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和の経営で、オンリーワンを目指す
-シャープ町田社長が語る日本の製造業


シャープ町田勝彦社長

12月8日開催


 NECが、東京・有明のビッグサイトで7日~9日まで開催している「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2005」の会期2日目となる12月8日、基調講演にシャープの町田勝彦社長が登場。「シャープのオンリーワン経営」と題した講演を行なった。

 過去最高の売上高、営業利益を計上している勝ち組企業・シャープの社長講演とあって、NEC主催のイベントでありながら、会場となった国際会議場は満席となった。

 町田社長は、'98年に社長に就任して以来の自ら経営を振り返り、「オンリーワン経営とともに、日本人の強みを生かすことができる、和の経営を推進してきた」と、その成功の秘訣を明かした。

 和の経営とは、人と人が調和して、あるいはパートナー会社との協業によって、事業を推進するという手法。個人を尊重する欧米とは異なる、日本ならではの経営手法だと話す。


■ 日本独自の「和の経営」とは

 収益が出ない時期にも、リストラによる人員削減を行わなかったのも、人による和の経営が重要だと判断したものだという。

 いまや、「液晶のシャープ」という代名詞を持つ同社だが、町田社長が就任した時点で、IC事業と液晶事業のどちらに力を注ぐのか、選択と集中の判断を迫られた。当時のIC事業は、シャープの基幹ともいえる事業のひとつ。'98年度単年度の業績を見ても、液晶事業は大幅な赤字であるのに対して、IC事業は黒字。また、設備投資に関しても、IC事業に積極的な投資を進めていたのに対して、液晶事業の投資は、IC事業の半分程度に留まっていた。

'98年に当時はICがデバイス事業の主力で集中と選択の決断。液晶にフォーカスした 液晶に集中投資し、主力事業に成長

 町田社長は、この時、液晶事業を選択し、同事業への投資を集中させる判断を下した。その背景には、自らがテレビ事業を担当していた時の経験がある。テレビがブラウン管の時代には、シャープのブランドは決して高くはなかった。むしろ、安売りというブランドイメージがあった。

 「販売店に新製品を持っていくと、どこのブラウン管か、と聞かれる。それを答えると、いくらシャーシの優秀さを訴えても、ワンランク下の値がつく。これではいくらやってもブランドがあがらない。その経験が、ブランドを形成することになるテレビ事業において、ブラウン管に変わるキーデバイスを持つという、抜本的改革を行わなくてはならないという決意につながった」と町田社長は振り返る。

 また重ねて、「2005年までに、ブラウン管テレビを液晶に変えると宣言したが、これは、ここまでの決意を持ってやるという気持ちの表れ。無謀だとか言われたが、中途半端なことを言っても、その決意が理解されないと思った」とも語る。

 実際、昨年度の時点で、同社のテレビの出荷比率の約9割を液晶テレビが占め、今年度は当初の宣言通り、ほぼ100%に近いところまで液晶テレビの構成比が高まるという。町田社長は、「液晶技術の進化は、私の期待よりも早かった」と明かす。

2005年の液晶に全移行を宣言。出荷面でもほぼ目標達成された 液晶は予想以上の進化を遂げた

 「当時は、パソコン用液晶パネルを中心としていたため、それほど問題にならなかった大型化、視野角、応答速度といった部分での技術改善が必要とされた。それが、いまでは65インチの大画面化、176度までの視野角を実現。当初は23ms程度だった応答速度も、いまでは4ms、6msというレベルを実現している。私の想定以上のスビードで技術が進化している」と語る。

 そして、「技術者や協力会社が、ベクトルをあわせると、技術革新のスピードは一気に加速」するとし、ここにも和の経営のメリットを示して見せた。


■ 創業者の理念に基づく、オンリーワン経営

ナンバーワンよりオンリーワンを目指す

 「社長に就任してから、オンリーワン経営を打ち出したが、これは創業者の理念に基づいたものだ」と町田社長は語る。創業者である早川徳次氏は、「他社に真似をされる製品をつくれ」とした。このシャープの原点ともいえる考え方は、まさにオンリーワンデバイスに支えられた、オンリーワン製品による経営といえるのだ。

 「ナンバーワンを目指すと、どうしてもありきたりの製品しかつくらない。また、バブル期の市場拡大傾向のなかで、創業者の理念が忘れられていたところがあった。これを、もう一度呼び戻すためにも、改めて、オンリーワンという言葉を使った」などとした。


【お詫びと訂正】
※記事初出時に、早川徳次氏の「他社に真似をされる製品をつくれ」という理念について誤って紹介しておりました。お詫びして訂正致します

 そして、もうひとつ、シャープの経営のなかで見逃せないのが、日本における物づくりへのこだわりだ。「亀山ブランド」という、工業製品としては、初の産地ブランドが定着している同社の液晶パネルも、日本の物づくりによるもの。

液晶の開発には摺り合わせが必要

 「場所を決める時に、海外からは、法人税をただにするとか、土地をただで提供するとか、様々なアプローチがあった。だが、大画面テレビ用液晶パネルという新たに作る技術であること、テレビに採用する上で、製品部門やパートナー企業との摺り合わせの技術が必要なこと、海外への技術流出の可能性があることなどを考えると、日本での物づくりしかないと考えた」(町田社長)。

 亀山では、三重県がクリスタルバレー構想を推進しており、液晶関連企業が相次いで進出していたことも、同地への工場進出に大きく作用した。現在、亀山には、約70社の液晶関連企業が進出している。

 実は、町田社長は、海外生産シフトの動きに対して、危機感を感じていた。「海外の生産拠点の社員に話を聞くと、日本に帰りたくないという。海外にいると、日本よりも安く作れるため、それほど努力をしないままでいられる。そして、日本に帰っても、自分のポジションがない、という。一方、日本の工場は、多くの製品を海外で生産し、日本では作るものがないので、生産革新をしようという気持ちがない。メーカーという立場で考えると、これは大変なことが起こると感じた。海外生産は、安く作れるというメリットはあるが、メーカーの生産技術が衰えることになりかねない。まさに、一時的な痛みを和らげるモルヒネみたいなもので、なにも解決しないと考えた。そこで2001年に日本での物づくりを改めて訴えた」。

 それに対して、「マスコミは非難し、『中国行きのバスに乗り遅れた』というような表現を使った」という。しかし、「いまではその論調も変わった。私は、日本での物づくりは正しかったと判断している。とくに、液晶パネルのような発展途上の製品であり、摺り合わせが必要な製品は、日本での物づくりが適している」とした。

 また、町田社長は、来年10月に稼働を予定している亀山第2工場についても触れ、2,160×2,400mmの第8世代のパネル生産が可能であることを訴え、「大画面化にも適したパネルが生産でき、とくに、これから需要拡大が見込まれる、海外などでの大画面化にも対応していきたい」とした。さらに、「亀山第2工場は、耐震化したのではなく、免震化した工場。揺れない工場だといえる」と話した。

製造装置やプロセスを内製化によりブラックボックス化 亀山工場

 最後に、町田社長は、「今後はソリューションにつながるハードを作りたい」として、パソコンの情報などが表示できる65インチの液晶ディスプレイを製品化したことを紹介しながら、「受付案内表示やテレビ会議システムでの応用のほか、私は社長室にサプライチェーンの情報などを表示する経営情報システムのモニターとして設置したいと考えている」などとし、「こうしたソリューション展開は、パートナーとの連携が必要」と、和の経営をソリューション分野にも広げていく考えを示した。

 

□NEC C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2005
http://www.uf-iexpo.com/top/
□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/

(2005年12月8日)

[ Reported by 大河原克行 ]


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