとって「こだわりたいもの」に変わったのか。

オーディオ業界に足を踏み入れて10年という節目の今振り返ってみると、それは「好きな音を見つけたこと」だと思う。そこに気付くまでの経緯を、10年分のオーディオ遍歴とともに振り返ってみた。

きっかけは「髪色・服装自由!」なバイト先

バイト探しをしていた当時、ふと目に止まった求人があった。

「髪色・服装自由!」「音楽好き集まれ!」

当時はまだ髪色を指定される職場も多かったし、一応、音楽の専門学校を出ていたこともあり、「音楽に携われるバイトかあ」なんて思いながら、その求人にとても魅力を感じたのを覚えている。

そんなこんなで入社することになったそのバイト先こそが、私の人生を大きく変える場所となる。

日本一のイヤフォン・ヘッドフォン専門店「e☆イヤホン」であった。

e☆イヤホンとは、世界中の新品・中古のイヤフォンやヘッドフォンをはじめ、ポータブルオーディオ製品を中心に取り扱う専門店。

店舗にあるほぼ全ての製品を実際に手に取り、試聴してから購入できる。

そんな専門店なので、もともとオーディオが好きでこだわりの多い人達が入社していると思われているかもしれないが、実は「イヤフォンって、こんなに種類があったの?」というライトなところからスタートする人たちも少なくない。

そのため、入社して最初の1週間ほどは、とにかくたくさんのイヤフォンを試聴するところから研修が始まる。

ちなみにその頃の私のオーディオセットはSONY NW-A16というウォークマンとその付属のイヤフォンであった。

もっぱらスマホ派になり眠っていた「NW-A16」

当時もうすでにスマホが普及していたので、そこであえてウォークマンを使う派だったことが「もしかして、この道に進む伏線だったのか……?」なんて思うところもあるが、当時は単純に「スマホと音楽プレイヤーは分けたい」という謎のこだわりがあっただけ。

ちなみに今は、もっぱらスマホで音楽を聴いている。

見た目も音も一味違うハイエンドイヤフォンの衝撃

まずは、膨大な数あるイヤフォンの中から初心者が自分で聴くものを選ぶのも大変なので、教育係となった上司がいくつかイヤフォンをピックアップして聴かせてくれた。

そのときに出会い、衝撃を受けたイヤフォンが今でも忘れられない。

JH Audio「Layla」。片側に12基ものドライバーを搭載した、当時30万円を超えるハイエンドの有線イヤフォンだ。

JH Audio「Layla」

縁が玉虫色に輝く豪華なデザインに、大きすぎる筐体。「これがイヤフォンというのか……?」と、まず見た目に衝撃を受けた。

実際に音を聴いてみると、それまで使っていたイヤフォンとは全く違う。低域から高域まで、今まで聴こえていなかった音が一気に押し寄せてくるほどの情報量。

そんな30万円超えのイヤフォンを初めて聴いた私が最初に思った感想が

「音悪っ!」

今思えばとんでもない感想だが、音は好みだと言うし、人は慣れ親しんだものに安心するとも言う。当時の私にとって、このとてつもない情報量の音は慣れ親しみのない、違和感のある音に感じられたのだ。

まさにそれが如実に表れた、私のハイエンドイヤフォン初体験であった。

「好きな音」との出会いは“一聴き惚れ”

入社当時は、まだワイヤレスイヤフォンが今ほど普及しておらず、店内に並ぶイヤフォンのほとんどが「有線イヤフォン」だった。

先ほどの「Layla」の一件もあり、「私にはまだハイエンドイヤフォンの良さを知るのは早いのかもしれない……」と、少し落ち込んでもいた頃。

そんな中で出会ったのが、当時オーディオ界隈でも勢いのあったCampfire Audio「Andromeda」だ。

Campfire Audio「Andromeda」

発売から10年経った今でも人気は高く、今年は10周年を記念した10BAモデルも登場している。

Campfire Audio「Andromeda 10」

実は「Andromeda」が発売されたのは、私がオーディオの世界に入ったのと同じ年。いわば、私にとって“同期のカリスマ”的な存在である。

そんな「Andromeda」に、私はまさに一目惚れならぬ「一聴き惚れ」をしてしまった。

キラキラと輝くような高域。ただ派手なだけではなく、繊細さもあり、音の一つひとつがくっきりと見えるような、いわゆる「高解像度」を初めて体感した瞬間でもあった。

ボーカルは生々しく艶やか。全体的には煌びやかでメリハリがあり、クールな印象だ。楽器の音は派手に、ボーカルは臨場感たっぷりに聴かせてくれる。

歌もののバンドサウンドが好きだった私にとって、そのサウンドはまさにドストライクだった。

「高いイヤフォン=良い音」と言われてもピンとこなかった私が、初めてイヤフォンによる音の違いに“ときめき”を感じた瞬間であった。

初めてのお買い物

たくさんのイヤフォンを試聴するうちに、自分でもイヤフォンが欲しくなってくる。しかし、ここでひとつ気づく。

「いい音って高けえな!」

Andromedaのようなハイエンドイヤフォンに手を出せるはずもなく、まずは1万円以下のエントリー価格帯で自分の好きな音を探してみることにした。

そこで出会ったのが、日本のオーディオブランド「ZERO AUDIO」。

最近では新製品を目にする機会も少なくなったが、当時は手頃な価格ながら音の良い、「高コスパイヤフォン」でも名の知れたブランドだった。その中でも、私がときめいたのが「DUOZA」である。

DUOZA

横に長いハウジングはかなり独特で、装着すると耳から大きく飛び出すデザイン。今の私ならイヤフォンは見た目にもこだわりたいので、デザインだけでいえば正直「なし」。

しかし当時は、とにかくたくさんのイヤフォンを聴き、「音」だけを追いかけていた時期。見た目の違和感などほとんど気にせず、純粋に音だけで「これが好き!」と選んでいた。

もしかすると、イヤフォン選びに関しては当時のほうが純粋だったのかもしれない。

バンドサウンドが好きな私は、もちろん歌も大切なのだが、ついつい求めてしまうのがリズムの要となる「ドラムのかっこよさ」。

DUOZAは、金物のキラキラとした音が気持ちよく、それでいて2基のダイナミックドライバーによるキックにはしっかりと迫力がある。

「ドンシャリ」ならぬ、「ドンキラ」サウンド。

この音がとても気に入り、私の最初の一本として迎え入れることになった。

好きな音はきっと見つかる

こうして振り返ってみると、私がオーディオにハマったきっかけは、バイト先であった「e☆イヤホン」を通して「良い音」を知ったことではなく、「好きな音」を見つけたことだったと思う。

30万円を超える「Layla」を聴いて、今となってはお恥ずかしい話だが、その音の良さに気づけなかった。

それでもイヤフォンによってこんなにも音が違うことを知り、「Andromeda」で音にときめき、「DUOZA」で自分の好きな音を見つけた。

音の好みは人それぞれで、高ければ必ず自分にとって良い音というわけでもない。

だからこそ、その中から「これ好き!」と思える音に出会う瞬間が楽しいのだろう。

気づけば私は今も新しいイヤフォンを聴き続け、その魅力を伝えることを仕事にしている。

10年前の私が「Andromeda」を聴いて感じたような、音にときめく瞬間。そして「DUOZA」を見つけたときのような、自分の好みや条件にぴったりのイヤフォンに出会えた喜び。そんな瞬間を、今度は私の言葉や動画を通して、誰かに届けられたらと思っている。

きっとそれが、10年前に何気なくオーディオの世界に足を踏み入れた私が、今もこの世界にいる理由なのかもしれない。

たにみく

元イヤフォン・ヘッドフォン専門店プロモーションスタッフ。現在はYouTubeを中心に、オーディオ製品のレビューや情報発信を行うオーディオインフルエンサーとして活動中。YouTubeチャンネル「たにみく🎧オーディオチャンネル」