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ソニーが有機ELを選んだ理由は“音”だった? 他のOLEDとの違いを体感した

 ソニーが「CES 2017」において披露した新製品の中でも、特に注目されているのが、有機ELテレビ「A1Eシリーズ」。“BRAVIA OLED”としてブース前面に展示されており、開幕初日に訪れた多くの来場者から注目されている。ソニーが今回のタイミングで有機ELテレビ投入を発表した理由などを、ソニービジュアルプロダクツ 技術戦略室 主幹技師の小倉敏之氏に聴きながら、実際に映像と音を体験した。

65型のBRAVIA OLED「65A1E」

 今回のCESではソニーやパナソニックの新製品(パナソニックは欧州向け)を含めて「OLED(有機EL)」が再び注目され、“ついに本命が登場した”との見方も多い。

 しかし、小倉氏の言葉からは、液晶の対抗としてではなく「新たな体験」として有機ELを打ち出していくという意向が表れており、それが実際に分かるのは“音”に関する部分だという。

 既報の通り、A1Eシリーズにはディスプレイを振動させることでテレビの画面から音が直接出力される独自の「アコースティックサーフェス」を採用。小倉氏からは、「これをやりたかったから、OLEDを採用したというのが正解」と意外な言葉が出る。

ソニービジュアルプロダクツ 技術戦略室 主幹技師の小倉敏之氏

 「アコースティックサーフェス」の仕組みは、有機ELパネルに背面から取り付けた2基のアクチュエータユニットを振動させ、テレビ画面全体を1つのスピーカーのように使って音を出すというもの。

 有機ELパネルの背面側に、1枚の板状のバックカバーを配置。そこに固定されたアクチュエータが振動し、有機ELパネルを振わせることで音が発生。画面に表示される映像と音が一致することで、より高いリアリティを再現可能としている。

アクチュエータユニット。これが有機ELパネルの背面に2基装着される

 画面から音が出るため、音の定位を映像とシンクロできるのがメリット。例えば画面に2人いるとき、どちらが話しているかがわかりやすいほか、画面を横切る鳥の羽ばたく音なども映像と合わせてリアルな移動感が表現できるという。スピーカーの原理としてはNXTのフラットスピーカーのように、“ディスプレイから音が出る”方式を知っている人も少なくないだろう。しかし、有機ELパネルを直接振動させつつ、高い音質を実現するためには課題が多かったという。

指で画面を触ると震えているのが分かる
画面内を横切る鳥の映像に合わせて音も移動

 なお、低域部分は背面スタンドに内蔵されたサブウーファから出るようになっている。低域を別体にしたのは、アクチュエータで低域部分まで鳴らしてしまうと、振動が大きくて映像までブレが起きてしまうためだという。

背面側のスタンド上部にサブウーファを内蔵

 アクチュエータの設置された場所は、画面の中央ではなくやや上に位置している。これは音質的な理由からで、中央に置くと定在波が発生して音が悪化するためだという。ソニーのスピーカー開発者も音質部分の改善に携わり、DSPによる音質補正だけでなく、メカニカルな部分からも高音質化のアプローチが行なわれている。こうしたことが実現したのも、有機ガラス管を使った同社の無指向性スピーカー「サウンティーナ」など、自社でスピーカーも手掛けてきたソニーならではの強みであると小倉氏は自信を見せる。

 この技術は液晶でもそのまま応用できそうにも思えるが、有機ELとの大きな違いとして、液晶にはバックライトがあるため、全く同じ形で実現するのは難しいという。それが「有機ELを選んだ理由」でもあるという。

 だからといって、音質だけで有機ELを選んだわけではなく、当然、画質の面でも「ソニーが出せるクオリティ」まで向上できたことが製品化を決めた大きな理由。それを実現したのは、フラッグシップの液晶テレビ「Z9Dシリーズ」にも搭載されているX1 Extremeプロセッサの力が大きいという。

 小倉氏によれば、もともとX1 Extremeは液晶に限った技術ではなく、「どんなパネルを使って、どんな信号が来ても最高の性能を発揮させるノウハウが入っている」とのこと。入力された信号に最適化する映像処理というのは一般的だが、パネルの特性などをフィードバックして、信号とパネルの両方の状態に最適化してドライブする力をX1 Extremeは持っているとのこと。

 一般的なアンダースピーカー搭載のテレビと、音質を聴き比べてみると違いは明らか。音楽ライブのコンテンツでは、A1Eの場合は、ボーカリストの歌声がホールに響く様子がリアルに伝わるのに対し、アンダースピーカーだと「下のスピーカーから鳴っている」のがいやでも分かってしまい、映像に没入しきれない。2つのアクチュエータで繊細な音の定位をどのように再現しているか、細かい点は独自のノウハウのため明らかにしていないが、実際の音を聴くと、この方式は決して“飛び道具”ではなく、この方式を使いたかったという理由がよく分かった。

 厳密に音質だけで比較するなら、複数の大きなスピーカーを別体で用意して組み合わせるという選択肢もあったとは思うが、画面下のスタンドすら省いたという“スレートコンセプト”のデザインと音の一体感が、このテレビの個性であり、シンプルなシステムで高い満足感を得られる“新しい体験”を可能にしているようだ。

 画質についても他社の有機ELと見比べた。自発光の有機ELは、黒をより深く再現しやすいことを特徴としているが、有機ELパネルを使った他のテレビと見比べても、A1Eではノイズや白浮きを抑えた黒が表現されていることが確認できた。A1Eに搭載されている有機ELパネルのメーカーは明らかにされていないが、LGディスプレイ製と予想される。他社パネルであってもその特性に合わせて“ソニーの絵”として最終的な完成度を高めている。X1 Extremeの高い実力を改めて実感するとともに、同社が自信を持って液晶以外のパネルを採用したことが、製品から伝わってくる。

 今回のCESで華々しくデビューした有機ELのA1Eだが、ソニーのテレビにはZ9Dというフラッグシップ機が存在し、A1Eはあくまでも“新たな選択肢”と位置づけられている。これは、例えば明るい部屋で観るのが中心なら液晶のZ9D、映画などを暗い部屋でも楽しむなら自発光で黒の締まるA1Eといったように、4K/HDR映像を様々な形で体験できるようになり、ユーザーにとって選ぶ楽しみが増えるという意味を持つ。まだ価格や発売日などの詳細は明らかにされていないが、じっくり映像と音を体感したことで、A1Eの日本での正式発表が、さらに待ち遠しくなってきた。