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finalの技術結集「DX10000 CL」を聴く。DVAS“ヘッドフォンパワーアンプ”とは!? ヘッドフォン祭 佐々木的注目機

この週末、「冬のヘッドフォン祭 mini 2026」が開催された。小雪混じりの天気ではあったが今回も熱心な来場者で賑わった。その展示品の中から筆者的に注目したものを3点ほど紹介したい。

final「DX10000 CL」

まず、今回もっとも話題を集めていたfinal「DX10000 CL」から取り上げる。

final「DX10000 CL」
finalのフラッグシップイヤフォン「A10000」

DX10000 CLは、あのA10000に採用されたトゥルーダイヤモンド振動板を搭載したダイナミック型ドライバーのヘッドフォンである。製品名のCLとはクローズド・バックのことで、密閉型を示す。このことについてはまたのちに触れる。

DX10000 CLは端的に言えばA10000を拡大してヘッドフォンにしたものとも言えるが、いくつか興味深いポイントがある。まず振動板の形状だ。これは現時点で非公開なので画像は公開してお見せできないが、筆者は写真を見せてもらい、いささか驚いた。その振動板の形状は通常のコーン型ではなく、ツィーターのようなドーム型をしているのだ。

全体の口径は40mmとのことだが、ドームとコーンのハイブリッドにも見える。Focal「Utopia」も中心部にドーム形状を持つが、それよりもドーム部分は大きい印象を受けた。あたかもスピーカーのドーム型ツィーターを流用してヘッドフォン振動板にしたかのようにも見える。

この奥にツィーターのようなドーム型の40mm径ユニットがある

もうひとつのポイントは密閉型である点だ。高性能ヘッドフォンでは開放型を先に投入するケースが多いが、本機はあえて密閉型として開発されている。その点を担当者に尋ねたところ、A10000の開発で得た“密閉型で歪みを減らすノウハウ”を応用しているということだ。たしかにfinalの最近の製品はCLとついた密閉型が多く、ヘッドフォン祭のTONALITEレポートでも書いたようにTONALITEにもA10000のノウハウが展開されている。そうした流れを踏まえると、DX10000 CLは現時点におけるfinalの技術を集約したモデルと位置づけられそうだ。

DX10000 CL

試聴機を手に取ると、ずっしりとした重量感があり、剛性感の高い造りであることがわかる。音は極めて解像力が高く、レスポンスの速いサウンドで、そのトランジェントに優れた音は平面磁界型の音に近いと感じられた。特に背景の細かい音が驚くほど鮮明に再生されるので、ホールトーンのような残響成分も重なり合い、空間表現の広がりを感じ取りやすい。そして密閉型のように音のこもる感じが少なく、すっきりとしたサウンドが印象的だ。低域は十分な量感を持ちながらも、過度な強調はない。

A10000のインプレではよく「最高の普通の音」とも言われるが、DX10000 CLの場合にはもっと分かりやすく、クッキリ・ハッキリとした音の魅力を感じ取れるのではないかと感じた。

今回のモデルは参考展示であり、外観やケーブルは発売時に変更が加わるということだ。筐体素材はアルミ・マグネシウムを採用。金色をあしらえたカラーリングはコレクターズエディションらしく、4月発売で価格は未定だが100万円を超える高価なものになりそうだ。

試聴機に使われていたケーブル

ASUS「ROG Kithara」

次はゲーミングの分野で注目されるヘッドフォン、ASUS「ROG Kithara」だ。ROGはASUSのゲーミングブランドで、ROG KitharaはASUSがHIFIMANと共同開発をした点で話題となった平面磁界型ヘッドフォンである。ここで注目したいポイントは平面型ドライバーとゲーミングの相性の良さである。

ASUS「ROG Kithara」

平面磁界型ヘッドフォンでゲーミング用というとAUDEZEが知られているが、平面型はトランジェント(音の立ち上がりと立ち下がりなど音の変化の速さ)が高いので細かな音が聴き取りやすく、ゲーミングでは敵の方向や銃声を聴き取るのに有利になると言われている。本機ではASUSが仕様を出して、平面磁界型ではベテランのHIFIMANが開発・製造を担当しているということのようだ。搭載されるドライバーは口径100mmと大口径だ。

実機は金属製ハウジングを採用しており、手に取ると高級感がある。付属品も充実しており、ブームマイク付きの通話用ケーブルに加え、4.4mmバランス端子対応の高音質向けケーブルも同梱される。USB-Cアダプタも付属し、スマートフォンやPCとの接続も容易だ。

まず音楽再生で試聴したところ、一般的なゲーミングヘッドセットの枠を超える音質レベルを備えていると感じられた。中高域は明瞭で、ボーカルの声質も把握しやすい。低域は平面型らしく控えめだが、細かな音の再現性に優れ、スピード感と躍動感のあるサウンドを楽しめる。

次にUSB-Cアダプタを用いてiPhoneでゲームをしてみた。銃撃の音や破裂音がとてもクリアでシャープ、先鋭的に聞こえる。無線交信の音声もクリアで聴き取りやすい。やはり平面型のトランジェントの高さがゲーミングとの相性が非常に良いと感じた。

ROG Kitharaは2月19日よりクラウドファンディングサービス「GREEN FUNDING」にて支援受付を開始する。通常予定価格は約6万円弱だが、クラウドファンディングでは約2割引で入手できるプランも用意されるという。

GREEN FUNDINGのプロジェクトページ

DVAS「Model5」

最後はヘッドフォン祭らしいマニアックな製品を紹介する。ハイエンドのアナログ・ヘッドフォンアンプであるDVAS「Model5」だ。

DVAS「Model5」

注目したいポイントは、Model5が一般的なヘッドフォンアンプ、プリアンプの他に「ヘッドフォン・パワーアンプ」として使用ができるということだ。そしてその実現方法が実に美しい。

Model5を「ヘッドフォン・パワーアンプ」として用いる場合、ボリューム回路をバイパスして、純粋なパワーアンプとして電流供給を行なう構成になる。例えばDAPのラインアウト出力を本機に入力することで、出力インピーダンスを大幅に低減できる。言い換えれば、(出力インピーダンスのあまり高くない)DAPの後段に外付けバッファとしてパワーアンプを追加する形となり、低インピーダンスのヘッドフォンやイヤフォンに対する制動力向上に効果を発揮する。

そして最も注目したいのはその実現方法だ。筆者であればボリュームをバイパスするならば、別に直結する回路を用意する設計を安易に考えてしまうが、DVASは異なっている。

DVAS Model 5のシャント型抵抗の説明図

Model5は高精度のステップアッテネーターをボリュームとして搭載しているが、それを掲載写真の図のように入力からアンプまでの経路に直列に入れるのではなく、シャント型抵抗として梯子状にぶら下げている。そしてボリュームを最大にすると、接続が切れるようにしてある。つまりステップアッテネーターを最大にした時に直結に繋げるのではなく、もともと直結だったものに梯子状の抵抗をぶら下げて音量調整していたので、アッテネーターを切断状態にするだけで開放され、もとの直結に戻るのだ。

言い換えると、ボリュームのバイパスをするのに、別の回路で直結して接点を増やすのではなく、接点を減らして直結させるということだ。これは画期的というよりも、オーディオ的にきわめて合理的で美しい設計思想だ。エレガントな引き算の美学を感じる。こうしたところに美学を見出すのもまたオーディオならではのマニアックな楽しみ方ではないだろうか。

説明をするDVASの桑原光孝CEO

実際に音を聴いてみたが、素晴らしく鮮度感の高い生々しいサウンドが楽しめた。価格は未定で、4月に発売を予定しているとのことだ。

佐々木喜洋

テクニカルライター。オーディオライター。得意ジャンルはポータブルオーディオ、ヘッドフォン、イヤフォン、PCオーディオなど。海外情報や技術的な記事を得意とする。 アメリカ居住経験があり、海外との交流が広い。IT分野ではプログラマでもあり、第一種情報処理技術者の国家資格を有する。 ポータブルオーディオやヘッドフォンオーディオの分野では早くから情報発信をしており、HeadFiのメンバーでもある。個人ブログ「Music To Go」主催。http://vaiopocket.seesaa.net