藤本健のDigital Audio Laboratory
第1047回

ユニークなシンセ技術が続々!世界最大級の電子楽器展示会「SUPERBOOTH」に行ってきた
2026年5月11日 08:55
ドイツ・ベルリンで、5月7日から9日までの3日間、電子楽器・シンセサイザーに特化した世界最大規模の専門展示会「SUPERBOOTH26」が開催された。会場はベルリン東部に位置する“FEZ-Berlin”という青少年文化施設だ。
筆者がSUPERBOOTHを訪れるのは今回が初めてだが、会場に足を踏み入れた瞬間、その異色ぶりに驚かされた。NAMM ShowやInterBEE、楽器フェアといった大型コンベンションセンターを舞台にした展示会とはまったく雰囲気が異なるのだ。
ここはまさに「森の中の展示会」。
施設内の建物にもブースが並ぶが、それと同時に、広大な敷地の森の中に無数のテントが張り巡らされ、重低音を轟かせながらシンセサイザーの展示・演奏が行なわれていた。さらには、敷地内のキャンプ小屋まで展示スペースとして使われており、その光景はほかの展示会では絶対に見ることのできないものだった。まさにシンセサイザー版、野外フェスといったところか。
SUPERBOOTHの前身は20年以上前にさかのぼる。フランクフルトのMusikmasseの一角に、シンセ愛好家たちが費用を持ち寄って設けた共有ブースがその起源。2016年にベルリンで独立した専門展示会として初めて開催され、翌2017年からFEZ-Berlinを会場として毎年規模を拡大してきた。
ベルリンに来てからは、今年で第11回目。Musikmasseが電子楽器・シンセの聖地としての求心力を失っていくなかで、SUPERBOOTHは「コミュニティ主体の場」というコンセプトを守り続け、今年のSUPERBOOTH26では、出展者リストを数えてみると314と過去最大の出展者が集結した。電子楽器・シンセサイザという分野の専門展示会として、NAMMを大きく超える世界最大規模と断言してよさそうだ。
実際どんな様子だったのかレポートしてみよう。
「森の中の展示会」──会場FEZ-Berlinという異空間
FEZ-Berlinは、東ドイツ時代に建てられた広大な青少年文化センターで、ベルリン東部に位置する。
屋内施設だけでなく森や広場、屋外ステージなどを擁する敷地を、SUPERBOOTHはあらゆるスペースを使い切る形で活用している。建物内の展示ホールに並ぶブースはもちろんのこと、森の中のテント、点在するキャンプ小屋まで、すべてが展示・演奏の場だ。
現地に行って面白く感じられるのは、広大な森にあるテントや小屋の中で、重低音・大音量でシンセサウンドが鳴り響いていること。
防音など関係ない。コンベンションセンターのような整然とした空間とは無縁で、歩いているだけで至るところから音が漏れ聞こえてくる。それが不快どころか、むしろ音楽に包まれているような独特の高揚感をもたらしている。
SUPERBOOTHがほかの展示会と根本的に異なる理由のひとつは、この“音から逃げられない”会場の構造にあるといっていい。
会場の雰囲気は、筆者が現地で撮影した映像で感じていただければと思う。
出展者の素顔──半分は「個人ビルダー」
ブースを巡ってまず実感するのは、出展者の“小ささ”だ。
もちろんローランドやコルグ、ヤマハ、Ableton(エイブルトン)といった有名メーカーも出展しているが、SUPERBOOTHの主役はあくまでも小規模メーカー、あるいは実質的に個人ビルダーと呼ぶべき存在たちだ。
ヨーロッパ各地から1〜3人程度のチームが机ひとつ分のスペースに製品を持ち込み、来場者と直接対話しながら展示している。
出展者の地域も多様。回った感じ、やはりドイツ勢が最も多そうではあったが、英国、オランダ、スウェーデン、ノルウェー、さらにはジョージアまで、さまざまな国のメーカーが集まっていた。もちろんアメリカや日本からも出展者がいるが、やはりヨーロッパが中心。
NAMMがグローバルな大型見本市であるのに対し、SUPERBOOTHはより“シーン”に根ざした専門家コミュニティの祭典という色彩が強い。その結果として、どのブースでも出展者と来場者の距離が異常に近く、製品開発の経緯や哲学まで込み入った話ができる雰囲気が生まれている。
日本からの出展陣
日本からはローランド、コルグ、ヤマハ、ズームの大手4社に加え、ベンチャー電子楽器メーカーのソニックウェア(SONICWARE)が出展していた。
ソニックウェアは、ミニマルテクノに特化したグルーヴマシン「MINIMAL」をSUPERBOOTH26のタイミングに合わせて発表している。
詳細はDTMステーションに掲載したが、コンパクトなボディにTB-303系のドベースシンセと808/909系ドラムマシン、さらにはサンプラーを凝縮させたものであり、会場でも注目を集めていた。
コルグは2つの動きが目を引いた。ひとつは入口すぐのブースに展示された、半透明のビニールで覆われた新シンセサイザー。正式発表ではなく、あくまでティーザー的なお披露目。
61鍵盤を持つシンセサイザーと思われ、多くの来場者が足を止めていた。詳細はベルリンでは明かされなかったが、近く正式発表が行なわれるものとみられる。
もうひとつは「NTS-4」だ。電子工作キットの形で提供されるNTSシリーズの新製品で、組み立てて使うUSBオーディオ機能搭載のミキサーとなっている。自分でハンダ付けして完成させるというコンセプトはNTSシリーズならではで、DIY精神とKORGらしい遊び心が同居している。夏頃に発売になりそうだ。
ローランドは、FutureDesignLabという研究開発セクションによる「LYDIA Phase 2」と称した展示を行なっていた。
これはAIによる音色変換技術を搭載したデバイスで、1月のNAMMで発表していた「LYDIA」のPhase 1をさらに発展させたもの。外付けオーディオインターフェイスが不要なオールインワン構成に整理されていた。
仕組みはAIによるリアルタイム音色変換だ。入力した音を別の音色に変えるもので、例えば、ドラムマシンの音をハンドパンのサウンドのように変換できる。AIエフェクトの開発はパートナー企業が担当しており、特定の音色を事前学習させたモデルを使って変換を行なう仕組み。レイテンシーの低減にも積極的に取り組んでいるという。
さらに内部にRaspberry Piを搭載し、ユーザー自身が作成したモデルを動かせる「DIY」的な側面も持ち合わせているのが面白い。現状はあくまでも研究発表の段階で、どのような製品に活かしていくかの調査を継続中とのことだった。
個人ビルダーを含む数多くの小さなシンセメーカーが参加
SUPERBOOTHの醍醐味は、大手メーカーのブースよりも、むしろ名前すら知らなかった小規模メーカーのブースにある。
シンセ好きならある程度、知っていたり名前を見たことがあるメーカーから、まったく知らない個人ビルダーまで、膨大にある中、取材したいくつかの製品を紹介しよう。
NonLinear Labs──RFIDで音源エンジンを瞬時に入れ替える
ベルリンに拠点を置くNonLinear Labsは、ピアニスト向けの高機能キーボードインストゥルメントで年内の発売を目指している「C25」のプロトタイプを展示していた。
フィジカルモデリングをはじめとする複雑な音源エンジンを持ち、速度(ベロシティ)の変化に対して非常に高い分解能で反応するのが特徴。
速く強く弾けばハーモニクスが加わって音が激しくなり、静かに触れれば極めて柔らかな音になる。アコースティック楽器のニュアンスを電子楽器で表現するという方向性において、突出したアプローチを取っている。
特に印象的だったのは2つの技術。
ひとつはRFIDチップを使った音源エンジンの切り替え。チップを読み取らせることで音源エンジンが瞬時に入れ替わり、パネル上のノブやボタンの色も変化して対応するパラメーターを示してくれる。
もうひとつは磁気センサーを用いたキーボード機構で、これを既存モデル「C15」に組み込むことでポリフォニックアフタータッチへのアップグレードが実現できる。長期的なプロジェクトだが、プレイアビリティの面で大きな変化をもたらすものだという。
Plinky──パネルを替えればファームウェアごと変わる
ロンドン拠点のPlinkyは、タッチ式シンセサイザーの新モデルを展示した。
12インチLPレコードと同サイズのパネルを持つユニークな外観で、コードマシン、クロマティック、スケール、アルペジエーターといった演奏モードを備える。16ステップのドラムパートも内蔵しており、プレッシャーセンシティブに対応しているため、ベロシティや表情も付けられる。価格は400ユーロ。
ユニークなのはパネル交換の概念だ。物理パネルを交換するとデバイスがそれを認識し、ファームウェアおよびUIが自動的に対応するモードに切り替わる。
自分でパネルを設計・製作することも可能で、AIコーディングエージェントに頼んで作ってもらうこともできるという。FMやピアノなどのサウンドパックはUSB経由でSDカードに転送でき、コンピューターなしで完結する設計になっている。
Stylesphone──A/Bパターンで広がる8ステップシーケンサー
レトロな電子楽器好きなら知っているあの「Stylesphone」も、最近は小型のシンセなどをだしているが、今回は今年末に200ユーロでの予定というコンパクトな8ステップシーケンサーをお披露目する形で展示していた。
基本は8ステップだが、AとBの2つのパターンセクションを組み合わせることで最大32ステップへと拡張できる。パターンの再生順序や方向も自由に変更でき、前進・後退・バウンス(折り返し)といったモードを切り替えて使える。
CV出力とMIDI出力の両方を備えており、ユーロラックシステムとの親和性も高い。ラチェット機能やスキップ、ラスト、ランダムといったステップ機能も搭載。24スロットのメモリーに録音したループをリミックスしながら新しいバリエーションを生成できる点も興味深かった。
英国産スタンドアローンアナログシンセ──マトリクスパッチで「カオス」を作る
英国のメーカーFuture Sound Systemsによるスタンドアローンのアナログシンセサイザーは、コンパクトなボディの中に3つのオシレーター、フィルター、4つのファンクションジェネレーター(エンベロープおよびLFOとして使用可能)を詰め込んだ構成だ。すべての接続はマトリクスによって行なわれるコンセプトで、モジュラーシステムのような柔軟なルーティングが可能になっている。
音量の変化でオシレーターを切り替えたり、フィルターへの入力によって意図的にカオティックな波形を生成したりといった使い方ができる。
外部のギターペダルや機器を挿入してシンセサイザーチェーンの一部として使う、あるいは逆にオシレーターを外部エフェクターに送るといった活用法もある。なお、MIDIは非搭載で、意図的に「MIDI不要なプレイヤー向け」として設計されているとのことだった。価格は約3,000ユーロ。
flowfal──スマートウォッチの動きで音楽をコントロール
目を引いたのが、スマートウォッチをセンサーとして使って音楽をコントロールするシステム「flowfal」(flowfal.com)だ。Apple WatchとSamsung Galaxyウォッチの両方に対応しており、腕の動きがリアルタイムでウェーブテーブルシンセサイザーの各種パラメーターにマッピングされる。
例えば、腕を動かすことでウェーブテーブルの位置を連続的に変化させたり、ブレイクビートのトリガーや3Dパンニングの制御を行なったりできる。通信はBluetooth ではなくWi-Fiを使用しており、安定性を重視した設計になっているという。
動作環境はMax/MSPおよびMax for Liveで、どちらかひとつを選んで使用する。MIDI CCおよびCV出力にも対応しており、モジュラーシステムとの連携も可能だ。ウェアラブルデバイスを使った演奏表現という観点では、これまでにない自由度を持つアプローチといえる。
SuperBees──声をMIDIに変換する小型デバイス
個人的にちょっと面白く感じたのが、SuperBees(仮称)というプロトタイプ。開発者のクリストフ氏が手がけたもので、声をMIDI信号に変換するコンシューマー向けの小型デバイスだ。
4つのボタンとクリックウィールを備え、シンプルモードとアドバンスモードを切り替えて使える。シンプルモードでは楽器を選んでレコードボタンを押し、マイクに向かってハミングするだけで、その音程がMIDIとして記録・再生される。
アドバンスモードではフルトラッカー機能を持ち、スケール、エフェクト、ミクスチャーなどさまざまなパラメーターを細かくコントロールできる。
内部にはM5StickというコンパクトなArdino上位互換の開発ボードを使用しており、わずか2カ月でここまで仕上げたという。約1年後の製品化を目指しており、想定価格は200〜300ドルを検討中とのこと。子供から音楽初心者まで幅広く使えるデバイスを目指しているという。
ソフトウェアメーカーも展示を行なう
全体的にはモジュラーシンセを中心とした、アナログのハードウェアシンセがSUPERBOOTHの中心となっているが、もちろんソフトウェアメーカーもいろいろ出ている。
AbletonやNative Instruments、Bitwig、U-heなどベルリンにある著名ソフトウェアメーカーが数多くあり、彼らもSUPERBOOTHの大きなポジションを占めていた。
ちなみに、ちょうどSUPERBOOTHの2日目にNative InstrumentsをアメリカのinMusicグループが買収したことが発表されたため、会場内でもいろいろな情報が飛び交っていた。
その一方で、個人ビルダー的なソフトウェアメーカーもいろいろあったので、2つほど紹介したい。
polyFreq──リリース2日前にベルリンへ来た個人メーカー
英ブリストル発のpolyFreqは、グラニュラーシンセサイザープラグインを展示した。取材の2日前にリリースしたばかりというタイミングで、SUPERBOOTHへの初出展だ。
ドラッグ&ドロップでサンプルを読み込み、グレインの濃度とレートを独立してコントロールできる高精度なグラニュラーエンジンを持つ。メタパラメーターによってピークレベルの解析結果をモジュレーションソースとして使える点も面白い。
現在はWindows/Mac向けVSTおよびスタンドアローンとして提供中で、AU対応は今後追加予定。価格は89ドルで、会場では特別に50%オフで販売していた。公式サイトはpolyfreak.com。
DSPeale──リアルタイムオーディオ分析ツールInspect
ドイツ・ミュンヘンにある会社DSPealeが開発したのは、オーディオを多角的に分析するリアルタイム・アナライザーソフト「Inspect」だ。
見た感じNeugenAudioのMasterCheckなどと近いソフトだと思うが、オクターブバンドモードとFFTモードを備えたスペクトルアナライザーや、アタック、リリース、ピークホールド設定可能なVU/PPM、さらにはラウドネス測定、オシロスコープ、ステレオメーカー、ベクトルスコープ、調整可能なFFTサイズとカラーマッピングを備えたスペクトログラム……などなど、さまざまな分析を行なうソフトとなっている。
WindowsおよびMacにおいてASIO、CoreAudio、WASAPIなどのドライバーをサポートするとともにVST、AUのプラグインとブリッジソフト経由で連携できる構造だ。
まだ発売をスタートしたばかりであり、正式価格は100ドル以上にする予定だが、現時点はスタートキャンペーンセールで33.33ドル+支援金で販売中とのことで、さっそく個人的にも1つ購入してみたところだ。
MIDI 2.0の今──アクセシビリティ、ネットワーク、Windowsドライバー
SUPERBOOTHの会場には、MIDIの規格団体であるMIDI Assciationも参加していた。
MIDI AssociationはMusic Chinaや日本の楽器博などにも参加していて、ネットワークMIDIのシステムや、障がい者の楽器演奏を可能にするシステムなど、従来も展示していたものを展示していたが、MicrosoftのMIDI 2.0開発担当者であるPete Brown氏が参加しており、個人的にも初めて会って話をすることができた。
ご存じの方も多いと思うが、先日、Windows 11がMIDI 2.0対応した際に、不具合が起こって大きな問題になっている。MIDI 2.0機能を使わなくても、MIDI機能でシステムトラブルが起こり、各楽器メーカーがアップデートの見送りを訴えているのだ。この点について、Brown氏に聞いてみた。
「大きなバグは約2週間前に修正が完了し、Windowsアップデートを通じて5月中に全ユーザーへ展開される予定です」とのこと。
興味深いのはその背景だ。
Windowsの音楽ドライバーには1993〜1997年頃に書かれたレガシーコードが今も生きており、当時のコントローラーなど古いデバイスとの互換性を保つために手を付けられない部分が多く残っているという。
「30年前のコードが今も動いている」という事実は、MIDIの後方互換性の高さを示す一方で、技術的負債の大きさも物語っている。
近く新しいMIDIデバイスに対して複数の接続オプションを提供する予定で、古いデバイスも以前と変わらず使い続けられるよう配慮しつつ、MIDI 2.0対応の新デバイスには新しい選択肢を用意するという。まもなく、この大問題は解決しそうだ。
SUPERBOOTH26を歩いて感じたこと
以上、ドイツ・ベルリンで行われたSUPERBOOTについて、その一部を紹介してみたが、いかがだっただろうか?
シンセサイザという非常に限られた分野のイベントではあるが、膨大なメーカーが集まるとともに、プロもアマチュアも、膨大な人が世界中から集まる、ほかにはないユニークなイベントであった。
NAMM Showなどと比較すると日本からの参加者は少ない印象ではあったが、シンセ好きであればぜひ一度は行ってみる価値のある場所だ。個人的にもぜひ、また参加してみたいと思っている。







































