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押井守氏が企画協力、プロダクション I.Gの制作で、10月から放送されるテレビアニメシリーズ「BLOOD+(ブラッドプラス)」の制作発表会が9日、東京大学の本郷キャンパス大講堂(安田講堂)にて行なわれた。
会場には押井氏をはじめ、プロダクション I.Gの石川光久社長、プロデューサを務める毎日放送の竹田靑滋氏、監督とシリーズ構成を務める藤咲淳一氏、女優の栗山千明さんらが参加。新作の見所だけでなく、「アニメーションの最前線を語る」、「日本のアニメーションと戦争」などのテーマでトークショーやパネルディスカッションが実施された。
同イベントは「東京大学大学院情報学環コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム」の公開講座として企画されたもので、最高学府を会場とするにふさわしい、非常に密度の濃いイベントとなった。
■ 「BLOOD+」のUMDビデオ化なども予定
テレビアニメシリーズ「BLOOD+」は、10月よりMBS・TBS系の全国ネットにて、毎週土曜日の夕方6時に放送される(放送時間の異なる地域有り)。同作品は、2000年に公開された劇場用の短編アニメ映画「BLOOD THE LAST VAMPIRE」を源流としている。 BLOOD THE LAST VAMPIREは、フルデジタルアニメとしてプロダクション I.Gが制作。実験映画的な側面も持つ作品だったが、映像クオリティが非常に高く、美術や演出面で高く評価されたほか、セーラー服を着た女子高生が日本刀でヴァンパイアを切るというビジュアル的インパクトが話題を集め、海外からも大きな反響を得た。 中でもクエンティン・タランティーノ監督は、主役・小夜(さや)に触発され、自身の映画「キル・ビル Vol.1」で、栗山千明さんを起用。セーラー服姿の殺し屋「ゴーゴー夕張」を生み出したほか、同作品に挿入されるアニメパートをプロダクション I.Gに依頼したことも記憶に新しい。 テレビ版は「小夜という少女が刀を持ち、翼種(異形の生物)と戦う」という大まかな設定を踏襲しながら、物語の舞台を‘66年の横田基地から、現代の沖縄に移動。世界をまたにかけたロードムービーになるという。 主人公の音無小夜は、1年以上前の記憶を失っていることを除き、ごく普通の女子高生。だが、謎の多いチェロ奏者の青年・ハジと出会い、日本刀を手渡されたことで、彼女に架せられた宿命の歯車が回りはじめる……という物語。キャラクターデザインは箸井地図氏、アニメーションキャラクターと総作画監督は石井明治氏が担当。声優などは未定となっている。
放送枠である土曜日の夕方は、ガンダムSEED、鋼の錬金術師、ガンダムSEED DESTINYと、ヒット作が名を連ねており、この枠を選んだことからも同プロジェクトにかけるクリエイターや各メーカーの意気込みを感じさせる。
その予感を肯定するように、アニプレックスの勝股英夫氏は、同作品のメディア展開について「DVD発売も予定しているが、アニメのDVDでは一本の作品に人気が集中する“一本かぶり”という現象がある。BLOOD+はその一本になれるような作品にしていきたい。また、海外展開も積極的に行なっていく」という。
さらに、フォーマット面でも多角的な展開を予定しているとのことで、「UMDビデオでのリリースも予定している。また、ブロードバンドなど、新たな配信、提供方法が増えており、そういった新しいコンテンツ供給方法も積極的に取り入れていきたい」と、商品形態を説明した。なお、DVDやUMDビデオの発売時期は未定となっている。
ほかにもメディアミックス展開が用意されており、7月から角川書店が販売する3つのコミック誌に、3本の関連漫画が連載される。具体的には、7月26日発売の「月刊少年エース 9月号」に、テレビアニメ版に近い物語の作品(漫画家:桂明日香)、7月8日に発売の新雑誌「ビーンズエース」の第1号にロシア革命前夜を舞台にした外伝的作品(同:スエカネクミコ)、7月30日発売の「CIEL」に、ハジにスポットを当てた作品(同:如月弘鷹)がそれぞれ連載スタートする。
ちなみに「CIEL」は少女漫画誌だが、俗に「ボーイズラブ」と呼ばれる分野の雑誌であり、女性読者を意識した展開も予定している模様。ほかにも、ライトノベル・レーベルでのノベライズも予定されている。
■ セーラー服と日本刀 大きな要素である「セーラー服と日本刀」というイメージの発端について押井監督は「新人育成を目的とした“押井塾”を開いているのだが、その課題で神山健治が提出した世界観と、藤咲淳一のビジュアル的な設定を組み合わせた。セーラー服の女の子が機関銃を持ったりバズーカを持ったりするのはアニメでは良くあるのだが、日本刀というのが新鮮だった」と解説。 また、セーラー服については「性的で、危険なものという意味を持つ歪んだアイコン」と表現。「もともと男が着る服を上半身だけ着ているということで、ユニセックスであり、性的なものを連想させるのだろう」と分析。
キル・ビルのゴーゴー夕張については、「日本人の監督がやっていたら、絶対にスケバン刑事になってしまっただろう。登場させたいキャラクターがまず大きく存在し、その後から作品としてのつじつまを合わせる。だから日本刀を持ったまま空港をウロウロするような映画になる。リアルを追求する日本のアニメと、アニメ的でも良いじゃないかという映画。アニメをやっている人にとっては反面教師的な実写と言えるかもしれない」と語った。 なお、トークショーの合間には、チェリストの古川展生氏による演奏も行なわれ、古川氏はBLOOD+ のイメージテーマとなっている、バッハの無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調プレリュードなどを披露。大きな拍手を受けた。 アニメファンとしても知られる栗山千明さんは、「最近のアニメはクラシックの名曲をテーマ曲に採用することが多いので、自然とクラシックも良く聴くようになりました」など、ファンならではのコメントで場内を沸かせていた。
■ 「アニメだけが戦争を描いてきた」
パネルディスカッションでは、「アニメと戦争」をテーマにトークが白熱。その中で藤咲監督は、テレビシリーズの舞台を現代の沖縄に設定した理由について、「今の日本で戦争というものが日常に近い問題としてあり、複雑な状況を抱えているから」と説明。今回の作品でも、戦争を重要なテーマとして描いていくという。
「ヴァンパイアの闘争」と「人間の戦争」では食い違う印象があるが、兵器が飛び交うような直接的な戦争表現ではなく、「日常や社会の中にある身近なものとして、戦争を描くいていく」という。藤咲監督は、「押井さんは、新宿とか国会議事堂とか、良く知ってる風景に戦車を置くことで日常に近い戦争を表現した。私はもうちょっと上の視点から戦争を描きたい。それは社会システムの中の戦争であり、経済も絡んでくる。ブラッドは血だが、現代の血である経済という意味も隠されている」という。
竹田靑滋プロデューサーは、「ガンダムSEEEDや鋼の錬金術師など、今まで戦争をテーマとして描いてきた。こうした作品を、子供たちが多く見る時間帯に放映することに意味がある。戦争について考えるキッカケになってくれれば嬉しい」と語る。
押井氏は、「第二次大戦に負けたことで、日本の映画は敗戦の記憶と離れて、戦争と誠実に向き合えない時期が続いていた。最近の“ローレライ”などは、潜水艦の女の子が乗ったりして少し戦争について自由に考え、表現できるようになったが、それまでは“反戦映画にしなければならない”、“史実を描かねばならない”というような無意識の縛りがあった」という。 そこで、押井氏は、ガンダムシリーズで知られる富野由悠季氏の「アニメだけが戦争を描いてきた」という言葉を引用。「絵空事であり、相手が宇宙人だったりするアニメだからこそ、戦争を公平な目線で、誠実に描くことができた。戦争賛成反対の議論の前に、戦争に対して誠実であることが重要。そこから、他人の戦争がなぜ楽しいのか、どうしてやめられないのかなどを考えていくべきだ」と語った。
監督の世代という意味で、若い世代の藤咲監督がどのような視点で「戦争」を描くのかも気になるところ。また、押井塾を生徒と教師という関係に例えるなら、押井氏を乗り越えなければならない藤咲監督は、「押井さんを超えるとなると大変。とにかくがむしゃらに頑張りたい」と抱負を語った。
□BLOOD+の公式ホームページ
(2005年5月11日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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