ニュース

Netflix、CLAMPや乙一、冲方丁らクリエイター6人と提携。日本発アニメ強化

Netflixは、クオリティの高いオリジナルアニメ作品のラインナップ拡充に向けて、日本を代表するクリエイター6人とのパートナーシップを発表。CLAMP、樹林伸氏、太田垣康男氏、乙一氏、冲方丁氏、ヤマザキマリ氏を、日本を拠点とするアニメの“クリエイティブ・ホーム”に迎え入れ、日本発のオリジナルアニメを強化、世界190カ国へ配信していくという。

CLAMPは「カードキャプターさくら」などを手掛ける漫画家集団。樹林伸氏は、「金田一少年の事件簿」漫画原作や小説家として活躍、「MMR マガジンミステリー調査班」の主人公「キバヤシ隊長」のモデルとなった人物。太田垣康男氏は、「機動戦士ガンダム サンダーボルト」などを手掛ける漫画家。ヤマザキマリ氏は「テルマエ・ロマエ」を手がけた漫画家。

Netflixは6人について、「それぞれ漫画家、小説家、脚本家、映画監督など多様な分野において今日の世界的なアニメ人気に大きく貢献するトップランナー」と説明。「世界中のアニメファンに楽しんでいただくことを目標に、世界がまだ観たことのないバラエティ豊か、かつクオリティの高いNetflixオリジナルアニメを手掛ける。また、ファンが好きな作品の世界観とオフラインでもつながることができるよう、原作に基づく出版やコンシューマー・グッズなど映像化以外の手段も、クリエイターとともに検討していく」という。

Netflixは従来から、日本発のNetflixオリジナルアニメ作品のさらなる進化や、日本ならではのクリエイティブとほかでは観られないストーリーの拡充を目指しており、プロダクション・アイジー、ボンズなど、日本国内の主要な5社のアニメ制作会社と包括的業務提携を締結するなど、様々な取り組みを行なっている。今回のパートナーシップも、これらの取り組みの一環となる。

Netflixアニメ チーフプロデューサーの櫻井大樹氏

Netflixアニメ チーフプロデューサーの櫻井大樹氏は、同社のオリジナルアニメを作る体制について、「いわゆる“日本的なアニメ”を作る部署は、本拠地がここ東京にある。私も、私の上司も、その上司の上司も家族で日本に来て、決断をここで下している。(本国本社の判断を待たねばならない事が多い)外資系企業としては、これが大きな特徴」という。

櫻井氏は今回の取り組みにおける、Netflixの強みとして「日本には本当に素晴らしいアニメや漫画、小説家が沢山いらっしゃる。そういう人達の“ホーム”になりたいと、Netflixは思っている。今までは、作品をアメリカなどに売り込む時には、現地に飛んで、英語で交渉するなど、言語や地理的なものも含めて、クリエイターにはハードルが存在した。しかし、Netflixでは、日本にアニメを作るチームがあり、ここ表参道に来ていただいて、日本語で喋っていただければ、すぐグローバルで勝負ができる。世界に直結できる組織として、こういった体制を作れたのが嬉しい」と説明。

さらに、前述のように意思決定も含め“スピーディー”である事も、Netflixの強みという。「SFでは、10年経過するとアイデアもだいぶ古くなってしまう。アニメではどうしても、今考えているものが作品になるまでに2年、3年とかかるものだが、それでも(Netflixでは)最短で世の中に出ていけるというのは、非常に大きなメリットだと思っている」という。

左から櫻井氏、樹林伸氏

発表会には、パートナーシップを結んだ6人から、CLAMPの大川七瀬氏、樹林伸氏が登壇。櫻井氏とトークショーも行なった。

樹林氏は、Netflixからパートナーシップの打診が来た際に、「漫画や小説、ドラマの企画などは手がけてきましたが、アニメをゼロからやった事がなかった。ドラマや漫画ではいつもやっていますが、アニメの脚本も書いたことがなかった。そういった点で、興味があった。また、最初からグローバルに発信できる仕事という点に、一番興味があり、心が踊りました」と言う。

CLAMPの大川氏は、「CLAMPでは私も含め、もともとメンバー4人もNetflixに加入していたので、お声がけいただいて、嬉しかったです。もちろんテレビも沢山の方に見ていただける貴重なメディアですが、“世界同時配信”はNetflixのような配信でしかできないことですので、ぜひ参加したいとお受けしました」とのこと。

樹林氏は、これまでの日本のアニメが抱えている問題として、「やはりスポンサーありきで、テレビの放送コードもつきまとう点」を指摘。「子供向けの空気感が抜けきれず、それを加味しながらやっていかなければならない。手がけた漫画がアニメになった経験は何度もありますが、“これはアニメじゃできない”という事も多かった。“アニメにあわせて漫画を作る”なんて事はできませんが、うるさい事を言われる事も増えています。そのためにも、Netflixさんのように比較的自由な環境で作品作りをやっていただいて、そういったものを突破したら、まわりもついてくるのではないか。そこをキッカケに、業界を変えていって欲しい」と言う。

大川氏は、日本のアニメビジネスが、アニメ作りにかかった費用を、放送後に発売されるBlu-ray/DVDで回収するビジネスモデルであった事を振り返りながら、「そのシステムから逃げられなかった時期が長かった。なので、素晴らしい作品でも、Blu-rayの販売に結びつかなかったり、グッズが売れないとアニメは作れなくなってきている。若い才能、クリエイターがお金を集めるところがなかなか始められない。もちろん、Netflixさんにも条件はあると思いますが、それでも“今までとまったく違うアニメの作り方ができる”ところに魅力を感じる」という。

そんな2人とNetflixが、それぞれ手がけている新作。どのような内容になるか気になるところだが、残念ながら、タイトルや内容など、詳しいことはまだ発表できないという。ただ、かなり自由で、スピーディーな環境で作品作りが進んでいるようだ。

樹林氏は、「打ち合わせは毎回盛り上がって、相当楽しくやっています(笑)。最初の打ち合わせでテンションが高くなり、その場でタイトルも決めて、キャラクターも三、四人ぽんぽん出来て、そうしたら、そのキャラクターのビジュアルが、打ち合わせから2週間くらいで送られてきて“マジか!?”とビックリしました。普通は2カ月、3カ月後くらいにキャラができて、そこから脚本……といった具合ですが、非常にスピーディー。キャラを見るとまたアイデアも出て、Netflixのスタッフの方からもアイデアがもらえるし、どんどん回転していって、2、3日で(1話の脚本を)書いちゃいました」と笑う。

CLAMPは、新たな作品におけるキャラクターデザインを担当するとのこと。大川氏は、「キャラのデザインを20体くらいお願いしますと言われ、最近のアニメではいっぱい描いても10数体なのでビックリしました。Netflix側のアイデアも入れさせていただきながら、進めています。制作会社から“こんなイメージ”と提供してもらえるというの、なかなか無いので、楽しみです」と語る。

“Netflix側からのアイデアや意見”と聞くと、配信視聴者の視聴動向データに基づいたデータを、クリエイターに提示するといったイメージも浮かぶが、櫻井氏は「そういった事はあまりなくて、打ち合わせで盛り上がったら、作品もそうなるとか、“個々の担当プロデューサーが面白いと思うものを作っている”に近い状態」だという。

樹林氏、CLAMPと進めている新作についても、「先生方とお話をさせていただきながら、(アニメを作る)スタジオの候補はあたりをつけておいて、スタジオにもう“こういう作品をやりたいんですが、どうですか?”と、話をしてしまいます。スタジオによっては“脚本が完成したら参加するので進めてください”というところも、“脚本の段階から参加したい”というところもあり、後者の場合は最初から参加してもらいます。監督の候補も、先生方と“監督はこの人にやってもらえないか?”“この人とやらない?”といった感じで相談したり、アニメスタジオ側に監督を推薦してもらったり、そうでない時は僕が監督を連れていくなど、フレキシブルに対応しています。全員がハッピーな関係になるまでNetflixがコーディネートし続けるイメージです」とのこと。

また、櫻井氏は、TVアニメのような製作委員会方式ではなく、Netflixが全額出資して作るため、「制作費を多く出してあげられやすいというのはあります。もう一つは、“船頭が多くない”。我々と先生が打ち合わせして決定したものが、決定事項として決まっていくので、他の誰かにお伺い立てる必要がありませんので」と利点を語った。

なお、記者から「MMR マガジンミステリー調査班」ならぬ、「Netflixミステリー調査班」実現の可能性について聞かれた樹林氏は、「1999年も過ぎちゃったので……どうなんですかね」と苦笑いするも、櫻井氏が「ぜひ(笑)」と続ける一幕もあった。

Netflixにより、大きな変化を迎えている日本のアニメ業界。樹林氏は、「最初は配信の会社というイメージだったが、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』などが潮目で、ハリウッド映画を喰ってしまい、Netflixの方がドリームになっていくのではと感じた。そしてアニメのオリジナルも出てきて、『DEVILMAN crybaby』を見た時に、これは本当に凄いなと、流れが大きく変わる瞬間を僕は見ているのかなと感じました。今までは作品がアニメになって、世界で売れて、ハリウッドから声がかかって……と、何年も必要だったものが、遠回りせず、いきなりグローバルに、スピーディーにできるようになった。そういう時代に、クリエイティブも差し掛かってきているのだなと思います」とコメント。

大川氏も、「今がちょうど、変わっていく節目なのかと感じます。アニメ作る時には、時間もお金もかかるので、今までは“製作委員会”を作ってきました。これはリスクヘッジも含めて悪いことではないのですが、いろんな人の意見が入っていって、監督の意見で自由に作れなくなり、製作委員会側がコントロールする事もある。しかし、『DEVILMAN crybaby』の場合は、残酷さや切ないところも含めて、一つの作品として、“一色で”作れたのは、そういった事が無かったからではないかと思う。今後もそういう作品が増えていってくれれば、配信する意義のあるアニメになる。そのアニメが、後からNetflixで実写になる可能性もあるので、一視聴者としても楽しみですね」と語った。

CLAMP 大川七瀬氏

新しい試みにお声掛け頂けて本当に光栄です。Netflixで作る作品が世界190ヵ国の方々に楽しんで頂ける日を、私達も楽しみにしております

樹林伸氏

多くの世界と直接つながれるNetflixの作品に携われるのは、クリエイターとしてとてもエキサイティングです。ワクワクしながら、新しいキャラクターを創り設定を考え、ストーリーを著しています

太田垣 康男氏

クリエイターとして世界に挑戦する機会を得た事を嬉しく思っています。日本の漫画界から世界190ヵ国一斉配信という大舞台へ!自分の腕を信じ、更なる高みを目指して頑張ります!

乙一氏

Netflixの作品に関わることは自分にとっての挑戦です。世界190ヵ国への一斉配信とは、映像作品の世界大会に他ならない。世界中の猛者たちがNetflixに集まっている。そう思うと身震いがします

冲方 丁氏

Netflixという大舞台に参加できることを嬉しく思います!世界中の人々に楽しんでもらえることを目標に、宇宙もののSFといったビッグスケールの作品に挑戦したいと思います!

ヤマザキマリ

世界での反応が今から楽しみでなりません。それを知ることが、さらにまた自分の作品を創る意欲につながっていくと思います。どんな文化圏の人が見ても楽しめる作品を届けていきたいです