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「OSインディペンデント」でリビングのAV端末を狙う
-WinHECで明かされた「Media Center」戦略


会期:5月23日~25日

会場: Washington State Convention & Trade Center


 MicrosoftのリビングAV戦略の中核は、いうまでもなく「Media Center」機能である。そのため、「戦略の中心はMedia Center機能でリビングにPCを置くことで……」などと説明されることが多いのだが、それはちょっと違う。

 WinHEC最終日、集中して行なわれた「Media Extender」のセッションから、Microsoftの本当の狙いが見えてくる。


■ MCXを推進する理由

Microsoftの想定する「ホームAV」のシナリオ

 「多くの人が、リビングにPCを置くわけではない」

 セッションは、そんな言葉から始まった。説明に立った、米Microsoft eHomeディビジョンのリードプログラムマネージャー、スコット・エバンス氏は、「かなりMicrosoft・ウェイな家庭を想定したシナリオだけれど」と笑いながらも、右のスライドを示した。

 パソコンは、リビング以外の部屋にあり、一般的な仕事の他、Media Centerを使ったAVコンテンツの蓄積も担当する。

 では、リビングでそれを楽しむ時になにを使うのか? そこで示されたのが、家庭内LANを使った「Windows Media Center Extender」(MCX)である。

MCXでは、PC上の映像と同じものが、劣化も遅延もほとんどなく再現される。「遠隔操作」という言葉から受ける操作感の悪さはどこにもない

 MCXとは、PC上で動作しているMedia Centerを、LANにつながった端末から遠隔操作する機能。MCX端末でのリモコン操作がPCに送られ、PCはその結果をMCX端末に返し、端末はそれを表示する。Windowsでパソコンの遠隔操作に使われる「リモートデスクトップ」(RDP)技術を応用したものである。

 これにより、パソコンよりも小さく、静かなMCX端末をテレビにつなぐことで、リビングでもMedia Centerと同じ体験ができる。

 このシナリオは、WinHEC初日にビル・ゲイツ会長の基調講演でも公開されたものであり、同社のリビング戦略の基本である。すなわち、MicrosoftのリビングAV戦略は、「Media Center+MCX」の組み合わせ、というわけだ。


MCEを中核としたホームネットワークに関して、これまでの流れをまとめたもの。Xbox360用を経て、家電へと続く

 そうなると問題は、「いかにMCXの導入数を増やすか」という点になる。今回セッションが行なわれたのも、MCX開発の促進、という意味がある。

 Xbox360にMCXが組み込まれているため、現在使われているMCXは、ほとんどがXbox360だと思われる。いかにMCXのバラエティを増やすかが、今後の課題とされた。

 そこで出てきたのが、MCX開発手段の多様化である。様々なホームネットワーク機器に搭載してもらうために、MCX機能を「ホームネットワークのプレミア機能」としたのだ。

 現在、AV/IT業界では、AVホームネットワークの標準規格として「DLNA」を使う動きが広がっている。Microsoftも幹事企業の一つであり、規格策定には積極的に参加しているのだが、これまでは、「製品としての取り組み」が今ひとつ明確でなかった。

 Media Centerとの連携は独自プロトコルであるMCXで、ベーシックなXP用のAVサーバー機能としては、「Windows Media Connect」(WMC)を採用していた。WMCは、DLNA同様Universal Plug & Playをベースとしているものの、DLNAに準拠した実装とはいえなかった。

 今後、その点は変わってくるようだ。日本ではあまり目立たないのだが、Microsoftは「Playsforsure」というロゴプログラムを行なっている。Windows Media Playerを中核に、音楽配信/音楽プレーヤー/ネットAV端末などの相互接続性を保証する、という考え方だ。

 これまで、WMCがベースであったPlaysforsureのネットワークAVは、「Playsforsure 2.0」にて、DLNAを基本に、Windows Media DRMによるプレミアムコンテンツ視聴機能を組み込んだものとなる。すなわち、「業界標準をカバーしつつ、よりリッチ」という線になるわけだ。


■ テレビにもMCXが入る?

 そしてMCXは、さらにその上にかさなる「リッチコンテンツ」扱いとなる。

 これは、なにも差別化のためだけのグルーピングではない。実際に機器へMCX機能を実装してもらうための作戦でもある。

 エバンス氏はこう説明する。

 「MCXは、OSにもチップにも依存せず実装できる。Windowsである必要はない。各社の様々なプラットフォームの上に、自由に実装が可能だ」

 実際、プレゼンの中で示された、SigmaDesignのプロセッサを使ったリファレンスボードでは、OSにエンベデットLinuxを採用していた。MCX開発用のキットには、様々なOS向けにMCXを実装するためのポーディングキットが含まれている。

 「実装の自由度」をアピールする裏には、今後ネットワークAVの機能が、後付の「デジタルメディアアダプター」としてではなく、テレビやAVアンプなどに最初から組み込まれる、という流れがあるためだ。

MCXの位置づけは「最上級の機能」。DLNAを基本とし、その上に「Windowsのプレミア」を重ねていく、というスタンスだ セッションで公開されたSigma Designのメディアプロセッサ「8622L」を使ったリファレンスボード。小さな基板上に、コンポーネント出力からHDMIまでを装備している

 実際、すでに東芝の「REGZA」やソニーの「BRAVIA」には、DLNAのクライアント機能が組み込まれている。これは、「AVサーバーから提供されるコンテンツを、“テレビのチャンネルが増えた”かのように扱うのが理想」(AV家電メーカー商品企画担当者)だからだ。

 ハイビジョン・テレビにDLNAを組み込むためには、それなりのプロセッサとネットワーク処理能力が必要。もちろん、映像処理能力はすでにある。ということは、DLNAに対応しうるテレビならば、MCXを組み込むための「ハードリソース的ハードル」はさほどない、ということになるのだ。

 テレビ向けのプラットフォームは、各社が独自に開発を行なっている。いかにMicrosoftとはいえ「Windows CEを採用して作り直してくれ」ということはできない。家電へ攻め込むならば、端末側の開発自由度を高めることは、必須なのである。

 このように、MicrosoftはMCX普及に様々な策を用意している。だが、こと日本については、前途多難と言わざるをえない。そもそも、コンテンツをMCXに供給するための「Media Center」が、ほとんど普及していないためだ。

 家庭向けに出荷されるVistaのパッケージの多くで標準機能となり、インテルが「Viiv」の必須条件としてプロモートしたとしても、デジタル放送受信やDVDビデオ作成の機能向上といった、「日本人が望む機能」の拡張が行なわれない限り、PCメーカー側での採用は進まないだろう。

 そんな状況の中で、「米国市場向けにMCXを積む」というAV家電メーカーは、果たしてどのくらい出てくるだろうか?

 結局すべての鍵は、「いかにMedia Centerを普及させるか」にかかっているのだ。

□WinHECのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/whdc/winhec/default.mspx

( 2006年5月26日 )

[Reported by 西田宗千佳]


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