「東京国際アニメフェア2009」レポート【新作情報編】
-押井守「宮本武蔵」、細田監督「サマーウォーズ」など
世界最大級のアニメ総合見本市、東京国際アニメフェアが18日、東京ビッグサイトで開幕した。会期は3月18日~21日までだが、18日~19日はビジネスデーとなっている。当日券は一般が1,000円、中高生が500円。主催は東京国際アニメフェア実行委員会。
ここでは劇場用アニメを中心に、Blu-rayなど、パッケージ版の発売が今から待ち遠しい新作について、発表会を中心にレポートする。
■ 押井守が手掛ける宮本武蔵
“押井守と宮本武蔵”と聞くと、あまりイメージが合わない印象もあるが、押井氏によれば「ずっと前からやりたかった企画」だという。しかし、剣豪の物語も、押井守の手にかかると一筋縄ではいかない予感。司会を務めるニッポン放送アナウンサーで、アニメマニアとしても知られる吉田尚記アナは「上映時間の大半、武蔵が海辺に座って喋ってるだけになる可能性もある」と予測し、集まった報道陣を爆笑させた。
メインビジュアル |
“本当の宮本武蔵”とはいかなるものか。押井氏は「剣術だけでなく、武蔵は建築なども詳しく、様々な才能を持っていた。そして左利きで女性嫌い。こうした特徴から、僕は武蔵を“日本のダヴィンチ”のような存在だったと考えている。普通のオッサンの部分も含め、そんな彼の姿を脚本にした」という。
その脚本を手にした西久保監督は、「まず第一稿に“決定稿”と書かれていて驚いた」と笑う。しかもその内容は「70分中65分ウンチクというくらいウンチクが多くて、西洋の騎士から物語が始まり、最初は戦車が出てくる」と説明。しかし、「ウンチクばかりではちょっとアレなので、剣術に関する部分にアクションシーンを入れたり、見やすく、面白くしました」と、監督なりの変更点を説明する。
公開されたPVには本格的なアクションシーンは含まれていないというが、渋い色調で骨太のドラマが展開しそうな予感。それを観た押井氏は「動かすなと言ったのに、想像以上に動いている」と苦笑いし、場内は再び笑いに包まれた。
原案・脚本の押井守氏 | 主題歌を担当した泉谷しげる氏 | 監督を努める西久保瑞穂氏 | プロダクションI.Gの石川光久代表取締役 |
主題歌担当の泉谷氏は、意外にも押井作品のファンだという。「好きな作品はイノセンスやアヴァロン。絶対に忘れられないシーンがどの作品にも必ずあり、とんでもない才能がある人だと思っている」と称える。その“マニアぶり”は本物のようで、主題歌のオファーが来た瞬間「プロダクションI.Gと押井さんの関係がうまくいってるのかどうかが、最初に気になった」とコメント。あまりにマニアックなリアクションにステージ上を含めて笑いが巻き起こった。
6月の公開に向け、制作は急ピッチで進められている模様。西久保監督は「ウンチクと音楽、剣劇が合わさった作品として、現在鋭意制作中。楽しみにしてください」とアピール。押井氏は「いつか自分でも(監督して)宮本武蔵の作品は作りたい。その時は実写で。2億くらいあればできると思うので、お話お待ちしております(笑)」と業界向けアピールで締めくくった。
■ プロダクション I.Gの新作アニメ
応援に訪れた押井守氏(左)と、神山健治監督(中央)、橘監督(右) |
「ハチミツとクローバー」などで知られる、羽海野チカさんがキャラクター原案を担当。原作・脚本・監督を神山氏が努めている。舞台は2010年の日本。各地に10発のミサイルが落ちるテロ事件が起きるが、1人の犠牲者も出なかったことから、人々はその事件を「迂闊な月曜日」と呼び、すぐに忘れてしまった。
それから3カ月。卒業旅行でアメリカに出かけた少女・森美咲は、トラブルに巻き込まれたところを、1人の日本人少年に救われる。彼の名は滝沢朗。白馬の王子様的シチュエーションだが、彼は一糸まとわぬ全裸姿で記憶喪失。何故か拳銃と、82億円もの電子マネーがチャージされた携帯電話を握りしめていた。果たして彼は何者なのか? 少年と少女の11日間の物語が幕をあける。
卒業旅行でアメリカに出かけた少女・森美咲 | 彼女を助けた謎の少年、朗 |
神山監督は「この作品のために1年ほどの猶予を貰い、準備を進めてきました。羽海野さんにキャラクター原案をお願いしたので、スタッフからも『ハチミツとクローバーみたいな作品になるのか?』と聞かれたのだけれど、それとも違います。しっかりとした空間を作り上げ、その中で羽海野キャラが魅力を発揮する。そんな作品にしていきたい」と意気込みを語る。
愛弟子にエールを贈るために発表会に参加した押井守氏は、「昨日1話を見せてもらったんですが、テレビアニメの第1話として申し分のない作りだった。緻密な構想と大胆な試み。アニメでここまでやっていいのかという作品。きっと、I.GがI.Gである根拠、“I.Gの芯”になる作品になると思う」と語り、その仕上がりに太鼓判を押した。
アニメフェア初日に合わせて発表された、もう1つの新作は「東京マグニチュード8.0」。タイトル通り、巨大地震を題材としたオリジナルアニメで、4月放送開始の「東のエデン」に続き、7月から同じくノイタミナ枠で放送される。監督は「攻殻機動隊 S.A.C.」で演出を担当した橘正紀氏だ。
橘監督によれば、マグニチュード8.0の大地震が襲うのは首都・東京。レインボーブリッジは崩れ落ち、東京タワーは崩壊するという。「普通の姉弟が、起こる起こると言われて起こっていない、東京の大地震に遭遇する物語です。その地震は彼らの価値観や物事を図る尺度をも壊してしまいますが、それによりあらためて大切な事を見つけていく物語でもあります。観賞後に家族や姉弟の事を思い出すような作品にしていきたい」と決意を語った。
東京マグニチュード8.0のプロモーション映像 | 幼い姉弟にどのような試練が待ち受けているのだろうか |
■ 「時かけ」の細田監督最新作「サマーウォーズ」
主人公の健二は、天才的な数学力の持ち主。ネットを駆使して生み出された仮想都市“OZ”で保守点検のバイトをしている。そんな折、憧れの先輩・夏希にアルバイトを頼まれ、長野にある彼女の曾祖母の家に行くことに。その家は室町時代から続く戦国一家で、個性豊かな親戚まで集合。その席で健二は、夏希から「私のお婿さんです」と紹介される。彼女の言うアルバイトとは、一家や親戚にフィアンセのフリをしてくれというものだったのだ。
数日の滞在を了承する健二。賑やかな親戚に気圧されていると、差出人不明のメールが届く。数学が得意な健二はその謎解きに夢中になるが、翌朝、健二を語る何者かがキッカケとなり、OZを通じて世界中を巻き込む危機が訪れていた。「身内がしでかした間違いは、一家でカタをつける!」と豪語する曾祖母の号令により、大家族は一致団結して世界の危機に立ち向かうことに……。
サマーウォーズのプロモーション映像 | ヒロインの夏希 | 大家族が世界の危機に立ち向かう |
製作発表会に登場したのは、細田監督と、健二役の俳優・神木隆之介さん、ヒロイン・夏希役の桜庭ななみさん、ゲームが得意な少年・佳主馬役の谷村美月さん。さらに、「時かけ」で主人公・真琴を演じた仲里依紗さんも登場。仲さんも38歳、太めの主婦・陣内役で出演している。
細田監督はこの作品を「田舎の家族がネット上で世界的な敵と戦って、勝つ!! という話です」と紹介。「“時かけ”では現代の女の子のバイタリティを描きたいと思いましたが、今回は1人の少女だけでなく、家族の持つバイタリティを、楽しく、力強く描いていきたい。家族みんなで観て欲しい作品です」とアピールした。
公開されたプロモーション映像は、“時かけ”を彷彿とさせる清涼感のあるビジュアルと、正体不明の敵と戦う奇想天外なアクションが同居した斬新なもの。強いて似ているものを挙げると、細田監督の評価を一気に高めた「劇場版デジモンアドベンチャー」を彷彿とさせる、期待感が高まる映像だった。
神木さん | 桜庭さん | 谷村さん | 仲さん |
細田監督 |
宮崎アニメへの参加など、声優としての経験も豊富な神木さんは「健二は高校生。僕も高校生になったので、同世代の空気感を出せるよう頑張ります。僕は数学が苦手なので、数学も頑張って健二に近づいていきたい」と笑う。
声優初挑戦の桜庭さんは「プロモーション映像のアフレコの時も、本当に緊張しました」と振り返る。すると、同じく細田監督の作品で声優に初挑戦した仲さんが「細田監督は凄くほめてくれる。私は褒められて伸びるタイプなので(笑) 収録は本当に楽しかった。なので、桜庭さんも構えないで、リラックスして安心して収録に行ったほうがいい」とアドバイス。細田監督も「褒めて延ばすスタンスは、今回も継続しようと思います」と笑った。
細田監督は作品に込めたメッセージとして、「携帯電話の普及など、デジタルでのコミュニケーションが凄く発展してきた。今回の映画で描きたいのは“デジタルコミュニケーションと親戚”という一見正反対に見えるもの。けれど、人と人とのコミュニケーションに違いはなく、根底や大事なところは同じなのではないか。そんなところを表現していきたい」と語り、拍手を浴びた。
□「サマーウォーズ」公式サイト
http://s-wars.jp/
■ ヱヴァンゲリヲン新劇場版など、新作情報多数
キングレコードのブースでは、BDビデオ化も決定した「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の最新作として、6月27日公開予定「:破」のプロモーション映像を公開中。冊子も配布されているので忘れずチェックしたいところ。
会場にはそのほかにも、4月から放送されるテレビアニメを中心とした新作が多数紹介。さらに、フィギュアなどの関連製品の新製品も展示されている。
(2009年 3月 18日)
[AV Watch編集部 山崎健太郎]