NAMM Winter Show 2002 Apple Japan Updateレポート その1
~ 24bit/96kHz、13GBのソフトシンセ「The Grand」など ~



2月18日開催


 音楽製作者向けの機器展示イベント「NAMM Winter Show 2002 Apple Japan Update」が18日、東京のアップルコンピュータ株式会社のセミナールームで開催された。

 このイベントは、1月に米アナハイムで開催された世界最大級の楽器見本市「NAMM Winter Show 2002」で発表されミュージック&オーディオソリューションを、国内で紹介するダイジェスト版ともいえるもの。アップルで開催されたため、当然Macintosh関連の製品に限られるわけだが、音楽系メーカー/ディストリビューターが12社集まり、新製品を展示するとともに、セミナールームで詳細を発表した。展示会場そのものは、それほど広くはない場所ではあったものの、12社が集まっていただけに、新製品情報も数多くあった。

 比較的目立ったのはMac OS Xに対応したアプリケーションやドライバなどであったが、まったく新しいソフトシンセやハードウェアも数多く登場。さらに、NAMM Show開催から1ヶ月経過しているだけに、NAMM Showでは未発表であった製品もいくつか追加されていた。

 さすがに製品が多いため、1回では紹介しきれないので、今日と明日の2回に分けて各社の新製品を紹介する。


■ デジデザイン・ジャパン

Pro Tools|HD

 ProToolsのメーカーであるDigidesignは、今回、上から下まで幅広い新製品を発表した。その最上位に位置するのが「Pro Tools|HD」。

 これは従来の最高モデルであった「Pro Tools|24 MIX」の上位モデル。24bitの分解能に最高192kHzのサンプリングレートをサポートしたのに加え、Pro Tools|24 MIXシステムの2倍のミキシング&プラグイン・プロセッシング・パワーを実現し、トラック数やI/O能力、またルーティングのフレキシビリティも大幅に向上させている。

 このシステムは規模に応じて、「Pro Tools|HD 1」、「Pro Tools|HD 2」、「Pro Tools|HD 3」という3つのサイズが用意されており、各Pro Tools|HDシステムは新しいオーディオ・インターフェイスである「192I/O」か「96I/O」が最低1台必要となる。

Pro Tools|HD用の192I/O

 今回展示されていた192I/OはA/D、D/Aともに192kHzまで対応しており、ユニット自体に標準で8チャンネルのアナログ入出力と、8チャンネルのAES/EBU、TDIFおよびADATのデジタル入出力が装備されている。さらに192I/O上の4つのベイのうち1つは拡張用として開いており、もう1枚のI/Oカードをさすことで、入出力を拡大することができる。ちなみに192I/Oの単体価格は54万円とのこと。

 なお、ソフトウェアはVer.5.3となっているが、中身は5.11と同様とのことで、とくに大きな変化はない。

 こうした完全プロ向けのシステムが発表される一方で、本当のエンドユーザーをターゲットとしたシステム「M.box」も登場した。

コンシューマ市場向けのProtoolシステム「M.box」

 従来からも「Digi001」という廉価なシステムは発表されていたが、さらにコストを下げ、誰もが簡単に使えるコンセプトで打ち出した。これまでラックマウント式が当然というDigidesignだが、今回リリースしたM.boxは見た目も卓上で使う縦型で、コンピュータとの接続はなんとUSB。そして価格はDidi001と同じProTools 5.2 LEとのセットで67,000円を予定しているという。発売は3月末の予定で、ついにDididesignがコンシューマーを対象にし始めたとの印象を受ける製品だ。

 M.boxのスペックを簡単に紹介しておこう。まずアナログ入力が2チャンネルで、各チャンネル独立のソース選択とゲインコントロールが搭載されている。入力にはマイク、ライン、楽器(D.I.)入力があり、それぞれXLRとTRSが用意されている。またマイク用にはファンタム電源もある。一方アナログ出力はラインが2チャンネル、バランスとアンバランスがサポートされている。さらにアナログインサートおよび、ヘッドフォン出力も装備。デジタル入出力も、コアキシャルのS/PDIFが入出力ともに用意されている。

 24bitで44.1kHzまたは48kHzを扱え、電源はUSBパワードとなっている。まずはMacintoshでのサポートとなるが、近日中にWindowsにも対応するとのことだ。


□デジデザイン・ジャパンのホームページ
http://www.digidesign.co.jp/japan/
□Pro Tools|HDの製品情報
http://www.digidesign.co.jp/japan/prod/index_pthd.html
□Mboxの製品情報
http://www.digidesign.co.jp/japan/news/index_mbox.html


■ アイデックスミュージックソフトウェア

アイデックスブース

 ミュージシャンである氏家克典氏が率いるアイデックスは、フランスArturiaのバーチャルミュージックスタジオソフトウェア「STROM 1.5」の展示を行なっていた。このソフト自体はすでに昨年発売されており、11月に1.5.1へアップデートした程度で、大きな変化はなかった。

 今回の会場でテーマともなっているMac OS Xへの対応については、とりあえず現状のソフトでも動作するとのこと。ただし、正式なネイティブ対応については、「現在開発を進めており、今回のNAMM Showでは発表できなかったが、3月にドイツ・フランクフルトで開催されるミュージック・メッセで正式に対応版がアナウンスされる」という。

 また、その新バージョンでは単にMac OS Xに対応するだけでなく、新たなモジュールなどが追加される予定だという。

□アイデックスのホームページ
http://www.idecs.co.jp/
□Storm 1.5の製品情報
http://ss1.rss.whiteboard.co.jp/~idecs/onlinestore/software/storm.html


■ M-Audioジャパン

 いま絶好調のM-Audioも、新たな製品をいくつもリリースしてきた。

 まず、展示物として非常に目だったのがM-AudioのMIDIブランドであるmidimanの「Surface ONE」という製品。これはユーザーが制限なしにカスタマイズできるバーチャル・コントローラー。斬新なデザインのコントローラー部にはTACTEXの光ファイバーを採用したパッドパットと、16系統のコントローラーノブが搭載されている。

 このパッドパットは指を滑らせる形でパラメータを変化させていくのだが、縦に滑らせるX軸だけでなく、横の動きを見るY軸、そして圧力を感知するZ軸の3軸があり、それぞれに意味を持たせてMIDIのパラメータとして利用することができる。4月下旬~5月に発売の予定で、価格は9万円程度。

Surface ONE AudioSport DUO Delta 1010 Light

 「AudioSport DUO」は、24bit/96kHzに対応したUSBオーディオインターフェイス。M-Audioの人気製品である、オーディオインターフェイス「Deltaシリーズ」が採用しているAKM製24Bit 96kHz対応 A/D、Aコンバータを搭載する。その結果アナログ2-in/2-out(+4dBU・-10dBV)に、M-AUDIO DMP2テクノロジを装備した2系統のプリアンプ(48vファンタム電源装備)、ヘッドフォン出力、デジタル(S/PDIF)出力までも装備したUSBレコーディングシステムとなっている。

 また、「Delta 1010 Light」は、Deltaシリーズ最高峰のDelta 1010をもっと手軽に扱えるようにした製品。これはDelta 1010の1Uラックマウント型のブレイクアウトボックス部分をなくし、6万円前後の価格に抑えている。

DMP3

 そのほかには、「DMP3(Dual Mic-Preamp and Direct Box)」も出展された。この製品は、数々の賞を受賞した高品位マイクプリアンプDMP2のテクノロジをベースに、アコースティックサウンドを更に磨きをかけ、クラシカルなVUメーターを2系統も備えた、デュアルマイクプリアンプ/ダイレクトボックスとなっている。

 発売はSurface Oneがゴールデンウィーク明け、それ以外の各製品は2002年3月中旬の予定。

□M-Audioジャパンのホームページ
http://www.m-audio.co.jp/
□Surface ONEの製品情報
http://www.m-audio.co.jp/news/surface.html
□AudioSport DUOの製品情報
http://www.m-audio.co.jp/products/duo/duo.html
□Delta 1010 Lightの製品情報
http://www.m-audio.co.jp/products/delta1010light/delta1010light.html


■ ミューズテクス

MOTU 896

 オービットのミューズテクス事業部は、米Mark of the Unicorn(MOTU)の代理店。シーケンスソフトである「Digital Performer」や、MOTUの各種インターフェイスなどを扱っているわけだが、今回、会場で大きく目立ったのはFireWire(IEEE 1394)接続のオーディオインターフェイス「MOTU 896」。

 これまでも「MOTU 828」という1Uラックマウントタイプのインターフェイスを出していたが、MOTU 828が24bit/48kHzまでの対応であったのに対し、その上位機種となるMOTU 896は24bit/96kHzにまで対応。またポート数も増え、2Uのラックマウントタイプとなっている。

 ポートとしては、アナログが8chの入出力に加えデジタルがadatの入出力が1系統、AES/EBUの入出力が1系統あり、計18chの同時入出力が可能となっている。ただし、デジタルは96kHzに対応していないことから、96kHzで利用する際はアナログのみとなる。リアを見るとわかるが、アナログはXLRとTRSの双方を切り替えでサポートするとともに、全チャンネルにファンタム電源/プリアンプが装備されている。また、MOTU 828にはなかった同期のためのWord Clockの入出力も装備する。

 なお、国内での発売は4月ごろで、価格はMOTU 828の約2倍となる20万円程度を予定しているという。

Digital Performer 3.1

 また、すでにWebや雑誌の広告などでも告知されていたが、Digital Performerのバージョンが3.1へアップデートされる。

 これによって無制限のマルチプルアンドゥ、Digital Performer独自のタイムラインアンドゥ、サラウンドオーディオファイルの波形編集に加え、ACIDのようなループベース機能を装備するとともに、フィルム・ビデオ・ポストプロダクション、MIDIミュージックプロダクションに関連した機能も新たに追加される予定。なお、現在のDigital Performer 3.0ユーザーは、無償でのアップデートが予定されている。

□ミューズテクスのホームページ
http://www.musetex.co.jp/
□MOTU 896の製品情報
http://www.musetex.co.jp/products/motu/896/


■ スタインバーグ・ジャパン

 「Cubase VST」、「NUENDO」のメーカーであるSteinbergは、今回のイベントで新しい技術とさまざまな製品の発表を行なった。

 その新たな技術というのは「VST System Link」というもの。これはコンピュータネットワーク(=LAN)を用いて、オーディオとMIDIをリアルタイムに分散処理するという技術だ。

 たとえば、3台のマシンをLANで接続し、1台目のマシンではCubaseVST上で3トラックのオーディオを再生しつつそれぞれにEQやエフェクトをかけ、2台目のマシンでは別の8トラックを同様に鳴らし、3台目のマシンではソフトシンセを鳴らすとする。この際、それぞれがサンプル単位で完全に同期され、マシン負荷を分散させることができる。

 CubaseVSTとNUENDOに対応する予定で、2002年春に海外でリリースされるという。残念ながら、今回のイベントにおいては、そのデモを見ることができなかったが、実際に動くようになったら、Digital Audio Laboratoryでレポートする予定だ。

The Grand

 一方、製品としては、多くユーザーの目をひいたのが「The Grand」というVSTインストゥルメント(ソフトシンセ)だ。これはグランドピアノの音を完全に再現する音源ということで、1.3GBを超える24bit/96kHzのサンプルサウンドが非圧縮で収録されたものである。

 しかし、単にサンプリング音源として動くわけではない。シンセ機能により、演奏の微妙なニュアンスにも反応するようになっている。またサウンドの収録はヨーロッパの出版社でもあるWizooが協力しており、優れたアコースティックグランドピアノのサスティン/ソステヌートペダルはもちろん、ダイナミックスやダンパーペダル/ハンマーアクションまで詳細に収録している。

 こうしたスペックを見ると、比較したくなるのがTEAC傘下のNemeSys Music Technologyのソフトシンセ「GigaSampler/GigaStudio」だ。こちらに付属する1GBのグランドピアノデータGigaPianoもかなりのものであるが、あくまでも独立したソフトであるため、VSTインストゥルメントとして動作するThe Grandの魅力は大きい。

グランドピアノを24bit/96kHzの非圧縮でサンプリング。ペダルやハンマーアクションも収録している

 ただし、これだけ膨大なデータを扱うためなのか、かなりCPUパワーは食うようで、Macintoshの場合はG4 800MHz Dual以上、WindowsではPentium III 1GHz以上が必要になる。発売は2月22日。Macintosh/Windowsハイブリッドで標準価格は29,800円。

WaveLab 4.0

 そのほかでは、NUENDOがMac OS Xにネイティブ対応し、パフォーマンスはかなり向上したという。セミナーでは。M-Audioの「DLTA1010」と組み合わせての5.1chサラウンドのデモなどが実施されていた。また、NAMM Showでは、同社のWindows用の波形編集ソフト「WaveLab 4.0」も発表されている。

□スタインバーグ・ジャパンのホームページ
http://www.japan.steinberg.net/
□The Grandの製品情報
http://www.japan.steinberg.net/products/grand/


■ ハイ・リゾリューション

Live 1.1

 Aardvark製品、ableton製品を扱うハイ・リゾリューションが、今回大きくデモしていたのは、新世代オーディオ・ループ・シーケンサ「Live 1.1」。Live自体はすでに同社から49,800円で発売されているが、今回1.1へアップデートしたことにより、Mac OS Xでの動作をサポートした。すでにWeb上には1.1へのアップデータが掲載されており、フリーでダウンロードすることが可能だ。これは100%のカーボンアプリとなっているため、Mac OS X上での動作が非常に軽くなっている。

 また、現在のところReWireはホストとしてのみ対応しているが、春ごろにはクライアントとしても対応するため、おそらくReWire対応製品としては、初のホスト/クライアント両対応となる見込み。こちらについても無償でアップデータを配布する予定という。

DirectMix usb3

 なお、Liveのデモを行なう際、オーディオインターフェイスには以前から発売されているAardvarkのUSB製品「DirectMix usb3」が用いられていたが、多少不思議な状況も起こっていたという。

 この製品自体、特定のドライバは持っておらず、Mac OS内蔵のドライバで動作するのだが、これまでのMac OS X 10.11ではレコーディングも可能だったのに、最新のMac OS 10.12ではレコーディング・ポートが見えなくなってしまったとのこと。

 これと同じ話は、別のブースでも聞くことができたが、アップルはこの問題については近いうちにハッキリさせるといっているらしい。せっかくのUSBオーディオもレコーディングができないと無意味となってしまうので、早い時期の正式対応をお願いしたいところだ。

□ハイ・リゾリューションのホームページ
http://www.h-resolution.com/
□Liveの製品情報
http://www.h-resolution.com/ableton/live.html


□NAMMのホームページ
http://www.namm.com/
□NAMM Winter Show 2002 Apple Japna Update開催の案内
http://www.apple.co.jp/hotnews/2002/0218namm2002/

(2002年2月20日)

[TEXT by 藤本 健]

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