西川善司の大画面☆マニア

第178回

“特別じゃない”4Kテレビ。東芝「58Z8X」

デジタル放送をアグレッシブに4K化する第3世代4K REGZA

REGZA Z8Xシリーズ

 かつて東芝は4Kテレビをプレミアムハイエンドモデルとして提供していた。2011年末に発売された「55X3」、2012年春の「55XS3」など、「X」型番を与えた製品群はまさにそうしたモデルだった。

 2013年。東芝は4Kテレビ戦略を一新し、これからは通常のハイエンドモデルとして提供していく方針を打ち出した。

 これまでREGZA Z型番シリーズが、そうした位置付けを担ってきたわけだが、まさしく今回発売された4K REGZAは、そのZ型番のZ8Xシリーズとなる。これから、東芝が発売するREGZAのZシリーズ相当の上位機は基本的に4Kモデルになると言うことだ。

 Z8Xシリーズは、84型、65型、58型の3モデル展開となる。今回は、4KモデルにクラスアップしたREGZA Z8Xシリーズで最も手頃なサイズの58型「58Z8X」を取り上げる。実売50万円を切る価格になった4Kテレビの実力とは?

設置性チェック~2年前の55型と同設置位置で、58型を実現

58Z8X

 ディスプレイ部の外形寸法は130.6×6.9×76.5cm(幅×奥行き×高さ)。スタンド利用時は130.6×37.4×85.7cm(同)となる。

 筆者は現在、'11年発売の55型「55ZG2」を使用しており、今回の評価ではZG2の前側に並べるように58Z8Xを設置したが、55ZG2と58Z8Xと外形寸法がほぼ同一であった。55ZG2のディスプレイ部寸法は130.4cm×78.5cm。実際スペック上でも同一なのだ。画面サイズは当然58Z8Xの方が大きい。何が違うのかと言えば、それは、「額縁の幅」だ。58Z8Xの額縁幅は上と左右が約12mm、下は25mmとなっている。画面サイズの大きさと比較するとかなり細く見える。

 58Z8Xは、数年前の55型の設置スペースがあれば、置き換えが可能といえる。

 設置台は、これまでのREGZAとはデザイン趣向が異なり、長方形状の枠型フレームデザインとなっている。また、このスタンドは、接地する底面部が手前方向にせり出しており、設置台の前ヘリ側にスタンドの前部が来るようにあわせて置いても、表示面がやや後ろに引っ込むことになる。上部がオープンなテレビ台に置く場合には気にならない特性だろうが、テレビラックなどの閉じたスペースに入れ込む際には設置シミュレーションをしっかりしたほうがいいかもしれない。

ベゼル部は約12mm幅と狭額縁デザイン
スタンド部
転倒防止用のフックなども備えている

 表示面はグレア(光沢)タイプに分類されるとはおもうが、外周の情景の映り込みは若干あるものの、それほど強くはない。いうなればハーフグレアといった感じだ。ただ、相対する位置には照明や窓が来ないような設置は行なうべきだ。

新「おまかせドンピシャ高画質」の壁の色設定画面

 '12年冬のREGZA Z7シリーズの時から採用された室内照明色や室内壁色に対応した調色を行なう新版「おまかせドンピシャ高画質」はZ8Xにも搭載。ピンクの壁紙の部屋や、畳敷きの部屋など、やや特徴的な設置環境においても最適なホワイトバランスを得たいというユーザーは是非とも設定すべき。デフォルトでは、白壁×純白照明を想定した「白黒1」設定が標準と設定されている。

 狭額縁化により、スピーカーの設置位置が分からない、まさに「インビジブルスピーカー」デザインを地で行く58Z8Xだが、実際には、スピーカーユニットはディスプレイ部下辺の左右両端に下向きで設置されている。

下面にフルレンジスピーカー

 スピーカーユニットは、屈折型バスレフ機構を組み込んだ35mm×75mmサイズの角形フルレンジユニット。65型以上のZ8Xではこのユニットを片側2ユニット組み込んだ4ユニット構成で総出力40Wを誇るが、今回評価した58Z8Xは2ユニット構成、総出力20Wとなる。

 出音はフルレンジユニットながら低音から高音までがしっかりと出ており、音量を上げてもビビリ音はしない。低音はなかなかの迫力で、ベース音も輪郭がしっかりしている。「音声調整」メニューの「低音強調」を使わなくても、低音はかなりしっかり聞こえる。

 また、下向きレイアウトにもかかわらず、デジタル音像補正技術を適用することで、ちゃんと画面中央付近でサウンドが定位していることも確認できた。疑似サラウンドモードは、やや人為的な印象があるが、それでも、音楽コンテンツなどはステレオ感が相当にワイドに聞こえるので、好みに応じて活用してもいいかもしれない。

 定格消費電力は264W、年間消費電力量は239kWh/年。この値は、昨今の同型サイズ液晶テレビとしては若干消費電力は高めだ(ちなみに、55Z7はそれぞれ218W、154kWh/年)。消費電力が高めになる原因は、4K表示にまつわる映像エンジンの「REGZA ENGINE CEVO 4K」や4K液晶パネルの駆動系に関わる部分にあると思われる。

接続性チェック~4K(30Hz)入力対応のHDMI装備

背面端子部

 入力端子は、正面向かって左側側面と左側背面に装備。以前のREGZAでは、背面に多く端子をまとめていたが、58Z8Xでは、背面と側面で同じくらいで、HDMI端子は側面側の方が多い。側面側のHDMI端子は脱着が以前よりもやりやすくなったが、側面側にたくさん接続しすぎると、ケーブルが横からヒゲのように伸びた見映えになってしまう。ここは一長一短といったところ。

 HDMIは背面に1系統、側面に3系統を配備。いずれも3Dや4K(30Hz)入力に対応するが、ARC(オーディオリターンチャンネル)に対応するのは背面側のHDMI 1のみとなる。AVアンプなどとはこのHDMI 1を利用する。

NVIDIA GeForce GTX680と58Z8Xを接続したところ、何の問題もなく4K解像度のデスクトップ画面を映し出すことができてしまった

 アナログビデオ入力端子は1系統のみ。D5入力とコンポジットビデオ入力、アナログ音声入力(RCA)からなり、コンポジットビデオ入力とD5入力は排他利用となる。

 PC入力専用端子はないが、HDMI端子を用いてのデジタルRGB接続は可能だ。なお、REGZAなので、PCやゲーム機との接続時に問題となるHDMI階調レベルの設定は「機能設定」メニューの「外部入力設定」-「RGBレンジ設定」からちゃんと行なえる。PCによってはHDMI経由で音声を伝送できないものもあるが、そうした機種に対応するためにアナログ音声入力をHDMI3専用のアナログ音声入力として利用する手法も用意されている。

HDMI階調レベルの設定は「RGBレンジ設定」から行なえる

 USB端子は背面に3系統、側面に1系統装備。側面側のUSB端子はキーボードやUSBメモリ、デジカメなどの接続用となっており、背面側の方は録画関連用のUSB端子となっていて、それぞれA、B、Cの記号名が付けられている。USB AとBは最大6チャンネルを自動録画する「タイムシフトマシン」専用のHDDを接続するためのもの、USB-Cは通常録画用のHDDを接続するためのものになる。

 テレビ本体側にはHDDは内蔵されておらず、タイムシフトマシン機能や録画機能は完全にオプション扱いとなっている。録画関連機能を実現するためには、ユーザーが各自の用途や予算に合わせたHDDを接続すればいいのだが、2013年9月25日までにREGZA Z8Xシリーズの購入した人を対象に、タイムシフトマシン用の4.5TB(タイムシフト4TB、通常500GB)のHDDユニット「THD-450T1」を無料進呈するキャンペーンを実施している。

 THD-450T1は東芝純正オプションのため、REGZA Z8Xの背面側に合体させられる形状となっている。後付け感が全く無く、デザインの一部として一体化している。設置時の美観にこだわる人にも納得がいくはず。

THD-450T1
3本のUSBケーブルで接続
VESAマウントで背面に装着

 音声系の端子は、ヘッドフォン出力とアナログ音声出力、光デジタル音声出力を備えている。miniB-CASカード端子挿入口が2つもあるのは、タイムシフト録画用のため。2つの挿入口は側面側の上端と下端に実装されているが、それぞれ役割が違い、上側がBS/CS/地デジ共用カード対応となっている。

 SDカードスロットも装備。以前のREGZAはデジカメ写真の再生専用と言った役割でしかなかったが、最近のREGZAでは、SDカードに記録された動画や音声(楽曲)の再生に対応している。対応フォーマットとしては、動画がMPEG-4 AVC/H.264やMPEG-2 TSなど、音声はMP3やAACなど。デジカメ写真は1枚あたり24MB以内の横解像度4,096ドットまでのJPEGに対応する。

 実際にフルHD以上の解像度の写真を再生してみたが、一般的なフルHD解像度のテレビとはひと味違う高解像感が堪能できた。現時点で、身近なリアル4Kコンテンツはデジカメ写真くらいになるはずなので、オーナーとなった暁にはぜひともデジカメ写真を見ていただきたいと思う。

 58Z8Xには有線LAN端子もあるが、IEEE 802.11a/b/g/nの無線LANにも対応している。この他、4系統のHDMIから入力させたフルHD映像(60Hz)からリアル4K映像(60Hz)出力を実現する4Kアダプター「THD-MBA1」を接続するための専用映像入力端子と専用音声入力端子も実装される。いずれ、この機器についても本連載で評価を行ないたい。

操作性チェック~「4Kテレビならでは」の専用表示モードを新設

リモコン

 58Z8Xのリモコンはここ最近のREGZAで採用されているものから大きな変化はなし。さらにいえば、先代REGZA Z7からの変更点はない。

 電源オン操作から地デジ放送画面が出るまでの所要時間は約2.5秒。起動はかなり速い。

 地デジ放送のチャンネル切り替え所要時間は約2.5秒。入力切り替えはHDMI→HDMIで約3.0秒。こちらはもう少し早いと嬉しいところ。

 アスペクトモードの切り替え所要時間は切り替え元と切り替え先の組み合わせによって約1.0秒から約2.5秒と幅がある。

 アスペクトモードは、スーパーライブ、ズーム、映画字幕、フル、ノーマル、HDスーパーライブ、HDズーム、DVDファイン、ゲームフル、ゲームノーマル、レトロゲームファイン/SDゲームファイン、ポータブルズーム、Dot By Dotなど。新たに4K専用モード「ネイティブ」が追加されている。

モード名概要
スーパーライブ/HDスーパーライブいわゆる疑似ワイドモード。4:3アスペクトの映像の外周を引き延ばして表示する
ズーム/HDズーム4:3映像に16:9映像をはめ込んでレターボックス収録した映像部分のみを切り出して16:9フル表示する
映画字幕ズームモードのバリエーションともいえるべきモードで、レターボックス収録された映像の字幕表示部を残しつつ拡大する。引き替えに映像の上部が若干切れることがある
フルパネル全域に表示する。16:9映像のためのモード
ノーマル4:3映像をアスペクト比を維持して最大表示する。左右に未表示領域ができる
Dot By Dot拡大解像度変換を行なわずに表示するモード。PCでデスクトップ解像度を1,920×1,080ドットとした場合にはこれを選択すべき
ゲームフル映像処理ロジックを可能な限りバイパスして表示遅延を軽減させた「フル」モード
ゲームノーマル映像処理ロジックを可能な限りバイパスして表示遅延を軽減させた「ノーマル」モード

 この他、PSPを全画面表示するための「ポータブルズーム」、スケーリング回路をバイパスさせるが自己合同性型、再構成型の超解像処理、色超解像処理を適用させる480p/480i映像向けのモード「DVDファイン」「レトロゲームファイン」「SDゲームファイン」などの「ファイン」系モードも顕在だ。

 そして58Z8Xでは、4Kテレビらしい「ネイティブ」というアスペクトモードも新設された。これは入力映像の1ピクセルを縦横2×2の4ピクセルで描画するモードで、例えばフルHD(1,920×1,080ドット)映像ならばちょうど、3,840×2,160ドットで全画面に描画されることとなる。フルHD映像未満の解像度でも利用出来るが、その際には黒帯が出る。こちらもスケーリング回路を通らないため、発想としては「ファイン」系に近い。入力されたフルHD映像をあえて4K超解像化せずにフルHDのままドットバイドット的に表示させたい用途で使うことになるだろうか。

2K→4Kに対する特別な画面サイズ切換(アスペクトモード)設定。フルとネイティブの違いに留意したい

 また、58Z8Xは、3,840×2,160ドットの4K映像だけでなく、4,096×2,160ドットの入力にも対応しているが、この表示に際しては2つの特設アスペクトモードが選択できる。1つは横解像度4,096ドットのうち、両端の128ドットをカットして3,840×2,160ドット化して表示する「4Kフル」だ。もう一つは4,096×2,160ドットをアスペクト比を維持したまま3,840×2,025ドットに縮小表示する「4Kノーマル」だ。なお、4Kノーマルは事実上の圧縮表示となるため、上下に68ドット程度の黒帯が出ることになる。

 テレビ映像や外部入力のフルHD(2K)映像を4K映像パネル中の1,920×1,080ドット領域内にあえて表示する「ミニ画面」モードも新搭載された。最近はあまり広くない部屋にも50インチオーバーのテレビを置くユーザーが増えてきており、そうしたユーザーはしばしばテレビ前の直近で視聴することもある。「どういう使い道が!?」と思ってしまう人もいるかも知れないが、実はそうしたユーザー層の要望に応えたワンポイント機能なのだった。

 画調設定は、REGZA Z7シリーズから採用された「コンテンツモード」と「映像メニュー」の二段階設定システムを採用している。

「コンテンツモード」一覧
「映像メニュー」一覧

 コンテンツモードは、表示映像の特性を「そのコンテンツが持つ特質」に最適化するためのもの、従来からあるプリセット画調モード的な「映像メニュー」画調の全体方針を決めるものになる。ざっくりいうと「映像エンジンの振る舞い設定を決めるのがコンテンツモード」「色調や画調の方針を決めるが映像メニュー」というイメージだ。よくわからなければ「コンテンツモード=オート」「映像メニュー=おまかせ」としておけばいいだろう。

映像メニュー=あざやか
映像メニュー=標準
映像メニュー=ライブプロ
映像メニュー=映画プロ
映像メニュー=ゲーム
映像メニュー=PC

 タイムシフトマシン機能を初めとした録画関連機能もREGZA Z7シリーズから継承されている。58Z8Xの録画関連機能の全貌について知りたい人は、Z7のこの機能の評価に特化したレビューを参照して欲しい。

 ネット関連機能およびスマートテレビ的な機能も、Z7の時に「クラウド」機能という形でリニューアルされたが、58Z8Xでは、ここも継承している。詳しくはREGZA Z7の時の記事を参照していただきたい。視聴中の番組に関連した番組をタイムシフト録画された番組から提示してくれる「ざんまいプレイ」、好きなタレントが出ているシーンを網羅的にタイムシフト録画された番組からシーン再生してくれる「TimeOn」機能などは、「タイムシフト録画ありき」のユニークなスマート機能なので、どんなものかを知っておいて損はない。

画質チェック~デジタル放送をアグレッシブに4K化。3,840×2,160ドットの3Dに対応

 液晶パネルはVA(垂直配向)型液晶を採用する。なお、Z8Xシリーズのうち84型の84Z8XはIPS方式の液晶パネルを採用している。これは、意図的に液晶タイプを変えているのではなく、画面サイズごとに液晶パネルの調達メーカーが異なったためだ。

 58Z8Xは、これまでのオーソドックスな液晶テレビのように明確な額縁部が存在する。ただ、その額縁部は映像表示面に対して直角ではなく浅い角度で接している。この工夫により、映像外周がたとえ明るく、それが額縁側に反射したとしても、視聴位置には届きにくい光路設計になっている。実際に、今回の評価では暗室状態で視聴してみたが、映像外周が額縁部に二重映りするような状況はほぼなかった。

2K→4K(アスペクトモード=フルでの表示)
2K→4K(アスペクトモード=ネイティブでの表示)
4Kドットバイドット表示

 バックライトはディスプレイ面に対して左右に白色LEDを実装した、エッジ型LEDバックライトシステム。映像中の明暗具合に応じてLEDバックライトの輝度を制御するエリア駆動にも対応する。左右エッジ型バックライトゆえ、横帯状のエリア駆動となり、直下型LEDバックライトよりは、まあ大ざっぱな輝度制御にはなるのだが、映像中の上下で明暗差が激しい場合などはよい効果が得られている。例えば、下がネオン輝く夜の街並みで上が夜空、と言ったような情景では、直下型LEDバックライトによるエリア駆動に近い明暗差の激しい表現が行なえていた。

輝度の均一性の測定。なかなか優秀だ

 狭額縁デザインのエッジ型バックライト採用モデルで気になるのが輝度ムラだが、テスト画像を見てみた範囲では均一性は良い方だと感じる。デジカメで撮影してみると、中央が若干暗めな左右エッジバックライトの特性が出てはいるが一般的な映像を表示する範囲では気にはならない。

LEDエリアコントロール=オフ
LEDエリアコントロール=弱
LEDエリアコントロール=中
LEDエリアコントロール=強。設定を強めるほど暗い部分を占めていく傾向

 発色はやや明るめの傾向を感じる。ただし、派手過ぎる感じはなく、各原色のバランスは良好だ。特にVA液晶のおかげで暗色から漆黒までの色の表現がとても優秀で、黒浮きで妨害されることなく最暗部まで色味を残したリニアな階調表現ができている。これにより、暗い映像であっても色ディテール表現がとても豊かに見える。例えば「紺色の壁に投射される影」のような非常に暗色中心の表現もとてもリアルかつ精細に描いてくれていた。

 肌色はとても自然な発色で、白色LEDの黄味の強さは感じず。ハイライト部は非常に透明感があり、そこから暗い肌色に対しても美しいグラデーションの陰影が出せている。

 58Z8Xのこの階調表現の滑らかさはなかなかの感動もので、様々なテスト映像を見た結果、人肌以外でも実践されていることに気がつく。例えば、二色混合のグラデーション表現などにおいても、段差的なマッハバンドが従来モデルよりも明らかに出にくくなっている。イメージ的には8bit階調表現が10~12bit階調に高められて描画されているような印象だ。再び人肌を見直してみて気がついたのだが、58Z8Xで見る人肌が妙にリアルで柔らかい質感で見えるのは、その陰影がとてもなめらかにn描かれるためなのだろう。

 この一連の「圧倒的な階調力」性能は、4K写真を表示したときにも得られていた。これらはおそらく、REGZA伝統の「質感リアライザー」や、新搭載となった「4Kダイナミック階調補正」の効果によるものだと思われる。

「質感リアライザー」は58Z8Xでもかなりいい仕事をしてくれている
色質感リアライザー=オフ
色質感リアライザー=緑検出。写真でも効果の違いがわかる

 さて、前回のソニー「KD-65X9200A」の時にも述べたことと重複するが、現状、4Kテレビは、従来のフルHD(2K)コンテンツを超解像技術を通して4K化してみることが、メインの楽しみ方になる。

 「テレビ」のメインコンテンツであるデジタル放送を見てみたが、非常にうまく4K化が実践できていることに気がつく。先週評価したKD-65X9200では、BD映像の4K化は非常に優秀だったが、元画質がさほど良くないデジタル放送の映像に対しては、過度な超解像技術の適用は行なわず、エッジの先鋭化に注力した4K化を行なっていた印象を持ったが、58Z8Xは逆だ。それこそ、デジタル放送の映像に対しても、かなりアグレッシブに超解像技術を適用させているように見える。

 例えば、道路のアスファルトの微細な陰影や出演者がアップになったときの衣服布の模様などは、かなり精細化されて見える。輪郭に対しても、アグレッシブなスムージングによってドット感を消しており、文字テロップなどはアウトラインフォントの描画を見ているかのようだ。

 この記述だけを読んで「そんなにアグレッシブな4K化をしてしまって大丈夫なのか…」と心配する人もいるかも知れない。デジタル放送はMPEG-2ベースの映像であり、元来、ブロックノイズやモスキートノイズはそれなりに多い。特に地デジ放送はその傾向が強く、アグレッシブな超解像処理はそうしたノイズをより顕在化してしまわないか…と心配になるのも無理はない。

 どうしてそう見えないのかを58Z8Xの映像を見ながら考察してみたのだが、実は、58Z8Xの映像エンジン「REGZAエンジンCEVO 4K」は、映像フレーム内を賢く適応型に処理しているようなのだ。

シネマ4Kシステム
レグザエンジンCEVO 4K

 例えば、MPEG-2エンコードの結果、ディテールが失われてしまっている箇所が映像内にあったとすると、その箇所は局所的に超解像化の実施レベルは自動的に下げられる。逆にディテールが残っている箇所については超解像化が積極的に行なう。こんな感じの適応型処理が行なわれているように見えるのだ。

 テクスチャがつぶれかけているところは普通のアップスケールを掛けているだけで、ディテールがしっかりでているところはちゃんと超解像処理していることが分かる。その超解像あり/なしの処理境界は映像を見ている限りでは分からないほどスムーズに無段階でミックスされているために、不自然さはない。

 東芝関係者によれば、従来は超解像処理レベルをフレーム単位のヒストグラム解析を行ない、フレーム単位で調整していたものを、58Z8Xの「REGZAエンジンCEVO 4K」では、なんとドット単位で調整する仕組みに変えたという。具体的には各画素に対する超解像処理を行なう際に、隣接する画素の周波数情報(精細度)を全方位に探索を掛けて超解像レベルを決定することにしたというのだ。これはほとんど、グラフィックスに対するポストエフェクトフィルタに相当する処理系だ。ちなみに、東芝は、この技術に「絵柄解析・再構成型超解像技術」というテクノロジー名を与えている。

 デジタル放送で採用されているMPEG-2映像の場合、こうした映像フレーム中の局所的な画質レベルの格差は、離散コサイン変換ブロックサイズの8×8ピクセルや、動き補償ブロックサイズの16×16ピクセル単位で起こりうるわけだが、そうしたブロック単位でブロックノイズやモスキートノイズが視覚されがちだ。58Z8Xの「REGZAエンジンCEVO 4K」では、こうしたデジタル放送のMPEG-2映像に特化したノイズ低減を行ないつつ4K化するアルゴリズムも新搭載しており、これが文字テロップやその他の映像中の輪郭の先鋭化に貢献しているようだ。これに対しては「デジタル放送アップコンバートノイズクリア」というテクノロジー名が付けられている。

絵柄解析・再構成型超解像技術
デジタル放送アップコンバートノイズクリア
微細テクスチャ復元

 続いて、BD「ダークナイト」、BD「ルーパー」を視聴。コンテンツモードは「高解像度シネマ」、画質モードは「映画プロ」を選択。BD映画は、AVCでエンコードされ、ビットレートも高いことから、デジタル放送の映像を数段上回る4K映像が得られるているのが分かる。

 デジタル放送の映像では、いわば映像フレーム中のそこかしこで超解像レベルが異なる感じだったが、BD映画の場合はそのあたりはだいぶ安定するので、視線をどこに向けても納得のいく4Kらしい高解像感が得られている。特に顔面のアップなどは肌の肌理や産毛、それとうっすらと透けて見える皮膚下の血管などが見えており、本当に俳優に近づいて見ているような肌の質感が伝わってくる。それこそ2D映像であっても立体的に見えるのだ。この色ディテールに起因する質感向上は、「REGZAエンジンCEVO 4K」に新搭載された「微細テクスチャ復元」の恩恵と思われる。

レゾリューションプラス=オフ
レゾリューションプラス=オート
4K超解像の「輝き復元」

 また、人肌以外でも、妙に立体的に見える箇所があることに気がつく。例えば、金髪や赤毛のハリウッド俳優の毛髪、時計や手錠などの金属アイテムなどがそうで、これはどうやらハイライトが先鋭化されて実物に近い光沢感が出ているためのようだ。こちらも「レグザエンジンCEVO 4K」の新機能である「輝き復元」の効果が出ているのだと思われる。筆者の個人的感想になるが、この輝き復元は、シャープの4Kテレビ「ICC PURIOS」に採用された光クリエーション技術の効果に近いものを感じる。

 58Z8Xは3D立体視にも対応するということで、実際に3D-BDの「ライフオブパイ」「怪盗グルーの月泥棒」を3D視聴してみた。ちなみに58Z8Xはアクティブシャッターグラス方式の3Dを採用している。3Dメガネは別売だが、従来の3D対応REGZA用として提供されてきた「FPT-AG01/02」が利用できる。

 前回取り上げたKD-65X9200Aは、偏光方式の3Dだったので、片目あたり3,840×1,080ピクセルの3D映像となり、横方向だけ2倍に超解像化された3D映像になるわけだが、今回の58Z8Xでは、フレームシーケンシャル方式での3D立体視表示になるため、3,840×2,160ドットの4K化された3D映像を見ることができるのだ。3Dにおけるクロストークは、アクティブシャッターグラス方式ということもあってか、ソニー KD-65X9200Aよりは多めに見えた。

 実際、「ライフオブパイ」に登場するトラのヒゲや毛皮の質感は、筆者私物の55ZG2の2K-3Dで見た時とは一味違った見え方になった。58Z8Xではトラのヒゲや毛皮の毛先が4K化されることでとても細く鋭く見えるのだ。2K-3D状態でも毛皮の高密度感は伝わってくるのだが、4K-3D状態だと、毛の一本一本が鮮烈に見えてきて、さらにここに3D立体感が加わるので、触感のイメージのようなものが伝わってくるのだ。なので、劇中、トラが濡れるシーンがあるが、その濡れた毛達が一本一本身体にべったりと密着してしまっている感じもリアルに伝わってくる。

 なお、Z8Xシリーズで、アクティブシャッター方式の3Dを採用するのはこの58Z8Xのみ。84型の「84Z8X」と65型の「65Z8X」は、3D立体視には対応するものの、偏光方式3Dとなる。

「倍速モード」。「フィルム」と「オフ」は補間フレーム無しのモード

 58Z8Xは、算術合成した補間フレームを挿入する倍速駆動に対応する。東芝関係者によれば、「レグザエンジンCEVO 4K」では、この補間フレーム生成アルゴリズムを改良し「4Kアクティブスキャン240」と命名したそうだ。

 いつものようにBD「ダークナイト」のオープニングのビル群の飛行シーンでテストしてみたところ、左奥のビルの窓がブルブルと振動する瞬間が確認された。他のシーンでも確認してみたが、これまでよりはピクセル振動の頻度は少なくなったようだが、まだ改善の余地があると感じる。このピクセル振動が怖いユーザーは、映画などを見るときは「倍速モード」設定は、補間フレームなしで毎秒24コマ相当の表示を実現する「フィルム」モード(3D映像ではオフ設定)に設定するといい。

 アニメに最適化された映像処理が充実しているREGZAなので、今回の評価でもBDアニメ「星を追う子ども」を「画質モード=おまかせ」「コンテンツモード=高画質アニメ(BD)」にて視聴した。

 4K映像パネルの画素の高密度感は圧倒的で、単色で塗りつぶされた領域に一切の粒状感がないことと4K化により輪郭が先鋭化されるため、紙に印刷された画が動いているかのように見える。アニメなので実写映画のように解像感自体がアップしてみえることはあまりないが、無圧縮の原画そのものを見ているような感覚は感動的だ。

 恒例の表示遅延計測は、テレビとして業界最速の表示遅延3ms(60Hz時約0.2フレーム)を有するREGZA 26ZP2との比較の形で計測。表示モードは低遅延を謳う「ゲームモード」を選択。58Z8Xのゲームモードは超解像処理ありで4K化する「ゲームフル」とフルHD映像を2×2で4K化する「ネイティブ」の2モードがあるのでそれぞれで計測してみた。

 結果は26ZP2とほぼ同等となった。さすがはゲーム対応に力を入れているREGZA。4Kテレビにおいてもそこに妥協はないようだ。

ゲームフル
ネイティブ

コンテンツモードのインプレッション

 画質モードのインプレッションは、55Z7のレビューを参考にして欲しい。本稿では、コンテンツモードのインプレッションと活用ガイドをお届けする。

・高解像度シネマ

 4Kカメラで撮影されたり、4Kリマスターされたりして制作されたブルーレイ映画を視聴するためのモードで、余計なノイズリダクション機能をカットしつつ「レグザエンジンCEVO 4K」を通している。色ディテール復元やテクスチャ復元がフルに適用されるため、極めてオリジナルの4Kマスターに近い画質となるという。東芝の発表によれば復元正解率は90%というから凄い。今回の評価でもブルーレイの実写系映画はこのモードで見るのがベストだった。

高解像度シネマモードの概要
水平解像度復元率は90%とのこと

・ビデオ(放送)

 一般的なテレビ放送や録画したテレビ放送を視聴する際に利用する。つまり、MPEG-2映像を前提とした処理がなされる。BDレコーダなどを本機に接続してみる場合などにも利用するといい。

・ゴルフ

 噛み砕いて解説すると、映像フレーム中に緑色の植物が支配的に存在する場合に緑の階調を見やすく補正する。芝目などを見やすくすることからモード名が「ゴルフ」と名付けられているが、その他のスポーツや自然風景シーンの多い番組で用いても効果が大きいはずだ。

コンテンツモード=オート
コンテンツモード=ゴルフ。植物に対して階調ダイナミックレンジを広げているのが写真でも分かる

・アニメ(放送)

 テレビ放送のアニメを視聴するのに適したモード。「ビデオ(放送)」のアニメ版という位置付けのモードで、MPEG-2ベースのアニメを高画質化する。MPEGノイズ低減や輪郭先鋭化をテレビ放送アニメに適した形で適用することになる。

・高画質アニメ(BD)

 「高解像度シネマ」のアニメ版という位置付けのモードで、H.264エンコードされたハイビットレートなアニメに適した映像処理をする。各種ノイズ低減などは最低限として処理をするため、高品位に4K化された映像になる。BDアニメを見るならばこのモードだ。

・レトロアニメ

 SD映像時代の低解像度なアニメに適した映像処理を行なうモード。輪郭に発生しがちな斑模様やコーミングノイズを低減しつつ高画質化する。DVDやLDなどのアニメコンテンツはこれで見るといいだろう。

・写真

 高解像度な静止画を表示することを前提としたモードで各種ノイズ低減機構は省略し、微細テクスチャ復元と輝き復元などの高画質処理系だけを適用する。USBメモリ、SDカード、4K出力対応のPCと接続してデジカメ写真などを楽しむ際に利用するといいだろう。

4Kは特別ではない? 4K化が“普段使い”の画質を向上

 Z8Xシリーズの実売価格は、58型「58Z8X」が50万円弱、65型「65Z8X」が75万円弱、84型「84Z8X」が168万円前後。上位シリーズとはいえ、特に58型については安い店では40万円を切る店も出ており、インチ1万円をかなり下回っている。まだかなり高価であるが、決して手の届かない製品ではない、という位置づけだ。

 冒頭でも触れたように東芝は、4Kテレビを特別な存在とせず、トップエンドのREGZAは4Kとする方針をとっていく。

 確かに、デジタル放送をかなり強気に4K化して見せる58Z8Xの特質は、その片鱗を感じる。

 REGZA Z8Xは、これからどの程度出てくるかよく分からない4Kコンテンツを待ち望むテレビではなく、2K/MPEG-2ベースのデジタル放送をより高画質に見せるために「REGZA ENGINE CEVO 4K」を搭載し、その表示デバイスとして4K液晶パネルを採用した製品といえる。

 4Kテレビというと、どうしても「4Kコンテンツを見るための製品」というイメージが強いが、実際にはPCゲームやデジタル写真以外に4Kコンテンツは殆ど無いので、こうした方向性の4Kテレビの方が一般的にはありがたいかも知れない。もちろん、REGZA Z8Xは、4Kの2160p/30HzのHDMI入力には対応しているし、4K2K映像入力アダプタ「THD-MBA1」には対応しているので、4K映像パネルをフル活用するための方策は用意してくれているので、4Kモニター的な利用は可能ではあるが。

 58Z8Xがこだわって実現した“デジタル放送”や“BD”など2Kコンテンツにおける4K体験は、「今あるコンテンツを大画面で楽しむための4Kテレビ」として、確かな完成度を持っている。4Kテレビの競争が、技術のアピールだけではなく、実際のユーザー体験の向上という段階に入ったことを感じさせる。

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東芝「58Z8X」東芝「65Z8X」

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら