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CEATECの開催2日目に注目を集めたのは、松下電器産業・大坪文雄社長の基調講演だ。開演前から長蛇の列ができ、開場と同時に満席。開演時には多くの立ち見が出るという状況となった。 大坪社長は、「『モノづくり』を基軸とした くらし価値創造への挑戦」をテーマに講演。「モノづくり立社」を基軸にして、商品を通じて、これまでにない新しいくらしを提案する同社の考え方や取り組みについて触れた。
■ 機器やサービスの進化がさらに加速
大坪社長は、この10年間で生活シーンが大きく変化していることを指摘。「10年前には高速道路のETCや、JR東日本のSuicaもなく、携帯電話もこれほど普及してなかった。また、移動中にPCで仕事ができる環境が整ったのもここ数年の話。10年間でインフラや機器はめざましく発展している」。
さらに、「世帯普及率が10%に達するまでに有する年数も劇的に短くなっている。電話では78年、VTRでは18年、PCでは13年かかったが、インターネットはわずか5年で10%の普及率に達し、いまでは9,000万人が利用している。テレビにしても、いまは薄型テレビが第4の波となっているが、これまでのテレビが立ち上がるまでに一定の時間を要したのに対して、薄型テレビは一気に立ち上がっている。すでに、昨年の段階でプラズマ、液晶を含めて54%が薄型テレビになった」と、普及速度が速まっている傾向を示した。
また、「今後5~10年で、放送、通信の境目はますます薄れていくだろう。そこで提供される新たなサービスを利用するには、見る、話す、聞く、触るというエレクトロニクス機器のインターフェースが必ず介在することになり、エレクトロニクス機器の善し悪しがサービスの普及/発展に影響を及ぼす。メーカーの原点である機器の価値を高めることに力を注ぐ」とした。
■ 3つの観点から価値創造に取り組む 松下電器では、価値創造に向けて3つの観点から、取り組んでいることを示す。ひとつは“エンターテイメント”だ。ここでは、薄型テレビの「VIERA」、DVDレコーダやBlu-ray Discレコーダーの「DIGA」、デジカメの「LUMIX」、カーナビの「ストラーダ」などの具体的な商品のほか、HD-PLC(高速電力線通信)によるホームネットワークの構築への取り組みなどを紹介。それらの商品や技術における同社の優位性などを示しながら、「家庭内ネットワークを使ってハイビション情報をやりとりする時代が、すぐにやっていくる」とした。
また、CEATECの松下電器ブースに参考展示しているSDメモリーカードを採用したハイビジョンムービーカメラの試作品を手に持って説明。「コンパクトな筐体のなかに、3CCDを搭載している。一番の特徴はSDメモリーカードであるため、メカニカルなドライブは不要で、省エネに強く、高い信頼性を実現する点。画像圧縮方式には、H.264を採用。4GBのSDメモリーカードを利用することで、ハイビジョンで90分程度の録画ができる。光学式手ぶれ補正、高感度モード、F1.8のライカレンズにより、暗い場所でも高画質の撮影を可能にしている」と商品の機能にも言及した。
そのほか、IPネットワークサービスとして、先頃発表した「アクトビラ」にも言及。テレビで見るインターネットサービスとして展開してきた「Tナビ」での経験に触れ、「テレビを使ったインターネットサービスは、今後、ますます身近なサービスとして発展していくだろう」とした。 2つめのポイントは、セキュリティ&セーフティへの取り組みだ。内閣府の調査で、以前より治安が悪くなったと感じている国民が87%に達しているというデータを示しながら、「松下電器としては、防犯、安全運転支援という2つの分野に対して、ユビキタス・センサーネットワークという観点から、高画質・小型イメージセンサー、複数センサーによる統合とデータマイニング、無線アドホックネットワークというキーテクノロジーで貢献していく」と語る。
具体的な取り組みとして、どこでもドアフォンによる製品展開のほか、今年2月に実施した「ユビキタス街角見守りロボット社会実証実験」で採用した街角見守りセンサーシステムを紹介。自動販売機や児童が持つランドセルに設置したICタグ、ICカードリーダー、通信装置、IPカメラなどによって、児童が安全に通学でき、それを保護者が携帯電話やPCで確認できる環境の実現に取り組んでいることを示した。 また、安全運転支援システムでは、全事故の64%を占めている追突、交差点での事故、出会い頭の事故を削減するための各種開発を、自動車メーカーや行政と連携して取り組んでいることを示し、「将来的には、いねむり防止や、視線を最小限に動かすだけで確認できるナビゲーションシステムの開発などにもつなげていく。交通事故撲滅に向けて取り組んでいきたい」とした。
3つめはコンフォート(快適さ)の追求だ。松下電器では、エコロジーとUD(ユニバーサルデザイン)という観点からこのテーマに取り組んでいるというが、今回の講演ではUDに絞って言及した。 大坪社長は、「エレクトロニクス機器はますます高機能化するが、それに従って操作が複雑になり、機器が進化しても、活用できないという問題が出ている。ストレスのない操作環境を実現するためにも、ワンボタンで操作できることが理想であり、リモコンの進化によって、デジタルデバイドの解消につながる」と、リモコンのUD化にこだわっていく姿勢を見せた。 また、UDの未来として、日常生活を様々な形で支援するライフアシスト型のロボットの開発に取り組んでいることを披露。具体的な例として、人をベッドから運ぶ介護ロボットや、腕のリハビリに活用するリハビリ支援ロボットを紹介した。リハビリ支援ロボットは、実際に壇上でデモストレーションを行ない、右腕を曲げると、それに従ってリハビリを行なっている左腕も自動的に動作するといった機能を見せた。「もう少しで、威圧感などを感じることなく、家庭で利用できるものに仕上がる」と話した。
■ モノづくりにこだわる 最後に大坪社長は、今年7月の社長就任会見でも触れた「モノづくり立社の実現」について「松下電器はなによりもモノづくりにこだわり、すべての社員の活動を商品に結集させる。その源流にあるのは技術。常に、最先端の技術を磨いていくことに力を注ぎたい」と松下電器の基本姿勢を示した。 また、「最近の松下電器のヒット商品は、いずれもブラックボックス技術によって支えられている。ブラックボックス技術とは、知的財産で守られているもの、部品を分解してもわからないもの、モノづくりの工程が囲い込まれているものを指す。社内に半導体の事業を持っていることは大きな強みであり、半導体におけるブラックボックス化が、他社との差別化につながり、高性能化と低コストを両立することにつながっている。DVDレコーダーを例にあげれば、2000年には17個だったLSIが、2004年には4個になり、今年は1個になった」と具体的に事例をあげてみせた。 また、プラズマパネルや回路に関するブラックボックス化、生産整備のブラックボックス化にも触れ、「最先端の生産設備に対しても投資を続けていく考えで、モノづくりではどこにも負けない気概をもって取り組んでいく。松下電器は、安心、安全、愛着、簡単、便利、夢、感動を提供できる企業として、常にお客様のそばにいて、半歩先の新たなくらし価値を提案できる企業でありたい。Ideas for lifeを具現化する企業に挑戦し続けたい」と宣言した。
□CEATEC JAPAN 2006のホームページ
(2006年10月4日) [Reported by 大河原克行]
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