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音質をユーザーがカスタマイズするという新領域
-東北パイオニアの新カナル型「SE-CLX9」


11月下旬発売

標準価格:22,000円


 音質にこだわるユーザーから支持を集めるカナル型イヤフォン。最大の特徴は、その名の通り、耳栓のように耳穴(外耳道/ear canal)の深くまで挿入できる形状だ。シリコン製などのイヤーピースは、イヤフォンを固定すると同時に、耳穴に密着して外部からの騒音を遮断/音漏れを低減。静かな状態で再生するため、細かい音まで聴き取れ、低音再生能力も優れたモデルが多い。

シリコンで耳の型を取るオーダーメイド製品も存在するが、価格の面でも敷居は高い

 そのため、カナル型では耳への“装着具合”が重要になる。しかし、耳や耳穴の形状は人によって千差万別。“誰にでも具合の良い形状”というのは難しい。そこで各社はサイズの異なるイヤーピースを付属したり、指で押しつぶしてから耳穴で膨らむスポンジタイプのイヤーピースを採用するなど、様々な工夫を行なっている。

 究極までにこだわると、Ultimate Earsのカスタムシリーズや、センサフォニクスのイヤーモニターなどのように、ユーザーの耳の形状をシリコンで型取りし、文字通り「その人の耳に最適な」イヤーピース(というか筐体そのもの)を作るという、オーダーメイド製品にまで到達してしまう。だが、そこまでいくと10万円を超えるコースであり、一部の超マニアやミュージシャン以外ではなかなか手が出ない存在だ。

 そんな中、カスタムパーツを多数付属し、ユーザーがイヤフォンの形状を自由に変化させることで、オーダーメイド程ではないが、“自分の耳によりフィットするイヤフォン”が登場した。東北パイオニアが11月下旬に発売する「SE-CLX9」だ。カナル型イヤフォンの新たな試みを体験してみよう。


■高級感のあるケースと外観

 「SE-CLX9」の価格は22,000円で、カスタマイズ機能という付加価値を持っているが、カナル型イヤフォンとしては高価な部類に入る。カナル型イヤフォンは1万円前後の価格帯で競争が激化しているが、カスタマイズが行なえないスタンダードモデル「SE-CLX7」(12,500円)も同時にリリースされる。今回は「SE-CLX9」を試用しているが、スタンダードなパーツの組み合わせでは「SE-CLX7」とほぼ同じ音質になると思われるので、「SE-CLX7」の購入を検討している人にも参考にして欲しい。

SE-CLX9 SE-CLX7

 まずはパッケージからして普通のイヤフォンとは一味違う。横長のデザインで、中央にイヤフォンを配置。その左右にカスタマイズ用パーツが大量に並んでおり、マニア心をくすぐる。このままコレクションボードのように飾っておきたいパッケージだ。

製品のパッケージ。中央にイヤフォンがあり、左右にカスタマイズ用パーツが大量に並んでいる アルミ製の蓋も付属しており、持ち運びも考慮されている

 ハウジングは小型で光沢があり、高級感が高い。コードを除く重量は8gと軽量。形状は後方に向かってすぼまっており、指でつまみやすい形だ。コードは右チャンネルを首の後ろに回すタイプ。コードの長さの違いで、左右の音質が変化することを嫌ってY型コードを採用するメーカーが多い中、高級イヤフォンでは珍しい。コード長は80cmで、70cmの延長コードも同梱している。

 ユニットは新開発のバランスド・アーマチュアユニットを採用。同方式のユニットは高級イヤフォンに多く採用されているが、ユニットを小型化できるため、ハウジングもコンパクトにまとめられる事が特徴。能率が高く、繊細な再生音が特徴だが、ダイナミック型ユニットに比べ再生可能な低域方向の周波数レンジが狭く、ワイドレンジ化するために高級機では2ウェイ、3ウェイといったマルチウェイ化が行なわれている。CLX9はシングルユニット仕様だ。


■ カスタマイズ可能な部分は3箇所

 カナル型イヤフォンでは、ハウジングから音を伝えるノズル(音道)が伸びており、そこにイヤーピースを突き刺すように装着するのが一般的だ。しかしCLX9の場合は、イヤーピースが根元の部分と、耳穴に挿入される先端部分の、2つのパーツに分かれている。同社では根元を「イヤーホルダ」、先端を「イヤフォンチップ」と呼んでいる。

根元の部分が「イヤーホルダ」(左)、先端は「イヤフォンチップ」(右) 2つのパーツを組み合わせている

 この2つのパーツを取り外すと、ノズルが突き出たハウジングのみとなる。ノズルとハウジングは、ネジきりの付いたリングで固定されているため、このリングを回して外すと、ノズルとハウジングを分離できる。

イヤフォンチップのみを外したところ。音道チューブが現れる イヤーホルダも外したところ。銀色のリングでチューブと筐体が固定されている

 交換用パーツはイヤーホルダが、S/M/L/LLの4サイズ、イヤフォンチップもS/M/L/LLの4サイズ同梱。交換用ノズルは、High Tune1/High Tune2/Standard/Bass Tune2/Bass Tune1の5種類を用意している。

 イヤフォンチップはいずれも円形で、これは自分の耳の穴に挿入しやすい形状を選べば良いので比較的迷いが少ない。小さめのものを選んで奥深くまで挿入して低音の量感をかせいだり、大き目のピースを選んで、耳穴挿入を浅い所でとどめ、違和感を少なくするといった選択も可能だ。

上がイヤーホルダの種類。下がイヤフォンチップ。チップはいずれも円形。イヤーホルダはサイズによって形状が大きくことなる 上はイヤーホルダ/チップともに、LLサイズを装着したところ。下はどちらもSサイズ。別の製品に見えるほど、形状が大きく変化する

ノズルの向きなどは、左右で異なる

 パーツ交換に伴う装着感と音質の変化については後述するが、気になったのは各パーツの小ささだ。最も小さく、形状も特殊なノズルはつまみにくく、これを指で押さえながら、固定用リングを回すのがなかなか難しい。誤ってパーツを落としてしまった事が何回かあり、懐中電灯を片手に床を這い回ることになった。交換作業中は作業スペースを広くとるなど、手間は惜しまないようにしたい。

 また、パーツを見ただけでは、それが右チャンネル用なのか、左用なのか区別がつかない。逆の取り付けを防止するために、イヤーホルダには切り欠き、筐体には突起が設けられている。ノズルも同様で、ノズル側にくぼみ/筐体側に突起があり、それを合わせることで正常な向きになり、固定用リングも最後まで回すことができるようになっている。

ノズル。装着時の向きが決まっているため、背面にはくぼみがあり、筐体側の突起と合わせる構造になっている 固定用リングは、ノズルの向きが正しくなってはじめて、最後まで回すことができる

 全体的にチマチマした作業なので面倒くさいとも言えるのだが、好みのセッティングを見つけた後は、それほど頻繁に変更する事も無いだろう。また、「イヤフォンを分解する」という行為はあまり体験できるものではないので、作業中は新鮮な楽しさを満喫できる。


■ スタンダードな組み合わせで音質をチェック

製品開封時の、スタンダードパーツの組み合わせ

 まずはスタンダードなセッティングでの音質をチェックしよう。開封時にはイヤフォンチップ/ホルダが共にMサイズ、ノズルは「Standard」が装着されている。一聴してわかるのは、音の解像感の高さと、小音量でも音が活き活きと飛び出してくる能率の良さだ。いずれもバランスド・アーマチュア方式の特徴だ。ゴンチチ「ロミオとジュリエット」では、アコースティックギターの弦の動きだけでなく、弦の上を指が移動した時の微かな音も聴き取れる。一音一音の輪郭が鮮明で、明朗快活、パツパツとした再生音が楽しめる。

 高域の抜けが良く、下川みくに「all the way」の清涼感も素晴らしい。また、比較的バランスの良い再生音である点に好感が持てる。バランスド・アーマチュア型のイヤフォンは中~高音の繊細な表現は得意だが、マルチウェイ化しないと中~低音の量感に乏しく、ロックを迫力ある音で再生したり、女性ヴォーカルを艶っぽく聴かせる事が難しい。ハウジングの容積も小さいため、響きの付帯音も少なく、明瞭過ぎるために、“解像感は高いが安っぽい音”になってしまいがちだ。ダイナミック型イヤフォンを肉汁が滴るハンバーガーだとすると、味付けを極力抑えた精進料理と言った感じだろうか。これが同方式の好き嫌いが別れる理由であり、マニア向けと言われる所以でもある。

 だが、CLX9はシングルユニットタイプでありながら、中~低音の量感もそれなりに感じられる。ノラ・ジョーンズ「Don't Know Why」でも、アコースティックベースのブルンとした弦の動きや、筐体の響きもキッチリ再生。ノラ・ジョーンズの甘ったるい歌声も、若干のかさつきは感じられるが、十分グラマラスに聴かせてくれる。個人的には非常に好ましい音で、アーマチュア型が苦手な人にも受け入れられやすい、良い意味でバランスのとれた音と言えるだろう。

個人的にベストだったイヤーホルダ/チップ、両方ともSサイズの状態

 しかし、このイメージは付属のイヤーホルダを大型サイズに変更してみたところ、激変した。低音の量が減り、そのために相対的に高音のキツさが気になりはじめたのだ。この状態ではまだ、ノズルの交換は行なっていないのに……だ。そこで、今度はイヤーホルダを一番小さなタイプに、イヤーチップも小型のものに変更してみた。すると、今度は低音の量がスタンダード状態より増加。中域の豊潤さもグッと増加し、今度は逆にスタンダード状態よりもさらに好みの音に変化した。

 これは、イヤーホルダ/チップを変更したことで、耳穴への挿入度が深まり、耳穴との密着性が向上したためだ。逆にイヤーホルダを大型にすると、耳穴の手前でストップがかかり、挿入が浅くなり、低音も痩せた。だが、小型のものを選べば、誰もが密着度が向上するわけではない。耳穴が大きな人は、逆に周囲に隙間ができてしまうだろう。一人一人に最適な装着感を実現できる、この製品の本領発揮というわけだ。

 私の場合はイヤーホルダ/チップともに、最小のSサイズが適しているようで、まるでオーダーメイドしたかのような「装着ピッタリ感」だ。普段もカナル型イヤフォンを使用しているが、一般的な円形イヤーピースと比較し、2ピース構成で完全に耳穴を密閉しているため、周辺ノイズがほとんど聞こえない。いつもかすかに聞こえる電車のアナウンスにまったく気付かず、乗り過ごしそうになった場面もあった。

 それにしても、イヤーホルダ/チップだけでこんなにも中~低域の量感が変化するとは思わなかった。音質カスタマイズ用としてノズルが付属しているので、音質面ではそのパーツにばかり気が行くが、イヤーホルダ/チップも、音質調整に欠かせないパーツであることは間違いない。

 また、ユーザーが求める装着感/音質によっても最適な組み合わせは変わる。低音は控えめでいいから、中~高音をとことん楽しみたいという人もいるだろうし、耳穴を塞ぎ過ぎることで高まる頭内の“音のこもり”を嫌う人もいるだろう。また、「JAZZだから密閉度の高いものを」、「フュージョンだから密閉度を下げて軽やかな装着感を」……と、音楽やアルバムごとにパーツを変えるというのも贅沢な楽しみ方だ。「地下鉄での移動が多い日は密閉度アップ」、「人通りの少ない場所では音漏れを気にせず耳穴を密閉させないものを……」など、状況によって変えてみるもの面白いかもしれない。


■ 音質カスタマイズに挑戦

 次に音質のカスタマイズに挑戦……といきたいところだが、前述のようにイヤーホルダ/チップだけで、音は激変しており、好みの音に近づけられる。この上でさらなる調節ができるというのは非常に魅力的だ。チューニング用ノズルは「High Tune1」、「High Tune2」、「Standard」、「Bass Tune2」、「Bass Tune1」の5種類を同梱している。それぞれの音質の調整方向は以下の通りだ。

  • High Tune2 (青)
    • より高域が強調される
  • High Tune1 (水色)
    • 高域が強調される
  • Standard (白)
    • 標準となるノズル
  • Bass Tune1 (灰色)
    • 高域が抑えられ、低域が強調されたバランス
  • Bass Tune2 (黒)
    • より高域が抑えられ、低域が強調されたバランス
チューニング用ノズル

 今まではStandardノズルで聴いていたわけだが、イヤーホルダ/チップはそのままに、ノズルだけを交換してみた。チューニング用ノズルと名付けられてはいるが、ノズル自体にユニットが付いているわけではなく、フィルタは付いているが、基本構造は短いストローのようなもの。「これで音が変わるのか?」と半信半疑だったが、まず「Bass Tune1」を取り付けてみると、確かに音が変わった。

 低音の強調幅はそれほど大きくないが、高域は明らかに抑えられており、女性ヴォーカルのサ行の荒れが低減。シンバルの高音も丸くなり、ナローと言えばナローなのだが、非常に聴きやすいサウンドになった。「Bass Tune2」にするとその傾向はより強まり、広がる音場に、上から手が降りてきて、録音スタジオの天井をグッと押し下げたようなイメージだ。

 こうなると、“突き抜ける高音”というアーマチュアの特徴が無くなり、一聴するとダイナミック型を聴いているように錯覚する。だが、抑えられてもダイナミック型を超える解像感は残っており、中低域の量感も併せ持つという、2方式のいいとこ取りの再生音が体感できた。それにしても、ノズルを変えただけで音が変化するのは不思議だ。高域は何をやっても音がコロコロ変わるものだが、低域の量感にも明らかな違いが感じられる。

 ノズルを良く見ると、高域寄りのノズルと低域寄りのノズルで、穴の太さが異なっている。また、低音強調タイプは、ノズルの根本に円形のくぼみが設けられている。音道の太さや、形状を変えることで共振ポイントを変化させ、音を変えているのだろう。

 そのため、高域強調用ノズルを取り付けた際の音質変化は、高域をブーストしたわけではなく、“ユニットからの音を、よりストレートに伝えているだけ”に過ぎない。つまりユニットから出ている音自体は「High Tune2」状態に近く、後はそれを“途中のノズルでどれだけ変化させるか?”の違いというわけだ。アンプのバス/トレブルを調整したような音質変化とは異なっている。

左はHigh Tune2、右はBass Tune2。穴の大きさが異なっている 違いがわかりやすいように、写真はコントラストを調整している。左がHigh Tune2、右がBass Tune2。Bass Tune2は内部の穴の手前に、くぼみがあることがわかる

 例えば、個人的に最も好みだった「Bass Tune1」の場合、高域が適度に抑えられることで、高域のキツさを気にせず、全体のボリュームを2段階ほどアップできるようになる。すると、低域のパワーも増え、結果的に全体としては“高域が抑えられ、低音が強調されたバランス”という説明文通りの効果になる。ノズルの形状で低音のが変化する仕組みには、このあたりにも秘密がありそうだ。


■ 末永く使えるパートナー

 価格は22,000円と比較的高価だが、他社の高級イヤフォンと比較しても、音質面では劣るところは無い。むしろバランスド・アーマチュアの特性を活かしつつ、ダイナミック型のような量感のある中~低域を持つ、バランスの良い再生音は魅力的。また、音質を自由にカスタマイズできるのは、他社製品には無い大きなアドバンテージだ。

 カスタマイズ機能を省き、スタンダードなセッティングの「CLX-7」も用意されており、こちらは12,500円と約1万円も低価格だ。「カスタマイズ性能に1万円の価値を見出せるか?」については、非常に難しいところだが、個人的に理想のセッティングが、イヤーホルダ/チップ、ノズルのいずれもスタンダード設定と異なっていたため、カスタマイズの恩恵は大きかったと言える。

 イヤフォンの購入時には、試聴ができたとしても「好みの音じゃなかったらどうしよう?」という不安がつきまとうもの。1万円上乗せすることで、「カスタマイズすれば平気」という安心感が得られる“保険”とも表現できる。また、長期間使っていると、音質に飽きがくるものだが、パーツ交換で新鮮な装着感/音質に変更できれば、永く使えるパートナーになり、結果的にコストパフォーマンスが高くなりそうだ。

 欲を言えば、ユニットやハウジングも含め、もっとカスタマイズの幅が広がると嬉しい。しかし、それでは価格的にも「オーダーメイド」と同じレベルになってしまうだろう。カスタマイズという新領域にチャレンジしながら、価格も現実的なラインに抑える。野心的でありながら、完成度の高い製品と言えるだろう。

□東北パイオニアのホームページ
http://pioneer.jp/topec/
□製品情報
http://pioneer.jp/topec/product/accessory/out_head/out_openair.html#se_clx9
□ニュースリリース(PDF)
http://pioneer.jp/topec/pdf/2007_prs/20071005_clx.pdf
□関連記事
【10月5日】東北パイオニア、音質調整可能なカナル型イヤフォン
-ノズル変更で好みの音質に。12,500円の「CLX7」も
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071005/pioneer1.htm

(2007年10月19日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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