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ソニーPCL株式会社は15日、同社で稼働中のBD-ROMオーサリング環境を報道関係者向けに公開した。
同社はソニーの小会社で、映像コンテンツの制作を手掛けている。現在の主力業務はDVDビデオやUMDビデオのオーサリングだが、BD-ROMの映像ソフトウエア(以下BDビデオ)についても、オーサリング業務を開始している。 伊豆倉公一社長によると、「現在80本以上のBDタイトルが発表済みだが、そのうち制作が進んでいる20タイトルに関しては、ほぼ全てをソニーPCLがオーサリングさせていただくことになっている」とのことであり、日本国内でのBD-ROMオーサリングの最大手といっていい。
今回公開されたのは、HDCAM-SR用テープで用意されたマスターから、MPEG-2形式でエンコードを行ない、字幕・音声・メニューなどを収録するオーサリング作業が終わるまでの工程。この後、ディスクの製造工程を経て製品となり、出荷されることになる。
同社・技術開発部の熊谷隆夫統括部長は、「お客様に対し、どれだけマスターに忠実な映像を届けられるかが我々の仕事。そのために、エンコードのパラメータ調整を専門に行なう『コンプレッショニスト』という選任エンジニアを置き、クオリティの高いエンコードを追求している」と説明。同社で実際にエンコードした映像と、マスター映像を同時に見せるデモンストレーションを行なった。
デモに使われたのは、MPEG-2を使い、35Mbps・VBRでエンコードされた映像。ビットレートが非常に高いためでもあるが、確かに一見したところでは、両者の間に顕著な差は見いだせなかった。
なお、このデモはビットレートの高いMPEG-2のポテンシャルと、ソニーPCLのエンコード技術を示すためのもので、実際のBDビデオソフトの「イノセンス」に収録される映像とは異なるという。2層のBD-ROMに収録される製品版イノセンスはデモよりもさらにビットレートが高いものになる予定。続いて、そのエンコード工程やオーサリングの現場が紹介された。
■ 「イノセンス」のエンコード工程を公開
公開された作業工程は、「イノセンス」のBDビデオ版を作成する際の、エンコードと各種メニュー作成、最終映像チェックまでだ。 エンコードに使うのは、ソニーが開発したMPEG-2エンコーダカード「BAE-VM700」。HDCAM-SRで入力される映像を、平均レート37.5Mbpsでリアルタイムにエンコードしながら、映像データをサーバーに記録していく。
エンコードを担当するのは、「コンプレッショニスト」と呼ばれるエンジニア。作業は2パスのVBRエンコードとなっており、まず全体を通してエンコードしたものをマスターモニターと、家庭での視聴環境を想定した液晶テレビ(BRAVIA Xシリーズの40型)で確認。破綻や違和感を感じたシーンで映像を止め、ビットレートを調整しながら再エンコードする、といった工程を経て、完成度を上げていく。
イノセンスの製品版では、制作者側の「とにかく最高のクオリティを」という要望に応え、映像を37.5Mbpsという極めて高いビットレートでエンコードすることになったという。それでも、微細なものが大量に動くようなシーンではビットレートが不足するため、細かな調整を加えているとのこと。
エンコードが終わると、次はメニューなどのオーサリングに移る。オーサリングに使われているのは、VAIO type RのBD搭載機をカスタムしたものに、ソニック・ソリューションズの「Sonic Scenarist」BD対応版を搭載したもの。DVDに比べ、より高機能なメニューが作成できる。 例えば、画面上にオーバーラップするメニューは、映像が透けて見えるように設定することも可能。Photoshop上で設定したアルファチャンネルをScenaristへそのまま読み込ませ、メニュー用のボタンに適用することができる。デザイナー側の作成意図が反映できるため、開発効率は良いという。ただし、DVDに比べメニュー構成が複雑になる関係上、「DVDに比べ、ざっくり言って1.5倍くらいの時間がかかる」(担当エンジニアの横田一樹氏)という。 なお、BD-JAVAについてはソニック・ソリューションズでツールが開発段階であるため、現在オーサリング中のソフトでは対応できていない。時期は未定だが、このオーサリングルームで対応できるようにするという。 また、7.1ch音声についても現在のところ圧縮フォーマットのエンコーダが無いため、リニアPCM 7.1chのみの対応になるという。ちなみに「イノセンス」BDビデオの音声は、リニアPCM 7.1ch/ドルビーデジタルEX(6.1ch)/DTS-ES(6.1ch)フルレートの3種類で収録する予定だ。
工程の最後は、モニタールームでの試写。32型のマスターモニターと40型のフルHD液晶テレビに加え、SXRD採用のプロジェクター(おそらくVPL-VW100相当の機種)を使い、エンコード状況などに問題がないかを最終的なチェックを行なう。BDビデオの再生に使うのはVAIO type Rのカスタムモデルと、北米向けBDプレイヤー「BDP-S1」のカスタムモデルだ。
■ AVCは検討中もVC-1の採用予定はナシ
見学終了後、技術開発部の熊谷隆夫統括部長は記者団の質問に答え、同社のオーサリング事業の方向性について改めて説明を行なった。 現在同社ではMPEG-2のみが採用されている。「VC-1を採用する予定はないが、H.264/AVCについては、詳細な検討を行なっている最中。ソニーと協力してエンコーダの開発も進めている」とするものの、MPEG-2の利点も大きいと語る。 「AVCはまだ新しい技術で、AVCなりの最適なチューニングが必要になる。また、重要なのは、MPEG-2ならばリアルタイムでエンコードできるということ。旺盛な需要に応じられることは、非常に大切だ」と、作業上のメリットが大きいことを強調する。 その上で「画質面でも不満はない。確かに、ビットレートが低い場合には問題が出るが、高ビットレートでエンコードできるならクオリティは十分に高い」とも語る。 では、どのくらいのビットレートならばいいのか。「やはり、デジタル放送の18Mbpsより低いようでは、問題が起きやすい。CGアニメーションのようにはっきりした映像の場合ならば、26Mbpsから30Mbpsくらいあれば満足していただけるのではないか」と熊谷氏は語る。 映像だけで30Mbps程度使うことになると、1層ディスクではどうしても容量不足になりがちだ。そのためか、現在制作中のタイトルのうち、3分の2は2層ディスクを採用しているという。
なお、ソニーPCLでは現在、一カ月で10タイトルほどの制作キャパシティがあるものの「いまはフル稼働中」(熊谷氏)とのこと。需要に応えるため、年末までに月間20タイトルの処理が行なえるよう、設備と人員の拡大を行なう予定だという。
□ソニーPCLのホームページ
(2006年9月15日) [Reported by 西田宗千佳]
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