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12月14日にDVD発売を控えた「ブレードランナー ファイナル・カット」が、11月17日から新宿バルト9、梅田ブルク7にて、スクリーン上映されている。新宿バルト9では、その初日となる17日の午前0時からカウントダウン上映を実施。同作に大きな影響を受けているという押井守監督も出席し、トークセッションも行なわれた。
「ブレードランナー ファイナル・カット」は、製作から25周年を記念し、リドリー・スコット監督自身が再編集した最新バージョン。フィリップ・K・ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作とし、2019年のロサンゼルスを舞台に、アンドロイドと賞金稼ぎ・デッカードの攻防が繰り広げられる。'82年の作品だが、東洋と西洋の文化が入り乱れカオスと化した未来都市ロサンゼルスの描写は、後のSF映画に大きな影響を与えている。 同作品には多くのバージョンが存在するが、「ファイナル・カット」ではデッカードのナレーションが無くなり、うどん屋のシーンが短く、スピナーのワイヤーが消され、ユニコーンシーンが1カット追加されているなど、細かな編集が加えられている。 12月14日にワーナー・ホーム・ビデオから発売されるDVDは、「ブレードランナー 製作25周年記念 アルティメット・コレクターズ・エディション」(SDY-18467/14,800円)と「アルティメット・コレクターズ・エディション・プレミアム」(SDY-14484/24,800円)の2種類。どちらのBOXも5枚組みで、最新版を含む、現存する合計5バージョンの本編を全て収録。プレミアム版は特製ブリーフケースやスピナーのレプリカ、ユニコーンのフィギュアなど、特典グッズを追加した10,000セットの限定版となっている。
なお、発表当初はBlu-ray Disc/HD DVDビデオ版も同日にリリースされる予定だったが、既報の通り、諸般の事情で延期されている。
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■ 「ブレードランナー」はゲートのような作品
トークショーには、ブレードランナーやリドリー・スコット監督から大きな影響を受けたという押井守監督が出席。読売新聞の原田康久氏とともに、作品の魅力や、後のSF映画に与えた影響などを解説した。 押井監督は作品について「SF映画の記念碑と言われるけれど、僕は虚構の世界を作り出す全ての監督やクリエイターが、そこを通らなくてはならない“ゲート”のような作品だと思っている」と表現。
「ハリウッド映画のSFでは、奇抜な衣装を着た人が、奇抜なデザインの街を歩いて“未来の世界だ”とするものがある。でも、人間は記憶の中にあるものしかリアルと認識できない。だから、奇抜なだけの世界は“絵空事”で終わってしまう。ブレードランナーのように自転車の大群や、冒頭のうどん、ライターなど、見慣れたディティールで埋め尽くされている。そこに、ほんの少し新しいモノを加えて“リアルだと感じる未来の世界”を作っている」(押井監督)。
押井監督によれば、同作のこうした“架空の世界の日常性を描く方法論”がエポックメイキングなのだという。「25年前、キャラクターとストーリー中心主義の日本のアニメに疑問を抱いていたので、圧倒され、同時に“映画は世界観だ”という、自分の信念は間違っていないという確信を得た」という。以来、パトレイバーでは、見慣れた東京の街に巨大なレイバーを配置、攻殻機動隊では香港でロケハンを行なったりと、架空の世界を描く方法論は、ブレードランナーから変わっていないという。 「リドリー・スコットはレイアウトが上手い監督。うまいなぁ、やられたなぁと思って、真似することもある。監督はインスパイアされるものだから、僕自身の作品のレイアウトを誰かが真似してると聞いても別になんとも思わない」と語る押井監督。
例えばブレードランナーのファーストカット。未来の街を遠景でとらえ、街角のデッカードへフォーカスしていくが「イノセンスでも似たようなことをやっている」という。「みんなで“どれだけブレードランナーから離れられるか”と話し合いながらやってるのに、やっぱり未来の街に雨が降っちゃう(笑)。降らせたいという誘惑に勝てないんだよね。SFアニメでブレードランナーの影響を受けていない作品なんて無いと思う」と同作の影響の強さを解説。
その上で監督は、「もしかしたら、ありもしないものを描く方法論としては、ブレードランナー以外のものは無いのかもしれない。けれど重要なのは、ブレードランナーのパチモノを作ることじゃない。“そのゲートをくぐってどこまで行けるか?”だと思う」と、結論付けた。
ちなみに、押井監督が「もしかしたら、自分がかなわない監督」に挙げたのは、リドリー・スコットとデヴィッド・リンチ。「リドリー・スコットは“キングダム・オブ・ヘブン”も良かったし、“ブラック・ホーク・ダウン”も傑作。どっちも大ファン。3本に1本くらい凄い作品がある」という。「そんなに少ないんですか?」(原田氏)、「3割当たれば凄い方だよ(笑)」(押井監督)。「宮崎駿は?」(原田氏)、「あのおじさんはいいよ」(押井監督)のやりとりに、場内は爆笑に包まれた。
■ 押井作品にもリメイクの可能性!?
これまで「ワークプリント」、「オリジナル劇場版」、「完全版」、「ディレクターズカット 最終版」、そして「ファイナル・カット」と、実に5バージョンもの本編が作られた「ブレードランナー」。幾度もリニューアルされる理由について押井監督は「映画がまだ生きているから」と説明する。 「リニューアルされるたび、上映終了が午前2時で帰るあてもないのに(笑)、今日もこうしてお客さんが観に来てくれる。まだ色あせず、まだ“観たい”と思わせる。それは映画が生きているということ。消費されていないということ」だという。 「押井さんの作品も、色あせないと言われますよね?」と、原田氏に振られた監督は、「僕の作品もメディアコンバートされるたびに発売され、お買い上げいただいている(笑)。僕自身もブレードランナーの全バージョン持ってる。これはもう税金みたいなものだろうね(笑)。参考にさせてもらったり、そのヴィジョンに影響されたり、そうしたことへの対価。リニューアルはその税金に対する領収書みたいなものかもしれない」。 「色あせない作品を作る方法」を問われた押井監督は、2つのポイントを挙げる。1つは「映画はヴィジョン」であること。「ブレードランナーだって、ストーリーは真新しいものじゃない。ドラマはテレビのほうが面白く描けるし、ストーリーは小説のほうが深く描写できる。となると、映画はヴィジョンを活かすしかない。僕なりの言い方だと、世界観。絵で、音楽で世界観を表現し、それを感じ取ってもらうことが重要」だとする。
2つ目は「わからなくすること。1回観ただけじゃよくわからん作品にする。わかりやすく作ると、あっというまに消費する。わかるまで観てくださいと。それが長生きするコツかな」と笑う。
そんな押井監督の新作「スカイ・クロラ」は2008年公開予定。“映画はヴィジョンだ”とする監督だが、新作では「ドラマをしっかりやろうというコンセプトで作っている」という。「でも、僕のなかでやっぱり“ヴィジョンとドラマは両立しない!”と思っている部分もある。映画は感じ取るもの。“1回観ればわかるのがエンタテイメント”では高すぎる。“何度も観たくなること”こそ、優れたエンタテイメントの条件だと考えている」と、複雑な心境を覗かせた。
最後に監督は、「ちょっと考えている企画」として、今後の作品のヒントをポロリ。過去の自身の作品のリメイクを予定しているようで「以前だったら絶対やらなかったと思うんだけど、ある作品は、今作り直す価値があるんじゃないかと考えている」という。具体的な作品名は伏せられたが、原田氏が「(うる星やつらの)ビューティフル・ドリーマー?、オンリー・ユー?」と追求すると、笑顔で首を横に振っていた。
□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ
(2007年11月19日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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