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2008 International CES【ビルゲイツ基調講演】
-「マイクロソフトのビル・ゲイツ」としては最後の基調講演
次のデジタル時代は「つながる実感」が鍵に


米Microsoft会長兼CSAのビル・ゲイツ氏
会期:1月7日~10日(現地時間)

会場:Las Vegas Convention Center
    Sands Expo
    The Venetian


 2008年のInterntaional CESにおいても、基調講演をつとめるのはビル・ゲイツ氏。今回で8年連続、11回目の登壇となる。

 今回はゲイツ氏にとって、節目とも言える基調講演。現在彼はマイクロソフトの会長職兼CSA(Chief Software Architect)をつとめているが、2008年7月をもってフルタイムのマイクロソフト勤務から退き、リンダ夫人とともに運営中の慈善事業財団「ビル・ゲイツ財団」の業務に専任する予定なのだ。

 ただし、マイクロソフトの会長職には留任する予定で、引き続き、主要製品開発や戦略方針の舵取りには携わる予定だ。しかし、表向きの立場として「マイクロソフトのビル・ゲイツ」という肩書きで基調講演するのは今回が最後となるわけだ。

 マイクロソフトを'75年、20歳時に起業し、32年あまりを共に歩んできたゲイツ氏。まず彼は「自分のマイクロソフトのフルタイム社員としての最後の日の心構えと準備を想定してこんなビデオを作ってもらった」と語り、新作ギャグビデオを公開した。

マシュー・マコノヒーがゲイツ氏のトレーナーに

 内容は、マイクロソフトを卒業したゲイツ氏が、これまでに築いた人脈に最大限頼りつつ、次なる活躍の場を模索する……というもの。最初は“全米で最もセクシーな男性”に選出されたことがあるハリウッド俳優マシュー・マコノヒー本人をトレーナーとして、一緒にトレーニングに励むシーンがつかみとして登場。

 続いてゲイツ氏は、北米で人気の音楽ゲーム「ギターヒーロー」が得意であることから、その腕前を生かし、伝説のロックバンド「U2」のリーダー、ボノにギタリストとしてU2メンバーに加入出来ないかと懇願。だんだんと悪乗り度が増していく。

ギターヒーローが得意なゲイツ氏。U2のメンバーに加入を試みるが……

 映画ファンであるゲイツ氏が、自身の半生を題材にした映画をスティーブン・スピルバーグを起用して制作するという妄想まで飛び出し、スピルバーグ本人も登場。ゲイツ役としてジョージ・クルーニーを説得するシーンでは、ジョージ・クルーニーが嫌そうな表情を出しつつも言葉巧みに断り、会場は大爆笑の渦に。

ゲイツ氏の半生が映画化? スピルバーグやジョージ・クルーニーも登場

 終盤には2008年夏に行なわれるアメリカ大統領選に出馬を表明しているヒラリー・クリントンに、ゲイツ氏が電話をかけて「副大統領がご入り用であれば、ぜひ、自分を推薦してもらえないか?」と懇願するシーンもあり、会場内の笑いは絶頂へ。失意とともに愛車に乗ってマイクロソフトのキャンパスをあとにするエンディングで、会場は爆笑と拍手に包まれた。ギャグビデオとしては過去最高といっても過言ではないほどの豪華な出来映えで、来場者の満足度はかなり高かったようだ。

副大統領の夢も破れ、愛車に乗ってマイクロソフトのキャンパスをあとにするゲイツ氏


■ デジタル時代は次なるフェーズへと進む

 講演でゲイツ氏は、コンピューティングの世界やコンシューマエレクトロニクスはWindows 95の登場から始まり、第一のデジタル時代(Digital Decade)を終え、これから第二のデジタル時代に突入するといえるのではないか? と主張。

 第一のデジタル時代の進化がハードウェアやソフトウェア技術の進歩そのものだったのに対し、これから始まる第二のデジタル時代は「ユーザー本意の進化」になるとし、その根幹となるのが「Connected Experience」(つながる実感)だとゲイツ氏は言う。

デジタル時代は次世代へ Connected Experienceが第二のデジタル時代のキーポイントに

 その上で、Connected Experienceを実現するには3つの要素が不可欠だと主張。1つはハイクオリティな映像情報。HDクオリティというのが最も基本的な用件だがそれだけでなく、2Dや3Dといったグラフィックスの様式や、映像を画面に出すだけでなく、壁やテーブルに出すといった映像の出し方にも工夫が必要だとする。

 2つ目は、様々なハードウェアが相互に接続されること。あるいはユーザーの持つデータの、ハードウェアとハードウェアの物理的な接続によるやりとりだけでなく、サービスとサービスを介してのやりとりを可能にするという要素。

 3つ目は、キーボードやマウスに変わる、新たな直感的でわかりやすいユーザーインターフェイスだ。そして壇上ではマイクロソフトの考えるConnected Experienceの例として、開発中の「Surface(サーフェース)」が紹介された。

 Surfaceは、端的に言えば、テーブル上に投射された画面に対する、ユーザーのインタラクティブなジェスチャー入力が、そのままコンピュータとのユーザーインターフェイスの役割を果たすというもの。テーブル下にプロジェクタとカメラがあり、ジェスチャーやテーブルに置かれたハードウェアなどをカメラで認識。画面はプロジェクタで投影されている。

Surfaceを操作するゲイツ氏。ジェスチャー入力でデザインしたオリジナルスノーボードを、オンライン発注。そのデザインを、Surface上に置いたWindows Mobile携帯電話にドラッグ&ドロップして友達にも見てもらう……というデモが行なわれた

 ユニークかつ画期的なのは、テーブルの上に、操作したいアイテムをおいてジェスチャーをするだけで、様々なデータ操作やサービスの利用が出来る点。例えばデジカメを置けば、その中の写真が閲覧でき、オンラインショッピングサイトでは、商品を買うのに、Surface画面の上にクレジットカードを置くだけでオンライン決済が出来る……といった具合だ。

 マイクロソフトはプラットフォームを構築し、様々なソフトウェア動作環境を提供するが、そのソフトウェアは、.NETフレームワークにより、いまやPC以外でも動作してしまう。例えばXbox 360のようなゲーム機、携帯電話やPDA、自動車に搭載されたカーナビなどの車載コンピュータがそれだ。そうした様々な機器で動作するソフトウェアが、ユーザーや、個々のユーザーが持つ情報とを結びつけさせる可能性を秘めており、その結びつけさせ方が利便性となり、それを提供するサービスがビジネスになっていく……とゲイツ氏はConnected Experienceを解説する。


■ NBCが北京オリンピック報道にSilverlightテクノロジを採用

 ゲイツ氏は、2008年以降のマイクロソフトの具体的な活動内容についても紹介。8月から開催される北京オリンピックの報道に関して、NBC(National Broadcasting Company)が、マイクロソフトの「Silverlight」テクノロジを採用したことを報告した。

 Silverlightは.NETベースのソフトウェアが動かせるクロスプラットフォームなWebテクノロジで、インタラクティブかつインテリジェントなWebコンテンツが実現できるもの。イメージ的にはAdobeのFlashに近い。NBCは3000を超える北京オリンピックの映像をSilverlightベースのサイトで提供するとしており、ユーザーは、視聴したい試合や選手などを自在にカスタマイズでき、一方的に放送を受けるだけのこれまでのオリンピック放送とは違い、リアルタイムでオンデマンドなスタイルでの視聴が可能になるとしている。

NBCが北京オリンピック報道にSilverlightテクノロジを採用 視聴したい試合や選手などを自在にカスタマイズできるという

 NBCのキャスターはプレゼンテーションの最後で「オリンピック放送のあり方を変えてしまうほどの革命的なものになると思っている。北京オリンピック開催時にはぜひとも、http://www.nbcolympics.com/にアクセスして欲しい」と結んだ。


■ Xbox 360がゲーム機を超越した存在になる

マイクロソフト、President of Entertainment & Devices Division、ロビー・バック氏

 さらにゲイツ氏は、彼の考える「Connected Experience」を担う、もう一つの立役者とも言えるXbox 360に話題を移す。登壇したのはXbox 360の戦略を実質的に指揮するPresident of Entertainment & Devices Division、ロビー・バック氏だ。

 ロビー・バック氏はXbox360が現在までに1,770万台を出荷したことを報告。また、北米において、Xbox 360の売り上げは11月までに35億ドルに達したと述べた。これはニンテンドーwiiよりも10億ドル、ソニーPS3よりも20億ドル多い売り上げだという。さらに、Xbox Liveの加入ユーザーは1,000万人を突破したという。

 これらを踏まえ、ロビー氏は「オンライン・ゲーム・ネットワークのインフラからさらに踏み出すアナウンスをしたい」とし、ディズニーとabc放送が、自社コンテンツをXbox Live上で1月から配信開始すると発表。ディズニーの多様なコンテンツはもちろん、abcは連続サスペンスドラマ「LOST」などの人気コンテンツを有しており、実際にこれを配信予定だという。過去放送ではなく、最新エピソードが配信される予定で、両社の本気度が伺える。

 また、MGMも自社映画コンテンツをXbox Liveで配信すると発表。「ターミネーター」シリーズ、「ロッキー」シリーズといった著名映画コンテンツをXbox Live経由で視聴できるようになるわけだ。ハイビジョン・クオリティのオンデマンドなレンタルビデオがXbox Live経由で実現されるというのは、非ゲーマー層にも強く響きそうだが、日本で実施されるかどうかは不明だ。

 さらに、Windows Media Center Extender(MCE)の新製品がサムスンとHPから発表予定であると報告。MCEはWindows Media CenterベースのPCが管理する映像、音楽などを、ネットワーク経由で再生するデバイスだ。HPの新製品はデジタルテレビにこのMCE機能を統合させた世界初の製品になる予定だという。

ディズニーとabc放送、MGMなどがXbox 360向けにコンテンツを配信 サムスンとHPはWindows Media Center Extenderの新製品を投入予定

 さらに、マイクロソフトがIPTV事業者向けに提供しているプラットフォーム技術「meidaroom」のアップデートも紹介。1つは「DVR Anywhere」で、1台のmediaroom対応STBで録画したコンテンツを、家庭内ネットワークに接続された他の複数のテレビで、それぞれ視聴出来るという技術。

 もう一つは、TNT、CNN、SHOWTIMEなどで採用が予定されているインタラクティブ視聴機能。テレビ版のSilverlightともいえるもので、一方的に放送を受けるだけのこれまでのテレビと異なり、ユーザーが番組をリアルタイムかつインタラクティブにカスタマイズしながら視聴できる仕組み。

IPTV事業者向けに提供しているプラットフォーム技術「meidaroom」の機能強化もアナウンス

Xbox 360をIPTVセットトップボックスにした最初のIPTV放送はBritish Telecomによって行われる

 たとえばSHOWTIMEが放送するレース番組であれば、応援している車両を追跡しているカメラだけの映像を見続けたり、あるいはその車載カメラ、そのチームのピット内カメラなどを選択することができる。CNNでは、選挙特番などにおいて、視聴者が選択した特定の候補者の選挙活動のみを追跡できるようにする仕組みを提供予定だという。

 昨年の基調講演で報告された「Xbox 360がIPTVのセットトップボックスになる」という件についての具体的な後続情報も報告された。それによれば、Xbox 360向けの最初のIPTV放送はBritish Telecomによって行なわれるとのこと。ただし、放送時期についてのアナウンスは今回は行われていない。

秋にZUNEの新モデルが登場予定

 話題は、あまり大きな成功を収めているとは言いづらいマイクロソフトの音楽プレイヤー「ZUNE」にも及ぶ。「この秋に新しいZUNEが登場し、ZUNEはますますiPodのよき宿敵になってきている。定額加入システムによる音楽配信、WiFiによる音楽シェア、SNSによる音楽コミュニティの形成などはZUNEユーザーにしか味わえないConnected Experienceだ」(ロビー・バック氏)。

 ZUNEは2006年秋の発売以来、音楽プレイヤーでありながらも、前出のバック氏が訴えた特殊機能の影響で、ずっと米国内限定の製品として提供されてきたが、この春からカナダにおいても正式発売がなされることが発表された。他の国での販売も今後は検討しているという。


■ 携帯電話による検索の究極形はこうなる?

舞台の袖から、フォードの最新モデル「リンカーン」が登場

 ロビー・バック氏のプレゼンテーション中に、舞台の袖からフォードの最新モデル「リンカーン」が登場。話題は、昨年のデトロイト・モーターショーで発表された車内無線通信技術「SYNC」に移り、その実演が行なわれた。

 SYNCはBluetoothを利用して、運転者の音声コマンドを車内の情報家電へ伝える仕組み。具体的には運転者が発声した「音楽再生制御コマンド」や「選曲コマンド」をZUNEのような音楽プレイヤーに伝えたり、発声した電話番号やアドレス帳の名前で、Windows Mobileフォンで電話をかけたりすることができる。このシステムは、フォードの自動車に採用されている。

 SYNC機能はソフトウェア的なアップデートが可能で、機能拡張にも対応。1つ予定されているのが「911アシスト」で、エアバッグが作動するような事態になると、自動的に車内にある携帯電話に接続して「911」(緊急通報)をダイアルするのだという。

携帯電話向け検索サービス「Tellme」

 携帯電話向け検索サービス「Tellme」は、音声認識したキーワードと、携帯電話のGPS情報をリンクさせてインターネット検索を行なうもの。もともとTellme Networksが開発した技術で、マイクロソフトが2007年3月に同社を買収、その技術を獲得したものだ。

 ここで、ビル・ゲイツ氏がマイクロソフトの研究開発部から次世代技術の試作品を持って再登場。前述のTellmeサービスの究極形ともいえるもので、携帯電話で撮影した風景写真や人物写真からその対象物を認識し、それに関連した情報を提示したり、あるいはその対象物から連想されるサービスの提供を開始するというもの。

撮影すると人物を認識し、情報を表示する

 デモでは、ゲイツ氏がバック氏を撮影するとバック氏として認識し、「バック氏に20ドルを貸している」と表示され、会場の笑いを誘っていた。さらにラスベガスの風景を撮影すると、ライブショーの看板であれば、チケットの販売サイトへと飛び、レストランの看板を撮影すると、レストランの予約メニューに進むという具合。

 現時点でも携帯電話でQRコードを撮影すれば、これをキーにしてサイトへ飛んだり出来るが「将来は風景や人物の写真から検索が出来る」…という未来像をデモンストレーションしたものになる。

レストランの看板を撮影すると、予約メニューに飛ぶなど、風景や人物から検索が行えるという未来像が提示された

 今回の基調講演は、ギャグビデオの完成度に象徴されるように、エンターティメントとしては不満がないのだが、ニュース性という観点からすれば、ここ数年まれに見る地味さであった。講演中に取り上げられた話題にハードウェア関連のものがほとんどなく、サービスやソリューションに限定されていたためだろう。"もの(ハード)ありき"のCESにおいて、この切り口ではそう思われても仕方がないところか。

 たとえサービスやソリューションだったとしても、ゲイツ氏がマイクロソフト最高権力者の最後の立場として語るということであれば、もう少し、誇大妄想じみていてもいいから、大風呂敷があってもよかったように思う。

 その意味では、今年7月にゲイツ氏が、マイクロソフトの重要ポストから去ることに対して、社内的に着々と対応がなされているような感じがして少々寂しい気がする。「マイクロソフトの顔」が表舞台から退いた後のCES基調講演はどうなるのだろうか。

□International CESのホームページ
http://www.cesweb.org/
□関連記事
【2008 International CESレポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/2008ces.htm

(2008年1月8日)

[Reported by トライゼット西川善司]


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