|
ソニーは、ハワード・ストリンガー会長と中鉢良治社長による記者会見を開催した。新経営体制になって約1周年ということもあり、両氏がこの1年の経営を振り返り、成果をアピールした。 ■ サイロを壊し、ネットワーク時代の製品開発を ストリンガー会長は、2005年9月に設定、発表した中期経営目標を振り返り、「コスト削減や、人員整理、非採算部門の事業整理、在庫の削減、工場の統廃合など、計画通りに推移しており、軌道に乗った」と成果を報告。
その中でも、カンパニーや部門間の壁を“サイロ”と呼び、「サイロの壁をドンドン壊すことができ、部門間のコミュニケーションが達成されてきた。アナログ時代の垂直方向のコミュニケーションから、デジタル/ネットワーク時代には水平方向のコミュニケーションが必要。そのためにSony UNITEDの旗印を掲げ、グループ全体が団結し、ビジネスの意識を変えていかなければならないと訴えてきたが、中国やインド、ドイツ、ウェールズなどあらゆるグループ内で、このマークが掲げられている」と、グループのコミュニケーション向上を訴えた。 新たな取り組みとしては、「ソフトウェア開発のプラットフォーム化」について説明。若手の技術者の提案を受け、ネットワーク時代のアプリケーションプラットフォームに構築に着手している」という。「プラットフォームづくりの最中」とのことだが、「将来の成功ためには、製品開発や設計段階で、ソフトウェア開発が平行して進まなければならない」とし、ハード/ソフト開発の融合を促していく方針を示した。 質疑応答では、その具体例についても質問が及んだが、ビデオのアプリケーションの強化により、PSPをビデオプレーヤーとして活用することを提案。「iPodで音楽で実現したことをビデオのアプリケーションで広げていきたい」と述べたほか、「PLAYSTATION 3については、ホームサーバーやそれを越えた機能を実現するポテンシャルがある。オーディオプレーヤーについても作業中」という。 また、ソニーエリクソンの携帯電話については、「既に成功裏にプラットフォームを作れた。合弁会社なのであまり成功に目がいかないが」と笑い、「13歳の息子は、“iPodはいらない。ウォークマン携帯でいい”と言ってくれ勇気づけられた」という。 うまくソフトウェア開発が行かなかった例として、CONNECT Playerについて質問が及んだが、「Appleが5年かけてやろうとしたことを1年でやろうとしてしまった。会社そのもののセットアップが、ハード中心のサイロ組織で、サイロの中でプレッシャーをかけすぎた。基礎作りに近道は無い。そのためのアーキテクチャ作りをハードウェアと連携して、取り組んでいく」と説明。「2006年は、ソニースピリットをさらに強化していく」と意気込みを語った。 ■ “心のV字回復”で、テレビ復権に向け、全リソースを投入
中鉢社長は、「“エレクトロニクスの復活無くして、ソニーの復活無し”をテーマに取り組んできた」、と1年の取り組みを説明。「顧客視点」、「技術」、「現場力」の3点の強化ポイントを挙げ、1年間の取り組みを振り返った。 また、2005年9月の中期計画目標については、「テレビ(CRT)工場整理などによる構造改革や、テレビを中心とした収益の改善、成長戦略の定義などを発表したが、「市場の声はよろしくなかった。“ノーサプライズ”、“中途半端”、“成長戦略が見えない”という厳しい反応を頂いた。しかし、多くのメディアや社員、市場から“もう100日評価を待つ”、つまり年末商戦までにどこまで立ち直るか、ヒット商品でるのか、という声もあった」という。 この“100日の猶予”により、「社員に対して、なにより現場を回って“心のV字回復”を訴えた。長期的な低迷、閉塞から早く立ち直ろうと」。さらに、「連敗するのでなく、まず少しでも収益を上げよう。改善したという証拠を少しでも残そうと訴えた」という。つまり、“心の回復と、ヒットの創出”、“収益の改善”を優先し、「成長戦略を語ることはあえて控えた」という。 結果としては、新テレビブランドBRAVIAにより、テレビは復活基調となり、「我々の予想を超えて好調に推移した」とする。また、「カムコーダもHD-HC1/HC3というヒット商品が生まれた。サイバーショットも手ブレ補正が付いて、ヒットした。業績的にも我々の想像を越えて回復した」とし、「復活に向けてまだ道半ばだが、少なくとも2005年にやらなければならないことは手を打った」と振り返った。 しかし、「まだ道半ば。引き続き構造改革を断行し、今年で集約できるよう前倒ししていく。収益改善も他社に見劣りする。さらなる改善に努めていく。テレビ下期の黒字化も含めて、収益を改善する」とアピール。また、成長戦略に向けた、設備投資や、研究開発に取り組んでいく姿勢を明らかにし、「2006年には、品質、とりわけソフトウェアの品質や、成長戦略にフォーカスしていく」と語った。 テレビ事業の復活理由については、「とにかくあらゆる活動をテレビの収益の改善に向けた。人事的にも(副社長の)井原さんに任せるなど、人的リソースや、予算など、全てのプライオリティをテレビに付けた。オペレーション、設計、製造販売を一体化し、井原がリーダシップを発揮した。実装についてもあらゆる実装技術者を集めて徹底し、販売/宣伝費もつぎ込んだ」と、テレビ最重点の収益回復策を説明。 質疑応答では、テレビの2006年下期の黒字化について、「各社の設備投資意欲も高く、価格下落により利益が出なくなるのでは?」との質問が出たが、「いずれは起こるかもしれない。しかし、現在、特にソニーにとってはパネルの供給は供給不足がつづく。今年は600万台売るが、まだ供給が追いつかない。この先どう他社の増産体制が整うのか余談は許さないし、最終的な勝者が、液晶かPDPか、リアプロかわからない。しかし、2011年のアナログ停波に向けて、需要は拡大していく。その際の価格の低下は織り込み済み」という。 ■ PS3とBDの革命が必要 なお、PLAYSTATION 3の価格の高さや、成功への自信については、「PS3は単なるゲーム機ではない。Blu-ray Discを搭載し、CELLを搭載している。この仕様のものをソニーとして世の中に出す。他の“ゲーム機”に比べて、オーバースペック、値段が高い、という声もあっても、市場に判断してもらえばいい。私はPS3のスペックは将来に適合したものだと思う」(中鉢社長)とした。 また、ストリンガー社長は、「リスクを取らずに、実りだけをとることはできない。PLAYSTATION 3は将来の機能が保証されたプラットフォームだ。それだけの仕様を満たしている。大きな野心を持った製品だ。最近、映画会社からの声も、“Blu-ray Discの50GBの容量が必要なんだ”と理解されてきた。インタラクティブ機能などの潜在的な要求の前に、今考えられている機能だけでも既にBDの容量が求められている。安さを求めて進化的(Evolutionary)な変化にとどめるのか、将来を見越した革命的(Revolutionary)な変化を起こすのか。大きな革命に脚を踏み入れると、それだけの機会が与えられる。リスクを伴うことで、大きな実りを得られる。最近“ソニーがイノベーティブでない”、と言いながら、これだけイノベーティブな製品を出そうとすると、“高すぎるのではないか?”という。皆さんも振り返って考えてくれ」と述べ、笑いを誘った。 今後の成長戦略については、「成長には、量的なものと質的なものの両面がある」(中鉢社長)とし、量的な成長については、「日本や中国、韓国、台湾のエレクトロニクスメーカーは、量的な成長にフォーカスしている。例えば、PDP、液晶、フラッシュメモリなどそれぞれの会社が、それぞれ集中投資して量を元に覇を取ることを狙っている。そういう意味では、イメージャー(CCD/CMOS)や、LCD、モバイルのバッテリなどにはついては、集中投資している」と説明。 また、質的成長については、コニカミノルタからの一眼レフ事業買収を例に取り、「αの資産を購入し、継承している。そこにソニーらしさや、サイバーショットとの連動などを組み込み新たな成長製品としていく。ある意味、何10年という時間を買ってジャンプしていこうと。そうした事業が質的な成長」とする。 さらにもう一つ、根本的な変化として次世代のデバイスを挙げ、「やはり、ソニー独自のディスクプレイを持ちたい。そうした意味では特に有機ELについては力を入れている。また、バッテリやメモリ(MRAM)などにも力を入れていく」という。同様に次世代のコーデックやDRMについては「技術開発本部で開発している」とした。 □ソニーのホームページ ( 2006年6月26日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
Copyright (c)2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|