「ポケットに本棚を」。ソニー「Reader」発表

-30万台/シェア50%へ。「2千万の読書好きのために」


 ソニーは25日、電子書籍端末「Reader」の発表会を開催。12月10日に専用端末の6型の「Reader Touch Edition(PRS-650)」と、5型の「Reader Pocket Edition(PRS-350)」を発売するとともに、電子書籍ストアの「Reader Store」を開設し、日本市場における本格的な電子書籍ビジネスを開始する。

 Readerのハードウェアについては別記事を紹介している。なお、Reader Storeの詳細や書籍の価格などの詳細は、「今日の段階では詰め切れていない(ソニー・エレクトロニクス シニア・バイス・プレジデント 野口不二夫氏)」とのことで、12月10日のStoreのスタート時に明らかにされる見込み。


Reader Touch EditionReader Pocket Edition


■ ソニー第4のエンタテインメントが「本」

ソニー・エレクトロニクス シニア・バイス・プレジデントの野口不二夫氏

 電子書籍事業を統括するソニー・エレクトロニクス シニア・バイス・プレジデントの野口不二夫氏は、ソニーの電子書籍への取り組みを紹介した。

 「音楽、ビデオ、ゲームに加え、ソニーのとって第4のエンタテインメントビジネスとして“ブック”に参入する。1990年のデータディスクマンを皮切りに、2004年にLiBRIe(リブリエ)を発売。2006年にはReaderを米国で発売し、2007年に急激にビジネスが拡大した。LiBRIeについても、これがあったからこそ今のReaderがあり、他の電子ペーパー製品ができたのだと考えている」とし、現在の電子ペーパー端末の礎がLiBRIeであるとの認識を示した。

電子書籍の基礎はLiBRIeが作ったと紹介

 ソニーではこれまで世界13カ国でReaderのビジネスを行なってきた。野口氏は「14カ国目として日本でもサービスをスタートする。日本語対応のSony Readerを発売する」と宣言。英国での発売開始時には「瞬く間に売り切れた」とのことで、「日本でもお店でぜひSony Readerを手に取ってほしい」とアピールした。

 続いて野口氏は「電子書籍でよく質問される3点」として、「電子書籍で紙のビジネスが無くなるのではないか?」、「汎用機で十分で、電子書籍の専用機はいらないのではないか?」、「デジタル化でエコシステムが大きく変わるのではないか?」というポイントを挙げて解説した。


電子書籍は紙の書籍市場に加わり、市場を拡大するものと紹介専用端末のほうが、汎用機よりコンテンツ利用率が高いデジタルによる新たなエコシステムを構築

 紙との競合については、「ビジネスとして紙が減るというよりは、紙に対し新しいバリューが乗ると考えている」とし、紙の書籍との共存をアピール。2014年の電子書籍の市場シェアは10%程度と予測しているという。

 汎用機で十分、との意見については、「専用機のほうがコンテンツ利用率が高い」というデータを紹介。電子書籍専用端末とタブレットPCの比較では、コンテンツ利用が約5倍となっており、「熱心なユーザーは専用機を選ぶ」と予測する。

 エコシステムの変化については、「確かにビジネスモデルは大きく変わります」と、野口氏も認める。デジタルカメラを例に挙げ「15年前に登場したデジタル技術で、今や日本メーカーは1億台余りを世界に出荷している大きな産業になった。デジタルへの移行で、フィルムからメモリへ、DPEからプリンタへと移ったが、一方で、撮影機会は飛躍的に増大した。その中でも変わらず重要な光学技術や撮影ノウハウがあり、ネットの活用やデジタルフォトフレームなどの新しい体験が創造された」とし、「この変化の中で、当初はデジタルに及び腰だったDPE店は家庭用プリンタの普及で一時期減ったが、今はデジタルカメラを取り込んで、若い人がきれいなプリントを求めて訪れる。新しいビジネスをとらえるチャンスがあると思う」と語り、電子書籍においてもこうしたビジネス機会があるという。

Reader事業の基本戦略
 野口氏が重視している点として、電子書籍を「グーテンベルク以来の大きな変化」とし、「未来への文化の橋渡しをしていく必要がある」としたほか、地域性を生かしながらグローバルに発信できるビジネスの創出、オープン戦略などを掲げた。

 また、フォーマットについても、「日本のフォーマットについては、まずはXMDFに対応したが、.bookやEPUB3も順次サポートしていく」と言及。野口氏は、「コンテンツを作っている人の思いをきちっと受け止めて、本の読み手の期待に応えられるようなものにしていきたい。皆さんから教えていただきながら日本でこのビジネスをスタートしたい」と語った。


 ■ 読書好きのための「Reader」

ソニーマーケティング 栗田社長

 ソニーマーケティングの栗田伸樹代表取締役社長は、「9月のディーラーコンベンションで、国内マーケティングの3つの柱のひとつとして『ニュービジネスに取り組みたい』と語った。それがこのReaderです」と語り、積極的に取り組む姿勢を示した。

 Readerの立ち上げについては、「2,000万人の『読書好き』のための読書専用機」として展開。一カ月に購読する書籍と人数構成比を調べると、月に3冊以上購入する21%の人で、書籍市場の63%を占めているという。こうした読書好きの人をターゲットにニーズを調査したところ、「本の場所をとらなくていい」、「たくさんの本を入れて持ち運べる」といった声が上がり、こうした“読書好き”のニーズに新Readerで応えていくという。

Readerを「読書好きのための読書専用機」と位置づける書籍を買う約2割の層で、市場の6割を占める読書好きの電子書籍への期待

 セールスポイントとして、「小型端末で1,400冊を持ち運べる」という点を訴求。発表会場に実際に1,400冊の書籍を用意し、栗田氏は「これだけの量を一台で保存できます。まさにポケットに本棚」とアピール。加えて、電子ペーパーの見やすさや、光学式タッチパネルの採用によるクリアな画面、アルミボディの質感などの魅力を訴え、「Readerにより、読書家が夢見る『ポケットに本棚』を実現していく」とした。


「ポケットに本棚を。」がキャッチコピー実際に1,400冊の本を集め、Reader一台に集約できる点をアピール薄さもアピール

Reader Storeの特徴

 電子書籍ストアの「Reader Store」も12月10日にスタート。パソコンでReader Storeにアクセスし、読みたい書籍を購入し、転送ソフトの「eBook Tranfer」からReaderに転送できる。10日のスタート時には文芸書、ビジネス書、実用書、エッセイなど、2万冊以上をラインナップ。「これからの「正義」の話をしよう」(マイケル・サンデル著)や「悪人」(吉田 修一著)などを用意する。

 また、第1章分を収めた「プリインストールコンテンツ」として、「悪人」や「ソニー自叙伝」、「スティーブ・ジョブス 驚異のプレゼン」などを用意。Reader導入時に冒頭部が読めるようになっている。

 Reader Storeの特徴はレコメンド機能。好きな本を選んでStoreの「本棚」におくと、Store内の類似する書籍を画面上に表示される「棚」に並べてくれるという。また、「働くことを考える」などテーマごとの特集を設け、おすすめ書籍を紹介する。

 発売にあわせてソニー特約店など約300店舗でReaderのコーナーを展開。銀座・ソニーショールームや、ソニーストア大阪/名古屋などでも11月26日から先行展示する。販売目標としては、「導入から1年で30万台ぐらいは売りたい。電子ペーパーを使った専用機のビジネスで、2012年ぐらいには100万台を超えると考えている。そのシェア50%ぐらいを狙っていきたい」とした。

パソコンのReader Storeで電子書籍を購入し、Readerに転送プリインストールコンテンツ。「スティーブ・ジョブス 驚異のプレゼン」も本棚機能
読者の好奇心にあわせて、書籍を案内するReader Storeのイメージ重量も文庫本級光学タッチパネルによるクリアな画面を訴求

 Storeで販売する電子書籍の価格については、「今日の段階では詰め切れていない(野口氏)」としており、12月10日のオープン時に発表する。StoreのDRMの運用についても詳細は未定だが、パソコン用の転送ソフト「eBook Transfer for Reader」とReaderがMY Sony IDに紐づき、eBook Transferをベースとし複数のReaderに書籍を転送可能になる見込み。コンテンツのバックアップにも対応予定。

 なお、米国のReader Storeでは、コンテンツ形式がEPUBで、DRMにはAdobeのACS4を採用。一方日本ではXMDFでMarlinを採用している。Marlinは、アクトビラやPSP向けのコミック配信でも使われているが、「今後も状況を見ながらフォーマットは検討していく」とした。また、「オープンなフォーマットという考え方は、日本でも米国でも同じ(野口氏)」という。

 同じフォーマットで同じDRMを使うストアとの相互利用については、「技術的には可能。ただし、ビジネスモデルとして、相互のIDを行き来させるかという点など、ビジネス上の課題はある(野口氏)」とした。

 また、iOSやAndriodアプリの提供など、他デバイスでの展開について野口氏は「米国では12月にスタート予定。コンテンツのユーセージ(使い方)をどこまで開放するか、という点で議論が必要。米国では一致しており、複数のデバイスを跨げるようになっており、技術的にはできる。ただ日本の作家さんや出版社と話して、ユーセージを決めていかないといけない」と説明。「ソニーとしてはお客様の要望があれば、否定するものではない」とした。

 新聞のような定期購読型コンテンツの提供については、「今後の展開としては検討しているが、現時点では未定」という。また、米国で発売している3G/無線LAN搭載モデルの国内展開については、「日本ではまず早くスタートしたいということで、今回の2製品だが、今後のニーズなどを聞いて決めていきたい」と語った。


(2010年 11月 25日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]