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国内オーディオの採用も加速。クアルコム「DDFA」と「aptX HD」が高音質な理由
2016年11月22日 19:22
クアルコムジャパンは、同社の新たなオーディオソリューションの「DDFA」や、「aptX(アプトエックス)」「aptX HD」の特徴や、搭載製品、今後の製品などに関する説明会を開催。クアルコムCDMAテクノロジーズ マーケティングマネージャーの大島勉氏が、DDFAが高音質を実現する仕組みや、aptX/aptX HDと他のBluetoothコーデックとの違いなどについて解説した。
さらに、各技術を採用したメーカー/ブランドである、デノンやオーディオテクニカ、LGエレクトロニクスもゲストとして来場し、音質を追求したそれぞれの製品や、クアルコムとの協力などについて語った。
DDFA
「DDFA」(Direct Digital Feedback Amplifier)は、ハイレゾオーディオなどのデジタル信号を直接入力できるデジタルアンプデバイス。デジタルモジュレータ「CSRA6601」と、フィードバックプロセッサの「CSRA6600」で構成する。
一般的なデジタルアンプとの違いとして強調するのは、「デジタル入力信号を、独自のフィードバック技術を使いながら増幅する」という点。ハイレゾのデジタル入力に対応し、ハイレゾ音源を入力から出力まで高音質を保てるという。独自のフィードバック技術は、デジタル領域で解析を行なうことで、音質劣化の原因を排除する点を特徴としている。
デジタルアンプは、アナログアンプに比べて低消費電力や小型化などをメリットとするが、一方で、音質が悪くなる要因として、PWM以降に存在するディスクリートのデバイスや、スイッチング電源が持つノイズ、ローパスフィルタのインダクタにある直流抵抗成分、インピーダンス、スピーカーが持つインピーダンスの揺れなどがある。結果として、理想的な矩形波の信号からズレて“なまった”形の音になってしまう点を指摘。
DDFAのデジタル領域での処理では、理想的なPWM信号を実現するため、フィードバックプロセッサの部分で、108MHzという高速のマスタークロックが動作。リファレンスとなるPWM信号と、実際に出た“なまった”信号の差分を比較し、それを時間単位で積分してAD変換してフィードバック。そこで、独自のアルゴリズムと高いパフォーマンスのプロセッサにより誤差解析を行なう。その誤差を最小化することで、最終的に理想に近いPWMとして出力するのが基本的な流れ。0.004%を下回る高調波歪み+ノイズ(THD+N)や、2000を超えるダンピングファクターなどを実現している。
I2S入力で32bit/192kHzに対応し、出力段の選択で25W~200Wの間でスケーラブルに変更可能。また、アクティブスピーカーなどでの利用を想定し、筐体に応じた補正などが行なえるプリアンプ機能も備える。
DDFAを日本で初めて採用したのがデノンのオーディオ製品で、プリメインアンプのPMA-50や、ネットワークプレーヤーのDNP-2500NEなどが採用。海外では、NAD製のDAC/アンプ「C390DD」、Bluesoundのオーディオシステム「POWERNODE」などが搭載している。
aptX/aptX HD
Bluetooth接続で低遅延/高音質を特徴するaptXは、現在、スマートフォンやタブレットなどのエンコーダ機器が延べ20億台で採用。ヘッドフォンなどデコーダ機器は7,500万台に及ぶ。オーディオプレーヤーなどのソース機器は270機種、受信側のシンク機器は655機種まで拡大した。
評価を得てきた背景として、放送業界やプロオーディオなどの分野で採用されてきたことを説明。アフレコや編集作業スタジオといった、ポストプロダクションにおいて、マイクなどのモニタリングで活用されている点や、DTS 5.1chの圧縮にもaptXの技術が使われているなど映画館での採用実績、NHKを含む日米欧の公共/民間ラジオ放送でも使われていることを紹介した。ライブ会場のデジタル無線マイクでも、ゼンハイザーやオーディオテクニカ、Rodeなどが採用している。
SBCやAACなどのコーデックとの大きな違いとしてアピールするのは、聴覚心理モデルを利用した情報の間引きなどは行なわず、固定圧縮アルゴリズムで高音質を保つ点を説明。
“ハイレゾ相当”とする24bit対応のaptX HDは、再生機器とヘッドフォンをpeer-to-peer接続して音声信号を飛ばす、高音質に特化したアルゴリズム。48kHz伝送で576kbpsという高い転送レートに対応。SN比は129dBを実現している。
CDなどの16bitのソースも24bitに拡張。差分の8bitに応じてエンコーダが働き、最適な形で伝送できるという。前述した「聴覚心理モデルを利用しない」点や、4:1という圧縮比率は、HDではない従来のaptXと共通。これはプロユーザーの要望を受けたもので、aptXとaptX HDでアルゴリズムを大きく変えることにより新たな問題が起きることを避けたいというプロならではの強いニーズがあったため。プロオーディオとの信頼関係を築いてきたことで、コンシューマ向けにも自信を持てる技術/製品として提供できるという。
aptXの中でも特に低遅延を重視した「aptX Low Latency」は、映像とのリップシンクを保つため、遅延を40ms以下まで縮小し、音質はaptX同等としている。なお、Bluetoothの必須コーデックであるSBCの遅延は200±50ms、通常のaptXは100±10ms、aptX HDは150ms前後。
aptXの用途としては、スマートフォンやタブレット、PCなどに加え、日本を中心としたポータブルオーディオプレーヤーや、アナログレコードプレーヤーでの採用も想定。ターンテーブルからBluetoothで飛ばし、ヘッドフォンを使って聴くといった利用もイメージしている。さらに、テレビと接続したSTBや、HDMIスティック端末での採用も見込む。
既にAndroid機器では75%にaptXがライセンスされており、メーカーがaptXからaptX HD対応へアップデートする場合も、受信機器と1対1で接続するためのチップなどは必要だが、追加でライセンス料が上乗せされることは無いという。受信側は、オーディオテクニカのような国内メーカーでの採用開始を受けて、今後も採用拡大を見込む。なお、アップルはMacにおいて既にaptXを採用している一方、iPhoneなどiOS機器では未対応である点については、「高い需要は認識しており、これからもアプローチを続けたい」(大島氏)としている。
デノン、オーディオテクニカ、LGエレクトロニクスなどが採用
国内でいち早くDDFAを採用したのがデノン。ディーアンドエムホールディングス 国内営業本部 営業企画室 マーケティンググループ の宮原利温マネージャーは、2月に発売した「DNP-2500NE」において、フルデジタルヘッドフォンアンプとしてDDFAを搭載した点などを紹介した。DDFA採用のきっかけは'15年に発売したPMA-50までさかのぼり、クアルコムからDDFAの評価を依頼されたことから、「原石のような評価ボードを元に、素質の高いソリューションであると考え、合同で仕上げた」と振り返った。
12月にデノンが発売する新モデル「DA-310USB」では最新世代のDDFAチップを採用。最新のDDFAについては、'17年に行なわれるイベントの「CES 2017」でも特徴などが明かされるという。
オーディオテクニカは、Bluetoothヘッドフォンの「ATH-DSR9BT」においてaptX HDを採用。さらに、ユニットまでダイレクトに伝送して再生する「Dnote」と組み合わせることで、音が出る直前までデジタルで処理することによる、ロスを抑えた高音質再生が大きな特徴。
ATH-DSR9BTなどで「Bluetoothモデルで史上最高音質を目指した」というオーディオテクニカのマーケティング本部 広報宣伝課の松永貴之マネージャーは、この冬に注力する新モデルとして紹介した「SR(Sound Reality)シリーズ」は、世界のトレンドに合わせて半数がワイヤレスであることを紹介。ワイヤレスでも高音質を提供できるという点をアピールした。
LGエレクトロニクス・ジャパン マーケティングチームの金 東建(キム ドンゴン)部長は、スマートフォンの「isai vivid LGV32」でaptXを、「isai Beat LGV34」でaptX HDを搭載している点を紹介。世界で最初にaptX HDをイヤフォンにaptX HDを搭載した「LG TONE PLATINUM」は日本でも高く評価されたことを説明した。