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ホントにクラリス救出気分!? 1月上映、動くシートの「ルパン三世 カリオストロの城」MX4Dを体験

 '79年に公開された宮崎駿の初監督作品であり、今なお高い人気を誇る「ルパン三世 カリオストロの城」が、映像に合わせて座席が動き、風や水しぶきなどの効果も楽しめる感型シアター「MX4D」になって1月20日から全国のTOHOシネマズMX4Dスクリーンで期間限定特別上映される。体感型の“カリ城”はいかなるものか、その効果を公開に先駆けて体験した。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS

 MX4Dは、映像に合わせて客席のシートが前後左右や上下に動くほか、首元に空気を吹き付ける「ネックティクラー」、背中に押されたような感覚を伝える「バックポーカー」、香り、風、顔に吹き付ける「エアーブラスト」、水しぶきの「ウォーターブラスト」、地響きを振動で伝える「ランブラー」、紐のような部品が回転して足に触感を伝える「レッグティクラー」といった効果を観客に与え、映画のアクションシーンなどを、より映像に入り込んだような感覚で楽しめるようにするものだ。

MX4Dのシート
「ルパン三世 カリオストロの城」MX4D版のポスター
原作:モンキー・パンチ (C)TMS
MX4D is a trademark of MediaMation,Inc.

 TOHOシネマズは2015年より「TOHO4D PROJECT」を発足させ、国内初となるMX4D対応劇場を、新宿、六本木、ららぽーと富士見に導入。その後も導入館を増やしている。今回の「カリオストロの城」は、東京ではTOHOシネマズ 新宿/六本木ヒルズ/西新井/府中、大阪ではTOHOシネマズ なんば/鳳などで上映。詳細な上映館は映画の公式サイトに記載されている。

背もたれの部分に2つの穴。首元に空気を吹き付ける「ネックティクラー」のポートだ
紐のような部品が回転して足に触感を伝える「レッグティクラー」。草むらを進むようなシーンで活用する

 MX4D版のベースとなるのは、2014年に公開され、Blu-ray化もされたリマスター版。約1年をかけ、最新の技術と手作業によるフィルムのレストアで高画質化、音もノイズを取り除いて5.1ch化したもの。そこに、MX4Dの効果が組み合わさるカタチとなる。

 MX4Dは米MediaMationが開発したものだが、日本国内の映画市場への導入においては、ソニービジネスソリューションが独占販売店契約を締結。ソニービジネスソリューションが、カリオストロの城の手がけたトムス・エンタテインメント(旧東京ムービー新社)に、この技術とコンテンツとの連携を持ちかけ、実現したという。

トムス・エンタテインメントの映像ライセンスビジネス部 国内ライセンス課のスペシャリスト、須藤明氏

 トムス・エンタテインメントの映像ライセンスビジネス部 国内ライセンス課のスペシャリスト、須藤明氏によれば「カリオストロの城は、地上波放送に加え、LDやBlu-rayなど、パッケージメディアが変わるたびに素材を作ってきましたが、2014年にある種の決定版としてデジタルリマスターを行ない、映像を綺麗にし、音声も5.1ch化しました。劇場公開もしましたが、その素材をさらに活かしたいと思っていました。アクションも魅力の作品ですので、MX4Dと組み合わせると面白いのではと考え、2017年はルパン三世の原作50周年であもりますので、1年ほどまえから準備をしてきました」という。

 MX4D化の具体的な作業は、遊園地やテーマパーク、各種イベントなどのアトラクションコンテンツの企画・制作・販売を行なうダイナモアミューズメントが担当。ソニービジネスソリューションと共に、映画まるごと1本ではなく、まずは幾つかのシーンに動きや効果を付けた、短いサンプルのようなコンテンツを作成。それをトムス・エンタテインメントにもチェックしてもらい、“このような効果にしていこう”という全体的な方向性を確認。そこから具体的に本編をMX4D化していき(映像に手は加えない)、最終的なチェックを経て、1月の上映に至るという。現在は最終チェック前の、まさに追い込みの状態だ。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS

体験してみる

 さっそく、カリオストロの城のアクションにインパクトのあるシーンがどのようにMX4D化されているか、実際に動きや演出を作っているダイナモアミューズメントの作業ルームにて体験した。

 冒頭、花嫁姿のクラリスが、カリオストロ伯爵の追手から逃げるカーチェイスシーン。クラリスが運転するシトロエン2CVが、草原の道のカーブを猛スピードで逃げてくるが、そのカーブの向きに合わせ、椅子がグイーンと傾く。追手の車に体当たりされるシーンでは、ガツンガツンという振動が座面や背中から伝わり、本当にクラリスの車の中にいるような気分だ。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS

 逃亡を助けようと、ルパンと次元がフィアット500で追いかける。ルパンの超絶ドライビングテクニックで、対向車を避け、ほぼ垂直の斜面を駆け上り、森に突っ込みと、アニメならではのムチャクチャなチェイスが展開するのはご存知の通りだが、これがMX4Dで体験すると“強烈”の一言。グワングワンと椅子が動き、森に突っ込むと地面がボコボコなので座面からゴンゴンと強い振動が伝わる。

 その直後に次元は徹甲弾で、追手のリムジンのタイヤを撃ち抜く。セリフを丸暗記するほど何度も観たシーンだが、新鮮な気持ちで「この揺れの直後に、一発でタイヤに当てる次元はスゲェ」と改めて感心してしまう。幽閉されたクラリスを救うため、乗り込んだルパンが乱闘を繰り広げるシーンや、ラストの時計台内部でのバトルも迫力満点だ。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS
原作:モンキー・パンチ (C)TMS

 単に激しく椅子が動くだけではない。例えば、クラリスを塔から救出したルパンが、カリオストロ伯爵の部下・ジョドーの機関銃に撃たれるショッキングなシーンでは、ルパンの体を弾丸が貫通した瞬間に合わせ、シートの「バックポーカー」がニョキッと伸びて、背中に押されたような感覚が伝わる。本当に自分が撃たれたようで、ドキッとしてしまう。

 ルパンと次元が泊まる宿を、ジョドー率いる暗殺集団が襲うシーンも面白い。ドアの外に暗殺集団が忍び寄り、それを察知したルパンが待ち構える。カメラはドアにゆっくりとズームしていく。嫌でも画面に吸い込まれるシーンだが、それに合わせるようにシートがゆっくりと前に傾斜していくので、本当に映像に吸い込まれていきそうなほど没入感が高まる。こうした静かなシーンでもMX4Dの効果を実感できる。

爆発や花火のシーンはフラッシュライトの光で表現

 そして、この作品のアクションシーンで絶対に外せないのが、ルパンがクラリスが幽閉された塔へと飛び移る“大ジャンプ”だろう。傾斜のキツイ屋根の上で、ルパンは当初ロープ付きの小型ロケットを飛ばして塔へ渡ろうとするが、不注意でそれを落としてしまい、拾おうとしているうちに屋根を駆け下りてしまい、その勢いにまかせて大ジャンプしてしまう……という流れ。

 この大ジャンプの浮遊感もMX4Dでは面白いのだが、その前の、“屋根の傾斜のキツさ”が、シートが傾くと強烈に増幅される。本当に凄い角度の屋根の上で、下界を見下ろしているような“高所感”で、足元がゾワゾワしてくる。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS

 手榴弾の爆発や、司祭に化けたルパンが打ち上げる花火などは、フラッシュのカラフルな光で表現。暗殺集団の鋭い爪を、次元が銃で受け止める瞬間にはブシュッと顔にエアーがかかる。終盤の洪水シーンでは、ミストが発生して水しぶきを表現するといった具合だ。

大量の水が押し寄せるシーンではミストが発生
原作:モンキー・パンチ (C)TMS

動きや演出はどのように作っていくのか

 ダイナモアミューズメントの企画営業部 小川直樹部長によれば、MX4Dのこうした動きは、映像を見ながらこれまで培ってきたノウハウを活用してつけていくという。具体的には、3軸で可動する椅子の前後左右の動き方、振動の強さを、一律ではなく、あくまでそのシーンに合わせた最適な強さや角度でつけていくという。

左からダイナモアミューズメントの企画営業部 小川直樹部長、モーションプログラマーの野中友恵氏

 さらに、座面からの振動は音声をベースに作成。爆発や地鳴りの部分の音源から、振動に変えるための音源を作り、その波形を見ながら振動をつけていく。こうした椅子の動きと振動を2人体制で作り、それを組み合わせて実際のシートでチェックし、微調整していく。私は体験しながらメモをとるだけでも必死だったが、モーションプログラマーの野中友恵氏は「動くシートに座りながら、膝の上にキーボードを乗せて修正していく事もある」と言うから驚きだ。

 各シーンでトライアンドエラーを繰り返すと、MX4D映画を何本も連続で観るのと同じような負担がかかりそうだが、小川氏も野中氏も、「もともと動く乗り物には強いタイプ」だと笑う。

 ソニービジネスソリューションの條々淳MX4Dプロジェクトリーダーによれば、「迫力も大切ですが、もちろんお客様の負担にならないような配慮もして動きは作っています。MX4Dの動きに、レギュレーションのようなものはありませんが、どんなにアクションシーンが多い作品でも、映画全体から見ると、動いているシーンは30~50%程度に収まっています」という。

ソニービジネスソリューション デジタルシネマ営業課の條々淳MX4Dプロジェクトリーダー

 さらに條々氏によれば、「旧作のアニメをMX4D化するのは、今回のカリオストロが初めてだが、アニメとMX4Dの相性は良い」とのこと。

 小川氏は「アクションーンが多い作品がMX4Dマッチするのは当然ですが、動きの少ないシーンとアクションシーンの対比が強い、例えば“シン・ゴジラ”のような会議とアクションで構成するような映画では、静と動のメリハリが作りやすいですね。ホラー映画では動きは少ないですが、少ない動きでも怖さを演出するような、効果的な役割を果たす事もできる。動きがほとんどない作品は難しいですが、そういう作品はMX4Dにしようという話にはなりにくいので(笑)」という。

 一方で、アクションが連続するシーンでは、動きの付け方が難しいポイントもある。「例えばクラリスが逃げるカーチェイスのシーンでは、走る車のカーブの向きに合わせてシートを傾かせますが、次のカットではカメラの向きが変わり、逆になったりもします。それに常時合わせてしまうと、シートの傾きを急激に何度も変えなければなりません。ですので、全てを映像に合わせるのではなく、カットの繋がりなども合わせ、不自然さが出ないよう動かしていくところが難しい点でもある」(野中氏)とのこと。

 小川氏も「(この動きは)誰の感覚なのか? を常に意識している」という。「例えば、多人数のアクションシーンでは、味方のキャラクターが感じている感覚だけを再現するなどですね。カリオストロの終盤、ルパンと伯爵が時計塔の内部で戦うシーンでは、歯車の上で戦う振動を、ルパンが感じている時だけ動かし、伯爵のカットでは控えるなどです」。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS

 「動きや演出を作っていく作業ルームでは、モニター画面を観ながら作業していきますが、上映では大スクリーンと大音量に包まれるので、そのインパクトもプラスされます。ですので、作業ルームの小さな画面で“これがベスト”という動きをつけ、映画館で上映すると“こんなに動きを大きくしちゃったっけ!?”と驚く事もあります。そうした経験ももとに、実際の上映時にどう感じていただけるかを踏まえながら動きをつけていくところにもノウハウがあります」(條々氏)。

MX4D化の作業ルーム。ディスプレイは劇場のスクリーンと比べると小さいため、スクリーンで観た時の映像インパクトも踏まえた上で、動きを決めていく

 さらに條々氏は、こうした動きや演出の付与を日本国内で行なう事で、作品の監督などにチェックしてもらい、意見をフィードバックして修正する作業がスピーディーに行なえる事をMX4Dの強みだと説明。システム的には、空気の圧力でシートを動かすため、「滑らかな動きが可能で、映像の中の人の動きなどにマッチしやすい」特徴もあるという。

 今回MX4D化したカリオストロの城について條々氏は、「我々MX4Dは、コンテンツが無ければ成り立ちません。その点で、新作も重要ですが、旧作のMX4D化も積極的に行なっていきたいと考えています。カリオストロの城のような作品は、誰もが知っている知名度の高い作品で、MX4Dであのシーンがどのように楽しめるのだろうと想像していただきやすい、我々にとっても非常にありがたい作品」だという。

 トムス・エンタテインメントと言えば、ルパン三世シリーズだけでなく、名探偵コナンなども人気だ。須藤氏は、「今回のカリオストロの城での経験や反響も踏まえながら、(他の作品のMX4D化についても)検討していきたい」という。

 カリオストロの城自体、アクションや物語の展開スピードなど、今観てもまったく古さを感じさせない作品だが、MX4Dで映像の中に入り込むように楽しむと、'79年の作品だという事を完全に忘れて、ルパンと共にクラリスを助けようと奮闘している気分になれる。個人的に、MX4Dには“最新映画をより体感的に楽しめるもの”という印象があったが、今回の取材を通して、“旧作を新鮮な気持ちで楽しめる手段”としても極めて有効だと実感した。

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